日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の領事条約
日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の領事条約
日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の領事条約
日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間の友好関係の強化について協力し、かつ、両国間の領事関係を規定することを希望し、
領事条約を締結することに決定し、そのため、次のとおりそれぞれの全権委員を任命した。
日本国
日本国外務大臣 椎名悦三郎
ソヴィエト社会主義共和国連邦
ソヴィエト社会主義共和国連邦外務大臣 アンドレイ・アンドレェヴィチ・グロムイコ
これらの全権委員は、互いにその全権委任状を示し、それが良好妥当であると認められた後、次のとおり協定した。
第一部 定義
第一条 (1) 「領事館」とは、派遣国の総領事館、領事館、副領事館又は領事代理事務所をいう。
(2) 「領事官」とは、派遣国が領事職務を遂行する権限を与えた者で第三条又は第四条の規定に従つて任命され又は通告されたものをいう。領事官には、領事館において領事職務を研修するために任命された者を含む。
(3) 「館長」とは、領事館の長である領事官をいう。
(4) 「領事館職員」とは、領事官以外の者で領事館において事務的又は技術的業務を行なうものをいう。領事館職員には、また、第十八条(2)、第二十三条(2)並びに第二十五条(2)及び(3)の場合を除くほか、運転手、家事使用人、庭番及び領事館の役務を行なう類似の者を含む。
(5) 「領事管轄区域」とは、領事職務の遂行のために領事館について定められた地域をいう。
(6) 派遣国について、「国民」とは、その国籍を有するすべての自然人及びその法令に基づいて設立されたすべての法人をいう。
(7) 「船舶」とは、派遣国については、派遣国の港で登録されているすべての船をいう。ただし、軍艦を除く。
第二部 領事館の設置並びに領事官及び領事館職員の任命
第二条 (1) 派遣国は、接受国の領域内において、接受国の同意を得た場合に限り、領事館を設置することができる。
(2) 領事館の設置の場所及び領事管轄区域の範囲は、派遣国と接受国との合意により決定される。
第三条 (1) 派遣国は、館長を任命するに先だち、外交上の経路を通じて、その任命について接受国の同意を得なければならない。
(2) 派遣国は、館長の任務の開始に先だち、その氏名及び階級並びに当該領事館の所在地を記載した領事委任状を外交上の経路を通じて接受国に提出しなければならない。
(3) 接受国は、(2)に規定する委任状が提出されたときは、領事館の長の資格において承認する認可状を、できる限りすみやかにかつ無料で、その館長に与えなければならない。接受国は、必要があるときは、認可状を与えるまでの間、臨時の許可を与えなければならない。
第四条 (1) 派遣国は、館長以外の領事官の任務の開始に先だち、その氏名、職務及び階級を記載した任命通告書を外交上の経路を通じて接受国に提出しなければならない。
(2) 接受国は、(1)に規定する任命通告書が提出されたときは、領事職務を遂行する権利を認める適当な文書を、できる限りすみやかにかつ無料で、その領事官に与えなければならない。
第五条 接受国は、領事官の氏名を、遅滞なく、自国の関係当局に通報しなければならない。
第六条 領事官は、派遣国の国民でなければならない。
第七条 派遣国は、領事館職員の任務の開始に先だち、その氏名、国籍及び職務について外交上の経路を通じて接受国に通告しなければならない。
第八条 派遣国は、領事官及び領事館職員の任務が終了したときは、外交上の経路を通じてその旨を接受国に通告しなければならない。
第九条 派遣国は、自国の国民であつて、すでに接受国にあるもの又は接受国に向かつて旅行中であるものを領事官又は領事館職員として任命することができない。ただし、接受国において勤務している派遣国の外交使節団の構成員並びに領事官及び領事館職員については、この限りでない。
