北西太平洋のかに漁業に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の交換公文
北西太平洋のかに漁業に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の交換公文
 北西太平洋のかに漁業に関する交換公文
(日本側書簡)
 書簡をもつて啓上いたします。本使は、千九百七十二年三月一日から四月十八日までモスクワで行なわれた日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間の日本海、オホーツク海及びベーリング海を含む北西太平洋(以下「北西太平洋」という。)のたらばがに、あぶらがに、北洋いばらがに、ずわいがに、けがに及び花咲がに(以下「かに」という。)漁業に関する協議に言及するとともに、この協議の結果到達した次の了解を日本国政府に代わつて確認する光栄を有します。
1 日本国政府は、かにが公海漁業資源であり、したがつて、日本の国民及び船舶は、北西太平洋でかに漁業を行なう権利を有するとの見解を有している。
2 ソヴィエト社会主義共和国連邦政府は、かにが沿岸国(この場合においては、ソヴィエト社会主義共和国連邦を意味する。)が天然資源の探索及び開発のための主権的権利を行使する大陸だなの天然資源であるとの見解を有している。
3 しかしながら、両政府は、北西太平洋のかに資源について、日本の国民及び船舶が長期間にわたりその開発に従事してきたことにかんがみ、前記の両政府のそれぞれの立場を害することなく、次のとおり合意した。
(1)日本の国民及び船舶によるカムチャツカ半島西方水域におけるたらばがに及び北洋いばらがに漁業、ベーリング海西部水域におけるずわいがに漁業、樺太東方水域におけるあぶらがに及びずわいがに漁業、二丈岩周辺水域におけるけがに漁業並びに国後島、択捉島、色丹島及び歯舞群島周辺水域におけるたらばがに、けがに及び花咲がに漁業は、引き続き行なわれる。
 ただし、日本国政府は、千九百七十二年においては、前記のかに漁業について、次の措置をとる。
(a) カムチャツカ半島西方水域におけるたらばがに漁業
 母船の隻数は、二隻をこえず、かつ、たらばがにの商業的漁獲量は、かん詰箱数(一箱につき半ポンドかん四十八個)に換算して、十万五千箱をこえない。
 漁撈の始期は、四月二十日とし、漁撈の終期は、八月二十日とする。
(b) カムチャツカ半島西方水域における北洋いばらがに漁業
 母船の隻数は、二隻をこえず、かつ、北洋いばらがにの商業的漁獲量は、六十万尾をこえない。
 漁撈の始期は、四月十九日とし、漁撈の終期は、八月二十五日とする。
(c) ベーリング海西部水域におけるずわいがに漁業
 漁船(加工及び漁撈を行なう母船並びに加工のみを行なう母船を含む。)の隻数は、四十二隻をこえない。
 ただし、オリュートル湾水域においては、加工のみを行なう母船は使用されず、同時に操業する漁船の隻数は、加工及び漁撈を行なう母船二隻を含み、十二隻をこえない。
 ずわいがにの商業的漁獲量は、オリュートル湾水域においては、九十万尾をこえず、ナヴァリン岬沖合水域においては、七百五万尾をこえない。
 漁撈の始期は、四月二十日とし、漁撈の終期は、十月三十一日とする。
(d) 樺太東方水域におけるあぶらがに漁業
 漁船の隻数は、五隻をこえず、かつ、あぶらがにの商業的漁獲量は、四十五万尾をこえない。その漁獲量には、それぞれ、十パーセントの範囲内のたらばがに及びずわいがにの混獲がありうる。ある地点におけるたらばがにの混獲が、十パーセントをこえる場合には、当該漁船は、当該地点から移動する。
 漁撈の始期は、五月一日とし、漁撈の終期は、十一月三十日とする。
(e) 樺太東方水域におけるずわいがに漁業
 漁船の隻数は、三十九隻をこえず、かつ、ずわいがにの商業的漁獲量は、千三百万尾をこえない。
 漁撈の始期は、四月二十日とし、漁撈の終期は、十月三十一日とする。
(f) 二丈岩周辺水域におけるけがに漁業
 漁船の隻数は、十四隻をこえず、かつ、けがにの商業的漁獲量は、百六十四万尾をこえない。
 漁撈の始期は、四月十九日とし、漁撈の終期は、八月三十一日とする。
(g) 国後島、択捉島、色丹島及び歯舞群島周辺水域におけるたらばがに、けがに及び花咲がに漁業
 漁船の隻数は、三十七隻をこえず、かつ、商業的漁獲量は、たらばがに六十万尾、けがに百三十万尾及び花咲がに九十一万尾をそれぞれこえない。
 漁撈の始期は、四月十九日とし、漁撈の終期は、十一月三十日とする。
(h) 前記(c)、(d)、(e)、(f)及び(g)に掲げる商業的漁獲量((c)に掲げるずわいがに漁業については、母船が漁獲したもの及び母船に引き渡されたものを除く。)については、それぞれ十パーセントの範囲内の増減がありうる。
(i) 前記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)及び(g)に掲げる水域において操業する漁船は、日本国政府の権限ある当局の発給する許可証を所持する。日本国政府の権限ある当局は、前記の許可証が発給された船舶の名簿を、五月十五日までに、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の関係当局に手交する。
