1.マリの概要と開発課題
(1) 概要
2002年の大統領選挙で選出されたトゥーレ大統領は国民的な人気に支えられ、安定した内政運営を行っている。外交面では、非同盟を基軸としつつ、近年は先進諸国やアラブ諸国との協調を図っており、地域の安定にも積極的に貢献している。
マリにおいては、就業人口の約80%が従事し、国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)の約50%を占める農業及び牧畜が主要な産業であるが、降雨量等自然条件に左右されるため、食糧生産は安定していない。また、綿花等の輸出用産品の価格低迷等で貿易赤字も恒常化し、経済基盤は脆弱である。
トゥーレ大統領は、就任以来、世界銀行・国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)の指導の下に構造調整・貧困削減に取り組んでいるが、モノ・カルチャー型経済の改善を含め、中・長期的な経済発展のための課題は依然として多い。
(2) 「貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)」
2002年5月、マリの中期開発政策(2002-2006)としてPRSPが採択された。策定に際しては、政府、市民団体、民間セクター、ドナーが協議に参加している。
PRSPは、2001年に63.8%であった貧困層を2006年には47.5%まで減少させることを全体目標としている。経済成長に関しては、GDP年平均成長率6.7%、農業分野以外のフォーマル・セクターにおける年間最低1万人の雇用創出を目指し、貧困・社会指標については、都市・村落間の貧困格差削減、乳幼児・妊婦の死亡率低下、男女間・地方間での不均衡を解消する形での就学率・識字率の上昇が主要目標とされている。また、マクロ経済政策としては、保健、教育、農村開発、基礎インフラ整備が優先セクターとされており、公共支出も大幅に増加することが見込まれている。さらに、2006年には投資率24.8%、インフレ率3%以下、国際収支の経常赤字をGDPの9%以下とすることを目標としている。
上記の目標を達成するための手段として、PRSPは以下の3つの優先戦略を定めている。
政府機構の充実、ガバナンスの改善及び国民参加の促進
持続的な人的資源開発及び基礎社会サービスへのアクセス改善
基礎インフラ及び生産セクターの開発
(1) マリに対するODAの意義
農業や牧畜が主要産業であるマリの経済基盤は天候や一次産品の国際価格の影響を受け易く脆弱であり、援助需要は大きい。トゥーレ大政権の下で、内政は安定し、地方分権化及び国営企業の民営化を推し進めながら、貧困削減に向けた積極的な取組みが行われているところ、こうした努力をODAにより支援することは、ODA大綱で重点課題とされている「貧困削減」や「持続的成長」の観点から意義が大きい。
また、同国は西アフリカの主要産業の一つである「綿花」の産出国であるが、近年の欧米諸国の国内綿花農家に対する補助金供与等に起因する市場価格の変動により、大きな経済的打撃を受けていることから、ブルキナファソ、チャド、マリの4カ国と共に、公正な市場を求めて綿花イニシアチブを推進している。我が国は、同国の産業振興、経済成長を通じた貧困削減の観点から、同イニシアチブを支持し、開発と貿易に一貫して取り組む観点からも、同国への支援は重要である。
(2) マリに対するODAの基本方針
マリは拡大重債務貧困国(HIPC)イニシアティブ対象国であることから、当分の間、新規円借款の供与は困難である。我が国としては、今後、同国の民主化、経済改革努力を支援するため、基礎生活分野や基礎インフラ分野に対し、無償資金協力及び技術協力の実施を検討していく方針である。
(3) 重点分野
我が国は、基礎教育、水供給等の基礎生活分野や農業等を中心とする無償資金協力及び鉱工業、行政分野等での研修員受け入れ、開発調査等の技術協力を実施している。また、同国の構造調整努力を支援するため、1988年度及び1995年度に合計87億円の円借款を供与し、さらに、2004年度までに合計85億円のノン・プロジェクト無償資金協力を実施している。
(1) 総論
2003年度のマリに対する無償資金協力は12.42億円(交換公文ベース)、技術協力は1.84億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款87.02億円、無償資金協力383.30億円(以上、交換公文ベース)、技術協力65.55億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
マリ政府は、貧困削減の取組の一環として飲料水および生活用水の供給を国家開発の最重要課題と位置付けている。我が国は、「カイ・セグー・モプチ地域給水計画」(2.27億円)として、特に安全な飲料水の給水率の低い3州において、233か所の人力ポンプ付深井戸の掘削および各州それぞれ1基ずつの小規模給水施設を建設している。
また、同国の慢性的な食糧不足を改善するものとして、米の購入資金として3億円の食糧援助を実施したほか、マリ政府が策定した農業生産の増加による食糧自給率向上を図るための「食糧増産計画」に必要な農業資機材(肥料および農業機械)を購入するために必要な資金として、2億円の食糧増産援助を実施している。
(3) 技術協力
世界有数の産金地帯として知られているマリにおける有望未開拓地区の開発のため、「バオレ・バニフィング地域資源開発調査」を実施したほか、農業、教育、土木、産業など多岐にわたる分野で20名の研修員を受け入れた。