社会保障に関する日本国政府とフランス共和国政府との間の協定
社会保障に関する日本国政府とフランス共和国政府との間の協定
日本国政府及びフランス共和国政府は、
社会保障の分野における両国間の関係を規律することを希望して、
次のとおり協定した。
第一章 総則
第一条 定義
1 この協定の適用上、
(a) 「フランス」とは、地理的意味で用いる場合には、フランス共和国のうちのヨーロッパ県及び海外県(これらの県に係る領海を含む。)並びにこれらの県の外側に位置する水域でフランス共和国が国際法に基づき海底及びその下にある天然資源の探査及び開発のための主権的権利を有する水域をいう。
(b) 「日本国」とは、地理的意味で用いる場合には、日本国の領域をいう。
(c) 「一方の締約国」及び「他方の締約国」とは、文脈により、日本国又はフランスをいう。
(d) 「国民」とは、日本国については、日本国の国籍に関する法律にいう日本国民をいい、フランスについては、フランスの国籍を有する者をいう。
(e) 「法令」とは、日本国については、次条2に掲げる日本国の年金制度、医療保険制度及び労働災害保険制度に関する法律及び規則(この協定と同種の社会保障に関する他の協定の実施のために定めた法律及び規則を除く。)をいい、フランスについては、次条1に掲げる法令をいう。
(f) 「権限のある当局」とは、日本国については、次条2に掲げる日本国の年金制度、医療保険制度及び労働災害保険制度を管轄する政府機関をいい、フランスについては、次条1に掲げる法令の実施に責任を有する大臣をいう。
(g) 「実施機関」とは、日本国については、次条2に掲げる日本国の年金制度、医療保険制度及び労働災害保険制度の実施に責任を有する保険機関(その連合組織を含む。)をいい、フランスについては、次条1に掲げる法令が適用されるそれぞれの場合において、その適用に責任を有する機関又は組織及び第二十三条(b)に規定する連絡機関をいう。
(h) 「保険期間」とは、日本国については、日本国の法令のうち次条2(A)(a)及び(b)に掲げる日本国の年金制度に関するものによる保険料納付期間、保険料免除期間及び合算対象期間をいい、フランスについては、フランスの法令により保険期間として認められる保険料納付期間及びフランスの法令において保険期間に準ずる期間とされる期間をいう。
(i) 「被扶養者」とは、日本国については、日本国の法令の適用を受けているか又は受けたことがある者に由来する給付を受ける権利を有する家族及び遺族をいい、フランスについては、フランスの法令により被扶養者と認められる者をいう。
2 この協定の適用上、この協定において定義されていない用語は、適用される一方又は他方の締約国の法令において与えられている意味を有するものとする。
第二条 この協定の適用範囲
この協定は、
1 フランスについては、次に掲げる法令について適用する。
(A) 社会保障に係る組織に関する法令
(B) 次の者に適用される社会保険制度に関する法令(フランスの外に居住するフランス国民であって就労するもの及びその被扶養者の任意加入に関する規定を除く。)
(a) 農業以外の職業に従事する被用者
(b) 農業に従事する被用者
(c) 農業以外の職業に従事する自営業者(老齢保険補足制度及び障害・死亡保険制度に関するものを除く。)
(d) 農業に従事する自営業者
(e) その他の制度に属する自営業者及びそれに準ずる者
(C) 労働災害保険制度に関する法令
(D) 被用者及び船員の社会保障に係る特別制度に関する法令(公務員及び軍人に関する特別制度を除く。) ただし、無拠出制による給付は、この協定の適用対象とはしない。また、第十二条から第二十二条まで、第二十六条(3を除く。)、第二十七条(1を除く。)及び第二十九条(1を除く。)の規定は、医療保険制度に関する法令には適用せず、第十三条から第二十二条まで、第二十六条(3を除く。)、第二十七条(1を除く。)及び第二十九条(1を除く。)の規定は、労働災害保険制度に関する法令には適用しない。
2 日本国については、
(A) 次の年金制度について適用する。
(a) 国民年金(国民年金基金を除く。)
(b) 次に掲げる被用者年金制度
(i) 厚生年金保険(厚生年金基金を除く。)
(ii) 国家公務員共済年金
(iii) 地方公務員等共済年金(地方議会議員の年金制度を除く。)
(iv) 私立学校教職員共済年金
