漁業操業に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定
漁業操業に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定
 日本国政府及びソヴィエト社会主義共和国連邦政府は、
 両国の漁船による漁業の操業の安全及び秩序を確保することを希望し、
 両国の漁船の活動及びその漁具の使用に関連する海上における事故を防止する措置をとること並びに事故が発生した場合にはその迅速かつ円滑な処理を促進することが望ましいと考えて、
 次のとおり協定した。
第一条
1 この協定は、日本国沿岸の地先沖合の公海水域について適用する。
2 この協定のいかなる規定も、領海の範囲及び漁業管轄権の問題に関する両政府の立場に何らの影響をも与えるものとみなしてはならない。
第二条
 この協定において、
(a) 「漁船」とは、専ら漁業に従事する船舶、漁業に従事する船舶で漁獲物の保蔵若しくは製造の設備を有するもの又は専ら漁場から漁獲物若しくはその製品を運搬する船舶をいう。
(b) 「国民」には、法人を含む。
(c) 「損害」とは、漁船又は漁具の間の事故に関連して生じた損害をいう。
第三条
1 各政府は、自国の漁船(総トン数一トン未満の無動力船を除く。)が、海上におけるその識別を確実にするため、自国の法令に従つて登録されること及びこの協定の附属書Iの規定を遵守することを確保するため必要な措置をとる。
2
(1) 両政府は、附属書Iの規定に関して既に実施している制度について相互に通報する。
(2) 両政府は、(1)にいう制度について行つた変更についても、できる限り速やかに、相互に通報する。
第四条
 各政府は、自国の漁船が、燈火及び信号の使用について、この協定の附属書IIの規定を遵守することを確保するため必要な措置をとる。
第五条
 各政府は、自国の漁船の網、はえなわその他の漁具で錨により海中に固定されたもの並びに自国の漁船の網及びはえなわで海中に浮遊するものに、その位置及び範囲を示すため、この協定の附属書IIIの規定に従つて標識が付けられることを確保するため必要な措置をとる。
第六条
1 各政府は、自国の漁船が、運航し及び漁業の操業を行うに当たつて、この協定の附属書IVの規定を遵守することを確保するため必要な措置をとる。
2 1の規定を一層確実に実施するため、両政府は、両国の漁船及び漁具の特に密集する水域に関する臨機の情報の交換のための通信が、両政府の権限のある当局の間で、必要に応じ、直ちにかつ効果的に行われるよう必要な措置をとる。
3 両政府は、両国の漁船による漁業の操業の実態に関する情報(漁具、漁法等に関する情報を含む。)を交換し、必要な場合には、その情報に基づいてとるべき適当な措置を決定することについて適宣協議する。
第七条
1 両政府は、損害の賠償の請求(以下「賠償請求」という。)で一方の国の国民が他方の国の国民に対して行うものの解決を容易にするため、東京及びモスクワにそれぞれ一の漁業損害賠償請求処理委員会(以下「委員会」という。)を設置する。
2 各委員会は、日本国政府が任命する二人の委員及びソヴィエト社会主義共和国連邦政府が任命する二人の委員で構成する。各政府は、その任命した委員の氏名を他方の政府に通報する。
3 各政府は、委員を補佐する専門家及び顧問を任命することができる。
4 委員会の決定は、各政府が任命した委員がそれぞれ少なくとも一人出席していることを条件として、出席委員の投票により全員一致の原則に基づいて行われる。
5 委員会は、必要に応じ、所在地以外の場所で会合することができる。
第八条
 委員、専門家及び顧問が委員会の活動に参加するために要する経費は、これらの者を任命する政府が支払う。委員会の共同の経費は、各委員会が勧告しかつ両政府が承認する形式及び割合において両政府が支払う。
第九条
1
(1) 一方の国の国民は、その者が他方の国の国民に対して行う賠償請求について委員会による処理を希望するときは、その者の国にある委員会に対し、その旨の申請を行う。
