日本国と中華人民共和国との間の航空運送協定
日本国と中華人民共和国との間の航空運送協定
日本国政府及び中華人民共和国政府は、
千九百七十二年九月二十九日に北京で発出された両国政府の共同声明に基づき、
両国民の間の友好的な交流を促進し及び航空運送の分野における両国間の関係を発展させるため、
平等互恵の原則に従い、
両国の領域の間の及びそれらの領域を越えての定期航空業務を開設しかつ運営するために協定を締結することを希望して、
次のとおり協定した。
第一条 1この協定の適用上、文脈により別に解釈される場合を除くほか、
(i) 「航空当局」とは、日本国にあつては運輸大臣又は同大臣が現在遂行している民間航空に関する任務若しくはこれに類する任務を遂行する権限を与えられる人若しくは機関をいい、中華人民共和国にあつては中国民用航空総局又は同総局が現在遂行している民間航空に関する任務若しくはこれに類する任務を遂行する権限を与えられる人若しくは機関をいう。
(ii) 「指定航空企業」とは、第三条の規定に従い、通告書により指定され、かつ、許可を与えられた航空企業をいう。
(iii) 「航空業務」とは、旅客、手荷物、貨物又は郵便物の公衆用の運送のために航空機で行う定期航空業務をいう。
(iv) 「国際航空業務」とは、二以上の国の領域上の空間にわたつて行う航空業務をいう。
(v) 「航空企業」とは、国際航空業務を提供し又は運営する航空運送企業をいう。
(vi) 「運輸以外の目的での着陸」とは、旅客、手荷物、貨物又は郵便物の積込み又は積卸し以外の目的で着陸することをいう。
(vii) 「附属書」とは、この協定の附属書又は第十七条の規定による改正後の附属書をいう。
2 附属書は、この協定の不可分の一部をなすものとし、「協定」というときは、別段の定めがある場合を除くほか、附属書を含む。
第二条 1 一方の締約国は、他方の締約国の指定航空企業が附属書に定める路線(以下「特定路線」という。)における国際航空業務(以下「協定業務」という。)を開設しかつ運営することができるようにするため、当該他方の締約国に対しこの協定に定める権利を許与する。
2 一方の締約国の指定航空企業は、この協定の規定に従うことを条件として、特定路線における協定業務を運営する間、次の権利を享有する。
(i) 他方の締約国の航空当局の同意を得ることを条件として、当該他方の締約国の領域を無着陸で横断飛行する権利
(ii) 他方の締約国の航空当局の同意を得ることを条件として、附属書に定める当該他方の締約国の領域内の地点に運輸以外の目的での着陸をする権利
(iii) 国際運輸の対象である旅客、手荷物、貨物及び郵便物の積卸し及び積込みのため、附属書に定める当該特定路線上の他方の締約国の領域内の地点に着陸する権利
3 2の規定は、一方の締約国の指定航空企業に対し、他方の締約国の領域内の別の地点に向けて運送される旅客、手荷物、貨物又は郵便物をその領域内の地点において積み込む権利を与えるものとみなしてはならない。ただし、当該指定航空企業の職員、その家族及びこれらの者の手荷物並びに当該指定航空企業により協定業務に使用される予備部品及び航空機貯蔵品を運送する場合は、この限りでない。
第三条 1 一方の締約国は、協定業務の運営のため、他方の締約国に対し一又は二の航空企業を文書による通告によつて指定する権利を有する。
2 当該他方の締約国は、1の通告書を受領したときは、3及び4の規定が適用される場合を除くほか、当該一方の締約国が指定した航空企業に対し適当な運営許可を遅滞なく与える。
3 当該他方の締約国の航空当局は、当該一方の締約国が指定した航空企業が当該航空当局により法令に基づいて定められる要件であつて国際航空業務の運営について通常かつ合理的に適用されるものを満たすものである旨を立証することを、その航空企業に要求することができる。
4 当該他方の締約国は、当該一方の締約国が指定した航空企業の実質的な所有及び実効的な支配が当該一方の締約国又はその国民に属していることが立証されない場合には、その航空企業に対し2の運営許可を与えず又は取り消す権利を有する。
5 1及び2の規定に従つて指定されかつ許可を与えられた航空企業は、第十条の規定に従つて定められる運賃が協定業務に関して実施されていることを条件として、協定業務の運営を開始することができる。
第四条 1 一方の締約国は、次のいずれの場合においても、他方の締約国の指定航空企業による第二条2に定める権利の行使を停止し又はそれらの権利の行使につき必要と認める条件を課する権利を有する。
(i) 当該指定航空企業がそれらの権利を与える当該一方の締約国の法令を遵守しなかつた場合
