科学技術協力に関する日本国政府とフランス共和国政府との間の協定
科学技術協力に関する日本国政府とフランス共和国政府との間の協定
 日本国政府及びフランス共和国政府(以下「両締約国政府」という。)は、
 千九百七十四年七月二日に署名された日本国政府とフランス共和国政府との間の科学技術協力協定(以下「旧協定」という。)の目的を想起し、
 両国間の緊密かつ友好的な間係を一層促進することを希望し、また、科学的知識の急速な拡大並びにそれが二国間の及び国際的な協力の促進において果たしている積極的な貢献を認識し、
 革新及び成果をもたらす科学技術に係る機会を両国のみならず人類の利益のために利用するための共同の努力を行うことを決意し、
 科学技術に関する実りのある協力は、両国の研究者の間の緊密かつ長期的な協力に基礎を有すべきことを確信し、
 協力から生ずる革新の価値を保持するために、知的所有権の保護の確保が重要であることを強調し、
 両締約国政府間の科学技術協力のための適切な枠組みを設定し、かつ、平和目的のために同協力を強化することを希望して、
 次のとおり協定した。
第一条
1 両締約国政府は、相互に合意される科学技術分野において、平和目的のため、相互のかつ衡平な貢献及び利益を基礎に、協力活動を行う。
2 両締約国政府は、科学技術に関する重要事項及び両国間の全般的科学技術関係(大規摸な計画及び研究開発における主要な施策についての協力を含む。)に関連する政策的事項を討議し及び研究することを奨励される。
第二条
1 協力の主要分野は、第五条に定める合同委員会において討議する。
2 この協定に基づく協力活動の形態には、次のものを含むことができる。
(a) 一般的な又は特定の問題の科学的及び技術的側面に関する討議及び情報の交換を行うための並びに協力を基礎として有益に実施することができる研究開発に関する計画を識別するための、専門家の会合のような各種の形態の会合
(b) 研究開発に関する活動、政策、慣行及び法令に関する情報の交換
(c) 一般的な又は特定の問題に関する科学者、技術者その他の専門家の訪問及び交流
(d) 合意された協力計画の実施
(e) 相互に合意されるその他の形態の協力活動
第三条
1 この協定に基づく協力活動のための実施取極は、協力の具体的な事項を定めるため、両締約国政府又は両締約国政府の適当な機関を当事者として、この協定に従い行うことができる。
2 両締約国政府又は両締約国政府の機関は、この協定に基づく協力活動に関し、適当な場合には、いかなる分野における研究機関(大学、国立研究所及び民間部門を含む。)の研究者及び組織の参加も認めることができる。
3 第五条に定める合同委員会は、1にいう取極の締結及びその実施について定期的に通報を受ける。
第四条
 いずれの一方の締約国政府も、主要な政府支援研究開発計画を通じて自国の研究者又は組織により作成された科学技術に係る刊行物が、相互に合意される集中的情報源を通じ、他方の国の研究者又は組織にとって入手可能なものとなるよう努める。
第五条
1 両締約国政府は、この協定を効果的に実施するため、合同委員会を設置するものとし、その任務は、次のとおりとする。
(a) 科学技術政策問題に関する情報及び意見を交換すること。
(b) この協定に基づく協力活動及び成果を検討し討議すること。
(c) この協定の実施に関して、協力計画に関する提案を準備し、これらの提案を両締約国政府に提示すること。
2 合同委員会は、相互に合意される時期に日本国及びフランス共和国において交互に会合する。
3 特定の協力の分野における協力活動を調整し及び推進するため、必要に応じ、合同委員会の下に専門部会を設置することができる。
4 両締約国政府の高いレベルの代表は、次のことを目的として、相互に合意される時期に会合する。
(a) 両国間の全般的科学技術関係を検討すること。
(b) (a)にいう関係を強化する方策を討議すること。
(c) この協定の実施に関する政策指針を討議すること。
5 両締約国政府は、相互に合意される時期に会合する合同諮問委員会を設置する。合同諮問委員会は、両国間の全般的科学技術関係の検討を行い、当該関係に関して、両締約国政府の高いレベルの代表に勧告することをその任務とする。
 合同諮問委員会は、両締約国政府によりそれぞれ指名される学界、産業界等を代表する両国の科学技術界の著名な指導者で構成される。
6 合同委員会の会合が開催されていない期間中のこの協定の実施のための両締約国政府間の連絡は、外交上の経路を通じて行う。
