(1) |
景気の現状と見通し:ためらいがちな世界経済の回復
(イ) |
世界経済の回復は、過去の回復期と比較して弱く、不規則。2002年初の好調なスタートは在庫削減ペースの鈍化等によるものであったが、回復の勢いは第2四半期には鈍化した。地域的な不確実要因の増大や株価の一層の下落が、2002年後半の家計・企業のコンフィデンスを下押ししている。
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(ロ) |
金融環境悪化を背景に企業のコンフィデンスは概して弱い。短期の業績見通しに不確実要因が増大していることや、稼働率の低さを背景に、設備投資は抑制され続けている。現在の不確実要因が解消するまで(恐らく2003年以降)、確固たる景気の回復は見込めず、2002年のOECD諸国の実質GDPは+1.5%に止まる見通し。
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(ハ) |
しかし、OECD諸国が再び景気後退に陥ることはない。既にかなりの財政・金融政策が実施されてきたことに加え、年末の金融緩和により、景気刺激政策の効果は当面持続。情報技術産業悪化に歯止めがかかったこと、日本を除く大部分のアジア、ロシアの成長持続も景気を下支え。2003年以降米国・ユーロ圏で再び回復力が高まり、OECD諸国の実質GDPは2003年に+2.2%、2004年に+3.0%となる。
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(2) |
金融市場からの逆風
(イ) |
OECD諸国経済の回復を遅らせているのは、金融市場からの逆風である。その最も顕著な例は株価の継続的な下落であるが、これらはマクロ経済政策による景気刺激の有効性を縮小させ、設備投資の回復を先延ばししたとみられる。
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(ロ) |
すなわち、株価下落は資本調達コスト上昇や逆資産効果を通じて設備投資抑制・消費を抑制。健全な金融企業も資金調達へのマイナスの効果など悪影響を受けている。
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(3) |
先行きのリスク要因
(イ) |
前回(4月)見通し時点においてはアップサイドリスクとダウンサイドリスクが均衡していたが、それ以降は不安定な株価や債券市場に反映されているように不確実性が増大、現時点ではダウンサイドリスクが支配的。
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(ロ) |
これらリスクには、金融市場の更なるショック発生により設備投資回復が一段と遅れるリスク、住宅価格下落による家計資産の減少が消費抑制に結びつくリスク(特に米・英)、国際収支の急激な調整及びドルの大幅な減価により米国の貿易相手の経済が悪影響を受けるリスク、新興市場の金融市場の混乱が拡大するリスク、地域的な不確実要因により石油価格が上昇するリスクがある。構造改革に向けた努力が加速されるならば、こうしたショックに対する長期的な耐久力は向上するであろう。
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OECD「エコノミック・アウトルック」における実質GDP成長率見通し
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2001年 (実績) |
2002年 (予測) |
2003年 (予測) |
2004年 (予測) |
OECD諸国 |
+0.7 |
+1.5 |
+2.2 |
+3.0 |
日本 |
▲0.3 |
▲0.7 |
+0.8 |
+0.9 |
米国 |
+0.3 |
+2.3 |
+2.6 |
+3.6 |
ユーロ圏 |
+1.5 |
+0.8 |
+1.8 |
+2.7 |
(注)前年比伸び率、%。
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(4) |
OECD諸国のマクロ経済政策の課題
(イ) |
多くのOECD諸国で積極的にマクロ経済政策による景気のてこ入れが実施されてきた結果、経済政策は既に膨張的となっている。今後一層の景気下支えを行う余地は小さいが、政策変更が経済活動に影響するタイムラグを考慮すると、予測外の新たなショックが生じない限り、現時点では十分な景気刺激が与えられている。
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(ロ) |
金融政策は景気を下支えしている。OECD諸国内の4大通貨圏(米、ユーロ圏、日本、英国)における政策金利は低水準を維持。景気の回復力が予想を下回っていることから、多くの中央銀行は状況を見守るスタンスにあった。先行きのリスクの高まりを考慮し、FRBは11月初旬に政策金利を引き下げ。ユーロ・システムはFRBに追随しなかったが、金利引下げを議論した。
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(ハ) |
財政政策は支出抑制による再建が必要。景気後退期期を通じて、財政ポジションは急激に悪化。租税収入に対する過信や楽観的に過ぎる成長予測により減税や新たな支出が正当化されたほか、景気の自動安定化機能が働いた結果、米国やいくつかのEU諸国で急激に税収が減少した。2002年のOECD諸国の一般政府赤字は2001年の名目GDP比1.4%から同2.9%に拡大する。新たな減税の余地は限定的もしくは存在せず、税収減に対応するためには、事前の予算編成及び事後の実施の両面において、支出を効率的に抑制することが必要。
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