(1) 概要
1991年に独立して以来経済のマイナス成長が続き、経済規模は独立前の約3分の2にまで減少した。しかし、独立後初めての国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)プラス成長を記録した2000年以降は、年平均6?9%と急速に経済成長率を高めている。経済成長の背景としては、ウクライナの主要産業の一つである金属産業の復興、通貨フリヴニャ安を背景としたウクライナ製品の輸出増、消費財を中心としたウクライナ産業の復興、隣国ロシアの好景気による牽引などが指摘されている。
ウクライナにおける経済改革の基本方針は、外交全般における基本方針と同様「欧州への統合」であり、法律・制度面で欧州連合(EU:European Union)基準に合致させることが目標となっている。2004年5月のEU東方拡大により、ウクライナはEUと国境を接する国家となった。この拡大により、人、モノの移動に一定の制限が伴うなどマイナス面も指摘されるが、他方、依然として安い労働力や高い技術水準の存在など、条件が整えば外資の流入が今後増大するポテンシャルも有している。特に、我が国の産業・経済界においても、中・東欧諸国とのビジネスの経験を持つ企業を中心にウクライナ経済への関心が高まっている。
他方、ウクライナの一人当たり国民総所得(GNI)は970米ドル(2003年、世界銀行)であり、国民の生活水準向上も引き続き重要な課題である。
(2) 「2004?2007年国際技術協力促進のための戦略」
2004年1月14日付けウクライナ閣僚会議令第15号で掲げられている課題は次のとおり。
(イ) 国民経済における競争力の強化と安定した経済成長の確保:科学技術を市場経済の中で活かすこと、工業・農業発展のための市場基盤整備、金融機関整備など。
(ロ) WTO加盟と欧州・大西洋への統合加速化:世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)、EU、北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)加盟に向けて国内の法整備、制度整備を進めることなど。
(ハ) 中小企業の発展を促進する良好なビジネス環境の整備:競争政策の確立、中小企業向けの金融制度整備、EU基準への適合、透明性の強化など。
(ニ) 民主化の増強と発達した市民社会の形成:地方分権化、非政府組織(NGO:Non Governmental Organization)と政治の対話、専門性の高いNGOが政府の政策策定に参加することなど。
(ホ) 国連ミレニアム開発目標の達成、社会・保健状況の改善:労働・社会環境の国際基準化、健康保険と年金システム、プライマリ・ヘルス・ケアの確立、HIV/AIDSとの戦い。
(ヘ) 環境保全の促進とチェルノブィリ事故の被害最小化(環境に優しい技術の導入、原子力安全の向上、チェルノブィリ被害地区の汚染除去)。
(ト) 安全の保障と国家・市民の保護:不法移民、不正送金の取り締まり、組織犯罪や人のトラフィッキングの防止など。
(チ) 国家による地域政策の発展:地域予算における使途目的の厳密化、国際交通コリドーの確立、国境間協力、地域間交通・通信インフラの整備など。
(1) ウクライナに対するODAの意義
ウクライナは欧州及びユーラシア地域において地政学的に重要な地位を占めている上、現在はEUと国境を接し、将来的にEUに加盟することが予想される国としてその重要性は増しており、同国と安定した協力関係を維持する意義は大きい。
ウクライナでは、現在、市場経済化と民主化に向けた努力が行われているが、このような努力を支援することは、ODA大綱の重点課題の一つである「持続的な成長」の観点から意義が大きい。また、同国の安価な労働力や高い技術力等は日系企業にも注目されていることから、今後、我が国との経済関係を深化させていく上でも重要である。
(2) ウクライナに対するODAの基本方針
ウクライナの社会経済改革と民政の安定のために協力を行ってきている。協力に当たっては、旧ソ連時代からの高い技術力など同国の持つ潜在性が市場経済の中で活かされるよう留意すること、チェルノブイリ原発事故や社会主義体制崩壊で疲弊した同国の社会保障部門(保健医療など)の回復を通じて市場経済の中心を担う市民階層の生活水準向上を目指すことも重要である。また、近年は基幹産業である農業部門の発展や経済成長に伴う環境汚染防止等が課題となっている。
なお、ウクライナはEU加盟を命題としており、経済社会の欧州標準化が重視されていることに留意する必要がある。
(3) 重点分野
ウクライナでの援助需要も踏まえ、特に以下の分野・部門で援助を実施してきている。
(イ) 市場経済化部門
市場経済化を進めるウクライナに対して、経済・金融政策に関する各種研修員受入、炭坑技術分野および生産性向上分野の専門家派遣などを実施している。
(ロ) 社会(特に保健医療)部門
ウクライナでは、政府の保健医療分野への支出割合は非常に低く、一人当たり200ドルに満たない。また、最低限必要な医薬品を購入可能な人口の割合も5?8割程度となっている。我が国は、こうした状況に対しプライマリ・ヘルス・ケアにおける医療機材の整備改善、孤児院の整備などに取り組んでいる。
(1) 総論
2003年度のウクライナに対する無償資金協力は0.64億円(交換公文ベース)、技術協力は0.54億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、無償資金協力10.42億円(交換公文ベース)、技術協力2.94億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 技術協力
技術協力研修員の受入を実施した。
(3) 無償資金協力
草の根・人間の安全保障無償資金協力として4件を実施した。
ウクライナ経済欧州統合省が援助協調の中心的役割を果たしており、ドナー国との対話を通して上記「2004?2007年国際技術協力促進のための戦略」を取りまとめた。その他、世界銀行、国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)などが援助協調のためのドナー会合を主催することがある。
ウクライナは外交、経済などあらゆる面において「欧州への統合」を政策の基本としている。これまでにも米国(米国際開発局(USAID:US Agency for International Development))やEUなどが数多くのプロジェクトを実施し、ウクライナの「欧州への統合」路線を支援してきた。従って、我が国による市場経済化支援は、政策・制度面に対する支援よりもむしろ、我が国が経験を培ってきた技術の移転や二国間経済関係の強化に重点を置く必要がある。また、協にあたっては、ウクライナにおいて急速に進んでいる市場経済化によって生じている社会的ひずみの側面に十分配慮する必要がある。