(ii) 当該指定航空企業がこの協定で定める条件に従つて運営しなかつた場合
2 1の権利は、直ちに第二条2に定める権利の行使を停止し又は直ちにその行使につき必要な条件を課することが当該法令に重ねて違反することを防止するため又は航行の安全上の理由により必要である場合を除くほか、当該他方の締約国と協議した後でなければ行使することができない。
第五条 1 時間表、業務代理、地上取扱業務及び決済手続のような協定業務の運営に関連する技術的及び商業的な事項については、両締約国の指定航空企業の間の商業上の取決めによつて定める。その商業上の取決めは、必要な場合には、それぞれの締約国の航空当局の承認を得なければならない。
2 一方の締約国は、自国の領域につき、協定業務の運営のために他方の締約国の指定航空企業が使用する空港及び代替空港を指定し、並びに飛行の安全及び協定業務の能率的な運営のために必要な通信、航行援助、航空交通管制、気象情報等の役務を提供する。これらの役務に関する細目については、両締約国の権限のある当局の間の協議によつて取り決める。
第六条 一方の締約国がその管理の下にある空港その他の施設の使用につき他方の締約国の指定航空企業に対して課し又は課することを認める料金は、公正かつ合理的な料率のものでなければならず、また、その料率は、当該空港その他の施設の使用についていかなる第三国の航空企業に対して適用されるものよりも高率のものであつてはならない。
第七条 1 一方の締約国の法令であつて、国際航空業務に従事する航空機の当該一方の締約国の領域への入国若しくはその領域からの出国又はその領域内にある間の運航に関するものは、当該一方の締約国の領域への入国若しくはその領域からの出国に当たり又はその領域内にある間、他方の締約国の指定航空企業の航空機について適用されるものとする。
2 一方の締約国の法令であつて、旅客、乗組員、手荷物、貨物及び郵便物の当該一方の締約国の領域への入国、その領域からの出国又はその領域内における滞在若しくは所在に関するもの、例えば、入国、出国、移住、旅券、税関、通貨及び検疫に関する法令は、その領域への入国若しくはその領域からの出国に当たり又はその領域内にある間、他方の締約国の指定航空企業の航空機で運送される旅客、乗組員、手荷物、貨物及び郵便物により又はそれらのために遵守されなければならない。
3 一方の締約国の指定航空企業の航空機の乗組員は、協定業務の運営の必要に応じ、他方の締約国の領域内に一時的に滞在することができる。ただし、これらの乗組員は、当該他方の締約国の法令により査証が必要とされる場合には、あらかじめ査証を取得しなければならない。
4 一方の締約国は、この条に規定する関係法令の写しを他方の締約国に提供する。
第八条 1 一方の締約国の指定航空企業の航空機であつて協定業務に従事するもの並びに当該航空機に積載されている燃料、潤滑油その他の油、予備部品、正規の装備品及び航空機貯蔵品は、他方の締約国の領域の上空の飛行中に消費され又は使用される場合にも、当該他方の締約国により関税その他の租税及び検査手数料を免除される。これらの物品は、当該他方の締約国の領域内において当該航空機から取り卸された場合には、当該他方の締約国の税関当局の監視の下に置かれるものとする。
2 一方の締約国の指定航空企業の航空機に他方の締約国の領域内において積み込まれ、かつ、協定業務に使用される燃料、潤滑油その他の油、予備部品、正規の装備品及び航空機貯蔵品は、当該他方の締約国の規制に従うことを条件として、関税その他の租税及び検査手数料を免除される。
3 一方の締約国の指定航空企業のため、協定業務に従事する当該指定航空企業の航空機の用に供することを目的として他方の締約国の領域内に持ち込まれ、かつ、当該他方の締約国の税関当局の監視の下に保管される燃料、潤滑油その他の油、予備部品、正規の装備品及び航空機貯蔵品は、当該他方の締約国の規制に従うことを条件として、関税その他の租税及び検査手数料を免除される。
第九条 1 両締約国の指定航空企業は、両締約国の領域の間の特定路線において協定業務を運営する公平かつ均等な機会を有する。
2 一方の締約国の指定航空企業による協定業務の運営に当たつては、他方の締約国の指定航空企業が同一路線の全部又は一部において提供する業務に不当な影響を及ぼさないように、当該他方の締約国の指定航空企業の利益が考慮されるものとする。
3 両締約国の指定航空企業が提供する協定業務は、協定業務に対する公衆の要求と密接な関連を有しなければならない。
