[26]ブラジル

1.ブラジルの概要と開発課題

(1) 概説
 2003年、「変革」を求める国民の声を背景に4度目の大統領選挙出馬で初当選したルーラ大統領による労働者党政権が発足した。同政権は、経済の安定・成長の確保に意を用いつつも、社会政策に重点を置き、中・長期的には「飢餓ゼロ計画」(全ての国民が毎日3度の食事をとることができるようにする事業)の推進、また、短期的には、社会保障制度・税制改革等の各種改革の推進を政策目標としている。
 外交面では開発途上国のリーダー格としての立場を維持しつつ、国際社会における発言力の強化を目指し、中南米諸国及び先進諸国との関係緊密化、現実的な通商拡大等の政策を積極的に展開している。また、メルコスール(南米南部共同市場)構成国の中心国として、域内統合の推進を図っている。
 経済面では、輸送機器、エネルギー、鉄鋼、電気・電子等の産業が発展しており、中南米有数の工業国となっている。農業は、国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)の約10%を占めるにすぎないが、農業関連工業が近年急速な伸びを示している。鉱物資源、水産資源、林産資源にも恵まれている。特にアマゾン地域の熱帯林は、世界の熱帯林面積の約50%を占めている。
 2002年4月末以降、政治不安への懸念を発端とした信用問題等により急激なブラジル通貨(レアル)の下落、カントリーリスクの上昇が起こり、金融市場が不安定化した。しかし、ブラジル経済の悪化を防ぐため、2002年9月、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)は総額約300億ドルの新規融資プログラムを承認した。ルーラ大統領は、2003年1月の就任以来、前政権の経済政策を基本的に踏襲し、堅実な経済運営を行った結果、市場は一定の落ち着きを取り戻した。
 我が国とは1895年に外交関係を樹立し、伝統的に友好関係にある。1908年には日本人の組織的な移住が始まった。1970年代に入ってからは、日本企業のブラジルに対する関心が高まり、経済関係も急速に緊密化した。2003年10月時点で、日系人・日本人移住者は約140万人在住しており、世界最大の日系人社会を形成している。2008年には、ブラジル移住100周年を迎える。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.ブラジルに対するODAの考え方

(1) ブラジルに対するODAの意義
 ブラジルは、約1億7千万人の人口を擁し、中南米地域においては大きな影響力を有し、国際場裡においても存在感がある。このような中南米地域におけるブラジルの重要性に加えて、我が国とブラジルとの伝統的友好関係及び緊密な経済関係、約140万人の日系人・日本人移住者の存在から、同国と安定した協力関係を維持していくことは重要である。
 他方、同国内では貧富の格差が大きく、多数の貧困層が存在することから、ODA大綱の基本方針の一つである「公平性の確保」の下で社会的弱者の状況や貧富の格差等を考慮しつつ、同国における貧困対策や経済改革等の取組をODAにより支援することは、同大綱の重点課題である「貧困削減」の観点から意義が大きい。
 また、アマゾン地域等の熱帯林保全に対する世界的な関心等に留意し、ODAを通じて同地域の環境問題に取り組むことは、ODA大綱の重点課題の一つである「地球的規模の問題への取組」の観点からの意義が大きい。
(2) ブラジルODA基本方針
 上記(1)の観点及び同国が援助吸収能力が高いことから中南米地域の最重点国の一つとして積極的に協力を行っている。ブラジルは一般無償資金協力卒業国であるため、円借款、技術協力、草の根・人間の安全保障無償資金協力を中心に協力を行っている。また、ブラジルの相対的な技術水準の高さを活用し、日本・ブラジル・パトナーシップ・プログラムを通じて、中南米やポルトガル語圏途上国に対する支援を行う。 
(3) 重点分野
 ブラジル政府は2003年8月に「多年度計画(2004-2007)」を発表し、その中で(イ)社会的不平等の解消と社会融合、(ロ)雇用や所得の増加、(ハ)地域格差の是正、(ニ)環境に配慮した持続的な経済成長の実現、(ホ)市民権の拡大、民主主義の強化を大きな目標としている。
 我が国はブラジル政府の「多年度計画」を踏まえ、また累次に亘るブラジル側との政策協議等の結果、以下の分野を援助重点分野としており、現地ODAタスクフォースによる優良案件の形成・実施に努めている。
(a) 環境、(b) 工業、(c) 農業、(d) 保健、(e) 地域格差是正のための社会開発関連

3.ブラジルに対する2003年度のODA実績

(1) 総論
 2003年度のブラジルに対する円借款は、216.37億円、無償資金協力は1.82億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は24.35億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款は3,265.60億円、無償資金協力は10.48億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は921.63億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
 2003年8月に「サンパウロ州沿岸部衛生改善計画(SABESP:Companhia de SaneaMento Bsico Do Estado De Sopaulo)」に対し、交換公文を締結した。
(3) 無償資金協力
 草の根・人間の安全保障無償資金協力として、「チア・アンジェリーナ学園教育施設増設計画」、「ストリート・チルドレン生活改善計画」他26件と文化無償資金協力を2件実施した。
(4) 技術協力
 農業、保健・医療、行政分野を中心に288名の研修員を受入れ、53名の専門家の派遣を新たに行った。また、技術協力プロジェクトとして、「アマゾン森林研究計画II」、「トカンチンス州小規模農家農業技術普及システム強化計画」等を実施し、「グアナバラ湾の環境に関する管理及び改善調査」他3件の開発調査を実施した。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対ブラジル経済協力実績

表-6 諸外国の対ブラジル経済協力実績

表-7 国際機関の対ブラジル経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図



前ページへ  次ページへ