日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の北西太平洋のかに漁業に関する交換公文
日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の北西太平洋のかに漁業に関する交換公文
(日本側書簡)
 書簡をもつて啓上いたします。本使は、千九百六十九年二月六日から四月十一日までモスクワで行なわれた日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間の日本海、オホーツク海及びベーリング海を含む北西太平洋(以下「北西太平洋」という。)のたらばがに、あぶらがに、北洋いばらがに、ずわいがに、けがに及び花咲がに(以下「かに」という。)漁業に関する協議に言及するとともに、この協議の結果到達した次の了解を日本国政府に代わつて確認する光栄を有します。
1 日本国政府は、かにが公海漁業資源であり、したがつて、日本の国民及び船舶は、北西太平洋でかに漁業を行なう権利を有するとの見解を有している。
2 ソヴィエト社会主義共和国連邦政府は、かにが治岸国(この場合においては、ソヴィエト社会主義共和国連邦を意味する。)に排他的な管轄権並びに管理、保護及び開発の権利がある大陸だなの天然資源であるとの見解を有している。
3 しかしながら、両政府は、北西太平洋のかに資源について、日本の国民及び船舶が長期間にわたりその開発に従事してきた歴史的事実にかんがみ、前記の両政府のそれぞれの立場を害することなく、次のとおり合意した。
(1) 日本の国民及び船舶によるカムチャツカ半島西方水域におけるたらばがに及び北洋いばらがに漁業、ベーリング海西部水域におけるずわいがに漁業、樺太東方水域におけるたらばがに、あぶらがに及びずわいがに漁業、二丈岩周辺水域におけるけがに漁業並びに国後島、択捉島、色丹島及び歯舞群島周辺水域におけるたらばがに、けがに及び花咲がに漁業は、引き続き行なわれる。
 ただし、日本国政府は、千九百六十九年においては、前記のかに漁業について、次の措置を執る。
(a) カムチャツカ半島西方水域におけるたらばがに漁業
 母船の隻数は、四隻をこえず、かつ、たらばがにの商業的漁獲量は、かん詰箱数(一箱につき半ポンドかん四十八個)に換算して、二十一万六千箱をこえない。
(b) カムチャツカ半島西方水域における北洋いばらがに漁業
 母船の隻数は、二隻をこえず、かつ、北洋いばらがにの商業的漁獲量は、九十万尾をこえない。
 漁撈の始期は、四月十五日とし、漁撈の終期は、八月二十五日とする。
(c) ベーリング海西部水域におけるずわいがに漁業
 漁船の隻数は、四十二隻をこえず、かつ、ずわいがにの商業的漁獲量は、千三百万尾(オリュートル湾水域においては、六百五十万尾)をこえない。
 漁撈の始期は、四月二十日とし、漁撈の終期は、十月三十一日とする。
(d) 樺太東方水域におけるたらばがに及びあぶらがに漁業漁船の隻数は、六隻をこえず、かつ、たらばがに及びあぶらがにの商業的漁獲量は、六十万尾をこえない。
 漁撈の始期は、五月一日とし、漁撈の終期は、十一月三十日とする。
(e) 樺太東方水域におけるずわいがに漁業
 漁船の隻数は、三十九隻をこえず、かつ、ずわいがにの商業的漁獲量は、千九百万尾をこえない。
 漁撈始期は、四月二十日とし、漁撈の終期は、十月三十一日とする。
(f) 二丈岩周辺水域におけるけがに漁業
 漁船の隻数は、十四隻をこえず、かつ、けがにの商業的漁獲量は、百六十四万尾をこえない。
 漁撈始期は、四月十一日とし、漁撈の終期は、八月三十一日とする。
(g) 国後島、択捉島、色丹島及び歯舞群島周辺水域におけるたらばがに、けがに及び花咲がに漁業
 漁船の隻数は、三十七隻をこえず、かつ、商業的漁獲量は、たらばがに六十万尾、けがに百三十万尾及び花咲がに九十一万尾をそれぞれこえない。
 漁撈の始期は、四月十一日とし、漁撈の終期は、十一月三十日とする。
