[10]パプアニューギニア

1.パプアニューギニアの概要と開発課題

(1) 概要
 パプアニューギニア(以下、「PNG」)は、太平洋島嶼国中最も広い国土と多数の人口を有し、かつ資源にも恵まれ、1975年の独立以来、域内における中心的国家の一つである。2002年6~7月に実施された総選挙の結果、国民同盟(NA)を中心とする連立与党が発足し、独立の際に初代首相を務め「建国の父」として国民の人気も高いソマレ首相が4度目の首相就任を果たした。
 ソマレ首相は、施政方針演説において、(イ)グッド・ガバナンスの確保、(ロ)マクロ経済の安定化、(ハ)民間投資・競争を一層促進するための輸出主導型の経済成長、(ニ)人材育成を通じた農村開発、貧困削減、生活水準の向上、を政府の主要目標に掲げ、経済社会回復を促進し、政治行政システムを強化する考えを表明した。
 1988年末に発生したブーゲンビル島における独立分離運動は、ブーゲンビル独立派とPNG政府軍との間で武力衝突が繰り返されたが、2001年8月末にPNG政府と自治政府との間で「ブーゲンビル合意」が署名され、現在武器回収等が進められている。
 外交面では、オーストラリア及び太平洋島嶼国との協力関係重視を基本としつつも、オーストラリア政府の強い影響下から諸外国との関係緊密化へと多角化を進めてきている。同国は1993年11月、アジア太平洋経済協力(APEC:Asia Pacific Economic Cooperation)への正式参加が認められ、太平洋島嶼国はもとより、東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations)諸国や東アジア諸国との関係強化を図っている。しかしながら、悪化するPNG法秩序問題、経済・財政状況等に対処するため、2003年12月に開催されたPNGとオーストラリアとの年次閣僚フォーラムにおいて、2004年から5年間を目途に、オーストラリア人警察官約210名の受け入れやオーストラリア人公務員のPNG政府への派遣を決定し(総額約8億5,000万オーストラリア・ドル)、現在オーストラリア人員の派遣が進行中である。
 経済面では、自給自足経済と貨幣経済が混在する二重構造を有し、一次産業を主体としている。主要輸出産品は金、銅、石油、木材等であり、特に、主要鉱産物は輸出額の約8割を占めている。主な輸出相手国はオーストラリア、我が国、米国、シンガポール等であり、主な輸入相手国は、オーストラリア、米国、シンガポール、我が国、英国等である。
 我が国との関係では、第二次世界大戦中の歴史はあるが、独立以来、友好関係を構築している。経済面では、我が国はPNGにとり第二位の貿易相手国(第一位はオーストラリア)となっている。我が国はPNGより、銅鉱石、木材、魚介類等を輸入する一方で、トラック、タイヤ及びチューブ、乗用車、機械類等を輸出している。
(2) PNG政府中期開発計画
 中期開発計画は、ソマレ政権が施政方針演説で打ち出したグッド・ガバナンス等の開発政策を具体化した国家開発の指針というべきものであり、2003年から2007年を対象として策定中である。今後、内閣の承認を経て、公式に発表される見込みとなっている。同計画は(イ)輸送インフラの維持管理、(ロ)保健、(ハ)教育、(ニ)農村地域での収入を得る機会の拡大、(ホ)法と秩序を重点分野としている。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.パプアニューギニアに対するODAの考え方