(B) 次の法律により実施される医療保険制度について適用する。
(a) 健康保険法(大正十一年法律第七十号)
(b) 船員保険法(雇用保険及び労働災害保険に関する規定を含む。)(昭和十四年法律第七十三号)
(c) 国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)
(d) 国家公務員共済組合法(昭和三十三年法律第百二十八号)
(e) 地方公務員等共済組合法(昭和三十七年法律第百五十二号)
(f) 私立学校教職員共済法(昭和二十八年法律第二百四十五号)
(C) 労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)により実施される労働災害保険制度について適用する。 ただし、国民年金には、老齢福祉年金その他の福祉的目的のため経過的又は補完的に支給される年金であって、専ら又は主として国庫を財源として支給されるものを含めない。また、第十二条から第二十二条まで、第二十六条(3を除く。)、第二十七条(1を除く。)及び第二十九条(1を除く。)の規定は、医療保険制度には適用せず、第六条から第十一条まで、第十三条から第二十二条まで、第二十六条、第二十七条及び第二十九条(1を除く。)の規定は、労働災害保険制度には適用しない。
第三条 この協定の適用を受ける者
この協定は、その国籍のいかんを問わず、いずれか一方の締約国の法令の適用を受けているか又は受けたことがある者及び被扶養者に適用する。
第四条 待遇の平等
この協定の規定に従うことを条件として、前条に規定する者であって一方の締約国内に通常居住するものは、当該一方の締約国の法令の適用に際して、当該一方の締約国の国民と同等の待遇を受ける。
第二章 適用法令に関する規定
第五条 被用者及び自営業者に関する一般規定
この協定に別段の定めがある場合を除くほか、いずれか一方の締約国内において被用者又は自営業者として就労する者に係る両締約国の法令における強制加入(以下「強制加入」という。)に関しては、その被用者又は自営業者としての就労については、当該一方の締約国の法令のみを適用する。
第六条 特定の被用者に関する特別規定
強制加入に関しては、前条の規定にかかわらず、1から4までの規定を適用する。
1 被用者に適用される一方の締約国の法令に基づく制度に加入し、かつ、当該一方の締約国内に事業所を有する雇用者に雇用されている者が、当該雇用者により当該一方の締約国から他方の締約国内において当該雇用者のために就労するために五年を超えないと見込まれる期間派遣される場合には、その被用者が当該一方の締約国内において就労しているものとみなして当該一方の締約国の法令のみを適用する。
2 1の規定は、雇用者により一方の締約国から第三国に派遣されていた被用者が、その後、当該雇用者により当該第三国から他方の締約国に派遣される場合にも適用される。
3 1の規定の適用を受けた被用者は、直近の就労期間が終了した時点から次の就労期間が開始する時点までの間に少なくとも一年が経過していない場合には、1の規定の適用を再度受けることができない。
4 日本国からフランスに派遣される被用者に対する1及び2の規定の適用に当たっては、当該被用者が労働災害に対する保険に加入していることを条件とするものとし、当該条件が満たされない場合には、フランスの法令を適用する。
第七条 船舶において就労する被用者又は自営業者
強制加入に関しては、同時に両締約国の法令の適用を受ける者がいずれか一方の締約国の旗を掲げる海上航行船舶において被用者又は自営業者として就労する場合については、その者は、当該一方の締約国内において就労しているものとみなす。ただし、一方の締約国の旗を掲げる海上航行船舶において被用者として就労している者であって、その就労につき他方の締約国内に所在する企業又は居住する者(以下「企業等」という。)から報酬を得ているものが当該他方の締約国内に居住する場合には、当該他方の締約国の法令が適用される。この場合において、当該報酬を支払う企業等は、当該他方の締約国の法令の適用を受ける雇用者とみなす。
第八条 外交官及び領事官並びに公務員及び公務員として取り扱われる者
1 この協定は、千九百六十一年四月十八日の外交関係に関するウィーン条約又は千九百六十三年四月二十四日の領事関係に関するウィーン条約の規定に影響を及ぼすものではない。