第十条 接受国は、いつでも、理由を示さないで、派遣国に対し、領事官又は領事館職員である者が受け入れ難い者であることを外交上の経路を通じて通告することができる。その通告を受けた場合には、派遣国は、領事官又は派遣国の国民である領事館職員については、その者を召還し、派遣国の国民でない領事館職員については、その者の任務を終了させなければならない。派遣国がこの義務の履行を拒否した場合又は相当な期間内にその履行をしなかつた場合には、接受国は、その者を領事官又は領事館職員と認めることを拒否することができる。
第十一条 (1) 領事官が不在、病気、死亡その他の理由によりその職務を遂行することができないときは、派遣国は、あらかじめ接受国に通告して、接受国にある他の領事官、領事館職員若しくは派遣国の外交使節団の構成員又は接受国が同意を与えたその他の者に、当該領事官に代わつてその職務を遂行することを一時的に命ずることができる。この項の規定に基づき領事官に代わつてその職務を遂行する者は、この条約に基づく権利、特権及び免除を享有し、かつ、この条約に基づく義務を負うものとする。
(2) この条約の諸規定は、派遣国の外交使節団の領事部の領事活動にも適用される。派遣国の外交使節団の構成員であつて、派遣国により領事職務を遂行する権限を与えられ、かつ、その旨が接受国に通報されたものは、この条約に基づく権利、特権及び免除を享有し、かつ、この条約に基づく義務を負うものとする。
(3) 第三十六条(5)に規定する場合を除くほか、(1)又は(2)にいう外交使節団の構成員による領事職務の遂行は、その者が外交使節団の構成員として享有する特権及び免除に影響を及ぼすものではない。
第十二条 接受国は、領事官に対し、その任務を遂行することができるように、また、この条約及び接受国の法令に規定する権利、特権及び免除を享有することができるように、十分な便宣を与えるものとする。
第十三条 (1) 派遣国は、接受国の法令に従うことを条件として、領事館の事務所にあて、又は領事官若しくは派遣国の国民である領事館職員の住居にあてる目的をもつて、派遣国が必要とする土地、建物、建物の一部及び工作物を、接受国の法令に基づいて認められる保有形式により取得し、占有し又は賃借することができる。
(2) 接受国の当局は、必要な場合には、派遣国が(1)にいう目的のため土地、建物、建物の一部及び工作物を入手することを容易にする措置を執るものとする。
(3) 派遣国は、当該地域に適用される建築若しくは都市計画に関する規制又はこれに類する規制に服することを免除されないことが了解される。
第三部 特権及び免除
第十四条 (1) 領事館には、派遣国の紋章及び派遣国の国語で領事館を示す適当な標識を掲げることができる。領事館には、また、派遣国の国旗を掲げることができる。
(2) 館長は、その住居及びその任務の遂行のために使用する輸送手段に派遣国の紋章を附し、かつ、派遣国の国旗を掲げることができる。
第十五条 もつぱら領事館の目的のために使用される土地、建物及び建物の一部並びに領事官の住居は、不可侵とする。接受国の警察その他の当局は、館長若しくはその指定する者又は派遣国の外交使節団の長の同意を得ないで、これらの土地、建物及び建物の一部並びに住居に立ち入つてはならない。
第十六条 領事公文書は、不可侵とする。公の性質を有しない書類は、領事公文書の中に保管してはならない。
第十七条 (1) 領事館は、派遣国の政府並びに派遣国の外交使節団及び領事館(接受国にあるかどうかを問わない。)と通信する権利を有する。この目的のため、領事館は、すべての公共の通信手段又は伝書使及び公用の封印された袋その他の容器を使用し、かつ、暗号又は符号を用いることができる。領事館が公共の通信手段を使用するに際しては、派遣国の外交使節団について適用される手数料と同様の手数料が適用される。
(2) 領事館の公の通信(通信手段のいかんを問わない。)及び公用の封印された袋その他の容器で公用であることを外部から識別することができる記号を附したものは、不可侵とし、接受国の当局は、これを検閲し又は押収してはならない。
