[4]ソロモン

1.ソロモンの概要と開発課題

(1) 概要
 1978年に英国より独立した、エリザベスII世女王(英国女王)を元首とする立憲君主国家であり、総督(ソロモン人)が英国女王を代表している。1998年末より首都ホニアラのあるガダルカナル島において、ガダルカナル島民とマライタ島民による部族対立のため緊張が高まり、2000年6月ウルファアル首相がマライタ系武装勢力によって拘束される事件が発生した。同7月にウルファアル首相が辞任、ソガワレ政権となった。その後、2001年12月に総選挙が実施され、ケマケザ首相が選出された。同首相は、法と秩序の回復に努めたが、警察が機能せず、2003年前半まで政府に対する元武装兵の脅迫が続き、状況は改善しなかった。自力での法と秩序の回復を断念したケマケザ首相は、国連やオーストラリアをはじめ、太平洋諸島フォーラム(PIF:Pacific Islands Forum)加盟諸国に治安維持要員の派遣を働きかけ、7月24日、オーストラリアを主体としたPIF加盟諸国から、ソロモン諸島地域支援ミッション(RAMSI:Regional Assistance Mission to Solomon Islands)が派遣された。現在、急速に治安状況が回復しつつあるが、4年間に亘る財政破綻状態の影響は大きく、疲弊した経済の立て直しが急務となっている。
 外交面では、歴史的に英国、オーストラリア等英連邦諸国と緊密な関係を有しているが、旧宗主国である英国が大洋州地域からの二国間援助の撤退を決定していることもあり、援助供与国の多角化(EU、台湾など)を進めており、台湾とは国交を有し、多額の支援を受けている。また、国連、世界銀行、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)、アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)などにも加盟している他、PIFの枠組みを重視するなど、周辺国との連携も強めている。国際金融機関は、延滞債務問題があり、ソロモン支援を差し控えていたが、ADBに対する延滞債務をオーストラリアが肩代わり返済したため、部分的に支援が開始されている。
 経済面では、木材、魚、コプラ(乾燥ココナツ)、カカオ等の一次産品輸出に大きく依存しているため、国家経済は常に国際市況の影響を受けている。また、人口の85%は地方農村部での自給自足経済が営まれており、都市部と地方の生活水準には大きな格差があるほか、人口増加率が年間3.4%ともいわれ、急激な人口増加への対応が課題となっている。2003年のソロモンの実質国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)成長率は5.8%と、過去4年間で初めてプラスに転じた。その要因としては、法と秩序の改善、外部要因(世界経済)の状況改善、持続性のあるドナー支援、民間部門が立ち直りの兆しを見せていることにある。しかしながら、2003年のプラス成長は、4年間のマイナス成長の後であることを考え合わせると、1999年以前の所得レベルになるには、10%の成長を10年間続けなければならない。
 ソロモンは、部族抗争により経済は疲弊し、部族間に埋めがたい溝ができた。また、一人当たり国民総生産(GNP:Gross National Product)は、600米ドルにも満たない、世界でも特に貧しいとされる後発開発途上国(LDC:Least Developed Countries)である。反面、周辺を海に囲まれ、気候も温暖な熱帯地域であるソロモンは、資源に富んでおり、平和が定着し、汚職が撲滅され、公平な分配が行われれば、将来的には、半自給自足の生活を続けながら持続可能な発展をする可能性を秘めている。
(2) 国家経済復興改革開発計画(NERRDP: National Economic Recovery, Reform and Development Plan)2003-2006
 1999年から2003年にかけての部族抗争による深刻な法と秩序の崩壊のため、政府機関が正常に機能せず、基本的な社会サービスも提供されない状況が続き、ソロモンは大きな経済的打撃を受け、また人々の生活にも悪影響を与えた。NERRDP 2003-2006の目的は、RAMSI派遣により治安が改善した同国の経済・社会開発のための明確な目標と行動を定め、ソロモン政府とドナーが経済復興及び改革、基本的な社会サービスを復旧するために、ともに活動していくための戦略的なフレームワークを形作ることにある。NERRDPでは、下記5項目を重要戦略分野と定めている。
(イ) 法と秩序及び治安状況の改善:警察や司法制度の強化を行うことで、法を執行し、平和を定着させる。
(ロ) 民主主義・人権擁護及びグッド・ガバナンスの強化:憲法改正による地方分権を確立し、民主的な統治システムを強化する。また、人権を保護し、一般の人々を取り込んだ透明性の高いグッド・ガバナンスを確立する。
(ハ) 予算・財政の安定化と公共セクターの改革:政府の税収入の増加、債務問題に取り組む。経済状況に合わせた通貨や交換レート管理政策を策定する。国家及び州政府レベルの計画策定能力を向上させる。公共サービスの改革と、国営企業の民営化を促進する。
(ニ) 生産部門の活性化と社会基盤の整備:技術支援と情報を提供することで、農業、畜産業、漁業、鉱業などの生産セクターの再活性、及び再活性化に欠かせないインフラ復興を行う。
(ホ) 基本的な社会サービスの回復と社会開発の促進:保健・医療及び教育などの基本的社会サービスを回復させる。女性の地位向上、青少年、スポーツ、コミュニティーの開発を促進させる。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.ソロモンに対するODAの考え方