2 強制加入に関しては、1の規定に従うことを条件として、一方の締約国の公務員又は一方の締約国の法令において公務員として取り扱われる者が他方の締約国内において就労するために派遣される場合には、その者が当該一方の締約国内において就労しているものとみなして当該一方の締約国の法令のみを適用する。
第九条 第五条から前条までの規定の例外
強制加入に関しては、第六条4に規定する条件を満たすことを条件として、両締約国の権限のある当局又は権限のある当局が指定する実施機関は、特定の者又は特定の範囲の者の利益のため、これらの特定の者又は特定の範囲の者にいずれか一方の締約国の法令が適用され、かつ、これらの特定の者又は特定の範囲の者が当該一方の締約国の法令のみの適用を受けることについて同意している場合には、第五条から前条までの規定の例外を認めることについて合意することができる。
第十条 就労する者に随伴する配偶者又は子
1 強制加入に関しては、日本国内において就労する者であって第六条、第八条2又は前条の規定によりフランスの法令の適用を受けるものに随伴する配偶者又は子が日本国民以外の者である場合には、当該配偶者又は子が別段の申出を行う場合を除き、日本国の法令は、適用しない。当該配偶者又は子が日本国民である場合には、日本国の法令の適用の免除は、日本国の法令に従って決定する。
2 強制加入に関しては、フランス内において就労する者であって第六条、第八条2又は前条の規定により日本国の法令の適用を受けるものに随伴する配偶者又は子(当該配偶者又は子が自ら就労する場合を除く。)については、日本国の法令が適用され、フランスの法令は、適用しない。
第十一条 日本国の年金制度に加入していない者
第六条1及び2の規定は、日本国内に事業所を有する雇用者に雇用されている者が、第二条2(A)(a)及び(b)に掲げる日本国の年金制度に加入していない場合には、適用しない。
第三章 給付に関する規定
第一節 共通規定
第十二条 居住条項の不適用
1 この協定の規定に従うことを条件として、一方の締約国外に通常居住することを理由として年金、一時金その他の現金給付を受ける権利の取得又はこれらの給付の支払を制限し又は停止する当該一方の締約国の法令の規定は、他方の締約国内に通常居住する者には、適用しない。
2 一方の締約国の法令による年金、一時金その他の現金給付は、第三条に規定する者であって第三国に通常居住するものに対しては、当該一方の締約国の国民に対して支給する場合と同一の条件で支給する。
第十三条 保険期間の通算及び給付額の計算の基礎
1 この協定の規定に従うことを条件として、一方の締約国の法令による給付を受ける権利を確立するため、当該一方の締約国の実施機関は、他方の締約国の法令による保険期間であって、当該一方の締約国の法令による保険期間と重複しないものを考慮する。
2 一方の締約国の法令が、第二条1(D)に規定する特別制度における保険期間又は特定の職業による保険期間を有することを給付を受ける権利の確立又は保険期間の加算の要件としている場合には、当該一方の締約国の実施機関は、他方の締約国の法令において対応する職業の下で有する保険期間を考慮する。
3 一方の締約国の法令が、給付を受ける権利の確立のために保険事故の発生の日が特定の保険期間中にあることを要件として定めている場合において、当該保険事故の発生の日が他方の締約国の法令による保険期間(他方の締約国の実施機関により証明されたものに限る。)中にあるときは、当該要件は満たされたものとみなす。
4 いずれか一方の締約国の法令による給付の額が保険期間の全部又は一部の期間における平均的な報酬又は収入に基づいて計算される場合には、当該給付の額の決定のために考慮される平均的な報酬又は収入は、当該一方の締約国の法令による保険期間における報酬又は収入のみに基づいて計算する。
第二節 日本国に適用される規定
第十四条 日本国における障害年金、老齢年金及び遺族年金の給付額の計算方法
日本国については、次の規定を適用する。
1 前条1の規定は、各共済年金の職域加算年金及び保険料の還付として支給される一時金については、適用しない。
2 前条1の規定の適用に関しては、
