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WTO第二回ルール交渉会合に向けたアンチダンピング
(AD)フレンズ共同ペーパー

平成14年5月9日

 アンチダンピング(AD)フレンズは、近年のAD措置の濫用を懸念しWTO・AD協定の規律強化を目指す関係国の集まりであるが、5月6~8日に開催された第二回ルール交渉会合において、12項目の問題提起を行った。その目的・背景を項目毎にとりまとめると以下のとおり。(共同提案国は日本の他、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、香港、イスラエル、韓国、メキシコ、ノルウェー、シンガポール、スイス、タイ、トルコの14か国)

0. 本ペーパーの位置づけ

 冒頭に本ペーパーの位置づけを明確にするため次を記している。

AD措置の濫用は貿易に制限的な効果を与えることを懸念しており、AD協定の明確化、改善することによって、これらの状況を防げる事を第4回ドーハ閣僚会合にて決定したことを確認すること。
本ペーパーは議論を促進させるため事を目的とした最初のペーパーであって、今後の交渉会合に更なるペーパーを提出すること、個々の国が個別に提案を提出する権利は留保すること。
12項目は明確化、改善を求めていく事項であるが、AD協定の条項別に並べているものであって優先度をつけたものではなく、また例示は理解を促進するために付記しているものであって限定的であること。


1.通常の商取引(AD協定2.2.1)

 AD協定2.2.1条は、国内販売価格(正常価額)を決定する際に、「原価割れ販売」については「通常の商取引」ではないものとして無視できることとし、その要件を規定している。同条では、原価を下回る価格による販売が、長い期間(6ヶ月以上、通常1年)、相当な量(20%以上)、その価額が合理的にな期間内に全費用を回収できないような価格であることが要件となっている。その結果、「通常の商取引」における価格が不当に高く計算されることにより、問題ない価格での輸出もダンピングしているものと見なされることを懸念し、通常のビジネス慣行に合致したAD協定上の「通常の商取引」の範囲拡大を主張。

2.構成価額(AD協定2.2.2条)

 AD協定2.2条は、国内販売価格(正常価額)が存在しない場合には、構成価額(管理費、販売経緯及び一般経費並びに利潤として妥当な額のこと)によりダンピングマージンを算定することができる旨規定しており、AD協定2.2.2条は、構成価額の使用は調査の対象となっている輸出者等による生産及び販売に関する情報を基礎とする旨規定した上で、その情報を基礎として決定できない場合には、実際の販売価額等を利用した3つの方法を例示している。しかし、3つの方法の適用に当たっての考え方は示されていない。今回のペーパーでは、恣意的な算定方法を排除するために右構成価額の算定方法の選択に当たっての明確なガイダンスを設ける必要性を主張としている。

(具体的な問題例)

 食器具メーカーである企業AはAD調査において、国内での販売が実質的になく、構成価格が使用されることとなった。企業Aの食器具販売による利益率は2%であり、同じくAD調査の対象となっているB社とC社の利益率の加重平均は3%であるが、提訴者企業は、食器具メーカー全体の利益率である8%を使うことを主張。現行協定では当局に裁量の余地があり、8%のマージンを決定することが可能である。

3.周期的市場(AD協定2.4条)

 AD協定2.4条は、輸出価格と国内販売(正常な価額)の比較は公正に行うという一般的なルールは規定しているが、周期性があり時期によって価格が異なる産品については、恣意的なダンピングマージンの算定が行われる可能性があり、右を排除することを主張。

(具体的な問題例)

 花のような時期によって価格の異なる産品は、自動的に現協定を適用すると、輸出国で需要が強く国内販売価格(正常価額)が高い時期には、必要以上に高いダンピングマージンが恣意的に創出される可能性がある。

4.ゼロイング(AD協定2.4.2)

 ゼロイングとは、マイナスのダンピングマージン(国内販売価格より輸出価格が高い)をゼロと置き換えダンピング幅の恣意的な計算をする方法であり、EU-インドのベッドリネンパネルでは、EUのゼロイング手法がAD協定2.4.2条違反と判断された。今次ペーパーでは、ゼロイングは明示的に禁止されることを主張している。

(具体的な問題例)

 3タイプのオートバイを製造するメーカーAが、アンチダンピング調査の対象となり、1タイプにでもダンピングマージンが認められれば、残る2タイプのダンピングマージンがマイナスであってもこれらをゼロと見なすことによって、3タイプ全てがダンピングしているとされる可能性がある。

5.損害の累積評価(AD協定3.3条)

 AD協定3.3条は、複数国のダンピング調査の対象となる場合、一定の条件が整えば累積して損害認定を行うことを許容しているが、主要な条件である「競争の状態」の定義が不明確であり安易に累積評価される可能性があるため、基準をより明確化・厳格化することを主張。