(h) 前記(c)、(d)、(e)、(f)及び(g)に掲げる商業的漁獲量((c)に掲げるずわいがに漁業については、母船式漁業によるものを除く。)については、それぞれ、十パーセントの範囲内の増減がありうる。
(2) 両政府は、北西太平洋においてかにの漁獲を行なう自国の国民及び船舶に対し、この書簡の附属書に掲げる暫定措置を適用する。
(3) 両政府は、協同の計画に従い、北西太平洋におけるかに資源についての研究を継続強化するための措置を執り、かつ、その研究の結果並びにそのかに漁業についての漁獲統計資料及び生物学的統計資料を、研究の結果の場合には千九百七十年一月三十一日までに、漁獲統計資料及び生物学的統計資料の場合には同年一月十日までに、それぞれ交換する。
(4) 両政府は、(1)のただし書及び(2)の規定に基づく措置を誠実に実施するため、それぞれ適当かつ有効な措置を執るものとし、かつ、いずれの政府も、他方の政府の要請があつたときは、取締りの実施を視察する機会を与える。
(5) 両政府の代表者は、この取極の実施状況を検討し、かつ、将来の取極について決定するため、千九百七十年二月十日までに会合する。
 本使は、さらに、この書簡及び前記の了解を貴国政府に代わつて確認される閣下の返簡が両政府間の合意を構成するものとみなすことを提案する光栄を有します。
 本使は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
 千九百六十九年四月十八日
 日本国特命金権大使 中川 融
 ソヴィエト社会主義共和国連邦
 漁業大臣 ア・イシコフ閣下
 附属書
 北西太平洋におけるかに漁業に関する一般的措置
(1) めすのかに、最大の胸甲の幅が十三センチメートル未満であるたらばがに及びあぶらがに、最大の胸甲の幅が十一センチメートル未満である北洋いばらがに並びに脱皮直後のかにを保持し、又は使用してはならない。前記のかには、混獲されたときは、できる限り損傷しないように、すみやかに海中にもどさなければならない。
(2) かご及びさし網以外の漁具を使用してかにを採捕してはならない。
2 カムチャツカ半島西方水域におけるたらばがに漁業に関する措置
(1) 漁撈の始期は、四月十五日とし、漁撈の終期は、八月二十五日とする。
(2) 北緯五十七度以南、北緯五十六度二十分以北の区域及び北緯五十三度以南、北緯五十一度以北の区域においては、たらばがにの商業的漁獲は行なわない。
(3) 北繹五十七度三十八分以南、北緯五十三度以北の水域においては、四月十五日から五月二十五日まで及び八月五日から八月二十五日までの間におけるたらばがにの漁獲は、次の区域においてのみ行なわれる。
(a) 日本の国民及び船舶が操業を行なう区域
 北緯五十七度三十八分以南 北緯五十七度二十六分以北
 北緯五十六度二十分以南  北緯五十六度○四分以北
 北緯五十五度二十八分以南 北緯五十五度十二分以北
 北緯五十四度三十六分以南 北緯五十四度二十分以北
 北緯五十三度四十四分以南 北緯五十三度三十分以北
(b) ソヴィエト社会主義共和国連邦の国民及び船舶が操業を行なう区域
 北緯五十七度二十四分以南 北緯五十七度   以北
 北緯五十六度 ○二分以南 北緯五十五度 三十分以北
 北緯五十五度 十分以南  北緯五十四度三十八分以北
 北緯五十四度 十八分以南 北緯五十三度四十六分以北
 北緯五十三度二十八分以南 北緯五十三度   以北
(4) (1)に規定する漁撈の始期前におけるたらばがにの探索を目的とする独航船による試験網又は試験かごの敷設は、日本国側四隻、ソヴィエト社会主義共和国連邦側八隻をこえない独航船が(3)に掲げられた自国側の区域において四月八日から四月十四日までの間に行なうことができる。ただし、一隻の独航船が敷設する試験網又は試験かごは、それぞれ一日につき五十反又は二十かごをこえてはならない。
(5) さし網の配列の長さ、一線上にある配列の間の間隔及び線のあいだの距離は、次のとおりとする。