(a) 日本国の実施機関は、各暦年について、フランスの法令により当該暦年に付与された一加入四半期(フランスの実施機関により証明されたものに限る。)ごとに三箇月の保険期間を付与する。日本国の実施機関により付与される保険期間は、月を単位として、個々の給付を受ける権利の確立のため、日本国の法令により保険期間として既に算入された月を補完するものとなるように割り当てる。この(a)の規定により割り当てられる保険期間の月数及び日本国の法令により保険期間として既に算入された月数の総数は、一暦年について十二を超えない。
(b) フランスの法令による保険期間は、次に掲げる日本国の年金制度の保険期間として考慮する。
(i) 被用者年金制度の保険期間
(ii) 国民年金における被用者年金制度に加入する者としての保険期間
(c) フランスの法令による保険期間であって、実際に経過していないものについては、日本国の保険期間と重複しないものとみなし、日本国において給付を受ける権利を確立するために考慮する。
3 前条3の規定の適用に関しては、
(a) 日本国の国民年金の下での障害年金又は遺族年金を受ける権利が当該規定を適用しなくても確立される場合には、日本国の被用者年金制度の下での同一の保険事故に基づく障害年金又は遺族年金を受ける権利の確立に当たっては、当該規定は適用しない。
(b) 二以上の日本国の被用者年金制度における保険期間を有する者については、給付を受ける権利は、日本国の法令に従って指定された一の被用者年金制度についてのみ確立される。
4 第四条の規定は、日本国外に通常居住することに基づいて日本国民に対して認められる合算対象期間に関する日本国の法令の規定に影響を及ぼすものではない。
5 前条及びこの条の規定の適用により日本国の法令による給付を受ける権利が確立される場合には、6から10までの規定に従うことを条件として、日本国の実施機関は、日本国の法令に従って当該給付の額を計算する。
6 障害基礎年金その他の保険期間にかかわらず一定額が支給される給付に関しては、当該給付を受けるための要件が前条及びこの条の規定の適用により満たされる場合には、支給される当該給付の額は、当該給付が支給される年金制度における保険期間(合算対象期間を除く。)及びフランスの法令による保険期間を合算した期間に対する当該給付が支給される年金制度における保険期間(合算対象期間を除く。)の比率に基づいて計算する。
7 障害年金及び遺族年金に関しては、これらの給付の額が日本国の被用者年金制度に関する法令上定められた期間に基づいて計算される場合(当該制度における保険期間が当該定められた期間に満たないときに限る。)であって、かつ、当該給付を受けるための要件が前条1又は3の規定の適用により満たされる場合には、支給される当該給付の額は、日本国の被用者年金制度における保険期間及びフランスの法令による保険期間を合算した期間に対する当該日本国の被用者年金制度における保険期間の比率に基づいて計算する。ただし、当該合算した期間が当該定められた期間を超える場合には、当該合算した期間は、当該定められた期間と同一の期間とする。
8 6及び7の規定による日本国の被用者年金制度の下での給付の額の計算に関しては、当該給付を受ける権利を有する者が二以上の日本国の被用者年金制度における保険期間を有する場合には、これらの保険期間を合算した期間を、6に規定する「当該給付が支給される年金制度における保険期間」又は7に規定する「日本国の被用者年金制度における保険期間」とする。
9 二以上の日本国の被用者年金制度における保険期間を合算した期間が、7に規定する「日本国の被用者年金制度に関する法令上定められた期間」を超える場合には、7及び8に規定する計算方法は、適用しない。
10 老齢厚生年金の一部である配偶者加給その他の日本国の被用者年金制度における保険期間が日本国の法令上定められた期間を満たした場合に一定額が支給される給付に関しては、当該給付を受けるための要件が前条1及び2の規定の適用により満たされる場合には、支給される当該給付の額は、当該定められた期間に対する当該給付が支給される日本国の被用者年金制度における保険期間の比率に基づいて計算する。
11 第十二条1の規定は、初診日又は死亡日において六十歳以上六十五歳未満であった者に関して障害基礎年金又は遺族基礎年金を受ける権利の取得のために日本国内に通常居住していることを要件として定めた日本国の法令の規定に影響を及ぼすものではない。
第三節 フランスに適用される規定
第十五条 フランスにおける障害年金、老齢年金及び遺族年金の給付額の計算方法
