領海の外側に位置する水域及びその上空における事故の予防に関する日本国政府とロシア連邦政府との間の協定
領海の外側に位置する水域及びその上空における事故の予防に関する日本国政府とロシア連邦政府との間の協定
日本国政府及びロシア連邦政府(以下「両締約国政府」という。)は、
領海の外側に位置する水域又はその上空における日本国の自衛隊及びロシア連邦の軍隊の艦船の航行及び航空機の飛行に関する安全を確保することを希望して、
次のとおり協定した。
第一条 1 この協定の適用上、
(a) 「艦船」とは、次のものをいう。
(i) 日本国については、その自衛隊に属する船舶であって、自衛隊の船舶であることを示す外部標識を掲げ、日本国政府によって正式に任命されてその氏名が幹部自衛官名簿に記載されている者の指揮の下にあり、かつ、自衛隊の紀律に服する乗組員が配置されているもの
(ii) ロシア連邦については、その軍隊に属する軍艦であって、ロシア連邦の軍隊の軍艦であることを示す外部標識を掲げ、ロシア連邦政府によって正式に任命されてその氏名が適当な軍役簿に記載されている士官の指揮の下にあり、かつ、正規の軍隊の紀律に服する乗組員が配置されているもの及びその軍隊に属する補助船舶であって、ロシア連邦の軍隊の補助船舶旗を掲げる権利を有するもの
(b) 「航空機」とは、人が乗って航空の用に供することができる機器(宇宙飛行機を含まず、また、空気より重いか又は軽いかを問わない。)であって、日本国についてはその自衛隊に、ロシア連邦についてはその軍隊に属するものをいう。
(c) 「飛行機等」とは、人が乗って航空の用に供することができる機器(宇宙飛行機を含まず、また、空気より重いか又は軽いかを問わない。)であって、(b)に定める航空機以外のものをいう。
(d) 「陣形」とは、一方の締約国政府の二又はそれ以上の艦船が制形されたもので、団体で進行し、斉一に運動するものをいう。
2 この協定は、領海の外側に位置する水域及びその上空で行動する両締約国政府の艦船及び航空機について適用する。
第二条 1 いずれの一方の締約国政府も、日本国及びロシア連邦が千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約の締約国である限り、自らの艦船の他方の締約国政府の艦船に対する行動に関して、同条約に添付されている千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則を構成する規則及び附属書(以下「衝突予防国際規則」という。)の規定を実施する義務を有することを確認する。
2 両締約国政府は、領海の外側に位置する水域における艦船の航行の自由及び領海の外側に位置する水域の上空における航空機の飛行の自由は、千九百五十八年四月二十九日にジュネーヴで作成された公海に関する条約を含む国際法の規則に従って行使されなければならないことを確認する。
第三条 1 いずれの一方の締約国政府の艦船も、他方の締約国政府の艦船に近接して航行する場合には、衝突予防国際規則の関連規定の下で一定の針路及び速力の保持が要求される場合を除くほか、衝突の危険を避けるため、十分な距離を保たなければならない。
2 いずれの一方の締約国政府の艦船も、他方の締約国政府の陣形に遭遇した場合又は他方の締約国政府の陣形に近接して航行する場合には、衝突予防国際規則に従って、当該陣形の運動を妨害するような行動を避けなければならない。
3 いずれの一方の締約国政府の陣形も、衝突予防国際規則第一条(d)の規定に基づいて国際海事機関が採択した分離通航方式が実施されている海域では、運動を実施しない。
4 いずれの一方の締約国政府の艦船も、他方の締約国政府の艦船の監視に従事する場合には、衝突の危険を避け得る距離にとどまらねばならず、また、自らの監視下にある当該他方の締約国政府の艦船の航行を危険に陥らせるような運動を避けなければならない。このため、そのような監視に従事している艦船は、衝突予防国際規則の関連規定の下で一定の針路及び速力の保持が要求される場合を除くほか、船舶の運用上の適切な慣行に従って、早期かつ大幅に動作をとらなければならない。
5 いずれの一方の締約国政府の艦船も、他方の締約国政府の艦船と互いに視野の内にある場合には、衝突予防国際規則、国際信号書及びこの協定の附属書の特別信号表に定める信号(旗旒、音響及び発光)によって自らの行動及び意図を当該他方の締約国政府の艦船に示さなければならない。夜間において又は昼間の視界が制限されている状態若しくは旗旒信号が判読できない日光の状態若しくは距離においては、発光信号又はVHF通信チャンネル一六(一五六・八メガヘルツ)が使用されなければならない。