(2) 両政府は、北西太平洋においてかにの漁獲を行なう自国の国民及び船舶に対し、この書簡の附属書に掲げる措置を適用する。
(3) 両政府は、北西太平洋におけるかに漁業についての漁獲統計資料及び生物学的統計資料を、千九百七十三年一月十日までに交換する。
(4) 両政府は、(1)のただし書及び(2)の規定に基づく措置を誠実に実施するため、それぞれ適当かつ有効な措置をとるものとする。
(5) この取極は、一年間その効力を存続する。両政府の代表者は、この取極の実施状況を検討し、かつ、将来の取極について決定するため、千九百七十三年三月一日までに会合する。
 本使は、さらに、この書簡及び前記の了解を貴国政府に代わつて確認される閣下の返簡が両政府間の合意を構成するものとみなすことを提案する光栄を有します。
 本使は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
 千九百七十二年四月二十八日にモスクワで
 日本国特命全権大使 新関欽哉
 ソヴィエト社会主義共和国連邦
 漁業大臣 ア・ア・イシコフ閣下
附属書
1めすのかに、最大の胸甲の幅が十三センチメートル未満であるたらばがに及びあぶらがに、最大の胸甲の幅が十一センチメートル未満である北洋いばらがに、最大の胸甲の幅が十センチメートル未満又は最大の胸甲の長さが九センチメートル未満であるずわいがに、最大の胸甲の長さが八センチメートル未満であるけがに、最大の胸甲の幅が十センチメートル未満である花咲がに並びに脱皮直後のかにを保持し、又は使用してはならない。前記のかには、混獲されたときは、できる限り損傷しないように、すみやかに海中にもどさなければならない。
 かご及びさし網以外の漁具を使用してかにを採捕してはならない。
 カムチャツカ半島西方水域のたらばがにについては、結節と結節の間の長さが二百四十ミリメートル以上の網目を有するさし網以外の漁具を使用してはならない。
2 カムチャツカ半島西方水域におけるたらばがに漁業について
(1) 北緯五十七度以南、北緯五十六度二十分以北の区域及び北緯五十三度以南、北緯五十一度以北の区域においては、たらばがにの商業的漁獲は行なわない。
(2) さし網の配列の長さ、一線上にある配列の間の間隔及び線のあいだの距離は、次のとおりとする。
(a) さし網一反の長さは、沈子側で測つて四十二メートルないし四十三メートルとする。
(b) 相互に結合された網(四十反以下)から成るさし網の間の全長は、千七百メートルをこえない。
(c) 一線上にある隣接する二個のさし網の間の末端間の間隔は、百メートル以上でなければならない。
(d) 二個の並行したさし網の線のあいだの距離は、二百五十メートル以上でなければならない。
(e) さし網の配は、百メートル以上の間隔をもつて一線上に設置された二個ないし六個の間からなるものとする。
(ソ連側書簡)
 書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、次のとおりの千九百七十二年四月二十八日付けの閣下の書簡に言及する光栄を有します。
(日本側書簡)
 本大臣は、両政府の代表者の間に到達した前記の了解がソヴィエト社会主義共和国連邦政府にとつて受諾することができるものであること並びに閣下の書簡及びこの返簡を両政府間の合意とみなすことを閣下に通報する光栄を有します。
 本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
 千九百七十二年四月二十八日にモスクワで
 ソヴィエト社会主義共和国連邦
 漁業大臣 ア・ア・イシコフ
 ソヴィエト社会主義共和国連邦駐在
 日本国特命全権大使 新関欽哉閣下
 日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間で千九百七十二年四月二十八日に交換された北西太平洋におけるかに漁業に関する書簡に掲げられた取極に関する合意された議事録
1日本国政府の代表者は、日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間で本日交換された北西太平洋におけるかに漁業に関する書簡に掲げられた取極3(1)のただし書に関連して、日本の国民及び船舶によるかに漁業は、千九百七十二年においては、次に掲げる水域に関しては、それぞれ次の境界内において行なわれることを明確にした。
(1)カムチャツカ半島西方水域
(a)たらばがに漁業
 北緯五十六度二十分の線以南、北緯五十三度の線以北及び北緯五十七度四十二分の線以南、北緯五十七度の線以北
 ただし、四月二十日から五月二十五日まで及び八月五日から八月二十日までの間におけるかにの商業的漁獲は、次の区域においてのみ行なわれる。
 北緯五十七度三十八分以南 北緯五十七度二十六分以北
 北緯五十六度二十分以南   北緯五十六度◯四分以北
 北緯五十五度二十八分以南  北緯五十五度十二分以北
 北緯五十四度三十六分以南  北緯五十四度二十分以北
 北緯五十三度四十四分以南  北緯五十三度三十分以北
(b)北洋いばらがに漁業
 北緯五十五度三十分の線以南、東経百五十四度の線以西、北緯五十三度の線以北、東経百四十九度の線以東
(2)ベーリング海西部水域におけるずわいがに漁業