フランスについては、障害年金、老齢年金又は遺族年金に関して、次の規定を適用する。
1 給付を受ける権利の確立についてフランスの法令が定める要件が第十三条1の規定を適用しなくても満たされる場合には、フランスの実施機関は、当該フランスの法令の規定にのみ従ったときに支給されることとなる給付額並びに2及び3の規定の適用により支給されることとなる給付額を計算し、いずれか高い方の額を支給する。
2 給付を受ける権利の確立についてフランスの法令が定める要件が第十三条1の規定の適用により初めて満たされる場合には、フランスの実施機関は、受給者がすべての保険期間を当該フランスの法令(当該フランスの実施機関が当該給付の支払日において適用するものに限る。)による保険期間として有していたときに受け取ることができる理論上の給付額を計算する。
3 フランスの実施機関は、保険事故の発生前の両締約国の法令による保険期間を合算した期間に対して、当該保険事故の発生前の当該フランスの実施機関が適用する法令による保険期間が占める比率を計算し、2に規定する理論上の給付額に当該比率を乗じて受給者に対する実際の給付額を決定する。
4 両締約国の法令による保険期間を合算した期間がフランスの実施機関が適用する法令が満額受給の要件として定めている最長の保険期間を超える場合には、当該フランスの実施機関は、3の規定の適用に当たっては、当該合算した期間に代えて、当該最長の保険期間を用いる。
5 フランスの法令による保険期間の合計が一年に満たない場合には、フランスの実施機関は、当該保険期間について給付を認めることを要しない。ただし、フランスの法令により当該保険期間のみで給付を受ける権利が確立される場合には、当該給付の額は、当該保険期間のみに基づいて計算する。
第十六条 フランスの家族手当
第六条又は第九条の規定によりフランスの法令の適用を受ける者であって、雇用者により日本国に派遣されたものは、その者に随伴する子に係るフランスの家族手当の支給を受けることができる。
第四章 雑則
第十七条 給付の支払
1 この協定に係る給付の支払は、いずれの締約国の通貨によっても行うことができる。
2 いずれか一方の締約国が外国為替取引又は海外送金を制限する措置を実施する場合には、両締約国の政府は、この協定に係る当該一方の締約国の実施機関による給付の支払を可能とするために必要な措置について、直ちに協議する。
第十八条 申請、不服申立て又はその他の申告
一方の締約国の法令による給付の申請、不服申立て又はその他の申告が他方の締約国の法令による類似の申請、不服申立て又はその他の申告を受理する権限を有する当該他方の締約国の権限のある当局又は実施機関に対して提出された場合には、当該給付の申請、不服申立て又はその他の申告は、その提出の日にこれを受理する権限を有する当該一方の締約国の権限のある当局又は実施機関に対して提出されたものとみなす。
第十九条 相互援助
両締約国の権限のある当局及び実施機関は、この協定の実施のために必要な援助を提供する。この援助は、無償で行う。
第二十条 情報の保護
1 一方の締約国の権限のある当局又は実施機関は、当該一方の締約国の法令の下で収集された個人に関する情報(この協定の実施のために必要なものに限る。)を当該一方の締約国の法律及び規則に従って他方の締約国の権限のある当局又は実施機関に伝達する。
2 一方の締約国の法律及び規則により開示が義務付けられている場合を除くほか、1の規定に従って伝達された個人に関するいかなる情報も、個人に関する情報の秘密の保護のための当該一方の締約国の法律及び規則に従って取り扱うものとし、かつ、この協定を適用する目的のためにのみ使用する。
第二十一条 使用言語
1 この協定の実施に際して、両締約国の権限のある当局及び実施機関は、相互に、及び関係者又はその代理人に対して、自国の言語により直接連絡することができる。
2 この協定の実施に際して、一方の締約国の権限のある当局及び実施機関は、他方の締約国の言語で作成されていることを理由として申請書その他の文書の受理を拒否してはならない。
第二十二条 手数料及び認証の免除
1 いずれか一方の締約国の法律及び規則において、当該一方の締約国の法令の適用上提出すべき証明書その他の文書に係る行政上又は領事事務上の手数料の免除又は軽減に関する規定があるときは、当該規定は、この協定の適用上提出すべき証明書その他の文書についても適用する。
