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経済


日本提案(農業)

<提案>

A.次期交渉の目的

  1. 次期交渉の目的は、食料輸入国と輸出国、先進国と開発途上国のいずれにとっても公平で、かつ、真に公正な貿易ルールの確立を図り、各国の農業が共存できるような国際規律とすること。

  2. この場合、    
    (1) 農業の多面的機能の重要性をはじめ、各国の農業政策の円滑な実施、各国の農業の自然的条件、歴史的経緯の違い等への十分な配慮がなされること、
    (2)特に、多面的機能としても位置付けられる食料安全保障については、国際的な食料需給の不安定性や、開発途上国の飢餓・栄養不足問題を考慮すれば、国内生産が基本であることに十分な配慮がなされること、
    (3)輸出国と輸入国の権利義務のバランスを回復することが確保されるべき。

B.次期交渉の視点

  1. このため、
    (1) 輸出入国間の権利義務のバランスを回復する観点から、輸出禁止・制限措置、輸出税、輸出補助金、輸出国家貿易等、輸出面に関する規律を強化するとともに、
    (2) その他の現行WTO農業協定の規律の枠組みは基本的に維持しつつ、各国が取り組んでいる市場指向的な政策転換の円滑な実施を促進するよう、また、今までの農業協定の実施の経験等を踏まえつつ、見直しを行うべき。

  2. また、開発途上国については、その置かれた状況、ニーズに応じ、協定上の義務の円滑な実施の支援や食料安全保障の達成を含め、特別な配慮が払われるべき。

  3. 更に、遺伝子組換え食品の取扱い等新たな課題については、積極的な取り組みが必要。

C.次期交渉の場

  1. 農業に関する次期交渉は、国内支持、国境措置、輸出規律等多岐にわたる事項を総合的に取り扱わねばならないこと等、農業が他の分野とは異なる特性を有すること等を踏まえ、独立した農業交渉グループを設立し、国内支持、国境措置及び輸出規律に関する交渉を総合的・効率的に進めるべき。

  2. また、遺伝子組換え食品の取扱い等新たな課題については、現状分析、問題点の洗い出し、現行各協定との関係整理等を多角的に検討するための適切な場が設けられるべき。

<背景>

  1. WTO加盟国は、1995年1月のWTO協定発効以来、農業分野については,UR農業合意の着実な実施に最大限の努力を行ってきたところである。しかしながら、UR農業合意は、食料輸入国と輸出国、先進国と開発途上国との間での公平・公正な貿易ルールという見地からは十分なものとは言えないと考えられる。

  2. 次期農業交渉においては、こうした見地や、各国が取り組んでいる農業改革の円滑な実施を促進する見地から、また、これまでの各国における実施の経験等を踏まえつつ、特に農業の多面的機能の重要性、この一つとしても位置づけられる食料安全保障への配慮、輸出入国間の権利義務のバランスの回復の三点を確保することを交渉の目的とすべきである。

  3. このような交渉の目的を実現し、公平で、かつ、真に公正な貿易ルールを確立することにより、各国がそれぞれ異なる自然的条件、歴史的経緯、文化的背景等を持つ中で、それらを活かした特色ある農業生産の展開を可能にし、それにより各国の農業が将来にわたって共存できるものと考える。

A.農業の多面的機能

  1. 農業は、自然環境と調和した生産活動を通じて、単に農産物の生産・供給を行うのみならず、不測の事態や将来の食料需給ひっ迫の可能性に対するリスク軽減を通じた食料安全保障への貢献、国土・環境の保全、良好な景観の形成、地域社会の維持等様々な役割、すなわち多面的機能を果たしている。

  2. このような農業の多面的機能については、
    (1) その大部分が外部経済効果として発揮されるものであり、価値が価格に的確に反映されることが困難であるとともに、生産と密接不可分な機能であり貿易が不可能なこと、
    (2) 多面的機能を発揮させる農業生産手法は、市場メカニズムによっては実現が困難であること等の性格を有している。

  3. したがって、国内農業生産を食料供給の基本に位置付け、これにより多面的機能の発揮を図るためには、何らかの政策的介入を行うことが不可欠であるが、各国が多面的機能発揮の観点から行う政策的介入を、国際規律上どのように位置づけるべきか、また、どの程度まで許容すべきかについて、今までの農業協定の実施の経験等を踏まえつつ十分な検討が行われることが必要である。

  4. なお、このような農業の多面的機能の内容には、様々なものがあるが、次のような要件に該当するものを農産物貿易との関係で検討の対象にすることが適当である。
    (1) 農業生産と密接不可分に発揮される機能であること
    (2) 一般的に営まれてきた農業生産活動に関連して発揮される機能であること
    (3) 発揮される機能の価値についての認識が、当該国の国民に共有されうるものであること