(具体的な問題例)

 A国とB国の化学原材料がダンピング調査と対象となった場合、同じ産品であってもA国製品は肥料に、B国製品は合成繊維に使われるというように用途が全く異なるにも関わらず、損害認定の際に両国の製品を累積して決定したとする。このように、用途が異なる製品を累積評価しても、当局は適切な損害認定を行ったと言えるのであろうか。

6.ダンピングと損害の因果関係(AD協定3.5条)

 AD協定3.5条は、損害の認定においてダンピングと損害の因果関係を立証しなければならず、ダンピング以外の要因についても調査をしなければならない旨規定しているが、その具体的な方法までは規定していないため、他の要因によって国内産業に損害が引き起こされても、ダンピングにその理由が起因されることがある。本ペーパーでは、ダンピングと損害に明確で実質的な関係があった場合にのみ因果関係が認められることを主張。

(具体的な問題例)

 ある国のオレンジがダンピング調査される場合、輸入国の損害の理由として、ダンピング輸入以外に干ばつ、害虫、景気の悪化等が考えられる場合、調査当局はダンピング輸入と損害の因果関係をどのように立証すべきか。現行協定では、ダンピング以外の要因に対して必ずしもシステマティックで包括的な分析が求められておらず、恣意的に結論が導き出される可能性がある。

7.実質的な損害のおそれ(AD協定3.7条)

 AD協定3.7条は、ダンピング輸入が実質的損害を与えるおそれがある事を決定する場合の基準を定めているが、右基準をより明確にし恣意的な運用を防止することを主張。

8.AD調査を取りやめる場合(AD協定5.8条)

 AD協定5.8条は、ダンピングマージンが2%の場合、また、ダンピング輸入量が総輸入量の3%未満の場合、僅少とみなし、調査をとりやめる旨規定している。2%のダンピングマージンや3%の輸入量は、基準として低すぎると考えられ、右を引き上げることを主張。

9.ファクツ・アヴェイラブル(AD協定6.8条及び附属書 II)

 ファクツ・アヴェイラブルとは、利害関係者が必要な情報を提供しない場合に知ることができた事実に基づいて決定することである(AD協定6.8条)。実際の運用では、被提訴者が情報を提供する意思があっても提供できない状況下においてさえ、ファクツ・アベイラブルを用いて、被提訴者に不利な決定が行われることがあるため、右を防止するため規律の強化を主張。(米国を相手とした熱延鋼板ADパネルにおいて、日本は右論点で勝訴している。)

(具体的な問題例)

 会社Aがダンピング調査をされた際、輸出国にある10%の株式を有して会社Bに対し、輸出価格の提供を依頼したがBがその提供を拒否しA社が調査当局に求められた資料を提出できなかった場合、A社にファクツ・アヴェイラブルを適用することは適当と考えられるか。また、ファクツ・アヴェイラブルを使用した恣意的な高いマージンの認定は公平と考えられるか。

10.レッサー・デューティ・ルール(AD協定9.1条)

 AD協定9.1条は、AD税は損害を除去するために十分である場合には、その少ない額であることが望ましい旨規定されているが、義務規定ではない。右を義務規定とすることを主張。

(具体的な問題例)

 Aという繊維企業が、B国におけるダンピング調査で40%のマージンと認定された。しかし、B国の当該製品の国内販売価格とAの輸出価格との差がわずか5%である場合、40%の課税を行うことが適当と考えられるか。

11.サンセット・レビュー(AD協定11.3条)

 AD協定11.3条は、AD措置は当局が必要と決定をしない限り5年で撤廃される旨規定されているが、特に米国では十分な調査が行われないまま継続決定が行われており、規定の明確化を主張。(日本は、米国の表面処理鋼板AD措置継続決定、その手続き及び関連国内法に関し、パネル設置要請を行ったところ。)

(具体的な問題例)

 時計メーカーのA社は、50%のダンピング課税をされ、輸出を停止した。5年後調査当局はサンセットレビュー手続きを開始したが、A社は輸出の計画がなく調査に参加しなかったため、AD課税が継続されることになった。輸出のない状態でダンピング課税が継続されることは適切なのであろうか。

12.公共の利益(AD協定6.12条等)

 AD協定6.12条は、当該産品の使用者及び代表的な消費者に対し情報を提供する機会を与える旨規定しているが、右を如何に検討するかについては何ら規定がない。よってAD課税前に国内利害関係者の利益を考慮する具体的手続を導入することを主張。

(具体的な問題例)

 羽毛の生産者がが、羽毛の輸入に対しAD調査開始の申し立てを行ったが、羽毛を利用するダウンジャケット生産者や消費者団体が、ダウンジャケットの値上げを懸念して反対した場合、当局はこれら反対を考慮せずにAD課税を決定した場合、右は適切と考えられるか。


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