[31]ナイジェリア

1.ナイジェリアの概要と開発課題

(1) 概要
 ナイジェリアはアフリカの西部に位置し、人口約1億3,280万人(2002年世界銀行資料)、面積約92万平方キロメートル(我が国の約2.5倍)のアフリカ有数の大国である。同国は250以上の民族(北部:ハウサ族、南西部:ヨルバ族、南東部:イボ族等)と宗教(北部:イスラム教中心、南部:キリスト教中心)が複雑に絡み合っているため、6つの地政学的ゾーン(北西、北中、北東、南西、南南、南東)のバランスに配慮した行政が行われている。
 ナイジェリアは日産約200.2万バレル(2004年、IEA統計)を誇る石油輸出国機構(OPEC:Organization of Petroleum Exporting Countries)第4位の産油国であり、総歳入の約81%、総輸出額の約89%を原油関連に依存している(2003年ナイジェリア中央銀行資料)。しかしながら、汚職や軍事政権によるずさんな財政運営により、原油による収入を国民生活のために適切に利用できておらず、その結果、現在国民の約7割が貧困に喘いでおり、また220億ドルにも昇る累積債務に苦しんでいる。
 ナイジェリアは西アフリカ地域における指導的国家を自認し、アフリカ連合(AU:African Union 現在ナイジェリアが議長国)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS:Economic Community of WestAfrican States)等を通じ、積極的なアフリカ外交を展開している。また、ナイジェリアはリベリア内戦やシエラレオネ紛争等の解決のため、ECOWAS停戦監視団(ECOMOG:ECOWAS Monitoring Group)の派遣にイニシアティブを発揮したほか、国連平和維持活動(PKO:Peacekeeping Operations)への派兵やECOWASを通じた対話に尽力する等、地域の安定に積極的に貢献している。
(2) 国家経済強化開発戦略
 2004年5月、ナイジェリア政府は同国の改革プログラムとして、貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)に相当する「国家経済強化開発戦略」(NEEDS: National Economic Empowerment and Development Strategy)を策定した。
 ナイジェリアは今後NEEDSに基づき、1富の創出、2雇用創出、3貧困削減、4価値の新たな方向付けの4つの目標を達成するために、1国民のエンパワメント(保健、教育の充実、環境保全、地方開発、ジェンダー格差是正等)、2民間セクターの成長(インフラ整備、公営企業の民営化、貿易促進等)、3行政改革(公務員改革、汚職撲滅、政府の透明性確保等)を実施することとしている。
(イ) 教育
 教育については1教育への自由なアクセスの確保、2教育水準の向上、3職業訓練を通じた生活水準の向上、4カリキュラムの向上、5民間セクターとのパートナーシップの推進、6ICTの推進の達成を通じて、NEEDSの目標を達成することとしている。特に1の教育への自由なアクセスの確保を通じ、初等教育修了率100%、大人の識字率65%を達成することを目指している。
(ロ) 保健
 保健については、国全体の保健システムの強化、良質な保健サービスの提供を図ることを目的とした保健セクターリフォームを進めることで、ナイジェリア国民の保健状況を改善し、貧困削減を図ることとしている。
 特にHIV/AIDSについてはその経済的・社会的インパクトの大きさに鑑み、今後5年間で大人の感染率を25%削減することとしているほか、感染者への治療の拡大、母子感染の削減、自発的カウンセリング(VCT:Voluntary HIV Counselling and Testing)の普及等を図ることとしている。
(ハ) 水供給
 ナイジェリア政府はNEEDSに基づき、国家水資源管理戦略及び国家水供給・衛生計画を策定し、水供給・管理の改善、水因性感染症の撲滅等を図ることとしている。特に地方部についてはナイジェリア政府は2007年までに60%の人々に水を供給することを目標としている。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.ナイジェリアに対するODAの考え方