(2) (1)にいう申請は、賠償請求の原因となつた事故が発生した後一年を経過したときは、行うことができない。ただし、賠償請求の原因となつた事故がこの協定の効力発生の直前の二年の間に発生したものである場合には、この協定の効力発生の後一年以内に(1)にいう申請を行うことができる。
2 前記の申請は、書面によつて行うものとし、賠償請求を行う国民(以下「請求者」という。)の知る限りにおいて、次の事項を含まなければならない。
(a) 賠償請求の原因となつた事故についての記述
(b) 当該事故の関係者、関係団体及び関係船舶の列挙
(c) 請求する賠償の額
(d) 当該事故に関し証人となることができる者の名簿
 その賠償請求の正当性を立証するために必要なその他のすべての資料も、その申請書とともに請求者の国にある委員会に提出することができる。
3 請求者の国にある委員会は、申請書を受理したときは、その申請書及び資料を必要に応じて請求者及び請求者の国の政府の権限のある当局と接触して補正した後、できる限り速やかに、賠償請求をされた国民(以下「被請求者」という。)の国にある委員会に送付する。
4 被請求者の国にある委員会は、請求者の国にある委員会から前記の申請書の送付を受けたときは、被請求者に対し、当該賠償請求について直ちに通報する。被請求者は、当該賠償請求に対する書面による反論及び当該賠償請求を拒否するために提出する必要があると考えるすべての資料を、被請求者の国にある委員会に提出することができる。被請求者の反論には、当該賠償請求の原因となつた事故と同一の事故に基づくものである限り、反対請求を含むことができる。反対請求は、賠償請求と同時に被請求者の国にある委員会により審査される。
5 被請求者の国にある委員会は、必要に応じ、請求者及び被請求者並びに両政府の権限のある当局に対して賠償請求又は反対請求に関連する追加的な情報の提供を要請することができる。
6 被請求者の国にある委員会は、必要があると認めるとき又は請求者若しくは被請求者の要請があつたときは、当該事故に関する事情聴取を行うことができる。請求者及び被請求者又はこれらの者の代理人は、事情聴取に出席し、陳述を行い、及び自己の選択するいかなる者の補佐をも受けることができる。同委員会は、必要と認めるときは、その他の関係者を招請することができる。同委員会は、適当であると認めるときは、請求者の国にある委員会に事情聴取を嘱託することができる。
7 この条及び次条の規定を適用するに当たつては、被請求者の国にある委員会による請求者及び請求者の国の政府の権限のある当局との接触は、6の規定に従つて被請求者の国にある委員会が事情聴取を行う場合を除くほか、請求者の国にある委員会を通じて行う。
第十条
1
(1) 被請求者の国にある委員会は、書面、口頭その他の形式により提出された証拠に基づき、請求者が行つている賠償請求を審査する。同委員会は、この協定の効力発生の後に生じた事故が原因となつた賠償請求を審査するに当たつては、この協定の附属書の規定に妥当な考慮を払う。
(2) 被請求者の国にある委員会は、審査中に、当該賠償請求の審査を継続することが適当でないと認めるときは、審査を停止し、又は打ち切ることができる。
2 被請求者の国にある委員会は、審査の結果に基づき、請求者及び被請求者と接触し、和解の仲介を行う。同委員会は、当事者の一方が賠償を支払うべきであるとの結論に達した場合には、和解の仲介を行うに当たつて、当該当事者に対してその旨の勧告をする。
3 被請求者の国にある委員会は、合理的な期間内に和解が成立しなかつたときは、できる限り速やかに、次の事項についての同委員会の認定を記載した報告書を作成する。
(a) 賠償請求の基礎とされた事実
(b) 損害の程度
(c) 被請求者又は請求者の責任の度合
(d) 被請求者又は請求者が当該事故の結果として生じた損害の賠償として支払うべき額
 同委員会は、前記の事項について一致した結論に達しなかつたときは、その旨をこれらの事項に関する各委員の意見の詳細な記述とともに報告書に記載する。
