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サービス貿易の評価
(1999年4月26日:WTO文書番号 S/C/W/105)

1. 序

 GATSの目的は、前文にあるようにサービスの貿易に関する原則及び規則の多角的枠組みを設定し、透明性及び漸進的自由化を確保しつつサービスの貿易を拡大し、すべての参加国の経済成長及び開発途上国の経済発展を促進する手段とすることであると考えられる。しかし事務局ノート(S/C/W/94)に指摘されているように、サービス貿易に関する統計の不足、自由化交渉が貿易の拡大や各国の経済発展に及ぼす効果につき実証的かつ定量的に評価することは非常に困難である。またGATSはその発効後わずか4年の歴史しかないことも認識する必要がある。したがってこのノンペーパーにおいては、我が国のサービス貿易の現状につき紹介するとともに、世界最大のサービス貿易の純輸入国である我が国にとり、UR及びその後の自由化交渉の結果ならびにサービス貿易の拡大にもたらした効果につき実例を交えつつ帰納的に(inductive)議論することとしたい。(注)
 以上の議論の結果、我が国はGATS及びこれに基づくサービス貿易の多角的自由化交渉の意義につき以下の通り評価している。

a)各国の国内規制の透明性及び漸進的自由化の確保を通じ1)参入コストの低減、及び2)国内規制の法的安定性/予測可能性の高まりをもたらし、世界経済のグローバル化とも相まってサービス貿易の拡大に大きく貢献してきている。
b)また、適切な規制の枠組みの下でのサービス貿易の漸進的自由化とその拡大は、規模の経済に伴う生産性の向上に加え、サービス輸入国においても当該国内産業に対する技術の移転、雇用創出及び競争力強化を通じ各国の経済成長に寄与している。
 (注)なお、各個別セクターのサービス貿易の評価については、98年6月以来サービス貿易理事会で開催された情報交換プログラムにおいて十分行われたと考えている。

2.我が国のサービス貿易の現状分析 - 最大の純輸入国としての貢献

(1)現在、GATS上のサービス分類やモード別に分類された精緻な統計は存在せず、既存の統計資料がGATSが対象とする全てのサービス貿易を正確に記述しているわけではないが、既存の統計からおおよそのサービス貿易の流れが理解しうると考える。
 例えば、統計からも我が国経済においてサービス産業分野が占める役割は非常に大きなものとなっていることがわかる。日本のGDPについて見た場合、サービス産業がGDP全体に対して占める割合は1970年の57.4%から、1996年の66.1%へと着実に伸びてきている。分野別では流通サービス、金融サービスが大きく伸びている一方で、建設サービスや運輸サービスについては構成比を落としており、サービス産業が一概に成長しているとはいえ、その伸びにはばらつきがあることが窺われる。また雇用についてみた場合も、1996年にはサービス産業における就業者数は全体の61.7%であり、1970年の46.0%から大幅な増加をみせている*1

 *1 統計値は『平成10年版 国民経済計算年報』(経企庁)による。ここでのサービス産業はGATSの対象となる建設、電気・ガス・水道、卸売・小売、金融・保険、不動産、運輸・通信、サービスの合計で政府サービス、対家計民間非営利サービスについては含んでいない。また統計値は暦年ベースであり、GDPは実質値、雇用は就業者数である。