4 いずれの締約国の指定航空企業が提供する協定業務も、その航空企業を指定した締約国の領域から発し又はその領域へ向かう旅客、手荷物、貨物及び郵便物の運送に対する当該時期における需要及び合理的に予測される需要に適合する輸送力を合理的な利用率において供給することを第一の目的とする。その航空企業を指定した締約国以外の国の領域内の特定路線上の地点において積み込みかつ積み卸す旅客、手荷物、貨物及び郵便物の運送は、輸送力は次の事項に関連すべきであるという一般原則に従つて行う。
(i) その航空企業を指定した締約国の領域への及びその領域からの運輸需要
(ii) 直通航空路運営の要求
(iii) その航空企業の路線が経由する地域の地方的及び地域的業務を考慮した上でのその地域の運輸需要
5 両締約国の指定航空企業が提供する協定業務に係る運航回数及び航空機の型式は、平等互恵の原則に従い、両締約国の航空当局の間の協議を通じて決定する。
第十条 1 各締約国の指定航空企業が運営する協定業務についての運賃は、運営の経費、合理的な利潤、業務の特性(例えば、速力及び設備の程度)、同一の路線の全部又は一部についての他の航空企業の運賃その他すべての関係要素を十分に考慮して、合理的な水準に定める。
2 1の運賃は、次の規定に従つて定める。
(i) 運賃は、両締約国の関係指定航空企業の間の協議を通じて合意する。合意された運賃は、その実施に先立ち、両締約国の航空当局の認可を受けるため提出される。
(ii) 両締約国の関係指定航空企業が運賃について(i)の合意をすることができなかつた場合又はいずれか一方の締約国の航空当局が(i)の規定に従つて提出された運賃を認可しなかつた場合には、両締約国の航空当局は、適当な運賃について合意に達するように努める。
(iii) 両締約国の航空当局が(ii)の規定により運賃について合意することができなかつた場合には、紛争は、第十六条2の規定に従つて解決する。
(iv) 運賃は、いずれか一方の締約国の航空当局が認可しない場合には、実施されない。この条の規定に従い運賃が定められるまでの間は、既に実施されている運賃が引き続き適用される。
第十一条 一方の締約国は、他方の締約国の指定航空企業に対し、当該指定航空企業が協定業務に関連して当該一方の締約国の領域内で得た収入のうち支出を超える部分を、両締約国が受け入れることができる為替相場により、日本円、人民幣又は両国において認められている交換可能な通貨で、当該指定航空企業の本店に送金する権利を与える。
第十二条 一方の締約国の航空当局は、他方の締約国の航空当局の要請があつた場合には、協定業務において供給される輸送力の検討に供するため、当該一方の締約国の指定航空企業が当該他方の締約国の領域への及びその領域からの協定業務において運送する貨客に関する情報及び統計を当該他方の締約国の航空当局に提供する。
第十三条 1 各締約国の指定航空企業の航空機であつて協定業務に従事するものは、当該締約国の国籍記号及び登録記号を掲げ、かつ、次の書類を携行しなければならない。
(i) 登録証明書
(ii) 耐空証明書
(iii) 各乗組員の適当な免状及び証明書
(iv) 航空日誌
(v) 航空機局免許状
(vi) 旅客を運送するときは、その氏名、乗込地及び目的地の表
(vii) 貨物を運送するときは、積荷目録及び貨物の細目申告書
2 一方の締約国によつて発給され又は有効と認められた1に掲げる証明書、免状及び免許状で効力を有しているものは、他方の締約国によつてもその領域内において有効なものと認められる。ただし、それらが発給され又は有効と認められた際の基準が、国際航空運送において一般に受け入れられているものよりも低いものでないことを条件とする。
3 各締約国は、自国の領域の上空の飛行に関しては、自国民が他方の締約国又は第三国から与えられた1(iii)に掲げる免状及び証明書を有効なものと認めることを拒否する権利を留保する。
4 一方の締約国の指定航空企業の航空機であつて協定業務において他方の締約国の領域の上空を飛行するものの乗組員は、当該一方の締約国の国民でなければならない。ただし、各締約国の指定航空企業は、外交経路を通じて他方の締約国の同意を得ることを条件として、他の国籍の乗組員を協定業務の運営のため使用することができる。
第十四条 1 一方の締約国は、自国の領域内において他方の締約国の指定航空企業の航空機が遭難し又は事故を起こした場合には、可能な限りの救援措置を直ちにとるとともに、当該他方の締約国の航空当局及び当該指定航空企業に対しその遭難又は事故の状況及び救援措置の状況を速やかに通報するものとし、また、当該一方の締約国の権限のある当局の監督の下で、かつ、その国内法令に従い、当該他方の締約国の航空当局及び当該指定航空企業が状況により必要とされる救援措置をとることを許可する。