4 被請求者の国にある委員会は、3にいう報告書を請求者、被請求者及び両政府の権限のある当局に遅滞なく送付する。
5 請求者及び被請求者は、3にいう委員会の報告書を受領した日から三十日以内に、被請求者の国にある委員会に対し、書面により再審査を要請することができる。請求者による再審査の要請は、請求者の国にある委員会を通じて行わなければならない。再審査を要請する書面には、関係資料を添付し、その要請の理由を記載しなければならない。被請求者の国にある委員会は、再審査の要請が到達した日から三十日以内に、再審査を行うことの適当性について決定する。同委員会は、その決定について請求者、被請求者及び両政府の権限のある当局に通報する。同委員会は、再審査を行うことを決定した場合には、その決定を行つた日から三十日以内に新たに同種の報告書を作成するものとし、その報告書を請求者、被請求者及び両政府の権限のある当局に遅滞なく送付する。
6 各政府の権限のある当局は、委員会が再審査を行うことを決定した場合を除くほか、賠償請求が請求者と被請求者との間で、報告書に記載された委員会の認定に従つて解決されるよう努力する。委員会による再審査が行われた場合には、各政府の権限のある当局は、新たな認定に従つて解決がされるよう努力する。
7
(1) 請求者及び被請求者は、委員会が再審査を行うことを決定した場合を除くほか、委員会の認定を記載した報告書を受領した日から九十日以内に、委員会の認定を受諾するか否かにつき、自国の政府の権限のある当局に通報する。委員会が再審査を行うことを決定した場合には、請求者及び被請求者は、新たな報告書を受領した日から三十日以内に同様の通報を行う。
(2) 両政府の権限のある当局は、委員会の認定についての請求者及び被請求者からの通報をできる限り速やかに被請求者の国にある委員会に伝達する。
8 被請求者の国にある委員会は、3にいう事項について一致した結論に達しなかつた場合において、もはや再審査の要請が行われない事態であると認めるとき、又は請求者若しくは被請求者が同委員会の認定を受諾することを拒否した旨の通報を受けた場合には、請求者及び被請求者に対し、当該賠償請求を仲裁の方法により解決するよう勧告する。
9 各委員会は、審査した賠償請求及びその審査結果について両政府に毎年報告する。
第十一条
 この協定のいかなる規定も、請求者又は被請求者の損害賠償に関する権利に対して、及びその権利を主張するための手続に関する両国の法令に対して、何らの影響をも与えるものとみなしてはならない。
第十二条
 各政府は、自国の国民が他方の国の国民に対し損害の賠償金を、交換可能な通貨で、遅滞なく送金することができるようにする。
第十三条
 この協定の附属書は、両政府の合意により、この協定を改正することなく、随時修正し、又は補足することができる。
第十四条
 両政府は、いずれか一方の政府の要請があつたときは、この協定の実施について協義する。
第十五条
1 この協定は、各政府により、それぞれの国の国内法上の手続に従つて承認されなければならない。
2 この協定は、各政府による承認を通知する外交上の公文が交換された日に効力を生じ、三年の期間効力を有する。
3 この協定は、前記の三年の期間の満了の六箇月前までに、一方の政府が他方の政府に対しこの協定を終了させる意思を通告しない限り、前記の期間が満了した後も、一方の政府が他方の政府に対してこの協定を終了させる意思を通告した日から六箇月を経過するまで、効力を存続する。
 以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの協定に署名した。
 千九百七十五年六月七日に東京で、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。
 日本国政府のために
 宮澤喜一
 ソヴィエト社会主義共和国連邦政府のために
 A・イシコフ
附属書I 漁船に関する標識その他の事項
1 いかなる漁船も、登録されている地区を示す文字及び登録番号を、船橋、船首の両側その他の最も見えやすい場所に鮮明に表示しなければならない。
