WTOカンクン閣僚会議
(会議初日の概要)
平成15年9月11日
- 現地時間9月10日午前(日本時間11日未明)、メキシコ・カンクンにおいて、WTO第5回閣僚会議がフォックス・メキシコ大統領の臨席を得て開幕された。
- 第一日目の主たる議事として、各国閣僚の演説が行われ、米国(ゼーリック通商代表)、EU(ラミー貿易担当委員)等が演説を行った(我が国は11日午前に演説を行う予定)。各国の演説ともに農業、開発問題に焦点を当てたものとなっている。(開会式でのスパチャイWTO事務局長の発言を含む主要各国代表の発言概要は別添参照)
- 明11日より、農業、非農産品市場アクセス、途上国、シンガポール・イシューの作業部会が立ち上げられることとなっている。
- 会議では、西アフリカ諸国が提案した綿花イニシャティブ(先進国の綿花に対する補助金撤廃)が会議の焦点の一つになっている。本件は主に米国が困難を抱えている。
- 焦点の農業では、我が国、スイス等9ヶ国による提案(関税の上限設定及び関税割当枠の拡大への反対等からなる)が提案国間で合意された。11日、会議に提出される予定。
- 川口外務大臣、亀井農林水産大臣、平沼経済産業大臣は開会式に出席した後、主要国との二国間会談等を積極的に行った。
10日の全体会議での各国発言
スパチャイWTO事務局長
- 困難な交渉も残されているが、コミットメントを新たにし、期限内に交渉妥結することを確信。期限内の交渉妥結を可能とすべく、参加閣僚には政治決断を要請する。
- 二週間前に TRIPS(知的財産権協定)と医薬品アクセスについて解決したことは、WTOがしっかりと機能し、途上国の関心事に応えていることを示すもの。
- 今会議は、WTOや国際貿易だけでなく、国連のミレニアム開発目標で定める貧困削減にも対処するもの。市場アクセスの改善が貿易を促進し、貿易が開発問題の解決に貢献する。
- 多角的貿易体制を強化していく上で、世銀、IMF等他の国際機関との協調が重要。この意味で最近行われたIMF・世銀とWTOとの間のコンタクトを歓迎。
- 閣僚文書案は自らの責任において、参加閣僚に配布した。これまでの我々の努力を示すものであり、カンクンにおける閣僚の行動の枠組みとなるものと期待。
- 多くの国の多様な関心に対処するためには、柔軟性と相互理解の精神が重要。ドーハ開発ラウンドの進展という共通の利益のために、すべての閣僚から妥協を求めたい。
[午後からの各国スピーチ]
- ゼーリックUSTR
- 今回はカンボジアとネパールが加盟するが、1986年には、まさしく今回のホスト国のメキシコも加盟した。メキシコは、WTO加盟によって輸出を促進して雇用を大幅に拡大した。
今回の閣僚会議は中間地点だが決断の時。重要な点は三点あり、一つには志の高さ。二つにはタイムフレームを設けてそれにコミットすること。三つ目は、市場アクセス3分野(農業、非農産品、サービス)。成果としては、人道上の観点と医薬品開発の観点からも重要な決定が下された。
米国にとって重要なのは市場アクセス3分野。この中で一部の国に柔軟性を認めることとしている。農業の輸出補助金は撤廃するべき。国内支持に関しては引き下げる用意があるが、それは他の国も下げることを条件とする。米国は、ウルグアイ・ラウンドを超える結果を目指している。貿易を推進することは開発を促進する。重要なことは、市場を開放すること。輸出入が貿易の原動力。米国は最大の輸入国である。
- ラミー貿易担当欧州委員
- 世界経済が若干弱含んでいるが、このラウンドが成功すれば世界経済によい影響を与える。今回は開発を重視するラウンド。米国が人道的観点から貧しい国にも医薬品が届くようにしたことを評価。今回のラウンドは、すべての交渉分野に開発の要素が入っている。途上国に対しては、柔軟性が与えられるべきだ。南南貿易が鍵となるだろう。技術支援は引き続き取り組んでいくべき。カンボジア、ネパールの加盟を歓迎。