(3) 伝書使として(2)に規定する公用の封印された袋その他の容器を輸送する者は、外交伝書使が享有する権利、特権及び免除と同様の権利、特権及び免除を享有する。
第十八条 (1) 領事官又は派遣国の国民である領事館職員は、公務上の行為については、接受国の管轄権からの免除を享有する。
(2) 領事官又は派遣国の国民である領事館職員及びその世帯に属する家族の構成員で派遣国の国民であるものは、接受国の刑事上の管轄権からの免除を享有する。
(3) 派遣国は、(1)又は(2)の規定に基づいて領事官若しくは領事館職員又はその家族の構成員が享有する免除を放棄することができる。放棄は、常に明示的に行なうものとし、外交上の経路を通じて書面により接受国に通告するものとする。
第十九条 (1) (3)の規定を害することなく、領事官又は領事館職員は、接受国の司法当局又は行政当局から要請されたときは、民事事件又は刑事事件において証人として証言を行なうものとする。ただし、領事官又は派遣国の国民である領事館職員に対し、証人として証言を行なうこと又はこのため法廷に出頭することを強制する措置を執つてはならない。
(2) 領事官又は領事館職員に対して証人として証言を行なうことを要請する接受国の司法当局又は行政当局は、領事館の業務を妨げないようにすべての合理的な措置を執り、かつ、可能な場合又は許される場合には、領事館又は当該領事官若しくは当該領事館職員の住居において口頭又は書面による証言を録取するように取り計らうものとする。
(3) 領事官又は領事館職員は、自己の公務の範囲内の事項に関連する証言を行なうことを拒否することができる。領事官又は領事館職員は、また、派遣国の法令に関する鑑定人として証言を行なうことを拒否することができる。
第二十条 領事官又は派遣国の国民である領事館職員及びその世帯に属する家族の構成員であつて派遣国の国民であるものは、接受国において国防に関する役務及びその他のすべての種類の強制的役務を免除される。
第二十一条 領事官又は派遣国の国民である領事館職員及びその世帯に属する家族の構成員であつて派遣国の国民であるものは、在留許可の取得及び外国人登録に関する接受国の法令に定める要件を免除される。
第二十二条 (1) 派遣国又は派遣国のために行動する一若しくは二以上の者は、領事館の目的のために使用される不動産(領事官又は領事館職員の住居を含む。)及び動産の取得、所有、占有又は使用に関し、接受国又はその地方公共団体が課するすべての種類の租税又はこれに類する課徴金で、派遣国又は派遣国のために行動する一若しくは二以上の者が本来は法律上納付の義務を負うもの(提供された特定の役務に対する給付としての性質を有するものを除く。)の納付を免除される。
(2) 派遣国は、領事官がその職務の遂行に関連して徴収する手数料に関し、接受国又はその地方公共団体が課するすべての種類の租税又はこれに類する課徴金の納付を免除される。
第二十三条 (1) 領事官又は派遣国の国民である領事館職員は、公務の遂行について派遣国から受領する給与、俸給、賃金又は手当に対し接受国又はその地方公共団体が課するすべての種類の租税又はこれに類する課徴金の納付を免除される。
(2) 領事官又は派遣国の国民である領事館職員は、接受国又はその地方公共団体が課するその他のすべての種類の租税又はこれに類する課徴金で、本来は自己が法律上納付の義務を負い、かつ、接受国又はその地方公共団体により直接徴収されるものの納付を免除される。ただし、当該領事官又は当該領事館職員が派遣国の常勤の職員であり、かつ、接受国において営利を目的とする私的な職業に従事していないことを条件とする。
(3) (2)に定める免除は、次のものについては、適用しない。
(a) 接受国内における私的な不動産の取得、所有、占有又は処分に対して課される租税(第二十二条(1)の規定に基づいて納付を免除されるものを含まない。)
(b) 接受国内に源泉がある所得で、(1)に定めるもの以外のものに対して課される租税
(c) 取引に対し、又は取引を有効なものとし若しくは取引に関連する証書に対して課される租税(すべての種類の印紙税を含む。)
(d) 接受国にある財産の贈与による移転に対して課される租税