2 一方の締約国は、自国の領域内において他方の締約国の指定航空企業の航空機が起こした事故により、死者若しくは重傷者が生じ又は当該航空機に重大な損害が生じた場合には、次の措置をとる。
(i) 証拠を保全し、かつ、当該航空機及びその積載物の安全を確保すること。
(ii) 事故の状況を調査すること。
(iii) 当該他方の締約国の航空当局の代表者及び当該指定航空企業の代表者が直ちに当該航空機に近づくこと及び調査にオブザーバーとして立ち会うことを認めること並びにこれらの代表者にすべての便宣を与えること。
(iv) 当該航空機及びその積載物が調査に必要でなくなつたときは、それらを直ちに解放すること。
(v) 当該他方の締約国の航空当局に調査の報告書を送付すること。
第十五条 1 一方の締約国の指定航空企業は、協定業務の運営のため、特定路線について附属書に定める他方の締約国の領域内の地点に代表事務所を設置する権利を有する。代表事務所の要員は、いずれか一方の締約国の国民でなければならず、現地で雇用される者以外の要員の人数は、両締約国の権限のある当局の間の協議を通じて合意する。代表事務所の要員は、駐在国の法令を遵守しなければならない。
2 一方の締約国は、国内法令に従い、他方の締約国の指定航空企業の代表事務所に対し援助及び便宣を供与するものとし、また、当該一方の締約国の領域内において、協定業務の運営に使用される当該指定航空企業の航空機、予備部品、正規の装備品その他の財産につき、自国の指定航空企業についてとると同様に、その安全を確保するための措置をとる。
第十六条 1 両締約国の航空当局は、この協定の実施を確保するため、緊密な協力の精神にのつとり、必要に応じ随時協議する。
2 この協定の解釈又は適用に関して両締約国の間に紛争が生じた場合には、両締約国は、友好的な協力と相互理解の精神にのつとり、両国間の交渉によつてその紛争を解決する。
第十七条 いずれの一方の締約国も、この協定を改正するため、いつでも他方の締約国との協議を要請することができる。その協議は、要請の受領の日から六十日の期間内に開始する。改正が附属書についてのみ行われる場合には、協議は、両締約国の航空当局の間で行う。附属書の改正について両締約国の航空当局の間で合意が成立したときは、その改正は、両締約国間の外交上の公文の交換によつて確認された後に効力を生ずる。
第十八条 いずれの一方の締約国も、他方の締約国に対し、この協定を終了させる意思をいつでも通告することができる。その通告があつたときは、この協定は、当該他方の締約国がその通告を受領した日の後一年で終了する。ただし、その通告が両締約国の間の合意によりその一年の期間の満了前に取り消された場合は、この限りでない。
第十九条 この協定は、両締約国が、この協定の効力発生に必要なそれぞれの国内法上の手続を完了した旨を確認する外交上の公文を交換した日に効力を生ずる。
以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けて、この協定に署名した。
千九百七十四年四月二十日に北京で、ひとしく正文である日本語及び中国語により本書二通を作成した。
日本国政府のために 小川平四郎
中華人民共和国政府のために 姫鵬飛
附属書 1 日本国政府が指定する航空企業が両方向に運営する協定業務の路線
東京-日本国内の他の一地点-上海及び(又は)北京-ニュー・デリー、ボンベイ又はカラチのうちの一地点-テヘランーベイルート、カイロ又はイスタンブルのうちの一地点-アテネ又はヨーロッパ内の他の一地点のうちの一地点-ローマ又はヨーロッパ内の他の一地点のうちの一地点-パリ-ロンドン
2 中華人民共和国政府が指定する航空企業が両方向に運営する協定業務の路線
北京-中華人民共和国内の他の一地点-大阪及び(又は)東京-運輸以外の目的での着陸のための一地点-ヴァンクーヴァー-オタワ又はカナダ内の他の一地点のうちの一地点-北米(カナダを除く。)内の一地点-中南米(メキシコを含む。)内の四地点
3 いずれの一方の締約国の指定航空企業が提供する協定業務も、当該一方の締約国の領域内の一地点を起点としなければならない。当該指定航空企業は、いずれかの又はすべての飛行に当たり、その選択によつて特定路線上の以遠の地点を省略することができるが、他方の締約国の領域内においては、少なくとも特定路線上の一地点に着陸を行わなければならない。