(1) 概要
南アフリカ共和国では、1994年4月に全人種が参加する初の民主的総選挙が実施され、アフリカ民族会議(ANC:African National Congress)のマンデラ大統領が選出された。1996年に新憲法が採択され、翌年に発効した。1999年6月に第2回総選挙が実施された結果、ANCが約3分の2の議席を占め、マンデラ大統領の後継としてムベキ大統領が選出された。ムベキ大統領は、失業対策、黒人貧困層の生活環境改善などの重点課題について取組を強化し、民主化10周年に当たる2004年の第3回総選挙でも圧勝し、再選された。
外交面では、アフリカのみならず途上国のリーダーとして「南北の架け橋」たる役割を自認し、持続可能な開発に関する首脳会談(2003年)等の大規模な国際会議の開催を通じてリーダーシップを発揮している。ムベキ大統領は九州沖縄サミット(2000年)以降のすべてのG8サミットに出席するとともに、国際社会からの支援に過度に依存せず、アフリカ自らの力で紛争及び貧困等の問題を克服しようとする「アフリカの新しい流れ(=アフリカン・ルネッサンス)」を提唱し、この考えを基にアフリカで初めての包括的なアフリカ開発計画である「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD:New Partnership for Africa's Development)」を主導している。また、2004年3月に新たに設立された全アフリカ議会を招致し、また、安保理常任理事国への立候補を表明するなど、アフリカのリーダーとしての存在感を強くアピールしている。また、アパルトヘイト闘争下での対話による紛争解決の経験に基づき、コンゴ民主共和国やブルンジ等アフリカの紛争解決にも積極的に関与している。
経済面では、概ね第一次産業が1割、第二次産業が3割、第三次産業が6割を占めているが、近年は商業、金融・保険等が拡大傾向にある。南アフリカ共和国の国民総所得(GNI:Gross National Income)はサハラ以南アフリカ全体の約4割を占めており、圧倒的な経済力を有する同国の経済発展は、南部アフリカのみならずアフリカ全体の発展にとって重要な役割を有している。
我が国は、特に国際問題を協力して解決すべきパートナーとして南アフリカ共和国との関係を強化しつつあり、1998年4月のムベキ副大統領訪日時に「日・南ア・パートナーシップ・フォーラム」の設置に合意し、以後、政治、経済、文化、科学技術及びグローバル・イシュー等多様な分野に関する閣僚級の二国間協議を行っている(2004年10月までに7回のフォーラムを開催)。
(2) 開発課題
南アフリカ共和国は、貧困削減、高い失業率、高い犯罪率及びエイズの蔓延等の課題を有する。特に、国内失業率は30%を超えており、人種間の社会経済格差是正は大きな政治的課題となっている。1994年に貧困削減と弱者救済を基本方針とする「復興開発計画(RDP:Reconstruction and Development Programme)」を、1996年にその計画を実現するために経済政策自由化を推進する「成長、雇用、再分配(GEAR:Growth, Employment And Redistribution)」を発表した。現在でも、経済政策の根幹はGEARであるが、医療福祉、中小企業振興等への財政支出を増加させるなどの微調整を適宜行っている。経済成長率は1998年に0.6%に落ち込んだが、1999年に入ると民間消費及び貿易収支の改善により景気は徐々に回復し始め、2000年から2002年にかけて約3%となっている。