(e) 第二十四条に定める場合を除くほか、接受国にある財産の死亡に基づく移転(相続による移転を含む。)に対して課される租税
第二十四条 接受国又はその地方公共団体は、領事官若しくは派遣国の国民である領事館職員又はその世帯に属する家族の構成員であつて派遣国の国民であるものがもつぱら領事官若しくは領事館職員又はその家族の構成員の資格において接受国内に居住していたことに関連して所有していた動産については、死亡に基づく移転に関して課される租税又はこれに類する課徴金を免除するものとする。
第二十五条 (1) もつぱら領事館の公用のために輸入されるすべての物品(自動車を含む。)については、接受国において、輸入に対し又は輸入を理由として課されるすべての関税、内国税その他の租税が免除されるものとし、その免除は、派遣国の外交使節団の公用のために輸入される物品について与えられる免除と同様のものとする。
(2) 領事官及び派遣国の国民である領事館職員は、派遣国の常勤の職員であり、かつ、接受国において営利を目的とする私的な職業に従事していないことを条件として、自己又はその世帯に属する家族の構成員で派遣国の国民であるものの個人的な使用のための物品について、輸入に対し又は輸入を理由として課される関税、内国税その他の租税を免除されるものとし、その免除は、派遣国の外交使節団の同等の種類の職員に対して与えられる免除と同様のものとする。
(3) (2)の規定の適用上、「外交使節団の同等の種類の職員」とは、領事官については外交官をいい、また、領事館職員については事務及び技術職員をいう。
(4) この条の規定に基づいて輸入された物品の処分については、接受国の法令の適用があるものとする。
第二十六条 領事官及び領事館職員は、国の安全上の理由により立入りを禁止し又は規制している地域に関する接受国の法令に従うことを条件として、その任務を遂行するため、領事管轄区域内において自由に移動し及び旅行することが認められるものとする。
第二十七条 この条約に基づき特権及び免除を享有するすべての者は、接受国の法令(交通規則を含む。)を尊重する義務を負う。ただし、その特権及び免除は、害されないものとする。
第二十八条 派遣国によつて所有され、かつ、領事館の公用に供されるすべての輸送手段及び領事官又は領事館職員によつて所有されるすべての輸送手段は、接受国において、その法令に従つて第三者の損害に関する保険に付しておかなければならない。
第四部 領事職務
第二十九条 (1) 領事官は、その領事管轄区域内において、この部に定める職務を遂行する権利を有する。領事官は、さらに、接受国の法令に反しないその他の領事職務を遂行することができる。
(2) 領事官は、接受国の当局の同意を得て、その領事管轄区域外において職務を遂行することができる。
(3) 領事官は、その職務の遂行に関連して、その領事管轄区域の権限のある当局(中央政府機関の地方部局を含む。)に対して申入れを行ない、かつ、これと通信する権利を有する。
(4) 領事官は、その職務の遂行に関連して、派遣国が定める手数料を徴収する権利を有する。
第三十条 領事官は、その領事管轄区域内において、次のことを行なう権利を有する。
(a) 派遣国及びその国民の権利及び利益を擁護すること。
(b) 派遣国と接受国との間の通商上、経済上、文化上及び科学上の関係の発展を助長し、並びにその他の方法により両国間の友好関係の発展に寄与すること。
第三十一条 (1) 領事官は、その領事管轄区域内において、派遣国のいかなる国民とも面会し、通信し、並びにこれに助言及びすべての援助(必要な場合に接受国の当局の下における訴訟その他の手続に関して与える法律上の援助を含む。)を与える権利を有する。
(2) 接受国は、派遣国の国民が領事館と通信し、及び領事館を訪問することをいかなる方法によつても制限してはならない。
第三十二条 (1) 接受国の権限のある当局は、派遣国の国民が逮捕され、又はその他の場合において拘禁されたときは、直ちにその旨を適当な領事官に通報するものとする。
(2) 領事官は、派遣国の国民が逮捕され、若しくはその他の場合において拘禁されたとき、又は有罪の判決を受けて監獄で刑に服しているときは、遅滞なく、その国民を訪問し及びその国民と通信する権利を有する。この権利は、接受国の法令に従つて行使されるものとする。ただし、これらの法令は、この権利を無効にするものであつてはならない。