(1) ソロモンに対するODAの意義
 2003年5月に開催された第3回太平洋・島サミットでは、(イ)太平洋地域の安全保障の強化、(ロ)より安全で持続可能な環境、(ハ)教育及び人材育成の改善、(ニ)保健及び衛生の改善、(ホ)より活発で持続可能な貿易及び経済成長の5つの重点政策目標を掲げ、我が国とPIFが共同で取り組む「沖縄イニシアティブ」を決定した。
 ソロモンに対する支援は、我が国と太平洋島嶼国地域全体の関係の中で、戦略的意義をもつものであり、破綻国家を作らないための地域的取組の一つの好例となっている。特に上記(イ)の分野で、ソロモンへの支援が優先課題となっていることは、沖縄イニシアティブと同等に発表された「太平洋地域における開発援助についてのオーストラリア、日本、ニュージーランド3国間の協力に関する共同宣言」において確認されている。また、ソロモンは従来より親日的であり、同国の200海里経済水域は、我が国の漁業にとり重要な漁場である点にも留意する必要がある。
(2) ソロモンに対するODAの基本方針
 RAMSIの活躍により、法と秩序問題は改善しつつある。我が国は、RAMSI派遣を評価するとともに、ソロモンの安定に向けてできる限りの協力を行う意向を表明している。我が国は、長年のソロモンの主要ドナーの一員として、同国の開発に向けた自助努力を支援するため、水産分野、運輸インフラ整備を中心とする無償資金協力、研修員受入等の技術協力及び開発調査を実施してきた。
(3) 重点分野
 2003年11月に開催されたソロモン主催ドナー会合の場で、我が国は以下の重点分野を発表した。
(イ) 紛争予防と平和構築
 草の根・人間の安全保障無償資金協力や、我が国が国連に設置・拠出している人間の安全保障基金を活用して、避難民の支援や元武装兵に対する雇用の提供を実施している。
(ロ) グッド・ガバナンス
 効率的な行財政管理や透明性向上などのグッド・ガバナンス確立のため、人材育成に資する協力を実施している。
(ハ) 国家の持続可能な発展に資する協力(保健医療、インフラ、一次産業振興)
 紛争の混乱で基本的な保健医療サービス、上下水道、電力などのインフラに大きな被害が出ているため、感染症予防機材供与やインフラ修復などに協力を実施している。
3.ソロモンに対する2003年度ODA実績
(1) 総論
 2003年度のソロモンに対する無償資金協力は1.15億円(交換公文ベース)、技術協力は0.80億円(JICA経費実績ベース)。2003年度までの援助実績は、無償資金協力134.64億円(交換公文ベース)、技術協力67.95億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
 2003年度は13件の草の根・人間の安全保障無償資金協力を実施し、同国の小学校の整備、水供給施設の改善、医療施設修復、難民救済等を行った。部族抗争により一般・水産無償資金協力を一時停止していたが、同国の復興に寄与する案件を中心に優良案件を実施すべく調査を行っている。
(3) 技術協力
 研修員受入事業を除き援助要員の派遣を伴う事業を一時停止していたが、2002年11月から調査団派遣を再開した。2003年5月にはJICA首席駐在員が派遣され、実質的に一時閉鎖中であったJICA駐在員事務所が再開された。2003年11月にはフォローアップ協力「ルンガ地区電力開発計画」調査団が派遣された。2004年2月にはプロジェクト形成調査(社会セクター)が実施された。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対ソロモン経済協力実績

表-6 諸外国の対ソロモン経済協力実績

表-7 国際機関の対ソロモン経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図


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