2 いかなる漁船も、その船内に、自国の政府の権限のある当局が発給した文書で船舶の名称、概要、国籍、番号、船籍港名及び所有者名を記載したもの又はこれに準ずる文書を備え置かなければならない。ただし、当該船舶がやむを得ない事由によりこれらの書類を備え置くことができないと自国の政府が認める場合は、この限りでない。
附属書II 漁船の燈火及び信号
A すべての漁船が使用する燈火及び信号
 いかなる漁船も、千九百六十年の海上における衝突の予防のための国際規則に規定する燈火及び信号に関する規則を遵守しなければならない。
B 底びき網漁業又はきんちやく網漁業に従事している漁船が相互に著しく近接して漁業の操業を行う場合に使用する追加的信号
1 底びき網漁業に従事している漁船の信号
(1) 底びき網漁業に従事している漁船は、昼間においては、次に規定する場合に応じ、政府間海事協議機関が採択した国際信号書(以下「国際信号書」という。)に規定する次の信号旗を掲げることができる。
(i) 投網を行つている場合には、Z旗(本船は、投網を行ついてる。)
(ii) 揚網を行つている場合には、G旗(本船は、揚網を行つている。)
(iii) 網が障害物に絡み付いている場合には、P旗(本船の網が障害物に絡み付いている。)
(2)底びき網漁業に従事している漁船は、夜間においては、次に規定する場合に応じ、次の燈火を掲げることができる。
(i) 投網を行つている場合には、垂直線上に二の白燈
(ii) 揚網を行つている場合には、垂直線上の上方に一の白燈、下方に一の紅燈
(iii) 網が障害物に絡み付いている場合には、垂直線上に二の紅燈
(3) かけまわし漁法による底びき網漁業に従事している漁船は、昼間においては、(1)に規定する信号旗のほか、赤色の吹流しを、夜間においては、(2)に規定する燈火のほか、一の黄燈を掲げることができる。この黄燈は、一秒ごとにせん光を発するものでなければならない。
(4) 二そうびきの底びき網漁業に従事している漁船は、昼間においては、(1)に規定する信号旗のほか、国際信号書に規定するT旗(本船を避けよ。本船は、二そうびきの底びき網漁業に従事している。)を掲げることができ、夜間においては、(2)に規定する燈火を掲げるほか、対をなしている他方の漁船の進行方向を示すように探照燈を照射することができる。
2 きんちやく網漁業に従事している漁船の信号
 きんちやく網漁業に従事している漁船は、垂直線上に二の黄燈を掲げることができる。これらの燈火は、一秒ごとに交互にせん光を発するものであつて、かつ、それぞれの明間と暗間とが等しいものでなければならない。これらの燈火は、漁船が漁具により操縦性能を制限されている場合以外の場合には、掲げてはならない。
3 1(2)及び2に規定する燈火は、最も見えやすい場所に、相互に◯・九メートル以上隔てて、千九百六十年の海上における衝突の予防のための国際規則第九条(c)(i)及び(d)に規定する燈火よりも低い位置に掲げなければならない。これらの燈火は、また、少なくとも一海里離れた周囲から視認することができるものであつて、かつ、その視認距離が千九百六十年の海上における衝突の予防のための国際規則に規定する漁ろうに従事している漁船の燈火の視認距離よりも短いものでなければならない。
4 霧、もや、降雪又は視界が制限されるその他の状態において漁ろうに従事している漁船は、その行動の態様を示す国際信号書に規定する次の信号を、千九百六十年の海上における衝突の予防のための国際規則第十五条(c)(i)に規定する信号を行つた後四秒以上六秒以下の間隔をおいて、行わなければならない。
 
(i) 投網を行つている場合には、長音二回、短音二回(「ズールー」の信号)
(ii) 揚網を行つている場合には、長音二回、短音一回(「ゴルフ」の信号)
(iii) 網が障害物に絡み付いている場合には、短音一回、長音二回、短音一回(「パパ」の信号)
附属書III 網、はえなわその他の漁具の標識
1 錨により海中に固定した網、はえなわその他の漁具に付ける標識