(2)我が国はサービスの最大の純輸入国として、サービス貿易の拡大及びサービス市場の提供に大きな役割を果たしてきている。例えば1997年における我が国の商業サービス(Commercial Service)の貿易に関し、WTO事務局文書(S/C/W/94、23頁)によれば、我が国は世界第6位の輸出国(681億米ドル)、世界第2位の輸入国(1222億米ドル)となっている。
 また、国際通貨基金によるBALANCE OF PAYMENT STATISTICS YEARBOOK 1998(Part 1 page 406)(事務局文書の指摘の通り、本件統計には外国企業の現地の拠点を通じたサービス提供は含まれていない)が示すとおり、我が国のサービス収支は不均衡が恒常的に存在する。1990年から1994年までの我が国のサービス貿易収支は400億米ドル台の赤字で推移し、WTOが発足した1995年以降500億米ドルから600億米ドル台の赤字に拡大している。
 部門別では旅行が大きく赤字である他、輸送(特に人の輸送)、特許権使用料等が目立った赤字となっている。旅行、人の輸送に関する赤字は旅行やビジネス目的で海外を行き来する国民の数が大きく増えていることを反映しており、また物品の輸送や特許権使用料における赤字については、製造業における特許や流通手段の使用が大きく寄与していると推測できる。また最近の新しい傾向としては情報通信や金融におけるサービス取引量が顕著な伸びを示しており、金融については収支が改善してきている点が挙げられる。  さらにこれらを地域別に見ると、一般的に欧米・アジア地域との取引がほとんどであり、そのいずれに対しても収支は赤字である。但し、保険・金融や特許権使用料の分野においては対アジアの収支は黒字もしくは均衡であるのに対し、欧米との関係では大きく赤字となっており、サービス先進国との関係では日本の競争力が必ずしも優位にないことが窺われる。

(3)また、外国企業によるサービス分野での我が国国内への直接投資についても近年大きな伸びを見せている。我が国の届け出制度に基づく統計によれば、95年度の23.7億ドルから96年度には40.8億ドル、97年度には33.5億ドルとやや減少したものの98年度上半期には既に34.6億ドルを記録しており、我が国に対して旺盛なサービス産業の直接投資が行われている。(別表2)  全対内直接投資における対非製造業(サービス分野の投資にほぼ相当)投資の割合についても近年総額で対製造業投資を4対6の割合で大きく超えている。(1997年度において製造業に対する投資は189件、21.8億円であったのに対して、非製造業に対する投資は1112件、33.5億米ドルであった。)対内直接投資においてもサービス分野の投資は重要な役割を担っており、近年その重要性が益々増えていることが統計から看取できる。

3.多角的交渉によるサービス分野の漸進的自由化 - 我が国の経験

 ウルグアイ・ラウンド及び継続交渉
 我が国はウルグアイ・ラウンド及びその後に行われた金融、海運、電気通信分野の継続交渉に他の交渉参加国と比較しても極めて高い水準の自由化約束の提案を掲げ、サービス分野における多角的貿易体制の一層の強化に大きく貢献した。特に我が国は、他と比較して多くのサービスのサブ・セクターに約束を掲げ(事務局文書S/C/W/94 11頁 Table 1参照)、その中の多くのサブ・セクターやモードにおいて市場アクセス及び内国民待遇につき完全な約束を行った。また、多角的貿易体制の根幹をなす原則である最恵国待遇には一切の免除登録を行なっていない。
 我が国は、右自由化約束を行った際に以下の法改正をはじめとする所要の法改正を行い、当該分野のサービス貿易の拡大に貢献してきている。

(イ)法律サービス
 ウルグアイ・ラウンドにおける多角的自由化交渉において、我が国は法律サービスについて(A)日本国の法律により「弁護士」が提供する法律サービス、(B)サービス提供者が弁護士としての資格を有する管轄地の法律に関する相談(日本国の法律により「外国法事務弁護士」が提供する法律サービス)について、外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法を改正してこれを約束し、また同法の強制的な相互主義条項を改正して最恵国待遇義務の免除登録を行わなかった(注1)。「外国法事務弁護士」が提供する法律サービスに関しては、追加的な約束で国際法に関する業務及び「弁護士」との共同事業は認め、国際仲裁手続きにおける代理を認めている(注2)

 (注1) ただし、市場アクセスに係る制限で業務上の拠点の設置を求め、サービス提供者を自然人に限定している。
 (注2) ただし、内国民待遇に係る制限で、第1、第2、第4モードでサービス提供者に1年間に180日以上の本邦滞在要件を課している。

