(1) 概要
ブルガリアは1991年2月から市場経済移行のための経済改革を開始したが、1996年と1997年にはハイパー・インフレを記録する等大きな困難に直面し、社会党政権が崩壊した。
1997年5月に政権に就いたコストフ政権は、同年7月の通貨準備委員会設置、為替相場の安定、インフレの沈静、金利水準の低下、外貨準備高の増加を図り、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)主導の構造改革の下でマクロ経済指標は堅実に安定した状況にある。これは通貨準備委員会の設置に代表されるIMFや世界銀行の経済構造改革の要請によるところが大きい。他方、国営企業の民営化は、民営化庁による手続きの妥当性を巡り最高行政裁判所が無効判断を下す事案が生じたことで停滞し、外国からの投資が低迷した。また、貿易赤字は依然として大きい。失業率には改善の傾向が見られるものの、都市部と地方部の生活水準格差は拡大傾向にある。マクロ経済の指標では一応の安定を伴っているが、失業者率の上昇など改革のマイナス面が目立っていることから、今後社会的弱者への配慮と生産性の向上をいかに両立させるかが課題となる。
2001年10月23日、新政権は2005年までの政府プログラムを発表し、高度経済成長の維持、失業者削減、外国投資確保、中小企業育成マイクロ・クレジット保証基金の設立等を打ち出した。
ブルガリアが国家目標に掲げている欧州への統合については、2004年3月に北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)加盟を実現し、同年12月の欧州理事会において2007年1月にブルガリアを欧州連合(EU:European Union)加盟国として歓迎することに期待が表明されるなど、大きな進展が見られた。
(2) 政策綱領「国民はブルガリアの財産である」
2001年10月、ブルガリア政府は「国民はブルガリアの財産である」と題する200ページにわたる政策綱領を発表した。その概要は、以下のとおり。
(イ) 経済政策(5~7%の高度経済成長の維持。失業者数の15万人削減。外国投資誘致。世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)のルールの枠内でブルガリア製品及びサービスの輸出を積極的に奨励。欧州通貨機構に加入するまで、レフ(現地通貨)の対ユーロ固定相場制維持。産業・銀行部門国営電力7企業等民営化。中央暖房プラント民営化等。)
(ロ) 財政施策(国内のマクロ経済の安定を維持と経済成長を達成。欧州統合を財政的に支援。直接税の割合減少。銀行の企業への融資奨励。保険市場の発展。対外債務削減。税金及び保険料の徴収改善。インフレ率、為替相場の安定。)
(ハ) 労働・社会政策(労働の供給、富の公平な分配、社会保障部門の改革、新しい所得政策、児童手当の増額、中小企業振興のため、「零細融資(マイクロ・クレジット)のための保証基金」設立等)
(ニ) 堅実な経済発展、ビジネス環境の改善(通信・ハイテク、エネルギー、観光、農林業、運輸。)
(ホ) 反組織犯罪・反汚職政策(組織犯罪対策・汚職撲滅。)
(ヘ) 外交・防衛政策(NATO加盟。EU加盟等。)