第二次世界大戦の影響を受けた工業所有権の保護に関する日本国とドイツ連邦共和国との間の協定
第二次世界大戦の影響を受けた工業所有権の保護に関する日本国とドイツ連邦共和国との間の協定
 日本国及びドイツ連邦共和国は、
 第二次世界大戦の影響を受けた工業所有権の保護に関する事項における相互の関係を規制することを希望するので、
 このため協定を締結することに決定し、次のとおりそれぞれの全権委員を任命した。
 日本国
 日本国外務事務次官 奥村勝蔵
 ドイツ連邦共和国
 ドイツ連邦共和国司法省局長 ドクトル ギュンター・ヨーエル
 これらの全権委員は、互にその全権委任状を示し、それが良好妥当であると認められた後、次の規定を協定した。
第一条
1 千九百三十四年六月二日にロンドンで改正された工業所有権保護に関するパリ同盟条約第四条の規定に定める発明の特許又は実用新案、工業的の意匠若しくはひな形若しくは商標の登録の後の出願のための優先期間で、千九百四十一年八月一日前に満了していないもの又は同日以後に開始し始め、且つ、千九百五十二年十二月三十一日以前に満了したものは、この協定の効力発生の日後六箇月を経過する日まで延長されるものとする。
2 1の規定による優先期間の延長の利益は、当該出願の際工業所有権保護に関するパリ同盟条約の加盟国であつた国における最初の出願に基いて許与されるものとし、その最初の出願には、千九百四十八年七月五日のドイツの法律に基いて設置されたベルリン及びダルムシュタットの受理官庁に対してされた最初の出願が含まれるものとする。
第二条
 第一条2の規定による最初の出願に基く優先権の主張をするためそれぞれの締約国の法令により許与される期限は、この協定の効力発生の日後六箇月を経過する日までの間、終了しないものとする。
第三条
 千九百四十年八月一日からこの協定の署名の日までの間に善意で発明、実用新案若しくは工業的の意匠若しくはひな形を実施し、又はその実施のための必要な準備をした第三者は、それぞれの締約国の法令に従つてその実施を継続することができる。
第四条
 権限のある官庁が、両締約国の法令で定める最初の出願に関する証明書を戦争の結果発給することができない旨を宣言したため、その証明書を差し出すことができない場合には、主張された優先権は、その最初の出願の内容及び日付が権限のある官庁の宣言により信用するに足るものである限り、認められるものとする。
第五条
1 千九百四十二年一月一日から千九百五十二年十二月三十一日までの間に満了した商標権の存続期間は、この協定の効力発生の日後六箇月以内にその更新登録が出願されたときは、更新することができる。この更新は、通常の存続期間の満了の時にさかのぼつて効力を生ずる。
2 各相手締約国の原簿に登録された商標で、1の規定による期間内に商標権の通常の存続期間が満了したものの所有者がこの協定の効力発生の日前にその商標の新たな登録の出願をしている場合において、この協定の効力発生の日後六箇月以内に且つ当該商標が登録される前にその者の申請があつたときは、その新たな登録は、通常の存続期間の満了の時にさかのぼつて効力を生ずる。
第六条
 第一条、第二条、第四条及び第五条に規定する利益は、権利の取得又は確保のための法定の要件を満たすことができなかつたことが過失によるかどうかを問わず、許与されるものとする。また、それらの利益が許与されるに当つては、特別な手数料は、徴されないものとする。
第七条
1 この協定は、次の者に適用される。
(i) 住所のいかんを問わず、日本国又はドイツの国籍を有する自然人
(ii) 日本国又はドイツの法令に基いて設立された法人
2 第一条、第二条、第四条及び第六条に規定する利益は、1に掲げる者がそれらの者以外の者から第一条2の規定による最初の出願に基く権利を取得した場合には、通常の優先期間が満了する日以前にその権利を取得したときにのみ、1に掲げる者に許与されるものとする。
3 第五条に規定する商標権の存統期間の更新の権利は、1に掲げる者から通常の存統期間が満了した商標権が帰属していた営業の全部又は一部を商標とともに譲り受けた1に掲げるその他の者にも許与されるものとする。
第八条
 この協定は、批准されなければならない。批准書は、すみやかにボンで交換されるものとする。この協定は、批准書の交換の日後十五日目に効力を生ずる。
 以上の証拠として、各全権委員は、この協定に署名した。
 千九百五十三年五月八日に東京で、ひとしく正文である日本語及びドイツ語により本書二通を作成した。
 日本国のために
奥村勝蔵
 ドイツ連邦共和国のために
ドクトルギュンター・ヨーエル
議定書
 本日、第二次世界大戦の影響を受けた工業所有権の保護に関する日本国とドイツ連邦共和国との間の協定(以下「協定」という。)に署名するに当つて、下名の全権委員は、協定の不可分の一部をなす次の条項を協定した。
1 協定第二条の規定は、千九百四十八年九月一日からこの協定の効力発生の日までの間のいずれかの時において、優先権の主張をしないで協定第一条1の規定による後の出願を行うすべての場合に適用するものとする。但し、後の出願に係る発明又は考案が、それぞれ特許又は登録されていない場合に限る。
2 協定第三条の規定による第三者は、主として、次のいずれかの場合において発明、実用新案若しくは工業的の意匠若しくはひな形を実施し、又はその実施のための必要な準備をした者をいうものとする。
(i) 最初の出願に係る発明、実用新案若しくは工業的の意匠若しくはひな形に関係なく自ら発明し、若しくは考案した場合又は最初の出願に係る発明、実用新案若しくは工業的の意匠若しくはひな形に関係なく発明し、若しくは考案した者からこれらを知得した場合
(ii) 最初の出願に係る発明、実用新案又は工業的の意匠若しくはひな形が、協定第一条1に規定する後の出願が行われる締約国において、その実施又はその準備を開始した際公然知られていた場合
 また、(i)に掲げる場合において、後の出願がこの協定の署名の日後行われるときは、協定第三条の規定による期間は、後の出願がされる時まで延長されるものとする。
3 協定第三条の規定によるそれぞれの締約国の法令の適用は、次の了解に従うものとする。
(i) 第三者は、発明、実用新案若しくは工業的の意匠若しくはひな形を従来実施し、又はその実施の準備をしたことについて、損害賠償、実施に対する報酬その他いかなる名義の補償金も請求されない。
(ii) 第三者は、実施に対する報酬その他いかなる名義の補償金も支払わないで、その実施を継続し、又はその準備に基き実施を開始することができる。
4 協定第七条2の規定にかかわらず、協定第一条、第二条、第四条及び第六条に規定する利益は、いずれかの締約国の自然人及び法人で、オーストリアの国籍を有する者又は締約国の双方が本日署名されたこの協定と同種の協定を既に締結した国若しくは今後締結する国の国籍を有する者から千九百五十二年八月十四日以前に権利を取得したものにも許与されるものとする。
5 協定のいかなる規定も、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約のいずれかの規定の適用に影響を与えるものと認めてはならない。
6 ベルリン地区は、この協定の適用を受けるものとする。
 以上の証拠として、各全権委員は、この議定書に署名した。
 千九百五十三年五月八日に東京で、ひとしく正文である日本語及びドイツ語により本書二通を作成した。
 日本国のために
奥村勝蔵
 ドイツ連邦共和国のために
ドクトル ギュンター・ヨーエル