北西太平洋のかに漁業に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の交換公文
北西太平洋のかに漁業に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の交換公文
 (北西太平洋のかに漁業に関する交換公文)
(日本側書簡)
 書簡をもつて啓上いたします。本使は、千九百七十五年二月二十八日から四月二十一日までモスクワで行われた日本国政府及びソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間の日本海、オホーツク海及びベーリング海を含む北西太平洋(以下「北西太平洋」という。)の北洋いばらがに、ずわいがに、あぶらがに、たらばがに、けがに及び花咲がに(以下「かに」という。)漁業に関する協議に言及するとともに、この協議の結果到達した次の了解を日本国政府に代わつて確認する光栄を有します。
1 日本国政府は、かにが公海漁業資源であり、したがつて、日本の国民及び船舶は、北西太平洋でかに漁業を行う権利を有するとの見解を有している。
2 ソヴィエト社会主義共和国連邦政府は、かにが沿岸国(この場合においては、ソヴィエト社会主義共和国連邦を意味する。)が天然資源の探索及び開発のための主権的権利を行使する大陸棚の天然資源であるとの見解を有している。
3 しかしながら、両政府は、北西太平洋のたに資源について、日本の国民及び船舶が長期間にわたりその開発に従事してきたことにかんがみ、前記の両政府のそれぞれの立場を害することなく、次のとおり合意した。
(1) 日本の国民及び船舶によるカムチャツカ半島西方水域における北洋いばらがに漁業、ナヴァリン岬沖合水域及びオリュートル湾水域におけるずわいがに漁業、樺太東方水域におけるあぶらがに及びずわいがに漁業、二丈岩周辺水域におけるけがに漁業並びに国後島、択捉島、色丹島及び歯舞群島周辺水域におけるたらばがに、けがに及び花咲がに漁業は、引き続き行われる。
 ただし、日本国政府は、千九百七十五年においては、前記のかに漁業について、次の措置をとる。
(a) カムチャツカ半島西方水域における北洋いばらがに漁業
 母船の隻数は、二隻を超えず、かつ、独航船の隻数は、合計十隻を超えない。このうち母船に附属しない独航船の隻数は、四隻を超えない。北洋いばらがにの商業的漁獲量は、九十万尾を超えない。
 漁撈の始期は、四月二十一日とし、漁撈の終期は、八月二十五日とする。
(b) ナヴァリン岬沖合水域におけるずわいがに漁業
 漁船(加工及び漁撈を行う母船並びに加工のみを行う母船を含む。)の隻数は、三十二隻を超えず、かつ、ずわいがにの商業的漁獲量は、五百万尾を超えない。
 漁撈の始期は、四月二十一日とし、漁撈の終期は、十月三十一日とする。
(c) オリュートル湾水域におけるずわいがに漁業
 同時に操業する漁船の隻数は、十二隻を超えず、かつ、ずわいがにの商業的漁獲量は、九十七万尾を超えない。
  漁撈の始期は、四月二十一日とし、漁撈の終期は、十月三十一日とする。
(d) 樺太東方水域におけるあぶらがに漁業
 漁船の隻数は、三隻を超えず、かつ、あぶらがにの商業的漁獲量は、二十一万尾を超えない。その漁獲量には、それぞれ、十パーセントの範囲内のたらばがに及びずわいがにの混獲があり得る。ある地点におけるたらばがにの混獲が、十パーセントを超える場合には、当該漁船は、当該地点から移動する。
 漁撈の始期は、五月一日とし、漁撈の終期は、十一月三十日とする。
(e) 樺太東方水域におけるずわいがに漁業
 漁船の隻数は、三十五隻を超えず、かつ、ずわいがにの商業的漁獲量は、千三十万尾を超えない。
  漁撈の始期は、四月二十一日とし、漁撈の終期は、十月十六日とする。
(f) 二丈岩周辺水域におけるけがに漁業
 漁船の隻数は、十四隻を超えず、かつ、けがにの商業的漁獲量は、百六十四万尾を超えない。
 漁撈の始期は、四月二十一日とし、漁撈の終期は、八月三十一日とする。
(g) 国後島、択捉島、色丹島及び歯舞群島周辺水域におけるたらばがに、けがに及び花咲がに漁業
 漁船の隻数は、三十七隻を超えず、かつ、商業的漁獲量は、たらばがに六十万尾、けがに百三十万尾及び花咲がに九十一万尾をそれぞれ超えない。
