(1) 概要
社会主義を掲げたアジェンデ政権が1973年に軍のクーデターにより倒れ、ピノチェット陸軍司令官を大統領とする軍事政権が1990年まで続いた。民政移管後は、中道左派の諸派連合を母体とする大統領が政権を担当してきた。現在のラゴス政権は従来の路線を引き継ぎ、市場重視の経済政策、開かれた地域主義に基づく外交政策を基本に、経済成長、貧困撲滅、医療制度改革、高齢者対策、教育改革及び科学技術政策等を重点項目として取り組んでいる。
外交面では、チリ経済の更なる国際化、中南米諸国との協力・友好関係強化、国際場裏における役割の強化、平和維持及び民主主義を確保するための活動への参加等を外交基本政策に掲げている。チリは、欧米諸国に加え、アジア太平洋地域との関係を重視しており、1994年に加盟したアジア太平洋経済協力会議(APEC:Asia Pacific Economic Cooperation)や東アジア・ラテンアメリカ協力フォーラム(FEALAC:Forum for East Asia - Latin America Cooperation)に積極的に参加している。
経済面では、他の中南米諸国に先駆け、1970年代半ばから自由開放政策を推進しており、1980年代初めの債務危機を克服し、1991年から1997年までの平均実質成長率は8.3%に達するなど、長期にわたる高度成長を実現した。その後アジア危機により景気は低迷するが、2000年以降は回復傾向にあり、健全な金融・財政政策、安定したインフレ率やカントリーリスクの維持、積極的な外資誘致政策等により、南米地域の経済拠点として注目されている。チリは、貿易の自由化を推進すべく、関税の一方的引き下げ(ユニラテラル)、二国間自由貿易協定の締結(バイラテラル)、世界貿易機構(WTO:World Trade Organization)への積極的参加(マルチラテラル)による取り組みを行っている。
我が国との関係は、伝統的に友好的である。1997年には修好百周年を祝す各種記念行事が官民をあげて開催された。集団移住は行われたことはないが、ペルー、ボリビア等からの再移住もあって、現在約2,600名の日系人・日本人移住者が在住している。
(1) チリに対するODAの意義
チリでは、貧富の差や都市と地方との格差が解消されておらず、特に貧富の差は、一部に治安の悪化をもたらしている。ODA大綱の基本方針の一つである「公平性の確保」の下で社会的弱者の状況や貧富の格差等を考慮しつつODAにより支援することは、同大綱の重点課題である「貧困削減」の観点から意義が大きい。また、首都サンチャゴの大気汚染のような公害や自然環境破壊といった経済発展の負の側面も顕在化しているが、十分な対策が講じられているとは言い難いところ、我が国が技術や経験を生かしつつ、国際社会全体が協調して対応すべき環境問題への取組をODAにより支援を行うことは、ODA大綱の重点課題である「地球的規模の問題への取組」の観点からも意義が大きい。
同国は技術を吸収するだけでなく、地域の条件に合わせて改良・発展させる能力を有しており、南南協力を通じた我が国の技術の周辺諸国への普及が期待できる。
また、銅を始めとする多くの資源を輸入する我が国にとって、チリとの安定した協力関係を維持する意義は大きい。
(2) チリに対するODA基本方針
チリは、既に一定水準の経済発展を達成しており、1人当たりの国民総生産(GNP:Gross National Product)も4,260ドルを超えていることから、協力の実施は人道的見地から必要なものや我が国の資源確保に資するものという重点分野に限定し現地ODAタスクフォースが案件の発掘・形成等を積極的に進め、技術協力を中心とする協力を行っている。
移転した技術は、南南協力として、同様の課題を抱える中南米諸国の支援に活用していくよう求める。また、1999年には、チリの南南協力に対する支援を強化するため、「日本・チリ・パートナーシップ・プログラム(JCPP:The Japan-Chile Partnership Programme)」に署名し、日本・チリ両国が共同で中南米等の開発途上国の経済・社会開発支援事業を実施する枠組みが設定された。今後、両国国民の相互理解を促進するため、青年海外協力隊やシニア海外ボランティアの派遣を積極的に行うとともに、草の根・人間の安全保障無償資金協力を効果的に実施する。
(3) 重点分野
1997年の経済協力に関する政策協議により、以下の4項目を重点分野とすることが合意されている。
(イ)貧困対策、(ロ)生産性・品質向上、(ハ)環境、(ニ)南南協力
(1) 総論
2003年度のチリに対する無償資金協力は2.04億円(交換公文ベース)、技術協力9.29億ドル(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款は270.70億円、無償資金協力は86.30億円(交換公文ベース)、技術協力は361.15億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
教育、保健医療分野等の草の根・人間の安全保障無償資金協力を18件と文化無償を実施した。
(3) 技術協力
環境、行政分野を中心に96名の研修員を受入れ、22名の専門家を派遣した。また、青年海外協力隊員を新規に13名派遣した。
チリにおいては、アフリカ等にみられるような援助協調の動きはない。2003年からは両国政府による政策対話が開催されており、経済協力についても協議が行われている。
今後、ODAの実施にあたっては、現地ODAタスクフォースを主導として、案件形成、開発課題の検討を行い、その結果を踏まえ重点分野の変更や現地レベルの政策協議の実施等により、連携を促進していく。