漁業の分野における協力に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定
漁業の分野における協力に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定
日本国政府及びソヴィエト社会主義共和国連邦政府は、
北西太平洋の生物資源の保存、再生産、最適利用及び管理に関する共通の関心を考慮し、
海洋法に関する国際連合条約が採択されたことを考慮し、
千九百七十七年五月二日付けの日本国の漁業水域に関する暫定措置法及び千九百八十四年二月二十八日付けのソヴィエト社会主義共和国連邦の経済水域に関するソヴィエト社会主義共和国連邦最高会議幹部会令の関係諸規定を考慮し、
漁業の分野における科学技術協力の促進に関して相互に関心を有し、
北西太平洋の生物資源の保存、再生産、最適利用及び管理のための漁業の分野における科学的調査の重要性に留意し、
漁業の分野における互恵的協力を発展させることを希望して、
次のとおり協定した。
第一条
両締約国政府は、北西太平洋の生物資源の保存、再生産、最適利用及び管理に関する協力を含む漁業の分野における互恵的協力を発展させる。
第二条
1 両締約国政府は、溯河性魚種の発生する川の所在する国(以下「母川国」という。)が当該魚種に関し第一義的利益及び責任を有することを認める。
2 両締約国政府は、溯河性魚種の母川国がその二百海里水域の外側の限界より陸側のすべての水域における当該魚種の漁獲及び二百海里水域の外側の水域における当該魚種の漁獲に対する適当な規制措置を定めることによつて当該魚種の保存を確保することを認める。両締約国政府は、また、母川国が、二百海里水域の外側の水域において母川国との合意に基づき 母川国の川に発生する溯河性魚種の漁獲を行つている国並びに二百海里水域の外側の限界より陸側の水域に入るか又はこの水域を通過して回遊する当該魚種の保存及び管理について母川田と協力しつつ当該魚種の漁獲を行つている国と協議の上、当該魚種の総漁獲可能量を定めることができることを認める。
3 (1) 両締約国政府は、溯河性魚種の漁獲が二百海里水域の外側の限界より陸側の水域においてのみ行われるこの規定の適用が母川国以外の国に経済的混乱をもたらす場合を除く。)ことを認める。両締約国政府は、北西太平洋の二百海里水域の外側の水域におけるソヴィエト社会主義共和国連邦の川に発生する溯河性魚種の漁獲に関し、当該魚種に関する保存上の要請及びソヴィエト社会主義共和国連邦の必要性に妥当な考慮を払つて、日本国による当該漁獲の条件に関する合意に達するため協議を行う。
ソヴィエト社会主義共和国連邦政府は、日本国による溯河性魚種の通常の漁獲量及び操業の形態並びにその漁獲が行われてきたすべての水域を考慮する。
(2) ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国がソヴィエト社会主義共和国連邦との合意によりソヴィエト社会主義共和国連邦の川に発生する溯河性魚種の再生産のための措置に参加し、特に、この目的のための経費を負担している場合には、日本国に対し、当該魚種の漁獲について特別の考慮を払う。
4 (1) 両締約国政府は、二百海里水域の外側の水域における溯河性魚種に関する規制の実施は母川国と他の関係国との間の合意によることを認める。
(2) 北西太平洋の二百海里水域の外側の水域におけるソヴィエト社会主義共和国連邦の川に発生する溯河性魚種に関する規制の実施は、両締約国政府の間の合意に基づき、次の規定に従つて行われる。
(a) 日本国の漁船に対し北西太平洋の二百海里水域の外側の木城においてこの条の規定に基づき溯河性魚種の漁獲を行う許可を与える許可証は、日本国政府の権限のある機関が発給する。日本国政府の権限のある機関は、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の権限のある機関に対し、当該許可証を発給した漁船の船名及び特徴、許可番号その他の必要な事項を速やかに通報する。
ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の権限のある機関は、その通報に基づき当該許可証に関する登録を行う。
(b) ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の正当に権限を有する公務員は、装備、魚そう、航海日誌その他の書類及び漁獲物その他の物件を検査し並びに乗組員に対して質問するため、溯河性魚種の漁獲を行つている日本国の漁船に乗船することができる。その検査及び質問に当たつて、当該公務員は、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の権限のある機関が発行した身分証明書を提示し、かつ、当該漁船の漁獲活動が被る妨げを最小のものにしなければならない。
(c) ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の正当に権限を有する公務員は、日本国の漁船が、現に漁船に係るこの条に関する合意に違反する漁獲を行つているとき又は当該公務員が乗船する前に現にそのような漁獲を行つていたと信ずるに足りる相当の理由があるときは、当該漁船を拿捕することができる。
この場合において、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府は、できる限り速やかに、日本国政府に当該漁船の拿捕を通告し、かつ、当該公務員は、両締約国政府が当該漁船の引渡しに関し別途合意しない限り、できる限り速やかに、拿捕した場所で日本国政府の正当に権限を有する公務員に当該漁船及びその乗組員を引き渡さなければからない。
(d) 日本国の当局のみが、漁船に係るこの条に関する合意に対する日本国の漁船による違反に関連して生ずる事件について裁判し、かつ、刑を科する管轄権を有する。ソヴィエト社会主義共和国連邦政府は、日本国政府に対し、当該違反を証明する調書及び証拠をできる限り速やかに提供する。
