(1) 概要
2004年5月に実施された大統領選挙では、史上最高の支持率を獲得したフェルナンデス大統領(1996~2000)が再選し、同年8月に就任した。フェルナンデス新大統領の政策(ドミニカ解放党(PLD:Partido ae la Liberation Dominicaua)政策綱領)においては、社会的平等・公正と経済成長の両立による民主国家の強化を開発戦略として掲げ、(イ)民主的統治の強化、(ロ)制度改革による民主主義の強化、(ハ)経済の安定と成長の回復、(ニ)生産性と競争力の強化、(ホ)社会の公正・平等の達成の5点を基本的目標としている。また、同年8月16日の大統領就任演説では、2003年以降の急激な経済状況の悪化からの回復が急務であるとし、その最優先課題として「マクロ経済の安定化」を掲げ、その達成のために必要な政策を公約した。
同国の経済は、基本的に農業、鉱業、軽工業及び観光業に依存している。従来は、砂糖、コーヒー、カカオ、タバコ等伝統的農産品の輸出が総輸出額の半分を占める農業国であったが、近年は、自由貿易地区(フリーゾーン)の繊維等軽工業品の輸出増加や外資を導入した観光業が発展してきている。また、100万人を超える在米ドミニカ共和国人からの家族送金も同国経済を支える要因ともなっている。
フェルナンデス大統領の前政権時には年平均7%の高い経済成長を達成し、その後2000年のメヒーア政権下でも当初は7.7%の高成長率を維持した。2001年には米国経済の停滞、米国同時多発テロ等の影響から一時的に経済成長が減速したものの、中南米では比較的高い2.7%の成長率を記録した。また2002年には、4.1%の成長率を達成したものの、2003年には国内大手銀行の不正取引により生じた財政赤字の増大、急激なペソ安、インフレ率の上昇等のマクロ経済上の問題が発生し、0.4%のマイナス成長となった。ドミニカ共和国の国民1人当たりの国内総生産額は2,494ドルであり、中所得国として分類されているものの、国民全体への所得配分にはつながっておらず、地方部の貧困は深刻である。
我が国との関係は伝統的に良好であり、2004年11月には、日本・ドミニカ共和国友好関係70周年を迎える。現在、同国には約800名の日本人移住者及び日系人が居住している。
(2) ドミニカ共和国の国家開発政策
2004年8月に就任したフェルナンデス大統領は、就任演説において、特に経済状況の悪化がもたらした貧困問題等への対応として、各種支援プログラムの実施、極貧層に対する食糧緊急援助プログラムの実施、教育の質的改善、停電問題への取組などを掲げた。今後はこれらに基づき各種開発計画が策定され、実施されていく予定。
なお、前政権時において策定された主な中期的戦略は以下のとおりである。
(イ) ドミニカ共和国における貧困削減戦略(2003~2015年)
貧困層の削減を目標として、保健、教育、水、基礎インフラなどの基礎的環境衛生問題の改善を図る。
(ロ) 農畜産部門の10か年戦略及び中期的開発プラン(2000~2010年)
農畜産部門の組織制度の再構築を図るとともに、農村地域の生活環境改善を図る。
(ハ) ドミニカ共和国の教育発展のための戦略(2003~2012年)
同国の教育レベルの向上及び教育環境の改善を図る。
(1) ドミニカ共和国に対するODAの意義
ドミニカ共和国は安定した民主国家であり、カリブ地域の平和と安定にとって重要な地位を占めている。同国の日系移民が伝統的に我が国との架け橋となってきたこともあり、我が国との関係は良好であるところ、安定した協力関係を維持することが重要である。また、同国には依然として多くの貧困層が存在するところ、同国における貧困問題への取組をODAにより支援することは、ODA大綱の重点課題の一つである「貧困削減」の観点から重要である。
(2) ドミニカ共和国に対するODAの基本方針
一般無償資金協力の卒業国となることが近いことから、今後は技術協力を中心に円借款も適宜活用した援助の展開方向にシフトする。特に、現在、青年海外協力隊及びシニア海外ボランティア等では約100名近くに上る派遣を実施しており、同国内での評価も非常に高いことから、これらボランティア派遣を組み合わせながら、技術協力プロジェクト、開発調査、研修事業及び専門家派遣を効果的に実施していく。
(3) 重点分野
対ドミニカ共和国の援助に当たっては、2003年8月の現地政策協議の結果を踏まえ、農林・牧畜・水産業、教育、医療・保健、環境の重点4分野に加えて、近年のマクロ経済発展を背景とした自国の自立的発展性を維持させるよう、貿易・投資促進及び観光振興等にも資する協力として、経済を新たな支援分野として加え、これら5分野を中心に援助を実施していく考えである。
(イ) 農業・牧畜・水産業
地方貧困農村における農民の収入向上を開発課題とし、農業生産性の向上や国際競争力及び付加価値の高い農産品の開発、生産などを支援する協力を行う。
(ロ) 医療・保健
地方貧困層の健康改善を開発課題とし、同国の喫緊の課題である地方部での医療・保健サービスの改善に資するための協力を行う。
(ハ) 教育
基礎教育の改善を開発課題とし、初等教育を対象とした教員のレベル向上への協力を行う。
(ニ) 環境
環境保全と回復を開発課題とし、都市部での廃棄物処理等の環境問題、また一方で近年著しい森林の荒廃問題に対処すべく、これらへの協力を行う。
(ホ) 経済(貿易・投資促進及び観光振興等)
貿易・投資促進を開発課題とし、持続的な経済発展へ向けて、国際市場への参入、輸出拡大、国際競争力のある国内産品開発等への人材育成支援を中心とした協力を行う。観光分野については、同国の重要な基幹産業である観光産業の発展のため、新たなマーケット開拓や地域社会発展に寄与する観光資源の開発等への協力を行う。
(1) 総論
2003年度のドミニカ共和国に対する無償資金協力は6.04億円(交換公文ベース)、技術協力は12.74億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款は315.80億円、無償資金協力は236.32億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は221.42億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
円借款では、1980年代に通信、農業開発、水力発電などで供与実績がある。近年では1993年度に「アグリポ農業開発計画(Ⅱ)」を供与した。また、1985年度、1992年度及び1999年度には債務繰延を行った。なお、新規円借款については、経済・債務状況等に留意しつつ、優良案件があれば検討していく。
(3) 無償資金協力
上水道整備、教育、環境、医療分野に対して実施。
(4) 技術協力
食品加工、農業、教育、水分野を中心に実施。
同国においては、2001年から各主要ドナー(世界銀行、米州開発銀行、欧州連合(EU:European Union)、国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)、国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization of United Nations)、米国国際開発庁(USAID:United States Agency for International Development)等)によるドナー会合が開催されている。これは各ドナー間の情報交換が中心で、援助協調を緩やかに進めようとするものとなっている。現在、いくつかの分科会が組織され、意見交換が進められている。
フェスナンデス大統領就任後、新政権下の各省庁・関係機関においては各閣僚、担当者が配置され、それぞれ各課題分析や今後の政策議論が行える状況が整った。今後の対ドミニカ共和国ODAの実施に際しては、現地ODAタスクフォースにおいて、これらとの意見交換を活発に実施していく方針である。特に新政権発足後間もない段階における双方の援助戦略の考え方の摺合せについての必要性は、先方政府機関とも認識を共有しており、フェルナンデス政権の今後4年間を見据えて議論をしていく方針。