6 いずれの一方の締約国政府の艦船も、次のことを行ってはならない。
(a) 他方の締約国政府の艦船又は航空機に対して砲、ミサイル発射装置、魚雷発射管その他の武器を指向することによる模擬攻撃
(b) 他方の締約国政府の艦船の航行にとり危険となるおそれのある物体を当該他方の締約国政府の艦船の方向に発射すること
(c) 他方の締約国政府の艦船の艦橋又は他方の締約国政府の飛行中の航空機の操縦室を照射するために探照灯その他の照明機器を使用すること
(d) 他方の締約国政府の艦船又は航空機の乗員又は搭載装備を害するような方法でレーザーを使用すること
(e) 他方の締約国政府の艦船又は航空機に向けて、当該他方の締約国政府の艦船の航行又は航空機の飛行にとり危険となるような方法で信号弾を発射すること
7 いずれか一方の締約国政府の艦船が当該一方の締約国政府の潜水艦で潜航中のものとともに訓練を行っている場合には、当該艦船は、当該訓練が行われている水域に潜水艦が存在することを他方の締約国政府の艦船に警告するために、国際信号書又はこの協定の附属書の特別信号表に定める適切な信号を行わなければならない。
8 いずれの一方の締約国政府の艦船も、他方の締約国政府の艦船であって衝突予防国際規則第三条(g)に定める操縦性能が制限されている船舶に該当するものに接近する場合には、当該他方の締約国政府の艦船の運動を妨害しないために適切な措置をとり、十分な距離を保たなければならない。
第四条 1 いずれの一方の締約国政府の航空機も、他方の締約国政府の艦船又は航空機に接近する場合には、相互の安全に十分な注意を払わなければならず、また、次のことを行ってはならない。
(a) 他方の締約国政府の艦船又は航空機に対する模擬攻撃
(b) 他方の締約国政府の艦船の上空における曲技飛行
(c) 他方の締約国政府の艦船の航行にとり危険となるおそれのある物体を当該他方の締約国政府の艦船の方向に発射すること
2 いずれの一方の締約国政府の航空機も、夜間において又は計器気象状態の下で飛行する場合には、可能な限り航法灯を点灯しなければならない。
3 いずれの一方の締約国政府の航空機も、相手国の領空又は他方の締約国政府の艦船若しくは航空機と接近するか又はその可能性がある場合には、VHF一二一・五メガヘルツ又は二四三・〇メガヘルツの周波数で聴守を行い、必要に応じ、同周波数で交信しなければならない。
第五条 1 いずれの一方の締約国政府の艦船又は航空機も、相手国の旗を掲げる船舶であって艦船以外のもの又は相手国において登録された飛行機等に対し、前二条において禁止された行動をとってはならない。
2 いずれの一方の締約国政府も、自国の旗を掲げる船舶であって艦船以外のもの及び自国において登録された飛行機等に対してこの協定の規定を知らせるため、適当な措置をとる。
第六条 いずれの一方の締約国政府も、自らの艦船又は航空機が領海の外側に位置する水域又はその上空における交通に危険を及ぼすおそれのある活動に従事する場合には、遅くとも当該活動の開始される日の三日前までに、海員及び航空従事者に対し情報と警報を与える既設の無線通信組織を通じて通告を行う。
第七条 1 両締約国政府は、両締約国政府の艦船又は航空機の間で衝突その他の事故が発生した場合には、可能な限り十分な関連の情報を速やかに交換する。日本国政府は、そのような情報を在日本国ロシア連邦大使館を通じて提供し、ロシア連邦政府は、そのような情報を在ロシア連邦日本国大使館を通じて提供する。
2 1の規定は、1に定める事故以外の海洋における事故であって、いずれか一方の締約国政府の艦船又は航空機が当事者であるものに関する情報を即時に受領することがいずれか一方の締約国政府にとって重要と判断される場合にも準用する。
第八条 1 両締約国政府は、この協定の附属書の特別信号表に定める信号を使用するための指導書を作成し、それぞれ自らの艦船及び航空機に対して配布する。
2 この協定の附属書は、この協定の不可分の一部を成す。
第九条 両締約国政府の代表者は、この協定の規定の実施状況を検討し、領海の外側に位置する水域における両締約国政府の艦船の航行及び領海の外側に位置する水域の上空における両締約国政府の航空機の飛行に関するより高度な安全性を確保するため、相互の合意に基づき毎年交互に東京及びモスクワで会合する。
第十条 この協定の規定は、両締約国政府により、それぞれ自国の関係法令に従って実施される。