B.食料安全保障

  1. 食料は生命と健康の維持に欠かすことのできない最も基礎的で重要な物資であり、その安定供給を確保していくことは国民に対する国の基本的責務である。
     特に、食料純輸入国においては、国民の生命の維持、健康な生活の基礎となる食料を、いついかなる場合においても安定的に供給していくことが、消費者の重大な関心事であり、したがって重要な政策課題となっている。

  2. 世界の食料需給は、輸出国が特定の国・地域へ集中していること、異常気象の影響を受けやすいこと等の農産物貿易の特殊性等から、そもそも不安定な側面が強いものとなっている中で、今後の世界の食料需給について、エルニーニョ現象等の異常気象等により短期的な不安定性が増大するとともに、開発途上国を中心とした人口の大幅な増加や経済成長に伴う飼料用穀物需要の増大等により中長期的にはひっ迫する可能性も見込まれている。

  3. また、飢餓・栄養不足問題といった問題を抱える開発途上国にとっては、食料安全保障問題の解決が最優先の政策課題であり、短期的な当面の措置としての食料援助を通じた必要な食料の確保はもとより、長期的には持続可能な食料生産能力の向上に向けた取組みへの支援を行っていくことが必要である。
     特に、食料純輸入開発途上国の抱える問題に適切に取り組むための具体的方策を、十分検討する必要がある。

  4. 食料安全保障の確保のための政策手段としては、国内農業生産のほか、備蓄と輸入があるが、輸入に過度に依存することについては、
    (1) 世界の食料需給は、今後短期的な不安定性が増大するとともに、中長期的にはひっ迫する可能性もあると見込まれること
    (2) 生産量のうち貿易に回されるものの割合が概して低いことや、少数の特定の国・地域が主要な農産物の輸出に大きな割合を占める等農産物貿易が不安定な要素を有していること
    (3) 経済力のある輸入国による不足時の大量買付けは、国際市場へ悪影響を及ぼすこと、といった問題があり、また、備蓄については、緊急の需要に応えるためには有効であるが、品質やコスト面から自ずと短期的措置としての性格を有するものであることといった問題がある。

  5. したがって、食料安全保障の確保のためには、国内の農業生産の増大を図ることを食料供給の基本に位置付けることが不可欠であるが、そのために必要となる政策的介入が、国際規律にどのように位置付けられるべきか、またどの程度まで許容されるかについて、今までの農業協定の実施の経験等を踏まえつつ、十分な検討が行われることが必要である。

  6. なお、この検討を行う場合、主要な農産物について画一的に議論するのではなく、それぞれの品目ごとの生産・貿易・消費の特質を踏まえた議論が行われるべきであり、単に必要な数量の確保のみではなく、安全性を含めた品質の確保並びに安定的な価格での供給が重要である。

  7. 以上のように食料安全保障の確保のための国内農業生産は、単なる農産物の生産という機能のみならず、食料不足等の不測の事態に対する重要なリスクヘッジ機能を果たしている反面、食料安全保障を市場メカニズムに完全に委ねた場合には、このような食料安全保障の機能を確保できないおそれがある。
     このことから、国内農業生産の確保が政府の国民に対する重要な責務であることを踏まえれば、農業の多面的機能としても位置付けることができる。

C.輸出規律強化

  1. 農林水産物のような一次産品の貿易については、国際的な需要は非弾力的であること、輸入国が多数ある一方で、輸出国が特定の国に偏っている品目が多いことといった特徴があり、輸出サイドの行動により国際価格が大きく変動する危険性が常に存在している。

  2. こうした中で、UR合意において、輸入面については、輸入数量制限、可変課徴金等のすべての関税以外の国境措置を、原則として関税に置き換えることとなったのに対し、輸出面については、輸出禁止・制限措置や輸出税、輸出補助金に対する規律が緩やかなものとなっている。

  3. また、輸出国家貿易については、一般的に輸出に関する規律が輸入に比べて緩やかになっている中で、二重価格制や輸出先毎の差別価格設定等を実施し、輸出補助金削減規律の迂回がなされている可能性がある。

  4. これらは、輸出入国間の権利義務のバランスの観点のみならず、輸入国における食料安全保障の観点からも問題であることから、輸出に関する規律の強化について、十分な検討が行われることが必要である。

D.国内支持

  1. 農業の多面的機能が農業生産と密接不可分に発揮される公共財的性格を有していることから、そのための政策的介入(国内支持)は生産とは完全に切り離すことができない(デカップルできない)性格を有しているが、食料安全保障を含む農業の多面的機能を十分に発揮させるためには、一定の政策的介入(国内支持)を行うことが不可欠である。

  2. 一方、現行の「緑」、「青」、「黄」(「黄」については総合AMSによる約束)の国内支持の枠組みには一定の合理性があり、これを抜本的に見直して、「緑」の政策を農業生産と完全に切り離して貿易歪曲性を皆無とすることは不可能である。
     したがって、この枠組みは基本的に維持しつつ、現行の「緑」の政策の要件・範囲について、今までの農業協定の実施の経験等を踏まえ、各国が取り組んでいる市場指向的な政策転換の円滑な実施を促進するよう、見直しを行うべきである。

