(1) 概要
ウクライナとルーマニアに挟まれた小国モルドバは2003年に国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)成長率6.5%を達成したものの、未だ欧州の最貧国であるとされ、一人当たりの国民総所得が590米ドル(2003年、世界銀行)である。農業、観光以外に特段目立った産業がなく、失業率も非常に高い。また、貧困削減、保健医療の充実など、生活水準の向上が必須である。
また、狭い領土の中に分離主義勢力(沿ドニエストル「共和国」)を抱えている。1990年にドニエストル川東岸に入植したロシア人が独立を宣言し、武力紛争に発展したものであるが、現在、この沿ドニエストル紛争は停戦状態にあるものの、分断状態の固定化が進んでいる。
(2) 「経済成長・貧困削減戦略文書(EGPRSP:Economic Growth and Poverty Reductions Strategy)」
EGPRSPは、2004~2006年の中期的開発目標として、次のものを掲げている。
(イ) 持続的かつ包括的経済成長:ビジネス・投資環境の改善、国家による介入の最小化、公共サービスの効率化、法の支配の強化、民営化、農業・農村開発など。
(ロ) 人間開発の向上:教育と保健分野の強化(教育機会の均等、強制医療保険の導入)など。
(ハ) 最も脆弱な社会階層に対する社会的保護の強化:年金システムの改善など。
(1) モルドバ共和国に対するODAの意義
モルドバは、旧ソ連と欧州の間に位置し、同国の安定は欧州地域の安定にとって重要である。同国は、欧州の最貧国であり、貧困削減、市場経済化と民主化の促進を進めているところ、このような同国の取組をODAにより支援することは、ODA大綱の重点課題である「貧困削減」や「持続的成長」の観点から意義が大きい。
(2) モルドバ共和国に対するODAの基本方針
モルドバの社会主義体制崩壊後、進捗が思わしくない同国の市場経済化を引き続き支援するとともに、保健・医療などのの回復を通じ、市場経済の中心を担う市民階層の生活水準向上を目指す。
(3) 重点分野
これまで主に以下の分野で主に支援を実施してきている。
(イ) 社会(保健医療)分野
一般無償「国立母子病院医療機材整備計画」(1998年)、「第二次レベル医療施設医療機材整備計画」(2000年)を実施した。また、引き続き医療施設に対する一般無償案件の要請を受けている他、草の根・人間の安全保障無償の導入によるプライマリ・ヘルス・ケアに対する支援強化が予定されている。
(ロ) 市場経済化分野
「競争力および生産性センター」に対して長期専門家が派遣中である他、経済・金融政策に関する各種研修員を受け入れている。
また、市場経済化の中のサブセクターとして、重要な産業である農業分野を重視している。食糧増産援助(2000~2003年度)は、モルドバにおいて非常に高い効果を発揮している。こうした支援により主要作物である小麦やトウモロコシの自給達成に貢献するとともに、見返り資金を利用したトラクターの購入により、我が国協力の効果は更に広まりを見せている。
(1) 総論
2003年度のモルドバに対する無償資金協力は2.60億円(交換公文ベース)、技術協力は0.81億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、無償資金協力25.53億円(交換公文ベース)、技術協力8.61億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 技術協力
技術協力としては、投資促進等市場経済化に係る研修員受入等を実施した。
(3) 無償資金協力
無償資金協力としては食糧増産援助に2.6億円の供与を実施した。これは、主要作物である小麦等の増産及び生産安定のために必要な農業機械等の調達につき資金を供与することで、モルドバにおける早期の小麦等の自給達成に寄与することを目指している。
EGPRSPがモルドバ政府によって策定され、世界銀行の国別援助戦略(CAS:Country Assistance Strategy)が承認された。この過程で、世界銀行、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)、欧州復興開発銀行(EBRD:European Bank for Reconstruction and Development)、欧州連合(EU:European Union)、国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)、米国国際開発庁(USAID:United States Agency for International Development)、英国国際開発省(DFID:Department for International Development)などが援助協調に参加している。