第十一条 この協定は、署名の日の後三十日で効力を生じ、いずれか一方の締約国政府がこの協定を終了させる意思を他方の締約国政府に対し書面により通告した日から六箇月の期間が満了するまで引き続き効力を有する。
千九百九十三年十月十三日に東京で、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。
日本国政府のために 羽田 孜
ロシア連邦政府のために A・V・コズィレフ
附属書
特別信号表
以下の信号は、「YV1」を前につづらなければならない。
信 号 意 味
IR1 私は、海洋調査作業に従事している。
IR2(…) 私は、船尾から…メートルにわたり、水路調査機器を流している/曳航している。
IR3 私は、水路調査機械を揚収中である。
IR4 私は、海難救助(サルベージ)作業を実施中である。
JH1 私は、乗上げ船の引き降ろしを試みている。
MH1 私の針路前方を横切らないようにされたい。
NB1(…) 私には、私から見る指示方向…(国際信号書、一般部門の補足語表III)に、私と結合されていない水路調査機器がある。
PJ1 私は、右に変針できない。
PJ2 私は、左に変針できない。
PJ3 私は、舵故障中。注意あれ。
PP8(…) 危険な作業実施中につき、私から見る指示方向…(国際信号書、一般部門の補足語表III)を避けられたい。
QF1 私は、機関を停止した。注意あれ。
QS6(…) 私は、針路…で錨地向け進航中。
QV2 私は、二個以上の錨又は浮標で前後部を係留している。私を避けられたい。
QV3 私は、深海投錨して、水路調査機器を流している。
RT2 私は、あなたの左弦側を航過するつもりである。
RT3 私は、あなたの右弦側を航過するつもりである。
RT4 私は、あなたの左弦側を追い越そうとしている。
RT5 私は、あなたの右弦側を追い越そうとしている。
RT6(…) 陣形運動中につき、私から見る指示方向…(国際信号書、一般部門の補足語表III)を避けられたい。
RT7(…) 私は、あなたの右弦側に…百メートル(ヤード)の距離まで接近する。
RT8(…) 私は、あなたの左弦側に…百メートル(ヤード)の距離まで接近する。
RT9(…) 私は、あなたの後方を…百メートル(ヤード)の距離をもって横切る。
RU2(…) 私は、約…分後に、左回頭を開始する。
RU3(…) 私は、約…分後に、右回頭を開始する。
RU4 本陣形は、針路左転の準備中である。
RU5 本陣形は、針路右転の準備中である。
RU6 私は、運動訓練中につき、本陣形の中に入るのは危険である。
RU7 私は、潜水準備中である。
RU8 私から二海里の圏内には、三十分以内に潜水艦が浮上する。あなたは、これを避けられたい。
SL2 あなたの針路、速力、通航意図を知らされたい。
TX1 私は、漁業パトロールに従事中である。
UY1(…) 私は、針路…で、航空機の発艦/着艦準備中である。
UY2(…) 私は、ミサイル訓練実施準備中である。あなたは、私から見る指示方向…(国際信号書、一般部門の補足語表III)を避けられたい。
UY3(…) 私は、射撃訓練実施準備中である。あなたは、私から見る指示方向…(国際信号書、一般部門の補足語表III)を避けられたい。
UY4 私は、爆発物の使用を伴う作業の実施準備中/実施中である。
UY5(…) 私は、私から見る指示方向…(国際信号書、一般部門の補足語表III)において、魚雷発射訓練の準備行動中である。
UY6(…) 私は、針路…で、洋上補給実施準備中/実施中である。あなたは、これを避けられたい。
UY7(…) 私は、上陸作戦訓練のため、大規模な小型船艇の行動準備中である。私から見る指示方向…(国際信号書、一般部門の補足語表III)を避けられたい。
UY8(…) 私は、上陸用舟艇/ボートの発艦/着艦のため行動中である。私から見る指示方向…(国際信号書、一般部門の補足語表III)を避けられたい。
UY9 私は、船尾上でへリコプター飛行作業の実施準備中/実施中である。
UY10* 私は、砲システムを試験中である。
UY11* 私は、ミサイル・システムを試験中である。
UY12(…) 私は、曳航標的に対して、航空機からの射撃/爆撃訓練を実施準備中/実施中である。私から見る指示方向…(国際信号書、一般部門の補足語表III)を避けられたい。
ZL1 私は、あなたの通信を受信し、了解した。
ZL2 あなたは、了解したか。返答されたい。
ZL3 私は、あなたの通信を受信したが、了解できない。 *:これらの信号は、通常の砲又はミサイル・システム点検を実施するとき、艦船によって送信される。