第三十三条 領事官は、その領事管轄区域内において、次のことを行なう権利を有する。
(a) 国籍に関する派遣国の法令に基づいて行なうことを要求される届出を受理すること。
(b) 派遣国の国民を登録すること。
(c) 派遣国の国民の出生若しくは死亡を登録し、又はその届出を受理すること。
(d) 接受国の法令に従つて成立した婚姻又は離婚で、少なくとも当事者の一方が派遣国の国民であるものを登録し、又はその届出を受理すること。
(e) 婚姻の当事者の双方が派遣国の国民である場合に、その婚姻を成立させること。
(f) 派遣国の法令に従い、派遣国の国民の親族関係に関する届出を受理すること。
(g) 査証及び旅券その他これに類する書類を発給し、修正し、更新し、有効にし、及び無効にすること。
第三十四条 (1) 領事官は、その領事管轄区域内において、次のいずれかの場合には、署名を認証し及び証明し、法律的な性質を有する証書又は文書及びそれらの写しを作成し、認証し、証明し及び法律上正当なものとし、並びにこれらの書類を有効にするため必要なその他の措置を執ることができる。
(a) いずれかの者により派遣国内における使用のため又は派遣国の法令に基づき必要とされる場合
(b) 派遣国の国民により派遣国以外の場所における使用のため必要とされる場合
(2) もつとも、証書又は文書に関連して領事官が(1)に定める行為を行なつた場合において、その証書又は文書が接受国内における使用のため又は接受国の法令に基づき必要とされるときは、接受国の当局は、接受国の法令に反しない限度において、その証書又は文書を有効なものと認める義務を負うものであることが了解される。
(3) (2)にいう証書又は文書が接受国の当局に提出される場合において、接受国の法令により必要とされるときは、その証書又は文書について法律上正当なものとする措置が執られるものとする。
第三十五条 接受国の権限のある当局は、派遣国の国民の死亡についての情報を入手したときは、できる限りすみやかに、これを領事館に通報するものとする。
第三十六条 (1) 派遣国の国民が接受国の領域内で死亡した場合において、その死亡した領域内に法定相続人又は遺言執行者がないときは、接受国の関係地方当局は、できる限りすみやかに、領事官に通報するものとする。
(2) 領事官は、関係司法当局の裁量の範囲内において、かつ、その時及びその場所で現に適用がある接受国の法令に基づき許容される場合において、次のことを行なうことができる。
(a) 死亡した派遣国の国民が法定相続人又は動産である遺産の管理のため指名した遺言執行者を接受国内に有しない場合に、その死亡した国民の遺産である動産を一時的に保管すること。ただし、その一時的保管は、管理者が正当に任命されたときは、その管理者に引き継がれるものとする。
(b) 死亡した派遣国の国民であつて、接受国内に遺言執行者及び法定相続人を有しないものの遺産を管理すること。ただし、その遺産を管理することを認められる場合にも、他の管理者が任命されたときは、領事官は、この管理をその管理者に引き継ぐものとする。
(c) 死亡した者(国籍のいかんを問わない。)の財産で接受国内にあるものに関する派遣国の国民の利益を、その国民が接受国内に居住していないことを条件として、その国民が他の方法で代表されていない限り、代表すること。ただし、この規定は、領事官に対し、弁護人として行動することを許すものではない。
(3) 領事官は、接受国の法令によつて禁止されない限り、派遣国の国民で接受国内に居住していないものに送付するため、その国民が他の者の死亡により受領する権利を有する金銭又は財産(遺産の取り分、労働者災害補償関係法令、恩給制度及び、一般に、社会福祉に関する制度に基づく支払並びに保険証券の収益を含む。)を、裁判所、公の機関又は配分を行なう者の裁量の範囲内で、受領することができる。裁判所、公の機関又は配分を行なう者は、領事官が次の事項に関して定められた条件に従うことを要求することができる。
(a) 前記の国民からの委任状その他の授権の文書の提示
