第二次世界大戦の影響を受けた工業所有権の保護に関する日本国とスイス連邦との間の協定
第二次世界大戦の影響を受けた工業所有権の保護に関する日本国とスイス連邦との間の協定
 第二次世界大戦の影響を受けた工業所有権の保護に関する日本国とスイス連邦との間の協定
 日本国政府及びスイス連邦政府は、
 第二次世界大戦の影響を受けた工業所有権の保護に
 関する事項における相互の関係を規制することを希望するので、
 次の規定を協定した。
第一条
1 千九百三十四年六月二日にロンドンで改正された工業所有権保護に関するパリ同盟条約第四条の規定に定める発明の特許又は実用新案、工業的の意匠若しくはひな形若しくは商標の登録の後の出願のための優先期間で、千九百四十二年一月一日前に満了していないもの又は同日以後に開始し始め、且つ、千九百五十二年十二月三十一日以前に満了したものは、この協定の効力発生の日後六箇月を経過する日まで延長されるものとする。
2 1の規定による優先期間の延長の利益は、当該出願の際工業所有権保護に関するパリ同盟条約の加盟国であつた国における最初の出願に基いて許与されるものとする。
第二条
 第一条2の規定による最初の出願に基く優先権の主張をするためそれぞれの締約国の法令により許与される期限は、この協定の効力発生の日後六箇月を経過する日までの間、終了しないものとする。
第三条
 特許料又は登録料を納付しなかつたため千九百四十二年一月一日から千九百五十二年十二月三十一日までの間に消滅した特許権又は実用新案権若しくは意匠権は、この協定の効力発生の日後六箇月以内にその権利の回復が申請された場合において、当該申請の際その権利の最長存続期間が満了していないときは、滞納に係る特許料又は登録料を納付することによつて回復することができる。
第四条
 千九百四十一年一月一日からこの協定の署名の日までの間に善意で発明、実用新案若しくは工業的の意匠若しくはひな形を実施し、又はその実施のための必要な準備をした第三者は、それぞれの締約国の法令に従つてその実施を継続することができる。
第五条
1 千九百四十二年一月一日から千九百五十二年十二月三十一日までの間に満了した商標権の存続期間は、この協定の効力発生の日後六箇月以内にその更新登録が出願されたときは、更新することができる。この更新は、通常の存続期間の満了の時にさかのぼつて効力を生ずる。
2 各相手締約国の原簿に登録された商標で、1の規定による期間内に商標権の通常の存続期間が満了したものの所有者がこの協定の効力発生の日前にその商標の新たな登録の出願をしている場合において、この協定の効力発生の日後六箇月以内に、且つ、当該商標が登録される前にその者の申請があつたときは、その新たな登録は、通常の存続期間の満了の時にさかのぼつて効力を生ずる。
第六条
 第一条、第二条、第三条及び第五条に規定する利益は、権利の取得、存続又は更新のための法定の要件を満たすことができなかつたことが過失によるかどうかを問わず、許与されるものとする。また、それらの利益が許与されるに当つては、特別の手数料は、徴されないものとする。
第七条
1 この協定は、次の者に適用される。
(i) 住所のいかんを問わず、日本国又はスイスの国籍を有する自然人
(ii) 日本国又はスイスの法令に基いて設立された法人
2 第一条、第二条及び第六条に規定する利益は、1に掲げる者がそれらの者以外の者から第一条2の規定による最初の出願に基く権利を取得した場合には、通常の優先期間が満了する日以前にその権利を取得したときにのみ、1に掲げる者に許与されるものとする。
第八条
1 この協定の規定によりスイスの国籍を有する自然人及びスイスの法令に基いて設立された法人に許与される権利は、リヒテンシュタイン公国の自然人及び法人に対しても許与されるものとする。
2 この協定の規定により日本国の国籍を有する自然人及び日本国の法令に基いて設立された法人に許与される権利は、リヒテンシュタイン公国の領域においても享有することができる。
第九条
 この協定は、各締約国により、それぞれの国内法の規定に従つて承認されなければならない。この協定は、その承認を通知する公交の交換の日後十五日目に効力を生ずる。公文は、ベルヌで交換されるものとする。
 千九百五十三年六月二十五日に東京で、ひとしく正文である日本語及びフランス語により本書二通を作成した。
 日本国政府のために
岡崎勝男
 スイス政府のために
R・ホール
議定書
