[21]ニカラグア

1.ニカラグアの概要と開発課題

(1) 概要
 1990年に国連等の国際監視の下で民主的な大統領選挙が実施され、同年4月にチャモロ政権が誕生した。同政権はコントラの武装解除及び軍の削減を実施し、10年近くに及んだ内戦を正式に終結させた。その後国家再建に取り組み、内政面では国内和解、民主化進展、外交面では、米国等の西側諸国との関係修復、国際金融機関への復帰、中米統合プロセスへの参加等で大きな成果を収めた。1996年10月の大統領選拳の結果、1997年1月に発足したアレマン政権は、引き続き民主化促進と経済再建に努めた。
 2002年1月に就任したボラーニョス大統領は、自助努力、雇用、投資促進及び民主主義の強化を強調すると共に、「汚職との闘い」に重点を置き、アレマン前大統領時代の汚職を厳しく追求し、同前大統領を収監するに至っている。
 経済面では、チャモロ政権及びアレマン政権が内戦で疲弊した国内経済再建に取り組んだ結果、 1990年に1万パーセント以上にも達したハイパーインフレは終息した。インフレ率は1997年には7.3%にまで下がり、1998年はエル・ニーニョ現象による干ばつ、ハリケーン災害の影響もあって18.5%まで上昇したものの、その後は再び安定的に推移している。主要農産物はコーヒー、牛肉、さとうきび等である。
 国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)の拡大構造調整融資(ESAF:Enhanced Structural  Adjustment Facility)が、1994年に開始された後、いったん中断したが、アレマン政権発足後、所有権法の可決、税制改革法の成立等の努力が功を奏し、1998年3月に再開が承認された。その後も公的部門改革、国営企業の民営化、金融システム改革、社会保障改革が進められている。2000年12月には拡大重債務貧困国(HIPC)イニシアティブの決定時点到達が承認され、2004年1月には完了時点に到達し、債務削減が実施されることとなった。
(2) 開発計画
(イ) 「ニカラグア貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)」
 2001年9月に世界銀行及びIMFに支持されたニカラグア貧困削減戦略文書(PRSP)は(i)幅広い経済成長と構造改革、(ii)人的資本に対する投資の拡大と改善、(iii)脆弱集団への保護の改善、(iv)グッド・ガバナンス(良い統治)と制度改革の4本の柱と(v)生態系の脆弱性改善、(vi)社会的不平等の是正、\ヲ地方分権化促進の3つの横断的テーマから構成されている。
 また、ミレニアム開発目標にニカラグア独自の目標を加え、2015年までの長期目標と2005年までの5か年計画目標を設定している。 
(ロ) 「国家開発計画」
 ニカラグアPRSPの第1の柱「幅広い経済成長と構造改革」を補完するために「国家開発計画」が2003年9月に発表された。同計画は25年間の長期計画であり、年平均5-6%の経済成長を前提としている。経済成長(生産性向上)に焦点を当てており、インパクトが大きい9つの産業クラスターを指定し、ポテンシャルの高い地域を特定して産業クラスターを築くことを目的としている。
(ハ) 「オペレーショナル国家開発計画」
 国家開発計画の実施を具体化するために、オペレーショナル国家開発計画が2004年9月に発表された。同計画は、2005年から2009年までを対象とする5か年計画であり、規制整備、融資サービス、所有権制度の確立、輸出産業の促進、直接外国投資誘致、中小企業開発、農村開発の新しい枠組み、持続可能な環境開発、インフラ整備の計画による産業競争力の強化等を目指している。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.ニカラグアに対するODAの考え方