第六条
1 この協定に基づく協力活動から生ずる非所有権的性格の科学的及び技術的情報は、通常の経路を通じ、かつ、参加機関の一般的な手続に従い、各締約国政府が一般の利用に供することができる。
2 各締約国政府は、自国の法令並びに日本国及びフランス共和国が現在締結しているか又将来締結する国際協定に従って、次のことを確保する。両締約国政府は、必要に応じ、この目的のために相互に協議する。
(a) この協定に基づく協力活動の過程において生ずる知的所有権及び所有権的性格を有する他の権利であって、この協定の不可分の一部である附属書(以下「附属書」という。)に定めるものの十分かつ効果的な保護及び衡平な配分
(b) この協力に基づく協力活動の過程において導入される知的所有権及び所有権的性格を有する他の権利であって、附属書に定めるものの十分かつ効果的な保護
3 2に規定する知的所有権及び所有権的性格を有する他の権利の保護及び配分のための細目及び手続は、附属書に規定する。附属書の規定は、協力活動の当事者が個別の実施取極又は他の方法により別段の合意をする場合を除くほか、この協定に基づく協力活動に適用する。実施取極は、また、附属書の規定の詳細を定めることができる。
第七条
 この協定の実施は、関係予算及びそれぞれの国において施行されている法令に従うことを条件とする。
第八条
 各締約国政府は、この協定に基づく協力活動を遂行する者にすべての可能な便宜を与える。
第九条
1 この協定は、旧協定に代わるものとする。旧協定の下で行われてきた協力活動及ひ実施取極は、合同委員会における討議を通じて別段の合意が行われる場合を除くほか、この協定の下で実施される。
2 この協定のいかなる規定も、両締約国政府間の協力に関する他の協定でこの協定の署名の日に存在するもの又はその後締結されるものに影響を及ぼすものと解してはならない。
第十条
1 この協定は、署名の日に効力を生ずる。この協定は、五年間効力を有し、その後は、最初の五年の期間の終わりに又はその後いつでも、いずれか一方の締約国政府が他方の締約国政府に対しこの協定を終了させる意思を少なくとも六箇月の事前の予告をもって書面により通告することによって終了させられない限り、効力を存続する。
2 この協定の終了は、この協定に基づいて行われかつこの協定の終了の時までに履行を完了していないいかなる計画の実施にも影響を及ぼすものではない。
 千九百九十一年六月五日にパリで、ひとしく正文である日本語及びフランス語により本書二通を作成した。
 日本国政府のために
中山太郎
 フランス共和国政府のために
ローラン・デュマ
附属書 知的所有権及び所有権的性格を有する他の権利の保護及び配分
1 商業上の秘密である情報
A この附属書の適用上、「商業上の秘密である情報」とは、次のすべての条件に合致するノウハウ、技術的資料又は技術的、商業的若しくは財政上の情報をいう。
(i) 商業上の理由により通例秘密とされていること。
(ii) 一般的に知られておらず、又は他の情報源から公然に入手することができないこと。
(iii) 所有者により、秘密に保持することに関する義務を負わせることなしに他の者の利用に供されていないこと。
(iv) 秘密に保持することに関する義務を負うことなしに受領者の保有するところとなっていないこと。
B いかなる商業上の秘密である情報も、この協定に基づく協力活動の両当事者間の書面による相互の合意がある場合にのみ提供されるものとし、当該情報がこの協定に基づく協力活動の過程において創出されたものである場合には、当該情報は、同様の条件により移転される。提供され又は移転された商業上の秘密である情報は、それぞれの国の法令に従って十分な保護を与えられる。
C いかなる商業上の秘密である情報も、この協定に基づく協力活動の過程において提供される場合には、提供に先立って適切に指定されるものとし、また、商業上の秘密である情報が創出される場合には、創出された後直ちに適切に指定される。当該情報を指定する責任は、情報を提供し、又は情報が保護されるべきであると主張する協力活動の当事者が負う。指定されていない情報は、保護されるべき情報には当たらないと推定される。もっとも、協力活動の一方の当事者は、他方の当事者に対し、情報の提供又は移転の後妥当な期間内に、当該指定されていない情報が自国の法令に基づく商業上の秘密である情報である旨を書面により通知することができる。通知が行われた場合には、当該情報は、その後、1Bの規定に従って保護される。