 漁撈の始期は、四月二十一日とし、漁撈の終期は、十一月三十日とする。
(h) 前記(b)、(c)、(d)、(e)、(f)及び(g)に掲げる商業的漁獲量((b)に掲げるずわいがに漁業については、母船が漁獲したもの及び母船に引き渡されたものを除く。)については、それぞれ十パーセントの範囲内の増減があり得る。
(i) 前記(c)に掲げる水域におけるずわいがに漁業の許可証は、前記(b)に掲げる水域におけるずわいがに漁業の許可証の発給を受けた漁船(加工及び漁撈を行う母船並びに加工のみを行う母船を除く。)に対して発給される。
(j) 前記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)及び(g)に掲げる水域において操業する漁船は、日本国政府の権限のある当局の発給する許可証を所持する。日本国政府の権限のある当局は、前記の許可証が発給された船舶の名簿を、五月十日までに、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の関係当局に手交する。
(2) 両政府は、北西太平洋においてかにの漁獲を行う自国の国民及び船舶に対し、この書簡の附属書に掲げる措置を適用する。
(3) 両政府は、北西太平洋におけるかに漁業についての漁獲統計資料及び生物学的統計資料を、千九百七十六年一月十日までに交換する。
(4) 両政府は、(1)のただし書及び(2)の規定に基づく措置を誠実に実施するため、それぞれ適当かつ有効な措置をとるものとする。
(5) この取極は、一年間その効力を存続する。両政府の代表者は、この取極の実施状況を検討し、かつ、将来の取極について決定するため、千九百七十六年三月十五日までに会合する。
 本使は、更に、この書簡及び前記の了解を貴国政府に代わつて確認される閣下の返簡が両政府間の合意を構成するものとみなすことを提案する光栄を有します。
 本使は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
 千九百七十五年五月十五日にモスクワで
日本国特命全権大使 重光 晶
 ソヴィエト社会主義共和国連邦漁業大臣
ア・ア・イシコフ閣下
附属書
1 めすのかに、最大の胸甲の幅が十三センチメートル未満である北洋いばらがに、あぶらがに及びたらばがに、最大の胸甲の幅が十センチメートル未満又は最大の胸甲の長さが九センチメートル未満であるずわいがに、最大の胸甲の長さが八センチメートル未満であるけがに、最大の胸甲の幅が十センチメートル未満である花咲がに並びに脱皮直後のかにを保持し、又は使用してはならない。前記のかには、混獲されたときは、できる限り損傷しないように、速やかに海中に戻さなければならない。
 かご以外の漁具を使用してかにを採捕してはならない。
2 海中に沈設されるかごの各配の両端には、漁船名及び許可番号を記載した標識を付さなければならない。
(ソ連側書簡)
 書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、次のとおりの千九百七十五年五月十五日付けの閣下の書簡に言及する光栄を有します。
(日本側書簡)
 本大臣は、両政府の代表者の間で到達した前記の了解がソヴィエト社会主義共和国連邦政府にとつて受諾することができるものであること並びに閣下の書簡及びこの返簡を両政府間の合意とみなすことを閣下に通報する光栄を有します。
 本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
 千九百七十五年五月十五日にモスクワで
 ソヴィエト社会主義共和国連邦漁業大臣
ア・ア・イシコフ
 ソヴィエト社会主義共和国連邦駐在
日本国特命全権大使 重光 晶閣下
 日本国政府及びソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間の千九百七十五年五月十五日付けの北西太平洋における千九百七十五年のかに漁業に関する交換公文による取極に関する合意された議事録