(1) 昼間においては、漁具の最西端(西とは、南から西を経て北点までのコンパスの半円をいう。)のブイには上下に二の赤色の旗又は一の赤色の旗及びレーダー反射器を。最東端(東とは、北から東を経て南点までのコンパスの半円をいう。)のブイには一の白色の旗又はレーダー反射器を付けなければならない。
(2) 夜間においては、最西端のブイには一の紅燈を、最東端のブイには一の白燈を付けなければならない。これらの燈火は、視界が良好な場合に少なくとも二海里離れた所から視認することができるものでなければならない。
(3) 漁具の方向を示すため、昼間においては一の旗又はレーダー反射器を付けたブイを、夜間においては一の白燈を付けたブイを、両端のブイから七十メートル以上百メートル以下の距離の所に一個ずつ設置することができる。
(4) 長さが一海里を超える漁具には、一海里以上の長さの無標識の漁具の部分がないように、一海里を超えない間隔で追加のブイを設置しなければならない。昼間においてはそれぞれのブイに一の白色の旗又はレーダー反射器を、夜間においてはできる限り多数のブイにそれぞれ一の白燈を付けなければならない。いかなる場合にも、同一の漁具に付けた燈火の間隔は、二海里を超えてはならない。
2 海中に浮遊する網及びはえなわには、両端に、及び二海里を超えない間隔で、昼間においては一の黄色の旗又はレーダー反射器を付けたブイを、夜間においては視界が良好な場合に少なくとも二海里離れた所から視認することができる一の白燈を付けたブイを設置しなければならない。
3 漁船につながれた漁具については、漁船につながれている端には、ブイを設置することを要しない。
4 各ブイの旗ざおは、ブイの表面から少なくとも二メートルの高さのものでなければならない。
附属書IV 漁船の運航及び漁業の操業に関する規則
A いかなる漁船も、千九百六十年の海上における衝突の予防のための国際規則を遵守するほか、他方の国の漁船又は漁具による漁業の操業を妨害しないように漁業の操業を行わなければならない。
B
1 いかなる漁船も、他方の国の漁船が既に漁業の操業を行つている漁場又は漁業の操業のために漁具を設置してある漁場に到着したときは、海中に設置されている漁具の位置及び範囲を確かめなければならず、また、既に行われている他方の国の漁業の操業の妨害又は障害となるような形で自船を位置し、又は漁具を設置してはならない。
  漁業の操業を行つていないいかなる漁船も、他方の国の漁船が既に漁業の操業を行つている漁場においては、当該漁業の操業の妨害となり得る場所に投錨し、又は停留してはならない。ただし、事故又はやむを得ない事由による場合は、この限りでない。
3 いかなる漁船も、魚類を採捕するために爆発物を使用してはならない。
4 いかなる漁船も、漁業の操業中又は漁場における錨泊若しくは停留中は、操舵場所に、周囲の状況を常時かつ実効的に監視し及びその時の状況により必要とされる行動をとり得る適当な見張りを置かなければならない。
5 底びき網漁業に従事している漁船及び移動漁具を使用しているその他の漁船は、漁具の損傷を防止するため、他方の国の漁船の漁具又はシーアンカーを引つ掛けないようにするためのすべての可能な措置をとらなければならない。
6 底びき網漁業に従事している漁船及び移動漁具を使用しているその他の漁船は、漁具の損傷を防止するため、次の規定を遵守しなければならない。
(1) 底びき網、きんちやく網又はデンマーク式網の投網の場所と方向を選定するに当たつては、漁具をえい行し又は投網若しくは揚網を行つている他方の国の漁船の漁業の操業を妨げることは、禁止される。
(2) 漁具をえい行する他方の国の漁船の船首の直前において、底びき網を投網し若しくは揚網し、又はきんちやく網若しくはデンマーク式網を投網することは、禁止される。
(3) 底びき網漁業に従事している漁船と底びき網漁業に従事している他方の国の漁船との間の距離は、次のとおりとする。
(a) 真向かい又はほとんど真向かいに他方の国の漁船と行き会う漁船は、すれ違いの時点で両船の間の距離を四百メートル以上(いずれか一方の国の漁船がかけまわし漁法による底びき網漁業に従事している場合には、千百メートル以上)に保つようにしなければならない。