(e) 日本国政府は、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府に対し、漁船に係るこの条に関する合意に対する日本国の漁船による違反に関して日本国の当局がとつた措置につき通報する。
(f) 日本国政府は、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の正当に権限を有する公務員が日本国の漁船に支障なく乗船する機会が与えられることとなるように、及び当該公務員が漁船にある間、当該漁船の乗組員が検査(検査の結果発見された違反を除去するための措置をとることを含む。)の実施について当該公務員に協力するように、適当な措置をとる。
(g) 日本国政府の権限のある機関は、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の権限のある機関に対し、合意された経路を通じヽかつヽ合意された期日に、溯河性魚種の定められた漁獲量の日本国による利用の状況に関する情報を送付する。
5 日本国政府は、北西太平洋の二百海里水域の外側の水域において日本国の国民及び漁船が漁船に係るこの条に関する合意を遵守することを確保するために必要な措置をとる。
6 締約国政府は、他方の締約国の川に発生ずる溯河性魚種が自国の二百海里水域の外側の限界より陸側の水域に入るか又はこの水域を通過して回遊する場合には、当該魚種の保存及び管理について当該他方の締約国の政府と協力する。
7 日本国政府は、、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の科学 視察員が、両締約国政府の問で合意する条件の下で、溯河性魚種の漁獲に関する科学的情報を収集するために、北西太平洋の二百海里水域の外側の水域において溯河性魚種の漁獲を行つている日本国の漁船を一時的に訪問することに便宜を与える。
8 両締約国政府は、いずれか一方の国の川に発生する溯河性 魚種の保存、再生産、最適利用及び管理のために必要な科学的調査の実施、共同計画の作成及び実施並びに資料(当該魚種の起源に関する資料を含む。)の交換について協力する。
9 各締約国政府は、両国のいずれにも所属していない漁船が 北西太洋の二百海里水域の外側の水域において他方の国の川に発生する溯河性魚種の漁獲活動を行つて当該魚種の保存、再生産、最適利用及び管理に好ましくない影響を与えていることを知つたときは、当該漁獲活動について池方の締約国政 府の注意を喚起する。両締約国政府は、必要に応じ、当該漁獲活動の防止に関し協議する。
10 この条の実施に関する合意(3及び4(2)にいう合意を含む。)は、第七条にいう日ソ漁業合同委員会の会議の議事録に記載される。この合意は、各締約国政府がそれぞれの国内法上の 手続に従つて当該議事録を承認したことを通知する外交上の公文を交換した日に効力を生ずる。
第三条
1 両締約国政府は、漁業の分野における科学的調査、特に北 西太平洋の生物資源の保存、再生産、最適利用及び管理のために必要な科学的調査の実施について協力する。
両締約国政府は、科学者及び専門家が、必要に応じ、この科学的調査の調整及び実施の問題、その結果の分析及び評価の問題並びに両締約国政府が相互に関心を有する北西太平洋における漁獲に関する情報の交換の問題に関し協議することにつき協力する。
2 両締約国政府は、相互に関心を有する場合に、海水及び淡 水における生物資源の漁獲、増殖及び養殖の技術及び方法の改善並びにこれらの生物資源の加工、保蔵及び輸送の方法の改善について協力する。
第四条
両締約国政府は、適当な場合に、入手可能か最良の科学的証拠を考慮し、両締約国政府が共通の関心を有する北西太平洋の二百海里水域の外側の水域における生物資源の保存及び管理について協力する。
第五条
両締約国政府は、相互に関心を有する場合に、両国が加盟している国際機関において検討される漁業の問題(生物資源の保存及び最適利用の問題を含む。)について協議する。
第六条
両締約国政府は、相互に関心を有する場合に、それぞれの国の関係法令の範囲内において行われる両国の団体及び企業の間の漁業の分野における協力の問題について協議する。
第七条
1 両締約国政府は、この協定の目的を達成するため、日ソ漁業合同委員会(以下「合同委員会」という。)を設置する。
2 合同委員会は、各締約国政府がそれぞれ任命する一人の代表及び二人以内の代表代理で構成する。
3 合同委員会は、少なくとも毎年一回交互に両国において会合する。合同委員会の会議の運営に関する共同の経費は、受人側が負担する。
4 合同委員会は、第二条に定めるところに関連する問題に関し協議を行うとともに、この協定の実施に関連するその他の問題につき検討する。
5 第二条に定めるところに関連する問題に関する協議の結果及びこの協定の実施に関連するその他の問題についての検討の結果は、両締約国政府の代表の間の合意により採択される合同委員会の会議の議事録に記載される。
第八条
この協定のいかなる規定も、海洋法の諸問題についてのいずれの締約国政府の立場又は見解をも害するものとみなしてはならない。
第九条
1 この協定は、それぞれの国の国内法上の手続に従つて承認されなければならない。この協定は、その承認を通知する外交上の公文が交換された日に効力を生じ、千九百八十七年十二月三十一日まで効力を有する。
2 この協定は、いずれか一方の締約国政府がこの協定の有効期間の満了の日の六箇月前までにこの協定を終了させる意思を他方の締約国政府に書面によつて通告しない限り、順次一年間効力を存続する。
以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの協定に署名した。
千九百八十五年五月十二日にモスクワで、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。
日本国政府のために 鹿取泰衛
ソヴィエト社会主義共和国連邦政府のために V・カーメンツェフ