(1) 概要
グアテマラでは長年にわたり軍事政権が続いていたが、1986年に民主的選挙により16年ぶりに民政移管が行われた。また、反政府ゲリラ(URNG:Unidad Revolucionaria Nacional Guatemalteca)(グアテマラ国民革命連合)の活動が36年も続いていたが、1991年に開始された和平交渉は、1994年以降国連の仲介で前進し、1996年12月最終和平合意が成立し、中米最後の内戦が終了した。
2000年1月に就任したポルティージョ大統領は、和平プロセスの遵守を約束し、この一環で軍の改革や税制改革に取り組んだが、消費税の引き上げを含む財政改革は経済界と及び市民団体との間で対立を引き起こし、十分な成果が得られないまま、同プロセスは停滞した。2004年1月に発足したベルシェ政権は、これらの課題に加えて、治安改善、教育、司法改革等を重点的に進めている。
(2) 開発計画等
(イ) ベルシェ政権の政策指針(lineamiento del gobierno)
2004年1月に大統領に就任したベルシェ大統領は、大統領選において「政策指針(lineamiento del gobierno 2004-2008)」を発表した。同指針では「連帯、地方分権化・国民参加、政治改革及び国家改革の下で、社会投資、生産セクター改善、環境持続性、総合的治安改善により、国民の雇用促進、福祉実現を図る」ことが政策目標となっている。また、ベルシェ大統領は、就任演説において「新たな変革」と「国民の団結」を呼びかけ、透明性のある統治、和平協定履行、財政合意の推進、不処罰問題を含む人権問題の改善を約すと共に、当面の優先分野として、治安改善、教育、保健及びインフラ整備に取り組むことを発表した。
(ロ) 貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)
ポルティージョ前政権(2000年~2004年)は、経済格差の是正を重要な課題とし、地方開発、貧困削減、先住民族対策、和平プロセス推進、教育開発等を政策の重点に置き、さらに行政能力の向上、司法権に係る法整備を基本方針とした。
これらを推進するため、2001年10月に「貧困削減戦略文書(PRSP)」を発表し、2002年2月にワシントンで開催された支援国会合(CG)においてドナーの支持を得た。同PRSPでは、地方の先住民族居住地域を重点地域とすること、効率的で透明な公共事業を実施すること、地方分権化を推進すること及び住民参加を促進することを原則とし、公平な経済成長の達成、人的資源への投資、及びインフラへの投資の3点を基本戦略と位置づけている。
また、上記ワシントン支援国会合での9項目の合意事項(和平合意、財務、財政、貧困削減戦略等)の進捗を確認するため2003年5月に同国で開催されたフォローアップ会合においては、先住民族問題、地方開発・経済開発及び国民和解を含む7つの強化課題の推進が表明され、さらに、同国は同PRSPをもとに106の重点貧困地域を指定し、2002年に「市町村別貧困削減戦略」及び「各県別貧困削減戦略」を策定した。
(1) グアテマラに対するODAの意義
グアテマラは1991年の和平協定集結以降、和平定着に取り組んでおり、このようなグアテマラの取組を支援することは、ODA大綱の重点課題の一つである「平和の定着」の観点からも重要であり、また、中米地域全体の安定と繁栄に資するものである。また、近年、米・中米自由貿易協定(CAFTA:Central American Free Trade Agreement)の署名等により、中米域内の統合が加速しているが、中米統合は中米地域のポテンシャルを高めると同時に、地域の安定と発展に寄与するとの観点からメキシコ南部及び中米諸国の開発計画であるプエブラ・パナマ・プラン(PPP:Puebla Panama Plan)の推進等、広域的な支援を実施していくことも重要。
(2) グアテマラに対するODAの基本方針
グアテマラが、前政権から引き継いだ財政赤字の克服への努力(各省予算削減、税制合意関連法の成立等)、軍の削減、治安改善への努力、和平協定の推進、人権問題への取組を評価し、それらの取組が更に進展していくようにODAにより側面的に支援していく。
なお、グアテマラの一人当たりのGNPが、我が国が一般無償対象国の適格水準の目安としている世界銀行融資ガイドラインの水準を5年連続で上回っていることを踏まえ、我が国からの一般無償資金協力(食糧増産援助を含む)は、2006年度の採択を最後に終了する予定である。今後は草の根・人間の安全保障無償資金協力、JICAが実施する技術協力を拡充するとともに、円借款についても現政権が真剣に取り組んでいるインフラ整備の一環としての「道路建設」等の優良案件があれば、同国の経済・債務状況等に留意しつつ、協力を検討する方針である。
