[38]マダガスカル

1.マダガスカルの概要と開発課題

(1) 概要
 2001年12月に行われた大統領選挙の結果を巡り、ラチラカ前大統領とラヴァルマナナ候補(現大統領)との間で対立が起こり、政治的混乱に陥った。2002年2月ラヴァルマナナ候補が一方的に大統領就任を宣言する一方、7月ラチラカ前大統領はフランスへ出国し事態は収束に向かった。12月の国民議会選挙ではラヴァルマナナ大統領派が圧勝し、2003年後半以降内政は徐々に安定し、同大統領は「迅速かつ持続的な発展」をスローガンに経済再建とグッド・ガバナンスを目指した政権運営を進めている。
 外交面では、インド洋における仏語圏の拠点として、旧宗主国フランスとの友好関係を維持しつつ、経済開発を進め、直接投資を促進する観点から、ドイツ、米国、カナダ、我が国をはじめとする先進諸国との関係強化を図っている。2003年7月、マプート(モザンビーク)で開催されたアフリカ連合(AU:African Union)首脳会議において、2002年の政治危機以来参加停止となっていたマダガスカルのAU復帰が承認された。
 マダガスカルでは、労働人口の80%、国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)の約30%を農業が占めている。1979年以降、主要産業の国有化、経済管理強化政策、主要輸出品であるコーヒー価格の低迷により深刻な経済困難に直面した。かかる状況打開のため1983年以降、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)・世界銀行の支援の下、構造調整計画を策定、1990年代半ばより自由化諸政策が強化され、1997年以降は年平均約7%の経済成長を遂げるに至ったものの、2002年前半の政治混乱により経済も悪化し、2002年の経済成長はマイナス12.7%となった。2003年7月、ラヴァルマナナ大統領は国内外からの投資を奨励するため設備投資に対する関税、輸入税、付加価値税の廃止、外国人に対する条件付き土地所有権付与、米作農家を中心に国内生産者保護を目的とした輸入制限、農民・小規模起業家に対する貸付けシステムの確立等を発表した。2003年の経済成長率は9%と順調な回復を示したが、免税政策による輸入の伸張は急激な外貨不足を招き、マダガスカル・フランの大幅な下落を誘引した。
 1990年代以降、インド洋地域経済が発展する中、マダガスカルはインド洋委員会(COI:Commission de l'Oc斬n Indien)及び環インド洋地域協力連合(IOR-ARC:Indian Ocean Rim-Association for Regional Cooperation)に加盟しているが、COI加盟国中人口では85%を占めながら、一人当たり国民総生産(GNP:Gross National Product)は最下位、GDP総計に占める割合は23%に過ぎない。
(2) 貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)
 政治危機により中断していたPRSP策定プロセスが2002年後半より再開され、2003年5月に策定を終了した。PRSPの最終目的はラヴァルマナナ政権が掲げる「迅速かつ持続的な発展」を実現し、10年後には貧困者数を半減することである。「官民パートナーシップ」を基本路線に、次の3つの戦略軸及び上位目標で構成されている。
(イ) 法治主義及びグッド・ガバナンスの推進
 1990年以降、2度にわたる政治的混乱を引き起こした政治基盤の脆弱性に対する反省から、貧困削減におけるグッド・ガバナンス、汚職撲滅、民主主義の尊重といった民主化、政府の透明性の確保を重視。地方分権化の推進も上位目標の一つに置いている。
(ロ) 経済成長の推進
 8%~10%の経済成長を達成し貧困層を縮小する。また、国内への投資比率の向上、民間セクターの活性化により経済成長を促進する。農村開発、道路・輸送インフラ整備、エネルギーを主要開発課題とする。
(ハ) 人間が安心して生活できる保障体制の推進
 教育、医療といった基礎社会サービスの向上を図り、社会的弱者に対する支援策(栄養プログラム、農村マイクロ・クレジット等)を実施する。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.マダガスカルに対するODAの考え方