 さらに約束表には反映されていないが、「外国法事務弁護士」について、内外のニーズに応じこれまでいわゆる外弁法の改正により1)資格の承認に必要とされる職務経験要件の緩和、2)いわゆる第三国法に関する法律事務の一定の条件の下での許容、3)「外国法事務弁護士」と「弁護士」との共同事業のうち、渉外的要素を有する法律事務に関する事業の目的に関する制限の廃止、4)準拠法の如何に関わらず国際仲裁事件の手続きにおける代理の許容等を行ってきている。  これらの自由化約束及びさらなる規制緩和の結果、我が国への外国法事務弁護士の参入は順調に進んでおり、11ヶ国(原資格国)から97名が登録し(99年3月15日現在)、うち71名は外国ローファームに所属している者である。

(ロ)基本電気通信サービス
 継続交渉の対象ともなった基本電気通信分野においては、NTT及びKDDを除く一切の基本電気通信サービス分野の外資規制及び外国人役員等に係る制限を撤廃を反映した約束を行った。かかる外資規制の撤廃により第一種電気通信事業者については、外資比率が3分の1を超えるサービス提供者は10社、その中で7社は第4議定書発効後我が国の電気通信市場に参入しており、このうち5社は外資100%のサービス提供者である。かかる新たな事業者の参入により、国内及び国際の通話料金は85年当時から5分の1に低下している(別表1)等、料金の低下、多様なサービスの提供等好ましい競争状態が創出されており、雇用の拡大、事業者の生産性の向上をもたらしていると考えられる。(下記3.2参照)

4.我が国によるサービス貿易の評価

(1)サービス貿易の漸進的自由化がもたらす貿易拡大効果
 WTOの加盟国は、GATSによりすべての分野において最恵国待遇(MFN)義務、透明性確保のための義務等を負い、また約束を行った分野において記載された条件及び制限に従い第16条に基づく市場アクセス及び17条に基づく内国民待遇義務を負っており、自由化交渉を通じて各国がこれらの義務を負う範囲を拡大していくことによって、国内規制の透明性の確保及び漸進的自由化を促進することを目的としている。我が国としては、GATSを通じたサービス貿易の当該自由化はサービス貿易に以下の効果をもたらしていると考える。

(イ)参入及び提供コストの低減
 GATSによる上記義務の確保と自由化交渉によるその範囲の拡大は、各加盟国におけるサービス提供に数量的制限を課すことが国際約束上禁じられる分野、ならびに当該国のサービス提供者に与えられる待遇よりも不利でない待遇が与えられる分野が拡大されることを意味する。したがって外国サービス提供者にとっては、新たに約束された分野においては、今後は参入時もしくは参入後の提供において数量制限や差別的待遇にともなうコストがかからないことが国際約束上確保されることになる。この点によりサービス貿易がどの程度拡大しているかについて定量的に把握することは不可能であるが、上記の我が国の例における外国法事務弁護士及び電気通信事業者の参入状況からもみても、サービス貿易の拡大に肯定的な影響を及ぼすことは疑いないと思われる。

(ロ)国内規制の法的安定性/予測可能性の高まり
 さらには、GATS及び各加盟国の自由化約束は、関連国内規制が約束表に記載された内容よりも厳しいものに後退しないことも法的に約束することを意味する。したがって右自由化約束は、サービス貿易に関する加盟国の措置の透明性や予測可能性の向上に貢献する。かかる要素は外国のサービス提供者からみた加盟国の投資環境の改善にも積極的な意義を有し、特に他の加盟国からのサービス分野の直接投資の増加を一層拡大させる一助ともなりうる。

(2)サービス貿易の漸進的自由化がもたらす経済成長への効果
(イ)サービス貿易の漸進的自由化とその拡大は、理論的には、内外のサービス提供者における規模の経済及び他の提供者との競争の促進に伴う生産性の向上に加え、サービス輸入国にとっても当該国内産業に対する外国事業者の技術・ノウハウの移転、外国事業者の参入による雇用創出及び競争力強化を通じ各国の経済成長に寄与するものである。
 例えば我が国においても、上記の第1種電気通信事業の自由化により、当該事業全体の事業者数は93年から5年間に倍増し、売上高は70%以上、設備投資も約50%、新規第1種電気通信事業者(NCC)の雇用者数も70%増加している。
 またサービス貿易の自由化は、サービスの需要者である我が国の製造業の事業展開の効率化にも寄与している。例えば我が国の製造業の中間投入にしめるサービス産業の比率は1980年には22.2%であったが、95年には29.5%と約3割を占めるまでになっている。このようにサービス産業の製造業に対するインパクトは高まっていることに加え、我が国のサービス産業の生産性波及効果はその他産業を上回っており、知識集約度の高まり、情報化の進展、アウトソーシングの活発化等に伴い、製造業を含めた経済全体の生産性の向上に貢献していると考えられる。したがってサービス貿易の自由化を通じ室の高いサービス産業を育成していくことが、製造業の競争力強化や投資誘致を図る上でもきわめて重要である。