1日本国政府の代表者は、日本国政府及びソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間の本日付けの北西太平洋におけるかに漁業に関する交換公文3(1)のただし書に関連して、日本の国民及び船舶によるかに漁業は、千九百七十五年においては、次に掲げる水域に関しては、それぞれ次の境界内において行われることを明確にした。
(1) カムチャツカ半島西方水域
 北緯五十四度の線以南、東経百五十三度の線以西、北緯五十三度三十分の線以北、東経百四十七度の線以東の水域を除く北緯五十六度二十分の線以南、東経百五十四度の線以西、北緯五十三度三十分の線以北、東経百四十七度線以東
 ただし、七月一日から八月二十五日までの間におけるかにの商業的漁獲は、次の区域においては行われない。
 北緯五十六度二十分の線以南、東経百五十四度の線以西、北緯五十三度三十分の線以北、東経百五十三度三十分の線以東
(2) ナヴァリン岬沖合水域
 ナヴァリン岬突端から北緯六十一度三十分・東経百七十八度の点に至る線以北の水域を除く東経百七十八度の線以東、同岬突端を通過する緯線以南
(3) オリュートル湾水域
 東経百六十七度二十分の線以東、オリュートル岬突端を通過する子午線以西、北緯五十八度十分の線以北
(4) 樺太東方水域
(a) あぶらがに漁業
 北緯五十度の線以南、東経百四十五度十分の線以西、北緯四十八度五十七分の線以北
 ただし、多来加湾水域を除く。
(b) ずわいがに漁業
 北緯五十三度三十分の線以南、東経百四十六度十分の線以西、北緯四十五度四十分の線以北、東経百四十三度二十五分の線以東
 ただし、北緯五十度の線以南、東経百四十五度十分の線以西、北緯四十八度五十七分の線以北の水域、北緯四十八度五十七分の線以南、東経百四十五度二十分の線以西、北緯四十八度の線以北、東経百四十四度の線以東の水域及び北知床岬突端と北緯四十七度二十四分・東経百四十二度五十一分の点を結ぶ線以北の多来加湾水域を除く。
2 日本国政府の代表者は、前記の交換公文3(1)のただし書に関連して、ナヴァリン岬沖合水域及び樺太東方水域におけるずわいがに漁業に関し、日本国政府は、千九百七十五年において、次の措置をとることを明確にした。
(1) ナヴァリン岬沖合水域におけるずわいがに漁業
 北緯六十一度十分の線以北の区域における商業的漁獲量は、三十二万尾を超えない。
(2) 樺太東方水域におけるずわいがに漁業
 北緯四十九度三十分の線以南、北緯四十八度三十分の線以北の区域における商業的漁獲量は、六十万尾を超えない。
(3) 前記(1)及び(2)に掲げる商業的漁獲量((1)に掲げるずわいがに漁業については、母船が漁獲したもの及び母船に引き渡されたものを除く。)については、それぞれ十パーセントの範囲内の増減があり得る。
 千九百七十五年五月十五日にモスクワで、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。
 日本国政府のために
重光 晶
 ソヴィエト社会主義共和国連邦政府のために
ア・ア・イシコフ
 (日本国政府及びソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間の千九百七十五年五月十五日付けの北西太平洋における千九百七十五年のかに漁業に関する交換公文による取極に関する取極の規定の実施の視察に関する書簡)
 本官は、日本国政府及びソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間の千九百七十五年五月十五日付けの北西太平洋におけるかに漁業に関する交換公文3(4)に関連し、日本国政府は、前記取極の水域においてかに漁業に従事する日本国の船舶にソヴィエト社会主義共和国連邦政府の公務員が取極の規定の実施を視察する目的で乗船することを保証するためのしかるべき効果的な措置をとることを申し述べる。
 更に、また、前記の公務員が日本国の船舶による取極の違反について日本国の当局に通報した場合は、日本国の当局はしかるべき必要な措置をとることを申し述べる。
 千九百七十五年五月十五日にモスクワで
日本国政府のために
かに漁業に関する
政府間交渉日本側首席代表 松浦 昭
 かに漁業に関する
政府間交渉ソ連邦首席代表 ヴェ・ラフィツキー殿