 本日、第二次世界大戦の影響を受けた工業所有権の保護に関する日本国とスイス連邦との間の協定(以下「協定」という。)に署名するに当つて、下名の代表者は、このために正当に権限を与えられて、次の条項を協定した。
1 協定第二条の規定は、協定の効力発生の日前のいずれかの時において、優先権の主張なしないで協定第一条1の規定による後の出願を行うすべての場合に適用するものとする。但し、後の出願に係る発明又は考案が、それぞれ特許又は登録されていない場合に限る。
2 協定第四条の規定による第三者は、主として、次のいずれかの場合において、発明、実用新案若しくは工業的の意匠若しくはひな形を実施し、又はその実施のための必要な準備をした者をいうものとする。
(i) 最初の出願に係る発明、実用新案若しくは工業的の意匠若しくはひな形に関係なく自ら発明し、若しくは考案した場合又は最初の出願に係る発明、実用新案若しくは工業的の意匠若しくはひな形に関係なく発明し、若しくは考案した者からこれを知得した場合
(ii) 最初の出願に係る発明、実用新案又は工業的の意匠若しくはひな形が、協定第一条1に規定する後の出願が行われる締約国において、その実施又はその準備を開始した際公然知られていた場合
(iii) 発明、実用新案若しくは工業的の意匠若しくはひな形の実施又はその準備を開始した際、特許権、実用新案権又は意匠権が消滅していた場合
 また、(i)に掲げる場合において、後の出願がこの協定の署名の日後行われるときは、協定第四条の規定による期間は、後の出願がされる時まで延長されるものとする。
3 協定第四条の規定によるそれぞれの締約国の法令の適用に当つては、次の了解に従うものとする。
(ⅰ) 善意の第三者は、発明、実用新案若しくは工業的の意匠若しくはひな形を従来実施し、又はその実施の準備をしたことについて、損害賠償、実施に対する報酬その他いかなる名義の補償金も請求されない。
(ⅱ) 善意の第三者は、例えば2(i)及び(ii)に掲げるような場合には、実施に対する報酬その他いかなる名義の補償金も支払わないで、その実施を継続し、又はその準備に基き実施を開始することができる。
4 協定第七条2の規定にかかわらず、協定第一条、第二条及び第六条に規定する利益は、いずれかの締約国の自然人及び法人で、締約国の双方が本日署名されたこの協定と同種の協定を既に締結した国又は今後締結する国の国籍を有する者から権利を取得したものにも許与されるものとする。
5 この議定書は、本日署名されたこの協定の不可分の一部をなすものとする。
 千九百五十三年六月二十五日に東京で、ひとしく正文である日本語及びフランス語により本書二通を作成した。
 日本国政府のために
岡崎勝男
 スイス政府のために
R・ホール
交 換 公 文
外務大臣からスイス特命全権公使にあてた書簡
 書簡をもつて啓上いたします。本日暑名された第二次世界大戦の影響を受けた工業所有権の保護に関する日本国とスイス連邦との間の協定に関して、本大臣は、次のように閣下に通報する光栄を有します。
 日本国政府は、この協定の規定が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約のいずれの規定の適用にも影響を与えないものと了解します。
 本大臣は、以上を申し進めますに際し、ここに重ねて閣下に向つて敬意を表します。
 千九百五十三年六月二十五日
 外務大臣
岡崎勝男
 日本国駐在スイス特命全権公使
ラインハルト・ホール閣下
 スイス特命全権公使から外務大臣にあてた書簡
 書簡をもつて啓上いたします。本使は、本日付の閣下の次の通り述べられた書簡を受領したことを通報する光栄を有します。
 本日署名された第二次世界大戦の影響を受けた工業所有権の保護に関する日本国とスイス連邦との間の協定に関して、本大臣は、次のように閣下に通報する光栄を有します。
 日本国政府は、この協定の規定が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約のいずれの規定の適用にも影響を与えないものと了解します。
 スイスは、中立国であり、前記の日本国との平和条約の署名国ではありません。従つて、スイスは、同条約を第三国間につくられた約束であると了解しております。
 本使は、以上を申し進めますに際し、ここに重ねて閣下に向つて敬意を表します。
 千九百五十三年六月二十五日
 スイス特命全権公使
R・ホール
 日本国外務大臣
岡崎勝男閣下