[24]パラグアイ

1.パラグアイの概要と開発課題

(1) 概要
 1989年以来35年間に及んだストロエスネル政権(軍事政権)が、ロドリゲス将軍のクーデターにより崩壊した。ロドリゲス政権は「民主化と人権尊重」を掲げ、政治活動の自由、言論の自由、労働者の団結権等を保障する新憲法を公布し(1992年)、国内政治体制の民主化を進めた。1993年に39年ぶりの文民大統領として就任したワスモシ大統領は、人権の尊重、司法権刷新、憲法尊守等、民主化定着を柱に掲げ、前政権の民主化政策を引き継いだ。
 1998年に就任したクーバス大統領は、選挙公約であったオビエド将軍(軍政派の求心力的存在)の釈放措置をめぐって最高裁及び国会と対立し、1999年3月アルガーニャ副大統領暗殺後に国会議事堂前で起きた流血事件の責任を取り辞任した。新大統領にはゴンサレス上院議長が就任し、53年ぶりの連立政権の下、政党派閥間の対立などから、大統領弾劾の動きに端を発したストライキやデモが頻発し、非常事態宣言が発出されるなど政局は不安定な状態が続いた。2003年の選挙の結果成立したドゥアルテ政権は、発足早々から大統領周辺の高官を含む腐敗公務員の追放等汚職対策に着手し、国民の期待に応えつつある。
 経済面では、基本的に農牧林業の生産及び同産品の輸出に依存している。特に大豆及び綿花の輸出額が半分近くを占めるため、経済は両作物の生産状況と国際価格に左右される。
 2001年3月に発表された「経済開発戦略計画」は、我が国が実施した「経済開発調査(EDEP:Estudio Para el Desarrollo Economico del Paraguay)」を基盤としており、これによってパラグアイ経済発展のための政策方針が示された。しかし、アルゼンチン、ブラジルの両大国に依存したパラグアイ経済は大きく停滞した。ドゥアルテ新政権は経済改革関連法案を次々に成立させ、2003年12月国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)のスタンド・バイ・クレジットについても正式合意した。この合意に基づき、ドゥアルテ政権は、経済改革の面においても外貨準備高の上昇、インフレの抑制、税収拡大等の成果を上げている。現在は税制改革法案の成立が当面の問題となっている。なお、IMFの評価はこれまでのところ概して良好である。構造改革の遅れ等につき指摘はあるものの、マクロ経済面での目標達成度については高い評価がなされている。
(2) 国家開発戦略の重点分野等
 ドゥアルテ政権下において「国家開発計画」は策定されていない。同政権の100日活動報告、社会開発を所管する社会事業庁の「貧困・格差削減戦略(ENREPD:Estratgia Nacional de Reduccion de la Pobreza y la Desigualdad en Poraguay)」及び第1回ODAタスクフォース政策協議によるパラグアイ側の説明等によれば、国家開発戦略重点分野として、経済競争力強化、人材開発、インフラ整備、環境保全、貧困撲滅、行政近代化等が挙げられる。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.パラグアイに対するODAの考え方

(1) パラグアイに対するODAの意義
 パラグアイの基幹産業は農牧業であるが、経済は農作物の生産状況と国際価格に大きく左右されるため不安定であり、中南米の中でも開発が遅れている国である。ODA大綱の基本方針の一つである「公平性の確保」の下で社会的弱者の状況や貧富の格差等を考慮しつつ、同国における貧困対策や経済改革等の取組をODAにより支援することは、同大綱の重点課題である「貧困削減」や「持続的成長」の観点から意義が大きい。
 また、同国へは1936年に邦人移住者の入植が始まり、現在約7,000人の日系人移住者・在留邦人が在住している。伝統的に友好関係にあることからも、安定した協力関係を維持することは重要である。
(2) パラグアイに対するODAの基本方針
(イ) 同国に対する協力は、無償資金協力、技術協力を中心に実施している。近年、円借款の実績はないが、必要に応じて円借款についても実施していく。
(ロ) 同国は、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイと共にメルコスール(南米南部共同市場)を構成しており、近年各国の連携・協調が図られている。今後は、地域間の格差の是正・地域安定化促進に向け、メルコスール各国の共通課題に対する広域協力も推進していく。
(3) 重点分野
 パラグアイの国家戦略や開発課題を踏まえ、2004年8月に第1回現地ODAタスクフォースによる政策対話を実施し、重点分野の重要性について確認した。
 農業、保健・医療、人的資源開発、環境の4つを援助重点分野とし、それに基づく以下をの開発課題について協力を行う。
(イ) メルコスールに対応するための競争力の強化と経済成長の促進
(ロ) 貧困層を主な対象とした保健医療と教育の充実
(ハ) 環境保全と天然資源の持続的開発
(ニ) 国家及び地方の行政能力の向上
(ホ) 過去に実施した優良案件の再活性化
(ヘ) 業界団体、非政府組織(NGO:Non Governmental Organization)等非政府機関への協力

3.パラグアイに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のパラグアイに対する無償資金協力は1.19億円(交換公文ベース)、技術協力は18.68億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款は1,120.36億円、無償資金協力は267.55億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は702.58億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
 「小学校増築及び資材購入計画」、「チャコ地方干ばつに対する援助計画」他12件の草の根・人間の安全保障資金協力に加え、2件の文化無償資金協力を実施した。
(3) 技術協力
 農牧畜産業、保険・医療、職業訓練、中小企業育成等多岐にわたる分野から103名の研修員の受入れを行い、40名の専門家、青年海外協力隊、シニア海外ボランティア等58名のボランティアを新たに派遣した。また、「南部看護助産婦継続教育強化」、「中小企業活性化のための指導者育成」等の技術協力プロジェクトを実施した。

4.パラグアイにおける援助協調の現状と我が国の関与

 パラグアイにおいては、援助協調の目立った進展はない。パラグアイは貧困削減戦略文書を策定していないものの、パラグアイ社会事業庁が国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)等の協力により作成した「貧困・格差削減戦略(ENREPD)」がある。また、現政権における国家開発計画は存在しないが、前政権が作成した開発戦略に基づく様々な社会・経済開発を行っている。我が国の関与についても、開発戦略を参考にしながら、他ドナーとの協調を模索している。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対パラグアイ経済協力実績

表-6 諸外国の対パラグアイ経済協力実績

表-7 国際機関の対パラグアイ経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図



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