2000年5月のクーデター未遂事件(フィジー系住民の権利を主張する武装グループが議会に乱入し、インド系のチョードリー首相他主要閣僚、議員等を人質として立てこもった)により、政治経済情勢は混乱したが、その後のガラセ政権の民主化努力によって国際社会の信用もほぼ回復し、国家再建事業も軌道に乗ったように見受けられる。しかし、複数政党内閣の樹立、国軍司令官の動向、クーデター関係者の裁判、土地及び砂糖産業改革等の難問も山積している。
外交面では、オーストラリア、ニュージーランド及び南太平洋諸国との協力関係を重視しつつ、「Look North Policy」により、東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations)諸国及び我が国、中国、韓国との関係強化も目指している。なお、クーデター未遂事件に伴う国際社会からの各種制裁は、2003年末までに全て解除され、関係が修復された。
フィジー政府は、フィジー系住民とインド系住民との間の貧富の差がフィジー系住民の不満を生み2000年のクーデター事件のような騒擾が発生する原因となったとの考え方に基づき、フィジー系住民を優遇することで両住民の格差を是正する行動計画(AAP:Affirmative Action Plan)を推進している。
フィジーの三大基幹産業は、砂糖・衣料・観光である。砂糖産業については、フィジー系土地所有者によるインド系農民への農地賃貸契約更新拒否等の問題が頻発しているほか、コトノウ協定(EUがフィジーからの砂糖について、特恵的な輸入価格を設定)の2007年の終了後に砂糖輸入価格の大幅引き下げが予想されるため、砂糖産業は大きな危機に直面しており、砂糖産業改革が喫緊の課題となっている。他方、衣料・観光業は共に2002年より好調が続いており、外国からの投資も次第に増加しつつある。国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)成長率は、2003年は5%増、2004年についても4.1%の増加が見込まれている。また、物価上昇率は、2003年4.7%と上昇したが、2004年には3%程度に下落する見込みである。
我が国との関係は、経済協力、各種人的交流、広報文化活動の積み重ねに加え、2000年5月のクーデター以降のガラセ政権の民主化努力に対する我が国の理解及び支援等のため、政府、マスコミ、国民レベル全般に渡って良好である。また、フィジーは我が国にとって、太平洋島嶼国地域全体との関係でも重要である。太平洋諸島フォーラム(PIF:Pacific Islands Forum)加盟太平洋島嶼国12か国は、全て国連メンバーでもあり、その地域的立場と開発の問題を国連のような国際場裡において積極的にアピールする動きを見せているが、PIF事務局等地域機関の本部や国際機関地域事務所を多く擁するフィジーは、その中心的役割を果たす国の一つである。
(1) フィジーに対するODAの意義
フィジーはPIF事務局を始めとする、多くの地域国際機関の本部を擁し、太平洋島嶼国地域の中で先導的役割を果たしている。同国の安定と発展は太平洋島嶼国地域全体にとっても重要であり、我が国は、同国の経済・社会基盤の整備のために積極的に支援を行っている。
(2) フィジーに対するODAの基本方針
2003年5月の第3回太平洋・島サミットで採択された「沖縄イニシアティブ:より豊かで安全な太平洋のための地域開発戦略及び共同行動計画」において、我が国は、安全保障、環境、教育、保健、経済成長の5つを重点政策目標として掲げ、支援を表明した。
(3) 重点分野
2003年8月、現地ODAタスクフォースにより、現地政策協議を実施し、以下の6分野を中心に協力を行うことでフィジー政府と合意した。
(イ) 基礎教育
(a) 理数科教育の充実
(b) 小学校施設・機材の整備
(ロ) 地域保健・医療サービス
(a) 地域保健・医療関係人材の育成
(b) 医療施設の整備改善
(ハ) 産業振興
観光振興、中小企業支援
(ニ) 環境保全
環境行政、環境保全啓発教育の普及
(ホ) 公共サービス
効率的な公共サービスの提供
(ヘ) 地域協力
地域機関との連携による域内協力
また、フィジーは、国民の所得水準が高いことから、一般無償(プロジェクト無償)については、周辺国にも裨益する広域案件を中心として検討・実施していくこととしている。
(1) 総論
2003年度のフィジーに対する無償資金協力は8.63億円(交換公文ベース)、技術協力は9.89億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款22.87億円、無償資金協力143.29億円(以上、交換公文ベース)、技術協力185.64億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
初の円借款案件として、1998年2月に「ナンディ・ラウトカ地域上水道整備計画」の円借款の供与を行い、2004年4月に完了した。2003年度の実績はない。
(3) 無償資金協力
2003年度は2002年度に引き続き「フィジー国医薬品供給センター建設計画」を実施し、同センターが竣工した。本件は、フィジーを始め、太平洋島嶼国の保健医療分野に裨益するものである。また、草の根・人間の安全保障無償資金協力については、2003年度は12件実施している。
(4)技術協力
1982年に青年海外協力隊派遣取極を締結し、JICA事務所をスバに開設して技術協力の拡充に努めている。1986年度から太平洋青年招聘事業が実施されているほか、教育、保健医療、水産など様々な分野で研修員受入、専門家派遣やボランティア派遣を行っている。
2003年には、情報・通信分野で新たに技術協力プロジェクト「南太平洋遠隔教育ネットワーク強化プロジェクト」を開始し、3名の長期専門家を派遣して、大洋州地域への広域協力を行っている。
我が国は、現地ODAタスクフォースにより、政府・ドナー間会合等の場を利用して、主要援助国であるオーストラリア、ニュージーランド、EU、中国等と積極的に意見交換を行い、必要な調整や効率的な援助の実施に努めている。特に、オーストラリア及びニュージーランドについては、第3回太平洋・島サミットで採択された「太平洋地域における開発援助についてのオーストラリア、日本、ニュージーランド3国間の協力に関する共同文書」の合意に従って、個別の経済協力案件についての協議及び調整も行っている。