(1) マダガスカルに対するODAの意義
 広大な国土を有するマダガスカルは、農業、水産業、鉱業、観光業等において多大な発展の可能性を秘めており、アジアとアフリカの接点として、また、インド洋における仏語圏の拠点として地政学上も重要である。1979年以降は経済が低迷し、1人当たりの国民総所得(GNI:Gross National Income)は290ドルに過ぎないが、特に2003年以降、内政が安定してきており、自助努力による経済再建の動きが見られる。
 マダガスカルの経済・社会開発は地域の安定と発展にとって重要であり、また、マダガスカルの経済・社会開発に向けた自助努力を支援することは、ODA大綱の重点課題の一つである「貧困削減」の観点から有意義である。
(2) マダガスカルに対するODAの基本方針
 我が国は円借款、無償資金協力及び技術協力の各形態により援助を実施してきたが、同国の政情、経済改革努力等に留意しつつ援助の実施を検討していく方針である。
 2001年12月の大統領選挙に端を発した政治混乱により、治安が悪化したことから一時援助が見合わされていたが、2002年8月より事態が徐々に回復に向かったことにより、可能なものから援助が再開された。2003年には、無償資金協力については政治混乱により中断や見直しを余儀なくされた案件の継続・正常化を行った。
 また、2002年末には青年海外協力隊が初めてマダガスカルに派遣された。2003年2月にはJICA事務所が開設され、フルスケールのJICA技術協力の実施が可能な体制が整えられた。同年10月にはサブ・サハラ以南アフリカ共和国では初となる技術協力協定が締結された。
 今後は強化されたODA実施体制の下で、次の重点分野で援助を行うほか、マダガスカルのPRSPを踏まえて汚職防止等グッド・ガバナンス支援への要請にも適宜応えていく。
 なお、同国は拡大HIPCイニシアティブの適用国のため、当分の間、新規円借款供与は困難である。
(3) 重点分野
 1997年12月には、無償資金協力及び技術協力に関する政策協議を実施し、基礎生活分野(教育、保健・医療、水供給)、地方開発に資するインフラ分野、農業・水産業・環境分野及び人造り分野を重点分野として援助を実施することを確認した。その後、現地ODAタスクフォースでの議論を踏まえ、?母子保健の改善や感染症対策を中心とした保健・医療、?安全な水へのアクセス改善を目的とした水供給、?持続的な農業開発、森林・自然環境保全の推進、?基礎教育へのアクセス拡大、識字教育の推進を目的とした教育・人的資源開発、?経済成長に資する道路などの運輸インフラ整備、?持続的な水産開発のための水産業振興を重点分野としている。

3.マダガスカルに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のマダガスカルに対する無償資金協力は14.67億円(交換公文ベース)、技術協力は5.57億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款107.00億円、無償資金協力517.06億円(以上、交換公文ベース)、技術協力100.75億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
 同国のインフラ整備として、「国道七号線バイパス建設計画」(6.70億円)を実施したほか、水供給分野では、南西部における給水施設建設、関連機材供与及び給水施設の維持管理等に関する技術指導のため、「第二次南西部地下水開発計画」(4.75億円)を実施している。さらに、医療分野では、同国の予防接種実施体制の強化のため、コールドチェーン等を供与する「予防接種強化計画」(2.51億円)を実施した。
(3) 技術協力
 マダガスカルの国家経済および地方経済を支える重要な産業であるエビ漁業の振興のため、エビ養殖振興計画推進のための技術者・研究者の育成のための技術協力プロジェクトを実施している。また、重要な穀倉地帯であるアロチャ湖周辺の環境管理・農村開発計画策定のため、「アロチャ湖南西部地域流域管理及び農村開発計画調査」を開始した。その他、水産分野を中心として10名の専門家を派遣したほか、33名の研修員を保健医療、水産加工、農業、環境、電力等多岐にわたる分野で受け入れた。

4.マダガスカルにおける援助協調の現状と我が国の関与

(1) 2002年7月パリにおいて政治混乱後のマダガスカル再建支援のための復興支援フレンズ会合が開催された。2003年10月パリにて第2回会合が開催され、マダガスカル政府が前回会合以来実施した経済再建計画の成果を報告した。
(2) 「マジュンガ大学中央病院総合改善プロジェクト(1995年5月~2004年2月)」において我が国とフランスの援助協調が行われている。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対マダガスカル経済協力実績

表-6 諸外国の対マダガスカル経済協力実績

表-7 国際機関の対マダガスカル経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図



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