(1) |
対象産品のうち「薄板」に関する「同種の産品」の定義が不適切。
ITC(米国国際貿易委員会)は、たとえば、製品の物理的特性、最終的用途等が明らかに異なるにもかかわらず、これらを一貫生産する生産者が米国に存在することを理由として、半製品であるスラブからそうでない熱延鋼板、冷延鋼板、表面処理鋼板まで広汎な品目の鉄鋼製品を「同種の産品(like product)」と認定して「薄板」のカテゴリーの下で一括りにして分析を行っている。このような商品認定に基づく分析は、競争関係になく、したがって米国産業の損害に寄与し得ない輸入品についてもセーフガード措置の発動要件を満たすとの認定を可能とするものであり、不適切である。(GATT19条1項、セーフガード協定2条1項、4条1項(c)違反。)また、かかる過度に広い「同種の産品」の認定は、過去に米国政府がAD/補助金相殺措置においてとってきた認定と異なっており、国内法令、判決及び決定の一律の公平かつ合理的な方法で実施する義務に違反している。(GATT10条3項(a)違反)
|
(2) |
ブリキ製品とステンレスワイヤに関するITC決定の大統領による取り扱いが不適切。
大統領が、ブリキ製品およびステンレスワイヤに対するセーフガード措置を発動するにあたり、国内産業の損害認定におけるITC委員の投票結果を可否同数であるとして取り扱ったことは非合理的かつ一貫性に欠ける。仮に可否同数であると解しうるとしても、損害ありとの認定を支持した理由を大統領は説明していない。(セーフガード協定2条1項、3条1項、4条2項(b)、4条3項(c)、GATT10条3項(a)違反。)
|
(3) |
「輸入の増加」に関する事実認定が不適切。
ITCは、対象産品の輸入が直近の期間において減少しているにもかかわらず、調査対象期間の1年目と最終年における輸入水準の二時点間の比較のみによって輸入増加があったとする事実認定を行っており、協定及び判例の求める基準を満たしていない。(セーフガード協定2条1項、4条2項(a)、GATT19条1項(a)違反)
|
(4) |
輸入増加と損害の因果関係の立証が不十分。
輸入が増加した時期と米国国内産業に損害の発生した時期とが一致しておらず、両者の因果関係の前提となる相関関係が認められていない。また、国内需要の減退、生産設備能力の過剰、国内生産業者間の競争などの国内産業のパフォーマンスを悪化させる他の要因による損害を分離して分析しておらず、輸入と損害のあいだの因果関係を適切に立証していない。(セーフガード協定4条2項(b)違反。)
|
(5) |
措置と調査それぞれの対象範囲が不一致(いわゆるパラレリズムが欠如。)
ITCの調査では、カナダ・メキシコ等米国と自由貿易協定(FTA)を締結している国からの輸入をも含めて輸入増加と損害との間の因果関係が認定されたにもかかわらず、これらの国からの輸入をセーフガード措置の対象から除外しており、措置の対象が調査の対象となった産品と一致しなければならない、いわゆるパラレリズムの原則が遵守されていない。(セーフガード協定2条1項・2項違反。)
|
(6) |
措置の程度が必要以上に輸入制限的。
米国は、輸入の増加以外の要因がもたらした国内産業の損害を分離して分析せず、全ての損害の責めを輸入増加に負わせたため、輸入増加により国内産業に発生している損害の防止・救済のみに必要である以上の過剰なセーフガード措置となっている。また、大統領は、ITCが勧告した措置よりも輸入制限的な措置を採用したが、それを正当化する調査も説明も行っていない。(セーフガード協定3条1項、5条1項違反。)
|
(7) |
FTA域内国からの輸入を措置の対象から除外したことは最恵国待遇義務に違反。
セーフガード措置は、一定の条件を満たす発展途上国からの輸入品を除いて無差別に適用されなければならないにもかかわらず、米国の措置は、カナダ・メキシコ等米国とFTAを締結している国からの輸入産品を措置の対象から除外している。(GATT1条1項、セーフガード協定2条2項違反。)
|