(1) 概要
1972年、5度目のクーデターによりケレク政権(1972年~1991年)がマルクス・レーニン主義に基づく社会主義を国是として成立し、1975年に国名をベナン人民共和国に変更した。以後、穏健で現実的な政策により安定を維持するが、経済状況の悪化に1980年代後半の東欧の激動が重なり、マルクス・レーニン主義を放棄した。1991年に元世界銀行理事のソグロ氏が大統領に選出され、民主的国家機構の整備が進められたが、社会的負担の増大に対する国民の不満から、1996年の大統領選で、ケレク氏が大統領に返り咲く結果となった。ケレク大統領は、民主化と経済構造調整を引き続き推進している。
当面の外交上の課題として、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)、世界銀行との協調により構造調整を引き続き推進すること、援助獲得を目的とした先進諸国との関係強化、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS:Economic Community of WestAfrican States)、協商理事会を通じた地域協力の強化を挙げることができる。
経済を概況すると、農業部門が労働人口の約50%、国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)の約5分の2を占めており、農業依存型の経済である。主要輸出農産品は綿花である。現在は、世界銀行・IMFの支援を受け、1996年から第3次構造調整計画を実施し、公務員改革、公企業改革、民間部門開発等に取り組んでいる。2003年の経済成長率は6.7%と着実な成果を挙げており、同国の経済改革努力に対する援助国・機関の評価は高い。
(2) 「貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)」
ベナン政府は、PRSPを2002年12月に策定し、その中で、(1)中期的なマクロ経済フレームワークの強化、(2)人的資源開発と環境整備、(3)グッドガバナンスと組織能力強化、(4)持続可能な雇用の推進と貧困層の意志決定や生産過程への参加を柱とし、現在その具体的実施に努めている。
(1) ベナンに対するODAの意義
我が国は、PRSPに基づく同国の積極的な民主化及び経済改革努力を評価しており、こうしたオーナーシップに基づいた改革を支援することは、我が国が進めるアフリカ開発会議(TICAD:Tokyo International Conference on African Development)プロセスの中でも重視されている。また、同国の一人当たりの所得は、サブ・サハラ・アフリカ平均以下の380米ドル(2002年)であるなど、依然として後発開発途上国(LDC:Least Developed Countries)に留まっており、最貧国の一つである同国に対する支援は、我が国のODA大綱にも謳われている「貧困削減」の観点からも重要である。
また、同国は西アフリカの主要産業の一つである「綿花」の産出国であるが、近年の欧米諸国の国内綿花農家に対する補助金供与等に起因する市場価格の変動により、大きな経済的打撃を受けていることから、ブルキナファソ、チャド、マリの4カ国と共に、公正な市場を求めて綿花イニシアチブを推進している。我が国は、同国の産業振興、経済成長を通じた貧困削減の観点から、同イニシアチブを支持し、開発と貿易に一貫して取り組む観点からも、同国への支援は重要である。
(2) ベナンに対するODAの基本方針
我が国は、ベナンの貧困削減努力を支援するため、教育、衛生等の基礎生活分野を中心とした無償資金協力及び水産、農業分野等での研修員受入れ、開発調査等の技術協力のほか、慢性的な食糧不足が深刻である同国に対し、食糧援助、食糧増産援助、同国民にとって海産物が重要な動物性蛋白源となっていることから、水産分野での無償資金協力を実施している。さらに、同国の構造調整努力を支援するためのノン・プロジェクト無償資金協力を2000年度までに合計41億円供与した。また、人的資源分野等での研修員受け入れ、水産分野での専門家派遣を実施している他、2003年7月には青年海外協力隊派遣取極の署名がなされ、早ければ2005年初めには、第一次協力隊員達が活動を開始する予定である。
なお、同国は拡大HIPCイニシアティブの適用国であるため、当分の間、新規円借款供与は困難である。
(3) 重点分野
同国の貧困状況にかんがみ、直接地域住民の生活改善に貢献するような基礎生活分野への支援を重視し、教育、水、保健分野を重点分野としてきている。また、同国の主要産業である漁業振興のため、漁港整備などの水産分野での協力を重視している。
(1) 総論
2003年度のベナンに対する無償資金協力は19.98億円(交換公文ベース)、技術協力は1.35億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款37.62億円、無償資金協力240.23億円(以上、交換公文ベース)、技術協力22.57億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
慢性的な食糧不足にかんがみ、米の購入資金として2億円の食糧援助を実施したほか、教育環境改善のため、小学校の施設建設、教育用機材の整備、並びに学校施設の円滑な運営・維持管理に資する技術支援(ソフト・コンポーネント)として「小学校建設計画」を実施している。また、ベナン最大の都市であるコトヌ市に位置し、零細漁業の中心地であるコトヌ漁港の施設整備によって、同国の零細漁業の振興を図るべく「コトヌ零細漁港開発計画」を実施した。
(3) 技術協力
保健医療や行政分野における研修員の受け入れや水産開発の専門家の派遣などを中心とした協力が行われてきたが、2003年7月に青年海外協力隊派遣取極が締結されたことから、2005年にも新規派遣が行われる見込みである。
ベナンにおいて、我が国以外の国では、旧宗主国フランス、ドイツ、米国、デンマークといった西側ドナーや国際機関が援助を実施しているが、他ドナーや国際機関とは、意見交換や情報収集などの協調を行うに留まっている。ただし、案件形成や実施に当たっては、他のドナーの協力と重複しないよう入念な事前調査や意見交換を行っている。