[5]エルサルバドル

1.エルサルバドル共和国の概要と開発課題

(1) 概要 
 エルサルバドル共和国は中米5ヶ国の中で最も国土面積が小さく、人口も過密(人口密度316人/km2は中南米で一番高い)で、自然資源にも乏しい国である。
 1979年以降、ゲリラ勢力と政府軍との間で激しい内戦が続いたが、1992年、クリスティアーニ政権下で和平合意が成立し、国連の監視・検証の下、和平プロセスが順調に履行され、1998年には和平合意の完全履行が宣言されている。
 2004年3月の大統領選挙においては、若く清心なイメージを持ち、「安全な国家」を政策目標に掲げた与党の国民共和同盟(ARENA:Aliauza Repubeicaua Nacionalista)のサカ大統領候補が圧勝し、同年6月より大統領(任期5年)に就任した。
 経済面では、コーヒーを主要産品とする農業とマキラによる繊維産業が中心であり、モノカルチャーに近い体質から脱却できておらず、新たな産業の育成が課題となっている。また、米国在住の労働者からの家族送金への依存の度合いは依然として大きい。
 1998年11月に中米を襲ったハリケーン・ミッチは、同国にも大きな被害をもたらし、また2001年1月及び2月に発生した大震災は、死者1,159人、負傷者約7,800人、被害総額は約20億ドル(当時の国家予算の約90%)という未曾有の被害をもたらした。
(2) 国家開発基本計画「政府計画(安全な国家)」
 サカ大統領が就任前から打ち出している政府計画(PAIS SEGURO:(安全な国家))は、次の「16の活動領域」と「10の大統領プログラム」から構成されている。
(イ) 活動領域
 「国民の安全」(国民生活の質の向上)、「市場の規制、監視」(すべての人々に機会を)、「秩序と人権尊重」(個人と社会の権利の尊重)、「誠実さと透明性」(国民への奉仕に誠実な政府)、「責任ある政府」(持続可能な社会経済発展の基礎)、「地方開発と地域の均衡」(平等な発展)、「競争力」(生産力のある国家の基盤)、「経済自由化と統合」(世界に統合した国)、「海外在住エルサル人」(国の発展の戦略的パートナー)、「零細・中小企業育成」(底辺層からの富の創出)、「農牧業セクターの開発」(価値の連鎖的な拡大)、「保健・医療」(サービスの質の向上と普遍化)、「教育」(近代化と知識社会の建設)、「住宅」(家族の財産の基盤)、「社会と家族の強化」(社会のつながり)、「環境」(将来のための財産)
(ロ) 大統領プログラム
 「接続性のアジェンダ」(知識社会への道)、「国家計画」(地方分権化された開発に向けて)、「レクレーションとくつろぎ」(よりよい生活の質のために)、「効率的なエルサルバドル」(効率的な政府)、「潜在的生産力の発見」(成長への道)、「若い国家 エルサルバドル」(青少年プログラム)、「安全な国家 エルサルバドル」、「母子家庭のための機会創出」、「農牧セクターの再編成」、「スポーツ」(多数の参加と国家の誇り)

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.エルサルバドルに対するODAの考え方

(1) エルサルバドルに対するODAの意義
 エルサルバドルは過去に10年以上に及ぶ内戦を経験しているが、同国の平和と安定は中米地域の安定にとって重要である。同国は民主化定着及び市場指向型経済導入に向けて努力しており、また、内戦後の和平プロセスを着実に進め、1998年に和平プロセスの完全履行を宣言しているところ、このような取組をODAにより支援することは、ODA大綱の重点課題である「持続的成長」や「平和の定着」の観点から重要である。また近年、米・中米自由貿易協定(CAFTA:Central American Free Trade Agreement)署名等により、中米域内の統合が加速されている。中米統合は、中米地域のポテンシャルを高めると同時に、地域の安定と発展に寄与するとの観点から、メキシコ南部及び中米諸国の開発計画であるプエブラ・パナマ・プラン(PPP:Puebla Panama Plan)の推進等広域的な支援を実施していくことは重要。
(2) エルサルバドルに対するODAの基本方針
 和平合意締結以降、我が国は「人間の安全保障」と「平和構築」を基本的な考え方と位置づけ、内戦及び自然災害からの「復興支援」とその後の「持続的開発」、そして「心の通う協力」を3つの柱として、支援を実施してきており、今後とも同国の国家開発と民主主義の定着及び平和構築に我が国として大きく貢献していく方針である。
(3) 重点分野
 我が国は、2004年8月に同国と行った経済協力政策協議において、同国政府が策定した16の活動領域を以下4項目の援助重点分野に集約し、我が国が支援していくことに合意した。
(イ) 経済の活性化と雇用拡大
 競争力のある産業育成と産業基盤整備や、地方振興を主眼においた支援を実施する。
(ロ) 社会開発
 教育の質的向上、保健医療水準の向上を目的とする。
(ハ) 持続的開発のための環境保全
 生活環境整備、自然環境保全、開発における脆弱性の克服を主たる分野として、支援を実施する。
(ニ) 民主主義の定着・強化
 ガバナンス強化のための支援を通じて、民主主義の定着を図る。
 また、政府計画等を踏まえ、緊急に対応すべき課題については、「水」、「教育」、「安全」、「IT」、「中米統合」の5項目に絞り、これら5項目についても支援を集中的に投入することで、メリハリのある協力を行う。

3.エルサルバドル共和国に対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のエルサルバドルに対する無償資金協力は0.38億円(交換公文ベース)、技術協力は11.55億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款は448.77億円、無償資金協力は284.39億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は127.88億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
 増加する国内及び国際貨物量に対応するための港湾関連施設を整備するために「ラ・ウニオン県港湾活性化計画」に対して112.33億円を限度とする円借款の供与を行った。
(3) 無償資金協力
 ハリケーン・ミッチによる洪水被害を受けた道路および橋梁の復旧を目的として、主要幹線上橋梁緊急復旧計画を実施、また教育分野にも支援を実施。
(4) 技術協力
 家畜、農業、港湾等の分野に対し重点的に実施。

4.エルサルバドル共和国における援助協調の現状と我が国の関与

 同国では、隣国ホンジュラスやニカラグアに見られるようなドナー間の援助協調や、関連ドナー会合は行われていない。当国は貧困削減戦略文書を策定しておらず、独自の政府計画をもって中期的な開発計画としている。

5.留意点

(1) サカ新政権においては、当初援助窓口機関がこれまでの外務省から大統領府に統合されるとの方向性が示されていたが、結局は、これまで通り外務省が窓口として継続することとなった。しかし、セクター横断的な開発課題もあることから、同国政府の関係省庁間の連絡・連携について、特に留意する。
(2) ODAの実施に際しては、常にオールジャパンとしての取組を念頭に、プロジェクト形成・実施に心がけることが重要であり、現地ODAタスクフォースの活動を強化するとともに援助モダリティ/スキームの検討にあたっては、現場のニーズを踏まえ、多方面よりの協力の可能性を検討する。
(3) また、ODAプロジェクト所管官庁を中心として、オーナーシップの意識を高めるように留意する。さらに政府中枢・ハイレベルに対する我が国ODAの理解を深める。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対エルサルバドル経済協力実績

表-6 諸外国の対エルサルバドル経済協力実績

表-7 国際機関の対エルサルバドル経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


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