(1) パプアニューギニアに対するODAの意義
 PNGの国連人間開発指数は対象173か国中133位と低位であり、貧困層は人口の37%に及ぶとされている。また、平均余命(57歳)や乳幼児死亡率(82/1,000人)及び妊産婦死亡率(320/100,000出生)といった代表的な保健衛生指標に示されるとおり劣悪な社会状況にあり、保健・衛生、教育などの社会面で多くの課題を抱えていることから、我が国ODAがPNG民生向上に資することが期待されている。また、第二次大戦中18万人もの日本軍将兵が同国に駐留し、オーストラリア等の連合軍と戦闘を交えた経緯があるにもかかわらず、PNG国民の間には当時の日本人に対する敵意はみられず、むしろ親日的な心情が全般的に見られるなど、PNG国民の対日感情は非常に良好であることも忘れてはならない一面である。
(2) パプアニューギニアに対するODAの基本方針
 我が国は、歴史的に友好関係にあるPNGが、1975年の独立以来大洋州域内の大国として指導的立場にあり、太平洋諸島フォーラム(PIF:Pacific Islands Forum)や太平洋委員会(PC:Pacific Community)を通じた南太平洋諸国との友好関係の維持・発展に貢献していること、また1993年にはAPECに正式参加し、ASEAN、東アジア諸国とも関係強化を図っていることを評価し、今後も支援を継続する方針である。
(3) 重点分野
 策定中のPNG政府中期開発計画に記された重点分野を踏まえ、我が国は2004年6月に現地タスクフォースを中心に、PNG政府と政策協議を実施し、(イ)保健(予防医療)、(ロ)教育(初等・中等教育、遠隔地教育)、(ハ)経済・社会インフラ整備、(ニ)小規模農業、(ホ)法と秩序(都市貧困)の5分野を中心として経済協力を実施していくことを合意した。また、PNGは開発の歴史が浅く、国の開発を担う自国人材の層が限られている。このため、協力にあたっては、効果的な開発を担い得る人材育成に特に注視する必要がある。

3.パプアニューギニアに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のPNGに対する無償資金協力は13.70億円(交換公文ベース)、技術協力は10.69億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款621.85億円、無償資金協力292.96億円(以上、交換公文ベース)、技術協力200.29億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
 大洋州地域では最大の円借款供与国であり、道路・空港・エネルギー等のインフラ整備、農業開発等についてこれまで12件の実績がある。現在実施中の円借款案件はない。
(3) 無償資金協力
 2003年度においては、ラジオ送信設備の整備を行う「国営ラジオ放送局機材整備計画」と、同国唯一の中等学校教員養成機関であるゴロカ大学に機材を調達する「ゴロカ大学教育用機材整備計画」の2件を実施した。また、草の根・人間の安全保障無償資金協力により、ブーゲンビルの復興支援等を行った。
(4) 技術協力
 1979年に青年海外協力隊派遣取極を締結したほか、1983年にはJICA事務所が開設され、技術協力実施体制は整備されている。2003年度までの協力隊派遣実績累計は433名となっている。また、2003年度には、農業分野では技術協力プロジェクト「小規模稲作振興プロジェクト」を開始したほか、教育や貧困対策、保健医療分野での専門家・ボランティア派遣や単独機材供与が実施されるなど、多岐にわたる分野での協力が実施されている。

4.パプアニューギニアにおける援助協調の現状と我が国の関与

 我が国は、1990年代後半から感染症特別機材供与による予防接種拡大計画支援やフィラリア症対策、子供の健康向上のための無償案件としてコールドチェーン整備事業を、国際連合児童基金(UNICEF:United Nations Children's Fund)、世界保健機関(WHO:World Health Organization)、オーストラリア国際援助庁と協調して実施している。また、保健分野において、オーストラリア、ニュージーランド、アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)等が参画してセクター・ワイド・アプローチ(SWAPS)が進行中である。これは、PNG保健省が中心となりPNG政府と協調する援助国・機関(ドナー)が、一体となってPNGの国家保健政策実施にあたり、援助の効果的、効率的実施のため案件内容等の調整を行うものであり、PNG政府と賛同するドナーの間での覚書が署名されることになっている。我が国は覚書には参加していないものの、PNG政府・ドナー間の各種会合には出席して情報交換等を行い、我が国ODAの効果的・効率的実施に努めている。

5.留意点

 経済協力を実施する上で、PNGのオーナーシップの強化と援助案件の持続発展性を重視する必要がある。国家開発戦略に則した案件形成段階からのPNGの積極的な関与を促すとともに、ローカルコスト負担やカウンターパートの配置等、PNGが取るべき措置について確実な実行を求める必要があり、更なる援助効果を発現させていくために、持続発展性に留意しながら案件形成に努める必要がある。
 また、PNGではテロ事件は発生していないものの、一般犯罪の発生が高率であり、部族抗争、自然災害の発生頻度も高いことから、経済協力関係者の安全確保に十分留意する必要がある。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対パプアニューギニア経済協力実績

表-6 諸外国の対パプアニューギニア経済協力実績

表-7 国際機関の対パプアニューギニア経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図



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