2 知的所有権の帰属
 知的所有権の帰属は、各締約国政府とその国の国民との間においては、当該国の国内法令及び慣行に従って決定される。
3 発明
A この附属書の適用上、「発明」とは、この協定に基づく協力活動の過程において行われた発明であって、日本国、フランス共和国又は第三国の法律に基づいて、特許を得ることができるもの若しくは得る可能性があるもの又は他の形態の保護を得ることができるもの若しくは得る可能性があるものをいう。
B 発明に関し、協力活動の当事者は、次のことを実現することを目的として、それぞれ自国の国内法令に従って、適当な措置をとる。
(i) この協定に基づく協力活動のうち、合同会議、セミナー又は技術的報告書若しくは文書の交換等、当事者間の情報の移転又は交換のみを伴う協力活動の結果として発明が行われる場合(適用可能な実施取極に別段の定めがある場合を除く。)
(a) 発明をした者の属する当事者(以下「発明側当事者」という。)又は発明をした者(以下「発明者」という。)が、すべての国において当該発明に係るすべての権利及び利益を取得する権利を有する。
(b) 発明側当事者又は発明者がいずれかの国における当該発明に係る権利及び利益を取得しないと決定したときは、他方の当事者は、当該権利及び利益を当該国において取得する権利を有する。
(ii) 科学者及び技術者の訪問又は交換のみを伴う協力活動の計画の過程において、一方の当事者(派遣側当事者)の職員が他方の当事者(受入側当事者)に派遣されている間に発明を行う場合
(a) 受入側当事者が当該協力活動の計画に主要かつ実質的な貢献を行うことが予想される場合には、
i 受入側当事者が、すべての国において当該発明に係るすべての権利及び利益を取得する権利を有し、
ii 受入側当事者がいずれかの国における当該発明に係る権利及び利益を取得しないと決定したときは、派遣側当事者又は発明者は、当該権利及び利益を当該国において取得する権利を有する。
(b) (a)の場合に該当しない場合には、
i 受入側当事者が、自国及び第三国において当該発明に係るすべての権利及び利益を取得する権利を有し、
ii 派遣側当事者又は発明者が、自国において当該発明に係るすべての権利及び利益を取得する権利を有し、
iii 受入側当事者がいずれかの国における当該発明に係る権利及び利益を取得しないと決定したときは、派遣側当事者又は発明者は、当該権利及び利益を当該国において取得する権利を有する。
(iii) 合意された研究活動範囲の存在する共同計画等(i)及び(ii)以外の形態の協力活動に関する当事者間の個別の取極は、当該活動の結果行われる発明に係る権利について、衡平の原則に基づいて相互に合意する配分を規定する。
(iv) 発明側当事者は、他方の当事者に対し発明を速やかに開示するものとし、他方の当事者が潜在的に有する権利を確定することを可能にするために必要なあらゆる資料又は情報を当該他方の当事者に提供する。発明側当事者は、発明に関連する自己の権利又は発明者の権利を保護するため、他方の当事者に対し、当該資料又は情報の出版又は一般公開を遅らせるよう、書面により要請することができる。書面による別段の合意がない限り、当該出版又は一般公開に対する制限は、当該資料又は情報の伝達の日から六箇月を超えないこととする。
4 著作権
 この協定に基づく協力活動の過程において創出される著作物であって著作権による保護の対象とされるものに係る権利の配分は、関係実施取極において決定される。協力活動の当事者は、この協定に基づく協力活動の過程において創出される著作物に係る著作権を保護するため、それぞれ自国の国内法令に従って、適当な措置をとる。
5 その他の形態の知的財産
 この協定に基づく協力活動の過程において生ずるその他の形態の知的財産(半導体集積回路配置を含む。)であっていずれかの締約国の法律により保護されるものに係る権利の配分は、それぞれ自国の法令に従い、衡平の原則に基づいて決定する。
6 協力
 協力活動の各当事者は、この附属書の規定を実施するために必要な著作者及び発明者による協力が提供されるよう、自国の法令に従って、あらゆる必要かつ適当な措置をとる。協力活動の各当事者は、その職員に対し自国の法令に従って支払われる可能性のあるあらゆる報酬又は補償について、すべての責任を負う。もっとも、この附属書の規定は、当該報酬又は補償を受ける権利を生じさせるものではない。