(1) ニカラグアに対するODAの意義
 ニカラグアは中南米の最貧国の1つであり、電気も水道が整備されていない地域もあり、また、自然災害も多いほか、内戦の傷跡も依然として見られる。貧困問題の解決や内戦や自然災害からの再建を支援することは、同国の民主化確立と経済発展にとって不可欠であり、ODA大綱の重点課題である「貧困削減」や「平和の構築」の観点からも意義が大きい。
 我が国は「開発と民主主義(二つのD)への支援」というスローガンを掲げ、和平合意の「暁」には支援を強化する旨表明(「あかつき援助」)、和平達成後には、強力な援助を実施し、同国における民主主義の確立と平和と安定のための重要な役割を果たしている。
 ニカラグアは、これまでに我が国との間で良好な関係を構築しており、また、これまでの我が国の援助は、ハリケーン・ミッチ災害にも耐えた橋梁等に代表されるように、ニカラグアにおいて高く評価されており、我が国ODAプロジェクトを図柄とした友好記念切手も発行されている。
 近年、米・中米自由貿易協定(CAFTA:Central American Free Trade Agreement)署名等により、中米域内統合が加速されている。中米地域のポテンシャルを高めるとともに、地域の安定の発展に着よするとの観点から、メキシコ南部及び中米諸国の開発計画であるプエブラ・パナマ・プラン(PPP:Puebla Panama Plan)等広域的な支援を実施していくことが重要。
(2) 我が国のニカラグアに対するODAの基本方針
 我が国の対中南米ODA中期政策に則り、民主主義を一層定着させ、持続可能な社会開発を推進させるために、特に貧困層に直接裨益する基礎的生活分野における案件、持続可能な経済社会開発と民主主義の確立に資する案件を中心に、無償資金協力、技術協力スキームを活用して実施していく。なお、拡大HIPCイニシアティブの対象国になったことから、当分の間、新規の円借款の供与は困難である。
(3) 重点分野
 我が国は、ニカラグア政府との協議を通じて、2000年に国別援助計画を策定し、以下の項目を重点分野としている。
(イ) 農業・農村開発
 零細農業や、中小農家に対する精算活動への支援。農業基盤整備、農民組織の育成、維持管理技術移転等の支援を実施。
(ロ) 保健・医療
 PRSPの枠組みの中での子供の健康、母子保健、感染症対策等の分野における支援を実施。
(ハ) 教育
 初等教育での就学率の改善、教育の質の向上に資する支援の実施。
(ニ) 道路・交通インフラ整備(経済成長の基盤整備I)
 基礎的経済インフラへの支援。
(ホ) 民主化支援
 政治・経済の安定のための支援、制度改革、ガバナビリティの向上等への支援。
(ヘ) 防災
 治水、砂防、河川流域管理等への支援。

3.ニカラグアに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のニカラグアに対する無償資金協力は26.07億円(交換公文ベース)、技術協力は10.18億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款は210.79億円、無償資金協力は538.90億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は121.77億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
 教育、医療分野を中心に実施。
(3) 技術協力
 2.(3) の重点分野に沿って支援を実施。

4.ニカラグアにおける援助協調の現状と我が国の関与

 ニカラグアには、教育、保健、インフラ、ガバナンス、生産性・競争力、社会的保護の各セクター・テーブル、及びマクロ経済的なテーマについて協議するグローバル・テーブルが設置されている。
 各セクター・テーブルでは、国家開発計画に則ったセクター政策の策定が進められており、今後国際援助は各セクター政策に沿って行われることが期待されている。また、既に財政支援を行っているドナーも多数存在する。
 我が国は、現地ODAタスクフォースによりセクター・テーブルに積極的に参加し、プロジェクト支援を中心に援助協調を行っている。又、我が国は、OECD-DAC援助調和化・アラインメント・タスクチームのニカラグア・インカントリー・ファシリテーターに指名され、調和化プロセスに貢献している。

5.留意点 

 ニカラグアでは予算の厳しい削減による政府機関の事業規模や機能自体の縮小が行われたため、人材不足、管理運営・技術能力の低下によって、カウンターパート機関のプロジェクト実施能力が弱体化しているケースが見られる。
 今後、プロジェクトを実施する際、大学研究機関等、他の公的機関との連携を検討する必要がある。また、ニカラグア政府のオーナーシップのもと援助協調を進めるために、政府機関の援助計画・政策策定調整能力、案件形成能力、実施後のモニタリング・評価管理の能力等、キャパシティ・ビルディングによる人造りと体制作りを支援していくことが必要である。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対ニカラグア経済協力実績

表-6 諸外国の対ニカラグア経済協力実績

表-7 国際機関の対ニカラグア経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


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