北太平洋における捕鯨に従事する母船のための国際監視員制度に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の協定
北太平洋における捕鯨に従事する母船のための国際監視員制度に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の協定
千九百四十六年十二月二日にワシントンで署名された国際捕鯨取締条約(以下「条約」という。)の締約政府である日本国政府及びソヴィエト社会主義共和国連邦政府は、
北太平洋における捕鯨の出漁国が鯨族の保存、母船による捕鯨の適当な生産性の維持及び捕鯨の合理的な運営に共通の関心を有するので、
国際捕鯨委員会の第二十三回会合が捕鯨の国際監視制度を確立することの必要性について行なつた決定に基づき、北太平洋における捕鯨に従事する母船に乗船する国際監視員に関する次の制度を協定した。
第一条
この制度の目的は、北太平洋における母船による捕鯨につき、鯨が母船に引き渡されるとき又はその母船で処理されるときに当該捕鯨の監視を行なうことである。
第二条
監視員は、国際捕鯨委員会(以下「委員会」という。)に対して責任を負うものとし、また、次の規定に従つて任命される。
(1) 各政府は、他方の政府の管轄下にある船団の数と少なくとも同数の監視員で自国の国籍を有するものを指名する権利を有する。
(2) このようにして指名された監視員のうちから、北太平洋における捕鯨に従事する船団に対して監視員が任命されるものとし、一の船団に対しては一人以上の監視員は、任命されない。
(3) 委員会の書記長は、(2)の規定に従つて行なわれたすべての任命を両政府に通報する。
第三条
(1) 監視員は、上級職員の地位を有するものとし、これに応じた食事及び宿泊施設を与えられる権利を有する。監視員を受け入れる各政府は、監視員及び通訳が任務を遂行するにあたつてそれらの者の安全及び福祉を確保するために適当な措置をとり、それらの者に対し医療上の援助を行ない、また、それらの者の自由及び尊厳を保障する。監視員及び通訳は、勤務する船団の慣習及び秩序を遵守する。
(2) 監視員は、任命された船団の活動についていかなる管理権をも付与されないものとし、また、いかなる方法によつてもその活動に干渉する権限を有しない。監視員は、任務の遂行に必要な便益(電信を利用する便益を含む。)を与えられる。
(3) 監視員は、自己を指名した政府から指示を求め又は受けてはならない。監視員は、指示を必要とする場合には、委員会からその指示を求め、委員会は、その指示を与える。
(4) 監視員は、鯨の捕獲及びその合理的な利用に関し条約の遵守を検証することができるように、任命された母船の操業を自由に監視することができる。監視員は、特に、捕獲された鯨の種類、体長、性別及び頭数を確認するための便益を与えられる。
(5) 条約の附表に従つて作成することを要求されるすべての報告並びに保管し又は提供することを要求されるすべての記録及び資料は、監視員が検査のため自由にかつ直ちに入手又は閲覧することができるようにするものとし、監視員は、これらの報告、記録及び資料について必要なすべての説明を受ける。
(6) 船団の一部を構成する船舶の船長、船団長若しくは上級職員又は国内監督官は、監視員の任務の遂行に必要な情報を提供する。
(7) 監視員は、条約の規定に対する違反が行なわれたと信ずるに足りる相当な理由がある場合には、船長又は船団長及び首席国内監督官に対し、その違反を直ちに書面によつて通知する。監視員は、その違反が重大なものであると認める場合には、直ちに、船長又は船団長及び首席国内監督官の説明又は意見を付して、その違反を委員会の書記長に通知する。
(8) 監視員は、監視に関する報告(条約の規定に対する違反の疑いがある行為に関するものを含む。)を作成し、かつ、船長又は船団長及び首席国内監督官に対し、情報として及びそれらの者の説明及び意見の作成のため当該報告を提出する。これらの説明及び意見を添付した監視員の報告は、できる限りすみやかに委員会の書記長に送付する。
第四条
(1) 監視員は、自己を受け入れる政府の国の言語及び英語を解さない場合には、同一の国籍を有する通訳を同伴しなければならない。
(2) 監視員が自己を受け入れる政府の言語を解さないが英語を解する場合又は英語を解する通訳を同伴する場合には、船団は、少なくとも一人の英語を解する者を母船に乗船させることを必要とする。
第五条
(1) 船団に対して任命される監視員を指名する各政府は、監視員の俸給その他の手当、旅費、通信費、食費、宿泊費その他の必要経費を支払う。
(2) 母船において監視員に提供される食事及び宿泊施設に係る費用は、監視員が支払う。
(3) 監視員が通訳を同伴する必要がある場合には、通訳の俸給その他の必要経費は、監視員を指名した政府が支払う。
第六条
この協定は、日本国政府がソヴィエト社会主義共和国連邦政府から、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府がその国内法上の手続に従つてこの協定を承認した旨の公文を受領した日に効力を生ずる。
第七条
この協定は、千九百七十三年二月二十八日まで効力を有する。
第八条
両政府は、この協定の終了前に、将来の取極について決定するために協議する。
以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当な委任を受けてこの協定に署名した。
千九百七十二年四月十八日にモスクワで、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。
日本国政府のために 新関欽哉
ソヴィエト社会主義共和国連邦政府のために A・イシコフ