(b) 前記の国民により前記の金銭又は財産が受領されたことの合理的な証拠の提供
(c) 前記の証拠を提供することができない場合における前記の金銭又は財産の返還
(4) (a) 派遣国の国民で接受国内に住所を有しないものが接受国内で旅行中又は通過中に死亡したときは、領事官は、死亡した国民が現に所持していた金銭及び物品を保全するため、直ちにそれらを保管する権利を有する。
(b) 領事官は、(a)にいう死亡した国民が個人的な使用のため現に所持していた金銭又は物品を、相続についての関係法令に従つて行なわれる処分のため、占有する権利を有する。ただし、その金銭又は物品を占有する権利については、接受国の法令に別段の定めがある場合を除くほか、(2)及び(3)の規定によるものとする。
(5) 第十八条及び第十九条の規定にかかわらず、領事官は、この条に規定する職務を遂行するときは、その遂行に関する限度において、接受国の法令及び民事上の管轄権に服するものとする。
第三十七条 (1) 接受国の法令に基づき、派遣国の国民又はその財産のために後見人又は管理人を選任する必要が生じたときは、領事官は、後見人又は管理人の資格で行動する適当な者を接受国の裁判所その他権限のある当局に推薦することができる。
(2) 裁判所その他権限のある当局が、なんらかの理由により、(1)に基づき推薦された者を後見人又は管理人として選任することができないときは、領事官は、その他の者を推薦することができる。
第三十八条 (1) 領事官は、その領事管轄区域内の港その他投錨地に入る派遣国の船舶に対して、すべての協力と援助を与える権利を有する。
(2) (1)にいう船舶が陸岸との自由な連絡を許されたときは、直ちに、領事官は、その船舶に乗り込むことができ、また、その船舶の長及び乗組員は、領事官と通信し、及びその領事官を訪問することができる。
(3) 領事官は、派遣国の船舶並びにその船舶の長及び乗組員に関する領事官の職務に関連するいかなる事項についても、接受国の権限のある当局の援助を要請することができる。
第三十九条 領事官は、その領事管轄区域内において、派遣国の船舶について、次のことを行なう権利を有する。
(a) 船舶の長及び乗組員を尋問し、その船舶の書類を検査し、その船舶の航行、航行中の事件及び目的地に関する陳述を行なわせ、並びにその船舶の入港、出港及び停泊について援助を与えること。
(b) 接受国の法令により認められるときは、船舶の長又は乗組員とともに接受国の司法当局及び行政当局に出頭し、並びにこれらの当局と船舶の長又は乗組員との間の問題に関し法律的援助をあつせんし、かつ、通訳として行動することを含め、その他の援助を与えること。
(c) 接受国の当局の権限を害することなく、派遣国の法令に従つて、船舶の長とその乗組員との間の紛争(賃金及び労務契約に関する紛争を含む。)の解決についてあつせんし、船舶の長及び乗組員の雇用及び解雇に関してあつせんし、並びに船舶の長に対してその職務の遂行に関して必要な援助を与えること。
(d) 船舶及び乗組員に関する派遣国の法令に定める届出書その他の文書を受理し、作成し又は施行すること。
(e) 船舶の長又は乗組員の送還及び病院における治療に関してあつせんその他の適当な措置を執ること。
第四十条 接受国の司法当局及び行政当局は、派遣国の船舶上でなんらかの強制措置を執り又はなんらかの正式の取調べを行なおうとするときは、適当な領事官にその旨を通報しなければならない。この通報は、緊急事態のために不可能である場合を除くほか、領事官又はこれに代わつて行動する者が現場に立ち会うことができるだけの時間的余裕があるように、行なわなければならない。領事官又はこれに代わつて行動する者が現場に立ち会わなかつた場合には、領事官は、要請を行なうことにより、前記の当局からどのようなことを行なつたかについての十分な情報を受けることができる。もつとも、この条の規定は、税関、出入国管理又は公衆衛生に関する通常の検査及び船舶の長の要請に基づき又はその同意を得て執られる措置については、適用しない。