(b) 互いに進路を横切る方向に進行する場合においては、進路を譲る漁船は、進路を譲られる他方の国の漁船の船尾の後方における距離を千百メートル以上(進路を譲られる漁船がかけまわし漁法による底びき網漁業に従事している場合には、当該漁船の船尾の後方又は船首の前方における距離を千五百メートル以上)に保つようにしなければならない。
(c) 同一方向に進行する場合においては、他方の国の漁船を追い越す漁船は、追越しの時点で両船の間の距離を四百メートル以上(いずれか一方の国の漁船がかけまわし漁法による底びき網漁業に従事している場合には、千百メートル以上)に保つようにしなければならない。
(4) 底びき網漁業に従事している漁船は、きんちやく網漁業に従事している他方の国の漁船との間の距離を千二百メートル以上に保つようにしなければならない。
(5) きんちやく網漁業又はデンマーク式網漁業に従事している漁船は、投網後において、きんちやく網漁業又はデンマーク式網漁業に従事している他方の国の漁船との間の距離(漁船相互間及び網相互間の距離)を九百メートル以上に保つようにしなければならない。
7 漁具の錨による海中への設置及び浮遊漁具の投入は、他方の国の漁船又はその投入漁具との間の距離を九百メートル以上に保つて行わなければならない。
8 6の(3)から(5)まで及び7に規定する場合を除くほか、漁業の操業を行つている漁船は、漁業の操業を行つている他方の国の漁船又はその漁具で錨により海中に固定されたもの若しくは海中に浮遊するものとの間の距離を五百メートル以上に保つようにしなければならない。
9
(1) 一方の国の漁船の網漁具が他方の国の漁船の網漁具と絡み合つた場合には、これらの網漁具に損傷を与えることなくこれらを解くため、すべての可能な措置をとらなければならない。これらの網漁具は、他のいかなる方法によつても解くことができない場合を除くほか、当事者の同意がなければ切断してはならない。
(2) 一方の国の漁船のはえなわが他方の国の漁船のはえなわと絡み合つた場合には、漁船は、はえなわを揚げるに当たつては、他のいかなる方法によつても解くことができない場合を除くほか、他方の国の漁船のはえなわを切断してはならない。はえなわを切断した場合には、切断したはえなわは、できる限り速やかに、かつ、できる限り原状の通りにつなぎ合わせなければならない。
(3) 救助の場合並びに(1)及び(2)に規定する場合を除くほか、他方の国の漁船の網漁具、はえなわその他の漁具は、切断し、かぎで引つ掛け又は揚げてはならない。
(4) 漁具が絡み合つたすべての場合には、その絡み合いをもたらした漁船は、他方の国の漁船の漁具に生ずる損傷を最小にするために必要なすべての措置をとらなければならない。同時に、漁具を絡まれた漁船は、双方の漁船の漁具の損傷を大きくするような行動をとつてはならない。
10
(1) いかなる漁船も、他方の国の漁船又はその漁具に損傷を与えた場合には、直ちに停船しなければならない。
(2) 一方の国の漁船が他方の国の漁船又はその漁具に損傷を与えた場合において、損傷を与えた漁船が停船しないときは、損傷を受けた漁船は、政府間海事協議機関が採択した国際信号書に規定する次の信号を用いてその漁船の停船を求めることができる。
(i) L旗を掲げる。
(ii) サイレン、汽笛その他の音響信号器によりLの信号(短音一回、長音一回、短音二回)を連続して行う。
(iii) 投光器によりLの信号(短光一回、長光一回、短光二回)を連続して行う。
(3) いかなる漁船も、他方の国の漁船との間に事故が生じた場合には、この漁船と共同して事故内容を確認しなければならず、また、これに関してできる限り速やかに自国の政府の権限のある当局に通報しなければならない。
11 いかなる漁船も、他方の国の漁業の操業の妨害若しくは障害となることがあり又は魚類、漁具若しくは漁船に対して損傷を与えることがあるいかなる物も、正当な理由がある場合を除くほか、海中に投棄してはならない。