(1) 概要
パラオは、1947年以来、マーシャル、ミクロネシア、北マリアナとともに、米国を施政権者とする国連の太平洋諸島信託統治領の一部を構成していた。1994年、米国との自由連合盟約(コンパクト)の発効に伴い「自由連合国」として独立し、同年国連に加盟した。政体は大統領制で、2001年1月に、第7代大統領として、トミー・E・レメンゲサウ・ジュニアが大統領に就任し、今日に至っている。
経済面では、パラオの財政は米国からの財政支援(コンパクト・マネー)に大きく依存しており、民間部門では援助の波及効果により商業、建設業等が比較的好調であるが、製造業は小規模の食品加工を除いて存在せず、食料をはじめ消費財のほとんどを輸入に頼っている。
また、コンパクトに基づく米国からの財政支援が2009年に終了するため、パラオ政府は2009年までの自立経済達成を国家の最優先課題としているが、依然として財政・経済とも外国(特に米国、我が国、台湾)からの援助に大幅に依存しており、5年後の自立経済の達成は困難な状況である。特に多額の資金を必要とする上下水道、道路、電力等生活基盤の整備には我が国を含む外国からの援助が不可欠である。
なお、我が国との関係では、古くは1914年から1945年まで我が国が南洋群島として統治していたという歴史的関係に加え、民間漁業協定が締結されているため漁業関係でのつながりも深く、国づくり、経済開発における我が国の経済協力への期待は大きい。
(2) 国家開発計画等
(イ) 経済開発計画(PNMDP:Palau 2020 National Master Development Plan)
本マスタープランは、経済的自立及び環境と文化の保護を目標に、2020年までを視野に入れた長期的な国家開発計画として、1996年に策定された。将来にわたってパラオ人の生活の質を向上させるというビジョンを達成するために、持続可能な方法により経済成長を実現し所得を増大させること、経済成長の恩恵を民間の各分野に公平に行き渡るようにすること、外国人労働者及び投資家に堅実な開発を促すこと、パラオ文化を一層充実させ、国民意識を高め、自然環境を保護することを目標として設定している。
(ロ) 公共部門開発計画(PSIP:Public Sector Investment Program)
独立直後とは異なる現在の状況に合うよう、公共部門開発の見直しを図ることを目的に、2003年から2007年までの5年間に実施すべき公共部門の開発計画を策定したもの。経済開発の重点分野を、観光、農業、漁業、貿易(貨物積み替え港)、軽工業と定義し、そのために必要な交通(道路、空港、港湾)、水道、下水処理、固形廃棄物、エネルギー、通信の各分野のインフラ整備の具体案が提示されている。
(1) パラオに対するODAの意義
戦前、我が国が31年間統治(国際連盟委任統治。南洋庁本庁は首都コロールに置かれた)した歴史があり、日系人も多く、日本語や日本文化も広く浸透し、過去に日系人の大統領を輩出するなど極めて親日的で対日関係は良好である。我が国の国際機関における立場を積極的に支持しており、最近も国際捕鯨委員会(IWC:International Whaling Commission)、安保理改革、ワシントン条約、国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organization)、国連年金委員会、国際海洋法裁判所等で支持を表明している。漁業関係でも漁業協定を結んでおり伝統的に密接な関係にある。この友好関係を大切にし、更に強化発展させて行くことは、我が国の対パラオ外交上極めて重要である。
(2) パラオに対するODAの基本方針
我が国との伝統的な親密な関係、経済的自立への支援、持続可能な開発の促進を考慮し、「生活基盤」、「環境」、「観光」、「教育」、「保健医療」、「水産」の各分野に重点を置き、今後も効果的なODAを実施する。
(3) 重点分野
(イ) 生活基盤分野
パラオでは上下水道、道路が充分整備されていない。技術協力及び無償資金協力を通じて排水設備、歩道、路肩、ガードレール、道路標識等の道路基盤の整備を支援する。
(ロ) 環境分野
「沖縄イニシアティブ」に基づき、廃棄物処理システムを強化すると共に、廃棄物処理担当行政機関の実施機能を強化するよう支援する。また、世界にも希な珊瑚礁の生態について研究、保全、普及、啓発を深めるため、パラオ国際珊瑚礁センターの人的、物的強化、拡充を支援する。
(ハ) 観光分野
観光業はパラオの一大産業とも言うべく、今後確固とした政策の下に実施する必要がある。我が国として観光開発に対する政策、戦略、行政を支援する。
(ニ) 教育分野
幼児・初等・中等教育を重点に教育の改善及び強化を支援する。
(ホ) 保健医療分野
戦後の生活習慣の欧米化により、肥満が引き起こす成人病(心臓病、糖尿病等)が若年層にも増加しつつあり、保健医療分野の協力を通じ食生活を改善するよう支援する。
(ヘ) 水産分野
既に自給自足的漁業は達成されているので、今後は、零細漁民、漁村開発、観光開発への水産無償等の活用により支援する。
(1) 総論
2003年度のパラオに対する無償資金協力は0.05億円(交換公文ベース)、技術協力は4.92億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、無償資金協力147.58億円(交換公文ベース)、技術協力29.11億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
草の根・人間の安全保障無償資金協力を1件実施した。また、2001、2002年度に実施した「パラオ国際空港ターミナルビル改善計画」により建設された新空港ターミナルが竣工した。
(3) 技術協力
研修員受入およびボランティア派遣を中心に協力を実施している。1996年に青年海外協力隊派遣取極が締結されている。自然環境保全分野では、技術協力プロジェクト「国際サンゴ礁センター強化プロジェクト」を実施中である。
パラオにおいては、援助協調の目立った進展はない。パラオは貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)を策定しておらず、上述のPNMDP、PSIP等を、国家開発計画の重要な政策指針としている。