(3) 重点分野
2004年1月に発足したベルシェ現政権とは、同年7月に現地ODAタスクフォースとの間で実施した現地経協政策協議(第2回)において、我が国の対グアテマラ支援重点分野を、「(先住民に配慮した)農村開発」、「環境に配慮した経済開発」及び「民主化定着」の3つとすることに合意した。
(イ) 「(先住民族に配慮した)農村生活の改善」
本分野については、第1回政策協議で確認され、従来より「貧困対策」その太宗を占める「先住民族支援」のための「農業」、「教育」及び「保健・衛生」分野を統合した新たな援助重点分野を設定した。この分野ではこれまで次の技術協力3案件及び無償資金協力2案件のプロジェクトを準備してきている。更に現在円借款で実施中の「地方道路整備」がある。
(ロ) 「環境に配慮した経済開発」
本分野については、現政権の政策指針を踏まえ、「環境」及び「インフラ整備」を統合した新たな分野。具体的には、就任式の際にベルシェ大統領より、森山特派大使に対し直接協力要請のあったインフラ整備としての「新空港建設」に係る開発調査を実施中。また、環境への支援としては「アマティトラン湖汚染対策」を検討中である。
(ハ) 「民主化定着」
従来の「民主化支援」分野を受け、G13を通じるドナーコミュニティとの協調を図りつつ、和平協定促進を念頭に置き「民主化定着」支援により具体的に促進する協力に取り組むための分野。2004年8月に派遣した民主化支援プロジェクト形成調査団の報告を踏まえ、今後、「治安の改善」「行政機能の改善」等に取り組むことが課題となっている。
(1) 概要
2003年度のグアテマラに対する無償資金協力は11.51億円(交換公文ベース)、技術協力は10.92億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款は194.79億円、無償資金協力は321.32億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は207.12億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
地方道路や通信網整備等インフラ整備分野にて実施。
(3) 無償資金協力
保健医療・衛生等基礎生活分野を中心に実施。また大統領選挙の際には、米州機構(OAS:Organization of American States)に対して選挙管理資金を拠出するなど、民主化への動きに対して協力。
(4) 技術協力
技術協力については教育、保健・衛生、農業、交通等の分野において技術協力プロジェクトや、専門家、青年海外協力隊員の派遣を行っている。2004年5月にはベルシェ大統領より青年海外協力隊に対する叙勲が行われた。
1995年5月、ドナー各国及び国際機関からハリケーン・ミッチにより被災した中米諸国に対して総額90億ドルに上る援助表明が行われた。これを受けて対グアテマラ対話国会合(G13)が形成された。その後、グアテマラ政府は家庭収入支出国勢調査(ENIGFAM1998-1999)を基盤に「貧困削減戦略文書(PRSP)」を発表し(同年11月閣議承認)、重点貧困地域102市町村を指定した。また、2002年2月に開催された対グアテマラ支援国会合(於ワシントン)において、達成目標として「和平合意」、「財務」、「財政」、「貧困削減戦略」、「マクロ経済安定・金融システム強化」、「不逮捕特権撤廃・治安改善・人権保障」、「経済アクションプラン」、「透明性」及び「ガバナビリティー」の9項目が合意され和平プロセス及び貧困削減戦略支援が必要との認識から、教育、医療、厚生及び貧困が集中する農業セクター等における協力拡充が表明された。さらに、2003年5月、ワシントンCGフォローアップ会合が開催され、「三権によるミニマムコミットメント7項目」が提案された。同7項目につき対グアテマラ支援国会合(G13)内での協議の結果、先住民族問題を重視し、独立させた合計8項目からなる新マトリックスが作成された。我が国はワシントンCGフォローアップ会合において特定事項として、中西部高原地域の農村に集中して居住し、医療・教育・所得の各面について問題を抱えている先住民族に対しては、特に開発援助を強化することが必要である点を指摘した。
2004年4月、G13は、2003年3月に発出された「ローマ調和化宣言」に基づき、議長国スウェーデン(4月から9月)のイニシアチブにより、月例G13会合と並行して月例G13経協担当官会合を開催し、ドナー諸国・機関間の援助調和に向けた話し合いを行うなど、活発な活動を行った。