捕虜収容所に収容されていた者に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定
捕虜収容所に収容されていた者に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定
日本国政府及びソヴィエト社会主義共和国連邦政府(以下「ソ連邦政府」という。)は、
人道的観点に立脚し、
両国民間の真の相互理解及び相互信頼の強化を目指し、
一方の国の国民で他方の国の捕虜収容所に収容されていた者(当該収容所で死亡した者(以下「日本人死亡者」又は「ロシア人死亡者」という。)を含む。)に係る問題を速やかに処理することが、この目的に資するものであることを確信して、次のとおり協定した。
第一条 ソ連邦政府は、次の措置を実施する。
1 日本人死亡者の名簿であって以前に公式の経路を通じて提出が行われていないものを日本国政府に対して提出すること。提出する名簿には、可能な範囲で、氏名、生年月日、出生地又は本籍地、死亡年月日、死亡地、死亡原因及び埋葬地に関する記載が含まれる。
2 日本人死亡者の埋葬地に関する資料であって以前に公式の経路を通じて提出が行われていないものを日本国政府に対して提出すること。提出する資料には、可能な範囲で、埋葬地の所在地及び埋葬者数に関する記載並びに埋葬地の見取図及びその状況を示す写真が含まれる。
3 日本国政府の要請に応じ、日本人死亡者の遺骨のうちその引渡しが可能なものはすべて同政府に対して引き渡されることを容易にすること。日本人死亡者の遺骨の発掘及び引渡しの手続並びにこれに係る費用の額は、外交経路を通じて決定される。当該遺骨の発掘及び引渡しに係る費用は、日本国政府によって、日本国の法令に従って負担される。
ソ連邦政府にとって日本人死亡者の遺骨の埋葬地を移転する必要性が生ずる場合には、その旨を日本国政府に対して通報すること。
4 日本人死亡者の埋葬地が適切な状態に保たれるよう努めること。
5 捕虜収容所に収容されていた日本国民の所持品のうち、ソヴィエト社会主義共和国連邦の公の機関により保有されているもの及び将来見いだされるものを、日本国政府又は同政府が指定する団体に対して引き渡すこと。当該所持品の引渡しの手続及びこれに係る費用の額は、外交経路を通じて決定される。
6 1に規定する名簿に加え、捕虜取容所に収容されていた日本国民について所持するすべての名簿を日本国政府に対して提出すること。提出する名簿には、可能な範囲で、氏名、生年月日及び出生地又は本籍地に関する記載が含まれる。
第二条 日本国政府は、次の措置を実施する。
1 ロシア人死亡者の名簿であって以前に公式の経路を通じて提出が行われていないものをソ連邦政府に対して提出すること。提出する名簿には、可能な範囲で、氏名、生年月日、出生地又は本籍地、死亡年月日、死亡地、死亡原因及び埋葬地に関する記載が含まれる。
2 ソ連邦政府の要請に応じ、ロシア人死亡者の遺骨のうちその引渡しが可能なものはすべて同政府に対して引き渡されることを容易にすること。当該遺骨の発掘及び引渡しに係る費用は、ソ連邦政府によって、ソヴィエト社会主義共和国連邦の法令に従って負担される。
3 ロシア人死亡者の墓地が適切な状態に保たれるよう努めること。
第三条 いずれか一方の国の政府が自国民たる日本人死亡者又はロシア人死亡者のために他方の国内に慰霊碑を建立することを当該他方の国の政府に対して要請する場合には、当該他方の国の政府は、その実現のため可能な範囲で必要な協力を行う。
その要請の検討及び実現に関連する問題は、外交経路を通じて決定される。
第四条 いずれか一方の国の政府の代表団、団体又は個人が他方の国内にある自国民たる日本人死亡者又は口シア人死亡者の埋葬地への墓参を行う場合には、当該他方の国の政府は、当該墓参の実施のために必要な便宜を与える。
第五条 両政府は、それぞれの国の法令に従い、この協定に定める諸措置を遅滞なく実施する。
第六条 両政府は、この協定の規定の実施に際して問題が生ずる場合には、外交経路を通じて遅滞なくこれを解決するよう努める。
第七条 この協定は、署名の日に効力を生ずる。
千九百九十一年四月十八日に東京で、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。
日本国政府のために 中山太郎
ソヴィエト社会主義共和国連邦政府のために ア・ア・ベススメルトヌィフ