(a)東経百六十八度の線以東、オリュートル岬突端を通過する子午線以西、北緯五十八度十分の線以北
(b)ナヴァリン岬突端を通過する緯線以南、同岬突端から北緯六十一度三十分、東経百七十八度の点に至る線以北の水域を除く東経百七十八度の線以東
(3)樺太東方水域
(a)あぶらがに漁業
 北緯五十度の線以南、東経百四十五度十分の線以西、北緯四十八度五十七分の線以北
 ただし、多来加湾水域を除く。
(b)ずわいがに漁業
 北緯五十二度の線以南、東経百四十六度十分の線以西、北緯四十五度四十分の線以北、東経百四十三度二十五分の線以東
 ただし、北緯五十度の線以南、東経百四十五度十分の線以西、北緯四十八度の線以北、東経百四十四度の線以東の水域及び北知床岬突端と北緯四十七度二十四分、東経百四十二度五十一分の点を結ぶ線以北の多来加湾水域を除く。
2日本国政府の代表者は、前記の書簡に掲げられた取極の附属書2に関連して、カムチャツカ半島西方水域におけるたらばがに漁業に関し、日本国政府は、千九百七十二年において、次の措置をとることを明確にした。
(1)さし網の各配又は独立して設置された間の一回の沈設期間は、五月中は八昼夜をこえず、また同時に海中に沈設されているさし網の総数量は、各母船について、五月中は二万反をこえない。
(2)各母船に附属する独航船のうち一隻は、北緯五十七度四十二分以南、北緯五十七度以北の区域においては、かごのみを使用してかにの採捕を行なう。
 千九百七十二年四月二十八日にモスクワで、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。
 日本国政府のために
 新関欽哉
 ソヴィエト社会主義共和国連邦政府のために
 ア・ア・イシコフ
 日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間で千九百七十二年四月二十八日に交換された北西太平洋におけるかに漁業に関する書簡に掲げられた取極に関連する取極の規定の実施の視察に関する書簡
 本官は、日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間で千九百七十二年四月二十八日に交換された北西太平洋におけるかに漁業に関する書簡に掲げられた取極3(4)に関連し、日本国政府は、前記取極の水域においてかに漁業に従事する日本国の船舶にソヴィエト社会主義共和国連邦政府の公務員が取極の規定の実施を視察する目的で乗船することを保証するためのしかるべき効果的な措置をとることを申し述べる。
 さらに、また、前記の公務員が日本国の船舶による取極の違反について日本国の当局に通報した場合は、日本国の当局はしかるべき必要な措置をとることを申し述べる。
 千九百七十二年四月二十八日
 日本国政府のために
 かに漁業に関する
 政府間交渉日本側首席代表 藤村弘毅
 かに漁業に関する
 政府間交渉ソ連邦側首席代表 ヴェ・ラフィツキー殿
 日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間で千九百七十二年四月二十八日に交換された北西太平洋におけるかに漁業に関する書簡に掲げられた取極に関連する取極の規定の実施の視察に関する書簡
 本官は、日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間で千九百七十二年四月二十八日に交換された北西太平洋におけるかに漁業に関する書簡に掲げられた取極3(4)に関連し、日本国政府は、前記取極の水域においてかに漁業に従事する日本国の船舶にソヴィエト社会主義共和国連邦政府の公務員が取極の規定の実施を視察する目的で乗船することを保証するためのしかるべき効果的な措置をとることを申し述べる。
 さらに、また、前記の公務員が日本国の船舶による取極の違反について日本国の当局に通報した場合は、日本国の当局はしかるべき必要な措置をとることを申し述べる。
 千九百七十二年四月二十八日
 日本国政府のために
かに漁業に関する
政府間交渉日本側首席代表 藤村弘毅
 かに漁業に関する
政府間交渉ソ連邦側首席代表 ヴェ・ラフィツキー殿
 日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間で千九百七十二年四月二十八日に交換された北西太平洋におけるかに漁業に関する書簡に掲げられた取極に関連する取極の規定の実施の視察に関する書簡
 本官は、日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間で千九百七十二年四月二十八日に交換された北西太平洋におけるかに漁業に関する書簡に掲げられた取極3(4)に関連し、日本国政府は、前記取極の水域においてかに漁業に従事する日本国の船舶にソヴィエト社会主義共和国連邦政府の公務員が取極の規定の実施を視察する目的で乗船することを保証するためのしかるべき効果的な措置をとることを申し述べる。
 さらに、また、前記の公務員が日本国の船舶による取極の違反について日本国の当局に通報した場合は、日本国の当局はしかるべき必要な措置をとることを申し述べる。
 千九百七十二年四月二十八日
 日本国政府のために
かに漁業に関する
政府間交渉日本側首席代表 藤村弘毅
 かに漁業に関する
政府間交渉ソ連邦側首席代表 ヴェ・ラフィツキー殿