(1) 概要
ハイチでは、1804年の独立以来独裁政権が続いていたが、1990年12月に初めての民主的選挙が実施された。しかし、1991年9月に軍事クーデターが発生し、軍の退陣後も国会の事実上機能停止など政治的混乱が続いた。2000年には国会議員選挙の得票方法に係る政府の対応をめぐって野党・市民社会グループが退陣運動を激化させた。2003年12月以降は、全国的規模のデモ及びゼネストが相次ぎ、反政府武装勢力が中北部を占拠するに至り、翌2004年2月にはアリスティド大統領は国外に脱出し、アレクサンドル暫定大統領が就任し、3月には、ラトルチュ首相が率いる暫定内閣が発足した。同年6月には安全確保、政治プロセスの民主化支援、人権・人道支援の調整等幅広い権限を有する国連ハイチ安定化ミッションが発足した。翌7月にワシントンで開催された対ハイチ支援会合において、国際社会より、総額1,085百万ドルの支援を表明し、ハイチ暫定政府は、現在国際社会の協力を得つつ、新たな国造りに取り組んでいる。その間、2004年5月に南東部に洪水被害、同年9月にハリケーン被害が発生し、国際社会はハイチに対して緊急援助を実施した。
経済面では、農業依存型の脆弱な体質に加え、国内の政情不安と1991年の軍事クーデターを契機とした国際社会による経済制裁により、国民経済は困窮状態に陥った。1994年の民主主義の回復と共に国際社会からの援助が再開されたが、2000年の選挙結果に起因するハイチの民主化プロセスの停滞は、米国を始めとする主要ドナー国による援助の見直しという結果を招き、ハイチ国内経済に大きな影響を与えた。その後も政情不安、民間投資の減少、国民総生産の低下、為替相場の下落等が続いている。
(1) ハイチに対するODAの意義
ハイチは、カリブ共同体(カリコム)加盟国の中で、我が国との間で最初に外交関係を樹立し、本邦大使館を設置した国であり、我が国と伝統的に友好協力関係を発展させてきたところ、同国との間で安定した協力関係を維持することは重要である。また、農業依存型の脆弱な貧困国であるハイチの社会経済開発を支援することは、ODA大網の重点課題の一つである「貧困削減」の観点からも意義はある。また、ハイチでは近年洪水やハリケーンによる被害が発生しているが、政情が不安定であったため十分な政府の保護が期待できず、被災者は正に人間としての生存に対する脅威に直面していたことから、こうした被災者に対するODAによる支援は「人間の安全保障」の観点からも重要である。
(2) ハイチに対するODAの基本方針
ハイチが2004年4月22日の支援国会合で表明した「ニーズアセスメント」に基づき、7月に開催された支援国会合において各ドナー及び国際機関は支援を表明した。我が国は、7月の支援国会合において、「人間の安全保障」の観点から「農村の開発と人の開発」、「基礎的生活分野」に係る支援を実施することを決定した。
また、我が国は二国間援助とともに、ハイチで活動する国際機関等(世界食糧計画(WFP:World Food Programme)、国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization of United Nations)、国連児童基金(UNICEF:United Nations Children's Fund)、国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)等)を通じた支援を実施してきている。
(3) 重点分野
(イ) 我が国は、2004年7月に実施された支援国会合において、「人間の安全保障」の観点から「農村の開発と人の開発」、「基礎的生活分野」に係る支援を実施することを決定した。
(ロ) 我が国は2000年11月8日に東京で開催された第1回日・カリコム閣僚級会合において、策定された「21世紀における日・カリコム協力のための新たな枠組み」に基づき、(イ) 良い統治、(ロ) 貧困と削減、(ハ) 環境と防災、(ニ) 中小企業開発、(ホ) 観光・水産・農業、(ヘ) 貿易・投資促進、(ト) 通信技術を援助重点分野としている。
(1) 総論
2003年度のハイチに対する無償資金協力は6.60億円(交換公文ベース)、技術協力は0.60億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、無償資金協力は241.54億円(交換公文ベース)、技術協力は11.19億円(経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
食糧増産援助(WFP経由)、草の根・人間の安全保障無償資金協力として、「ボワノ村飲料水施設建設計画」、「マリー・レーヌ・イマキュレー小学校修復計画」他8件を実施した。
2004年9月には食糧支援を行った。
(3) 技術協力
保健・医療、行政分野を中心に10名の研修員を受入れ、地域開発の専門家を派遣中。
2004年度から、設立した国別研修「医療器材保守・管理」コースを実施中。
ハイチ支援については、4月の支援国会合以降、他ドナー国及び国際機関による支援会合が実施されている。今後、ハイチの要請、治安状況、支援国会合の方針等を踏まえ、他ドナーとの連携・協調を図る必要がある。