(ロ)本件に関するこれまでの研究においては、これらの肯定的な側面に加え、外国企業の参入に伴う独占的地位の濫用や租税回避などの否定的な側面についても指摘がなされている。しかし、これらの課題については適切な競争政策や税制により確保すべきであり、これらを理由とする貿易上の規制強化は目的合理的でないのみならず、上記の正の側面にもダメージを及ぼすものと考える。

(ハ)また、サービス貿易の自由化により利益を得るのは先進国のみで、途上国への裨益は存在しないとする見解が一部に存在するが、サービスの自由化は途上国を含む全ての加盟国に裨益することを強調したい。特に第3モード(拠点設置)への自由化約束は投資環境の改善に一定の役割を果たし、外国のサービス提供者の進出は、雇用の新たな創出、財政への貢献、新たな技術・ノウハウを含む技術移転の促進等の様々な波及効果を有することは留意されるべきである。近年外資系金融機関の我が国市場への参入が急増しているが、これらの例に鑑みても、国内市場に参入した外国のサービス事業者がその組織の運営やサービスの提供の全てに当該企業の属する国民があてることは考えられず、当該国において大量の新規雇用を産み、経済的及び社会的な裨益は大きいと考えられる。

5.将来に向けての課題

(1)我が国としては、サービス分野の次期交渉においてもすべてのセクターを対象とし、特定の分野に限定すべきではないと考えている。なお、ウルグァイ・ラウンドの継続交渉が中断している海運サービス分野においては、各国の規制の実態は自由化傾向にあり、今後の交渉においては新たな進展が期待できる。したがってこの分野でのできるだけ早期の交渉の妥結は、サービス貿易の拡大のみならずモノの貿易にも大きく裨益するであろう。また、MFN免除登録やマーケットアクセス及び内国民待遇に係る制限の改善、及び自由化約束を行う分野の拡大等もさらなるサービス貿易の拡大に資するものとなろう。

(2)サービス産業においては、近年様々な技術革新が進み、新たなサービスも生まれてきている。特に電子商取引はウルグァイ・ラウンド後飛躍的な勢いで拡大しており、世界的なサービス貿易の拡大のための新たな地平を開いた。WTOにおけるこれまでの議論では、電子商取引について基本的にはGATSをはじめとする既存の規律をいかに適用すべきであるかにつき検討が進められている。同時に電子商取引の健全な発展のため新たな規律を各国合意の下策定することもあり得るであろう。WTOは今後も様々な技術革新が加盟国の利益となる形でサービス貿易を発展させるために望ましい規律について議論していく必要がある。

(3)GATSの目的に沿った形でサービス貿易の自由化が行われるためには、開発途上国が次期サービス交渉に積極的に参加することが重要である。我が国としては、開発途上国がサービス貿易の自由化による自らの利益を特定し、具体的アイデアとイニシアティブをもって次期サービス交渉に参加することを期待する。

(4)サービス分野の漸進的自由化のサービス貿易の拡大ならびに経済成長の確保に対する貢献につき述べてきたが、いうまでもなく我が国はこの結果に基づいてあらゆる国内規制の自由化が望ましいことを主張しているものではない。GATS前文においても明記されているとおり、正当な政策目的の実現のための規制は当然認められるべきものであり、先般のアジアの経済危機に際しても金融サービスに対する適正な規制・監督の欠如がその一因であったことに鑑みれば、今後の交渉に当たっても十分配慮されるべきである。したがって次期交渉においても、コミットメント交渉と平行して、国内規制に関する望ましい規律のあり方について十分検討していく必要がある。



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