2 この協定及び一方の締約国の法令の適用上提出すべき文書については、外交機関又は領事機関による認証その他これに類する手続を要しない。
第二十三条 権限のある当局の任務
両締約国の権限のある当局は、
(a) この協定の実施のために必要な行政上の取決めを作成する。
(b) この協定の実施のために連絡機関を指定する。
(c) 自国の法令の変更(この協定の実施に影響を及ぼすものに限る。)に関するすべての情報をできる限り速やかに相互に通報する。
第二十四条 紛争解決及び合同委員会
1 この協定の解釈又は適用についての意見の相違は、両締約国間の協議により解決する。
2 両締約国は、この協定の実施状況を検討するため、権限のある当局及び実施機関の代表者で構成される合同委員会を設置する。当該合同委員会は、必要に応じ、いずれか一方の締約国の要請により、日本国及びフランスにおいて交互に会合する。
第二十五条 章、節及び条の見出し
この協定中の章、節及び条の見出しは、引用上の便宜のためにのみ付されたものであって、この協定の解釈に影響を及ぼすものではない。
第五章 経過規定及び最終規定
第二十六条 この協定の効力発生前の状況の考慮
1 この協定は、その効力発生前には給付を受ける権利を確立させるものではない。
2 この協定の効力発生前のいずれか一方の締約国の法令による保険期間は、この協定により給付を受ける権利を確立するために考慮する。ただし、いずれの締約国も、自国の法令が有効な保険期間と認める最も古い日付以前の保険期間については、考慮することを要求されないものとする。
3 この協定の効力発生前に一方の締約国内で就労を開始した被用者の就労については、当該一方の締約国の法令が当該被用者及びその被扶養者に適用されなくなることにつき当該被用者の同意があることを条件として、この協定の第六条1の規定の適用を受ける派遣とすることができる。当該派遣は、当該一方の締約国の法令に基づく制度から当該被用者及びその被扶養者が脱退した日から開始したものとみなし、この協定の効力発生の日から起算して五年を超えない期間を限度とする。
第二十七条 この協定の効力発生前の事実
1 前条3の規定に従うことを条件として、この協定の効力発生前に被用者について行われた法令の適用に関する決定は、この協定の規定を考慮して見直すことができる。
2 前条1の規定に従うことを条件として、この協定は、いずれか一方の締約国の法令による障害年金、老齢年金又は遺族年金を受ける権利の確立に関する限りにおいて、この協定の効力発生前の事実についても適用する。
3 障害年金、老齢年金又は遺族年金に関し、この協定の効力発生前にいずれか一方の締約国が決定した給付額又は却下した申請は、本人の請求により、この協定の規定を考慮して再計算し、又は再審査することができる。再計算の結果得られた給付額は、当初の給付額を下回ってはならない。
4 この協定の効力発生の日から二年以内に3に規定する請求が行われた場合には、当該請求は、この協定の効力発生の日に行われたものとする。ただし、請求者にとって一層有利な措置がある場合には、この限りでない。
第二十八条 効力発生
両締約国は、外交上の経路を通じて、この協定の効力発生に必要なそれぞれの憲法上の手続が完了した旨を相互に通告する。この協定は、遅い方の通告が受領された月の後三箇月目の月の初日に効力を生ずる。
第二十九条 この協定の有効期間及び終了
1 この協定は、無期限に効力を有する。いずれの締約国も、外交上の経路を通じて他方の締約国に対し書面によりこの協定の終了の通告を行うことができる。この場合には、この協定は、終了の通告が行われた月の後十二箇月目の月の末日まで効力を有する。
2 この協定が1の規定に従って終了する場合においても、この協定の下で取得された障害年金、老齢年金又は遺族年金を受ける権利及びこれらの年金の支払に関する権利は維持される。
3 2の規定に従うことを条件として、この協定の終了前の保険期間の取扱いについては、相互の同意により決定する。
以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの協定に署名した。
二千五年二月二十五日にパリで、ひとしく正文である日本語及びフランス語により本書二通を作成した。
日本国政府のために 平林博
フランス共和国政府のために ジャン=ピエール・ラフォン