(a) さし網一反の長さは、沈子側で測つて四十二メートルないし四十三メートルとする。
(b) 相互に結合された網(四十反以下)から成るさし網の間の全長は千七百メートルをこえない
(c) 一線上にある隣接する二個のさし網の間の未端間の間隔は、百メートル以上でなければならない。
(d) 二個の並行したさし網の線のあいだの距離は、二百五十メートル以上でなければならない。
(e) さし網の配は、百メートル以上の間隔をもつて一線上に設置された二個ないし六個の間からなるものとする。
(ソ連側書簡)
 書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、次のとおりの千九百六十九年四月十八日付けの閣下の書簡に言及する光栄を有します。
(日本側書簡)
 本大臣は、両政府の代表者の間に到達した前記の了解がソヴィエト社会主義共和国連邦政府にとつて受諾することができるものであること並びに閣下の書簡及びこの返簡を両政府間の合意とみなすことを閣下に通報する光栄を有します。
 本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
 千九百六十九年四月十八日にモスクワで
 ソヴィエト社会主義共和国連邦
 漁業大臣 ア・イシコフ
 ソヴィエト社会主義共和国連邦駐在
 日本国特命全権大使 中川 融閣下
 合意された議事録
 日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間で千九百六十九年四月十八日に交換された北西太平洋におけるかに漁業に関する書簡に掲げられた取極に関する合意された議事録
1 日本国政府の代表者は、日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府の代表者の間で本日交換された北西太平洋におけるかに漁業に関する書簡に掲げられた取極3(1)のただし書に関連して、日本の国民及び船舶によるかに漁業は、千九百六十九年においては、次に掲げる水域に関しては、それぞれ次の境界内において行なわれることを明確にした。
(1) カムチャツカ半島西方水域における北洋いばらがに漁業北緯五十六度二十分の線以南、東経百五十四度の線以西、北緯五十三度の線以北、東経百四十九度の線以東のカムチャツカ半島西方水域
(2) ベーリング海西部水域におけるずわいがに漁業
(a) ゴーベン岬の突端を通過する子午線以東、オリュートル岬突端を通過する子午線以西、北緯五十八度の線以北のベーリング海西部水域
(b) ナヴァリン岬突端から北緯六十一度五十分、東経百七十八度の点に至る線以北の水域を除く東経百七十八度の線以東のベーリング海西部水域
(3)(a) 樺太東方水域におけるたらばがに及びあぶらがに漁業
 北緯四十九度三十分の線以南、東経百四十五度十分の線以西、北緯四十八度の線以北、東経百四十四度の線以東の樺太東方水域
(b) 樺太東方水域におけるずわいがに漁業
 北緯五十二度の線以南、東経百四十六度十分の線以西、北緯四十五度四十分の線以北、東経百四十三度二十五分の線以東の樺太東方水域
 ただし、(a)に掲げる水域及び北知床岬突端と北緯四十七度二十四分、東経百四十二度五十一分の点を結ぶ線以北の多来加湾水域を除く。
2 日本国政府の代表者は、前記の書簡に掲げられた取極の附属書2に関連して、カムチャツカ半島西方水域におけるたらばがに漁業に関し、日本国政府は、千九百六十九年において、次の措置を執ることを明確にした。
 さし網の各配又は独立して設置された間の一回の沈設期間は、四月中は六昼夜、五月中は八昼夜をこえず、また同時に海中に沈設されているさし網の総数量は、各母船について、四月中は一万五千反、五月中は二万反をこえない。
 千九百六十九年四月十八日にモスクワで、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。
 日本国政府のために
 中川 融
 ソヴィエト社会主義共和国連邦政府のために
 ア・イシコフ