1990年代にメネム政権は、兌換法により物価・経済の安定化を図るとともに、国営企業の民営化、貿易の自由化、関税の引き下げ、外貨規制の全廃など一連のドラスティックな構造改革を行うなど、強力な自由開放経済政策・構造調整政策を遂行した。この結果、1980年代後半のハイパーインフレは終息し、活発な外国資本の流入によって、1995年までは平均で年5%を超える経済成長を達成した。しかし、同時に財政赤字と対外債務は拡大し、ペソ高による輸出競争力の低下と国内産業の衰退により、アジア、ブラジルの通貨危機を契機として1998年後半から深刻な経済危機に突入した。その後、国債が暴落し、ドル銀行預金が流出し始めたため、当時のデ・ラ・ルア政権が預金引出制限を取ったものの、これが契機となり、同政権は任期半ばにして退陣を余儀なくされた。
2002年1月に成立したドゥアルデ政権はこのような未曾有の国家的な危機を受け継ぐ中、11年間続いた兌換制を廃止し自由変動相場制に復帰するなど経済の立て直しに努力したものの、巨額の対外債務の返済が滞り、同年11月には世界銀行や米州開発銀行(IDB:Inter-American Development Bank)のような国際金融機関への返済も一時的に滞る状況となった。この間、ドゥアルデ政権は、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)からの金融支援を得るための交渉を国際問題の最優先事項としたが、IMFの姿勢は厳しく、ようやく2003年1月に2004年8月までの暫定的なプログラムの合意に至った。また、国内では危機の影響によって深刻化した社会問題に対する迅速な対応を最優先事項とし、伝統的な政治を進めた。
このようにして最悪の危機が回避される中、2003年5月に発足したキルチネル政権は、発足以来国民の半数以上に達していた貧困層への対策等の社会政策、汚職対策、デフォルト状態の対民間債務等を抱えつつIMFとの債務繰り延べ交渉に取り組み、9月には今後3年間の債務支払い(リファイナンス)を含む中期経済計画の合意を取り付けた。対民間債務再編問題については6月にアルゼンチン側が提案した再編案にて再編手続きが進められているが、債権者の反発が強く、債権者の高い参加をもって再編が成されるかは依然として不透明な状況にある。現在同国のデフォルト状態は、投資、貿易、金融等の分野において大きな障害となっており、キルチネル政権の舵取りについては依然として大きな困難が存在している。
(1) アルゼンチンに対するODAの意義
アルゼンチンには日系人・在留邦人が3万人おり、両国は伝統的に友好関係にある。
アルゼンチンは、1998年以降深刻な経済危機に陥り、膨大な対外債務、高い失業率とこれによる深刻な貧困問題及び地域格差、適切な医療政策の欠如、教育の不平等といった緊急的な課題を抱えていることから、ODA大綱の基本方針の一つである「公平性の確保」の考え方の下で経済的弱者の状況で貧富の格差等を考慮しつつ、同国に対する支援を実施することは、同大綱の重点課題の一つである「貧困削減」の見地からも意義が大きい。
(2) アルゼンチンに対するODAの基本方針
(イ) アルゼンチンは1人当たりの国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)が4,060ドル(2002年)と所得水準が比較的高いこともあり、これまで技術協力を中心に協力を実施してきた。また、2001年にパートナーシッププログラムが締結され、同プログラムを通じた協力により、同国の域内におけるリーダーシップの向上、我が国の援助効率化が図られることとなる。
(ロ) 同国は、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイと共にメルコスール(南米南部共同市場)を構成しており、近年メルコスール各国の連携・協調が図られている。今後は地域間の格差の是正・地域安定化等のため、メルコスール各国の共通課題に対する広域協力も推進していく。
(3) 重点分野
2003年10月に現地ODAタスクフォースとアルゼンチン外務省との間で実施された経済協力政策協議の議論等を踏まえ、現下のアルゼンチンの状況に基づき、以下の4つの重点分野における協力を推進していくこととしている。
(イ) 経済再生、(ロ) 社会開発、(ハ) 環境保全、(ニ) 南南協力
(1) 総論
2003年度のアルゼンチンに対する援助実績は、技術協力のみで14.28億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款は81.50億円、無償資金協力は57.14億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は408.91億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
当国は中進国あたるところ、円借款での支援を検討する場合には、基本的に4分野(環境・人材育成・地震対策・格差是正)に限定されることになる。
(3) 技術協力
行政、農業、保健医療等幅広い分野で118名の研修員を新たに受入れ、41名の専門家を派遣した。
また、「園芸開発計画」、「産業公害防止」等他6件の技術協力プロジェクトを実施した。
我が国は、これまでの技術協力に加え、近年の深刻な経済危機以降は社会セクター分野における援助を充実させ、最近では草の根・人間の安全保障無償資金協力を導入するなど、多様化する援助ニーズに対して、よりきめ細かな対応が出来るようになった。他方、イタリア、ドイツ等のヨーロッパ各国や国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)や国連児童基金(UNICEF:United Nations Children's Fund)等の国際機関は、経済危機を契機として社会セクター分野における援助を活発化させてきているところ、今後は社会セクター分野における他のドナー国、機関との協調関係の構築に努め、援助実施のより一層の効率化を図ることとしている。