  3. また、市場指向的な政策転換を図ろうとする場合、「黄」から「緑」への円滑な政策転換を図るための中間点として「青」の政策の存在は否定できないこと、また、「青」の政策は貿易歪曲性や生産刺激性といった効果が「黄」の政策に比べて少ないことから、引き続き「青」の政策は存続させ、その存在意義を積極的に評価すべきである。

  4. 更に、削減対象である「黄」の政策の取扱いについては、各国における市場指向的な政策転換の進捗に配慮し、現行の総合AMS等の枠組みを基本としつつ、各国が行う政策運営の柔軟性が確保されるべきである。

E.市場アクセス

  1. 関税は、WTO制度の下で農産物貿易に関する自然的・経済的諸条件の差異を調整する唯一正当な手法であり、UR農業交渉において数量制限等の非関税措置が原則関税化されたのもこうした考え方に基づいている。
     こうしたことから、国境措置については、輸入国の関税のみを議論するのではなく、農業の多面的機能や生産実態等を踏まえたバランスのとれたアプローチがとられることが必要である。

  2. 農産物純輸入国においては、食料安全保障の確保のためには、国内の農業生産の増大を図ることを食料供給の基本に位置付けることが不可欠であり、そのため、適切な国境措置を国内支持と組み合わせることが必要である。
     輸出国が輸出制限措置を採り得る現行の貿易ルールを踏まえれば、輸入国において食料安全保障の観点から国境措置を講ずることは、輸入国の正当な権利であると考える。

  3. 現在の関税水準は、これまでの累次にわたる貿易交渉の結果、各国の地理的・自然的条件や各品目ごとの事情等を踏まえた形で設定されている。また、UR合意による関税化品目の二次税率は、基本的に内外価格差を基に設定されたものである。
     関税水準については、こうした事情や経緯、一定水準の農業生産の維持及びそれにより発現される農業の多面的機能への配慮を十分踏まえて検討を行うことが必要である。
     また、アクセス水準については、UR合意の実施の経験や輸入国の需給事情等を十分踏まえた適切なものとすることが必要である。
     更に、加工食品の国境措置の取扱いについては、国民への良質かつ安定的な食品供給に重要な役割を果たしている食品産業の健全な発展に配慮したものとすべきである。

  4. このように、農産物・加工食品の国境措置については、品目ごとの実態を十分に踏まえた個別具体的な検討が必要であり、これを無視した画一的な取扱いを行うことは適当でない。

  5. 更に、セーフガードについては、農産物の特性を踏まえて、輸入急増等の事態に機動的・効果的に対応できるような制度・運用につき検討を行うことが必要である。

F.開発途上国対策

  1. WTO加盟国の大半が途上国である現状において、途上国が協定上の義務を円滑に履行することを可能とし、WTO体制に途上国を取り込んでいくことが重要な課題となっている。
     このため、各途上国の置かれた状況やニーズに応じて、協定の円滑な実施のためのキャパシティービルディングのための支援を含め、特別な考慮が払われるべきである。

  2. また、飢餓・栄養不足問題といった問題を抱える開発途上国にとっては、食料安全保障問題の解決が最優先の政策課題であり、短期的な当面の措置として必要な食料の確保はもとより、長期的には持続可能な食料生産能力の向上に向けた取組みへの支援を行っていく必要がある。
     また、食料純輸入開発途上国の抱える問題に適切に取り組むための方策について、十分検討を行う必要がある。

G.新たな課題への対応

  1. 近年、食品の安全性、リサイクル、有機農産物等、農産物・食品に関し消費者が 関心を持つ課題が増大しているが、これらはUR農業交渉時には必ずしも表面化していなかった新たな課題であり、次期交渉において、このような課題に的確に対応していくことが求められている。

  2. 例えば、近年、遺伝子組換え体(GMO)に係る技術開発が進み、その生産及びその技術を利用した食品の生産が急速に増加しているが、GMOについては、その生産や輸出入、表示、権利保護等多岐にわたる課題が生じてきている。

  3. このような問題に代表される新たな課題については、各種の現行WTO協定に横断的に関連する問題であることが多く、既存のWTOの制度・枠組みにより取り扱うことが困難である場合が多い。

  4. したがって、このような新たな課題については、幅広い視点から、積極的な取組みが必要である。

H.次期交渉の場

  1. 以上見たように、農業に関する次期交渉は、国内支持、国境措置、輸出規律等多岐にわたる事項を総合的に取り扱わねばならないこと等、農業が他の分野とは異なる特性を有すること等を踏まえ、独立した農業交渉グループを設立し、国内支持、国境措置及び輸出規律に関する交渉を総合的・効率的に進めるべきである。

  2. また、遺伝子組換え食品の取扱い等新たな課題については、現状分析、問題点の洗出し、現行各協定との関係整理等を多角的に検討するための適切な場が設けられるべきである。


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