第四十一条 (1) 派遣国の船舶が接受国内において難破、座礁その他の事故に遭遇したとき、又は第三国の遭難した船舶の貨物の一部をなす物品で派遣国の国民の財産であるものが接受国の海岸若しくはその附近で発見され、若しくは接受国の港に搬入されたときは、接受国の権限のある当局は、その旨をできる限りすみやかに領事官に通報するものとする。
(2) 接受国の権限のある当局は、派遣国の遭難した船舶、その船舶上にある者の生命及び貨物その他の船舶上の財産並びにその船舶に属し又はその貨物の一部をなす物品で船舶から分離されたものの保護のために執つた措置について、領事官に通報するものとする。
(3) 領事官は、派遣国の遭難した船舶及びその船舶上にある者に対し、すべての援助を与え、かつ、この目的で接受国の権限のある当局に援助を要請することができる。領事官は、また、(2)に規定する措置及び船舶の修復のための措置をみずから執り、又は接受国の権限のある当局に対してこれらの措置を執るように要請することができる。
(4) 派遣国の遭難した船舶又はその貨物に関連して、所有者又は所有者に代わつて行動する権限を有するいずれかの者が必要な取決めを行なうことができない立場にあるときは、領事官は、所有者に代わつてこの取決めを行なう権限を与えられているものとみなす。領事官は、また、同様の状況において、派遣国又はその国民が所有する貨物で接受国以外のいずれかの国の遭難した船舶から発見され、又は接受国の港に搬入されたものに関連して、所有者に代わつて取決めを行なう権限を与えられているものとみなす。
(5) 派遣国の遭難した船舶並びにその船舶の貨物その他の財産及び物品については、接受国内における使用又は消費のため引き渡された場合を除くほか、接受国内においていかなる関税その他の租税及びこれらに類する課徴金をも課してはならない。
第四十二条 第三十八条から第四十一条までの規定は、航空機(軍用航空機を除く。)について準用する。
第五部 最終規定
第四十三条 (1) この条約は、批准されなければならない。批准書は、モスクワで交換されるものとする。この条約は、批准書の交換の日の後三十日目の日に効力を生じ、五年間効力を存続する。
(2) この条約は、前記の五年の期間が満了する十二箇月前までに、一方の締約国が他方の締約国に対し、この条約を終了させる意思を通告しない限り、前記の期間が満了した後も、一方の締約国が他方の締約国に対して終了の意思を通告した日から十二箇月を経過するまで、効力を存続する。
以上の証拠として、両締約国の全権委員は、この条約に署名調印した。
千九百六十六年七月二十九日に東京で、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。
日本国のために
椎名悦三郎
ソヴィエト社会主義共和国連邦のために
A・グロムイコ
日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の領事条約の議定書
日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の領事条約(以下「条約」という。)に署名するにあたり、両締約国の下名の全権委員は、条約第三十二条の規定の適用に関し、条約の不可分の一部をなす次の諸規定を協定した。
1 派遣国の国民が逮捕され、又はその他の場合において拘禁されたことについての領事官に対する通報は、逮捕又は拘禁の時から、通信手段の状況に応じて一日から遅くとも三日までの期間内に行なわなければならない。
2 領事官が、派遣国の国民であつて逮捕され、又はその他の場合において拘禁されているものを訪問し及びその者と通信する権利は、逮捕又は拘禁の時から、その者が所在する場所に応じて二日から遅くとも四日までの期間内に行使することができるものとする。
3 領事官が、派遣国の国民であつて逮捕され、若しくはその他の場合において拘禁され、又は有罪の判決を受けて監獄で刑に服しているものを訪問し及びその者と通信する権利は、引き続いて行使することができるものとする。
以上の証拠として、両締約国の全権委員は、この議定書に署名調印した。
千九百六十六年七月二十九日に東京で、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。
日本国のために