カンクンで重要なことは、農業、非農産品、シンガポール・イシュー、環境。農業市場はEUはすでに開いている。輸出補助金に関しては、途上国の要望に従って対応する用意がある。農業に関しては、米国との合意に基づき米国と同様に対処していく用意がある。
- ペティグルー加国際貿易大臣
- (途中から傍聴)途上国に対し、医薬品を提供できるようになったことを評価。一貫性に関し、国際機関と共に開発問題に関して、取り組んでいくことが重要。LDCに対してIF(統合フレームワーク)は重要。カナダの国民は貿易の重要性を理解し始めている。開放性と包含性が、強い多国間システムを維持する上で重要。解決すべき仕事は残っているが、今回のラウンドが開発ラウンドであることを忘れてはいけない。グローバリゼーションを進めるためには各国が実質的に門戸を開放すべきである。
- ジャイトリー印商工大臣
- ネパール、カンボジアの加盟を歓迎。最近のTRIPSの進展を人道の観点から評価。今時ラウンドにおいては、途上国の期待に見合うべき。今回の閣僚会議から新しい節目がスタートする。実施、S&Dが途上国にとって重要。各分野での途上国配慮が必要。貿易歪曲的な要素を取り除くことが重要。関税調和と関税割当に反対。非農産品に関しては議長案が開発的側面を含めている。他方、分野別関税撤廃に関しては、すべての国に参加しろというのは無理。シンガポール・イシューでは明確化作業が引き続き行われるべき。加盟国間で意見の相違が大きく、モダリティには同意できない。競争分野は明確化作業が必要。貿易円滑化と政府調達において紛争処理は途上国にとって行政コストがかかる。サービスで重要なのはモード4(人の移動)とモード1(国境を越える取引:例えば、インターネットを通じた海外へのアウトソーシング業務等)、綿花と第一次産品の提案に関してはインドはこれを支持。これらに関し、進展があるべき。
- 呂福源中国商務部長
- 加盟後初めての会議。ウルグアイ・ラウンドにおいてはS&D(途上国への特別かつ異なる配慮)に関してもさらなる進展があったが実際にはS&Dが的確に実施されていない。ドーハ・ラウンドにおいて途上国、特にLDCについて配慮がなければラウンドは失敗する。中国は世界でも一番大きな農業従事者を抱えている。加盟に当たって関税を削減するなど短期間で市場アクセス改善に取り組んできた。輸出補助金は撤廃した。国内支持も削減してきている。今回のラウンドを成功させるには新規加盟国の扱いが重要。カンクンでの成果が今後のラウンド進展に大きな影響を与えることになるだろう。中国にとってプライオリティはS&Dと実施である。非農産品についてはタリフ・ピークとタリフ・エスカレーションをなくすべき。軽減された相互主義と特別セーフガードが重要。
- ヴェイル豪貿易大臣
- 今回の会議はドーハのマンデートを見直し、期限を守れるようにすることである。そのために豪は加盟国と共に働く準備はある。現在の交渉においては農業、非農産品そしてサービスにおける努力が不十分である。ケアンズ・グループと途上国にとって重要な農業においては市場アクセス拡大、国内支持、輸出補助金の三要素での更なる努力が必要である。また、地理的表示(GI)は農業交渉に加えるべきではない。非農産品においては関税と非関税障壁の引き下げの努力が必要だ。現在の議長案は具体性に欠ける。引き下げ方式は簡潔・野心的・分かり易くなければいけない。サービスにおいてはオファーの提出が少ないことは問題だ。TRIPSと医薬品アクセスにおいて合意が得られたことは加盟国が団結して力を発揮できる証拠である。
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