椎名悦三郎
ソヴィエト社会主義共和国連邦のために
A・グロムイコ
(日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の領事条約の議定書に関する交換公文)
(ソヴィエト連邦側書簡)
書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、本日署名されたソヴィエト社会主義共和国連邦と日本国との間の領事条約の議定書に言及し、ソヴィエト社会主義共和国連邦の当局が、北西太平洋(日本海、オホーツク海及びベーリング海を含む。)において、領海規制の侵犯を理由として、逮捕し又は拘禁した日本国民に関し、議定書の規定の適用の方法について両国政府間で次の了解に到達したことを確認する光栄を有します。
1 ソヴィエト社会主義共和国連邦の当局が、北西太平洋において、領海規制の侵犯を理由として、日本国民を逮捕し又はその他の場合において拘禁したことについての在ソヴィエト連邦日本国大使館の領事部に対する通報は、逮捕又は拘禁の時から十日以内に行なわなければならない。
2(a) 領事職務を遂行する権限を与えられている在ソヴィエト連邦日本国大使館の構成員による1にいう国民の訪問は、各場合に外交上の経路を通じて両国間で合意されるところに従つて行なわれる。
(b) 前記の構成員は、公共の通信手段を通じ、書簡又は電報により1にいう国民と通信することができる。
3 この書簡のいかなる規定も、領海の範囲及び漁業管轄権に関する両国の立場になんらの影響を与えるものとみなしてはならない。
本大臣は、さらに、この書簡及び前記の了解を確認する閣下の返簡が、この問題に関する両国政府間の合意を構成するものとみなすことを提案する光栄を有します。
本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに閣下に向かつて敬意を表します。
千九百六十六年七月二十九日
ソヴィエト社会主義共和国連邦外務大臣
A・グロムイコ
日本国外務大臣 椎名悦三郎閣下
(日本側書簡)
書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、本日付けの閣下の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。
本大臣は、本日署名されたソヴィエト社会主義共和国連邦と日本国との間の領事条約の議定書に言及し、ソヴィエト社会主義共和国連邦の当局が、北西太平洋(日本海、オホーツク海及びベーリング海を含む。)において、領海規制の侵犯を理由として、逮捕し又は拘禁した日本国民に関し、議定書の規定の適用の方法について両国政府間で次の了解に到達したことを確認する光栄を有します。
1 ソヴィエト社会主義共和国連邦の当局が、北西太平洋において、領海規制の侵犯を理由として、日本国民を逮捕し又はその他の場合において拘禁したことについての在ソヴィエト連邦日本国大使館の領事部に対する通報は、逮捕又は拘禁の時から十日以内に行なわなければならない。
2(a) 領事職務を遂行する権限を与えられている在ソヴィエト連邦日本国大使館の構成員による1にいう国民の訪問は、各場合に外交上の経路を通じて両国間で合意されるところに従つて行なわれる。
(b) 前記の構成員は、公共の通信手段を通じ、書簡又は電報により1にいう国民と通信することができる。
3 この書簡のいかなる規定も、領海の範囲及び漁業管轄権に関する両国の立場になんらの影響を与えるものとみなしてはならない。
本大臣は、さらに、この書簡及び前記の了解を確認する閣下の返簡が、この問題に関する両国政府間の合意を構成するものとみなすことを提案する光栄を有します。
本大臣は、閣下の書簡に述べられた了解を確認し、かつ、閣下の書簡及びこの返簡がこの問題に関する両国政府間の合意を構成するものとみなすことに同意する光栄を有します。
本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに閣下に向かつて敬意を表します。
千九百六十六年七月二十九日
日本国外務大臣 椎名悦三郎
ソヴィエト社会主義共和国連邦外務大臣
A・グロムイコ閣下