(1) ナイジェリアに対するODAの意義
 我が国は、アフリカ随一の大国であるナイジェリアの民主化の進展がアフリカ、特に西アフリカ地域の安定に大きく寄与し、また、アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD:New Partnership for Africa's Development)やAUを牽引するなど、アフリカ開発において主導的役割を果たしていることからも、同国を開発パートナーとして重視している。
 また、1990年代に経済成長が著しく後退したことに伴って増大した貧困問題への取組を行っている同国に対して、基礎生活改善や地方活性化を念頭に置いた地域住民に直接裨益する支援を実施することは、ODA大綱の重点分野の一つである「貧困削減」の観点からも意義は大きい。
(2) ナイジェリアに対するODAの基本方針
 1999年8月に開催された経済協力政策協議において、即効性が高くナイジェリア国民に直接裨益する基礎生活分野(水供給、教育、保健)を中心とした援助を実施することで我が国とナイジェリアが合意しておりナイジェリア国家計画委員会と現地ODAタスクフォースとの間で優良な案件の形成、実施に向けて協議を行っている。これまで、具体的には、地方給水衛生改善計画、地方電化、ポリオ撲滅計画(国連児童基金(UNICEF:United Nations Children's Fund)経由)、小学校建設を無償資金協力で実施したほか、マラリア予防、HIV/AIDSに関する技術協力を実施している。なお、円借款については多額の延滞債務があるため新規供与は困難な状況にある。
(3) 重点分野
(イ) 保健
 現在、ナイジェリアが世界で数少ないポリオ野生株(WPV:Wild Polio Virug)検出国であることにかんがみ、我が国は2000年よりユニセフ経由でポリオワクチン等の供与を行ってきており、今後もポリオ撲滅・予防接種体制強化について関係機関と連携しつつ取り組むこととしている。
 また我が国は米国と連携して感染症対策を支援することとしており、現在環境衛生改善及びマラリア対策のための協力をラゴス州で開始した他、HIV/AIDSについては今後輸血感染防止のための機材の供与について予備調査団の派遣を検討している。
(ロ) 水供給
 ナイジェリアにおいて安全な水にアクセス可能な人口は30%程度にとどまっており、ナイジェリア政府は総合水資源管理計画を作成して給水率の向上に努めているが、1億人を超える人口及び高い人口増加率から、その施策が追いついていないのが実情である。特に、農村部では河川、沼の水や溜まり水をそのまま飲用している人口が多く、コレラや乳幼児の下痢症、ギニアワーム症が蔓延し、また女性や子供が長時間、長距離の水汲み労働に従事させられていることが地域の生産性を下げる要因の一つとなっている。
 我が国は、こうした状況にかんがみ、2002年度にオヨ州で無償資金協力「地方給水衛生改善計画」による掘削機等の機材供与と掘削技術の移転、現地国内研修(住民組織化支援、維持管理技術向上、衛生教育を組み合わせ、安全な水の普及率向上及び衛生環境の改善を効果的に図ることに貢献している。また、今後、同様の支援をカノ州において実施する予定である。
(ハ) 教育
 ナイジェリア政府は、1999年より初等・前期中等教育(計9年間)の無償・義務化を推進する万人のための教育(UBE:Universal Basic Education)政策を実施し、基礎教育重視の方針を定めている。しかしながら、我が国がUNESCOに設置した「人的資源開発信託基金」により行われたナイジェリア教育セクター分析によれば、教育の質の問題、教育関連施設の不備により、学齢児童の30%近くが非就学の状況にあるとされている。
 我が国はこうした状況を踏まえ、2004年度より無償資金協力「小学校建設計画」で教育施設(校舎、トイレ、井戸)の整備を支援することとしている。
(ニ) 地方電化
 ナイジェリアのうち電力を供給されているのは30~40%であり、特に地方では電力供給不足が深刻である。こうした状況下では、住民がエネルギー源を薪に依存するため森林破壊が進むという環境への影響や、ワクチンや医薬品の保冷ができない、あるいは収穫した農産物の脱穀ができないといった住環境の悪化や生産性の低下が懸念されている。さらに都会と農村との生活基盤の格差により都市への人口流入が進み、農村の空洞化とともに、都会のスラム化を引き起こす要因となっている。
 我が国はこうした状況にかんがみ、2000~2002年度にかけて、ナイジェリア北部4州において発電所の建設や送電線の配備などの地方電化計画を支援した他、2004年8~9月には太陽光利用発電に関する開発調査を実施した。
(ホ) 農業(食糧安全保障)
 農業はナイジェリアのGDPの41%、全労働人口の約7割を占める主要産業の一つである。同国は元々農業大国であったが、原油生産開始に伴い、工業化政策が取られたため、農業部門は1970年代から衰退し始め、農産物輸出国から輸入国に転じた。オバサンジョ大統領は米の生産量増加による雇用、収入創出を図るとともに、輸入から輸出に転じさせることで、外貨獲得手段の一つにすることを農業分野の政策課題の一つとしている。

 我が国はこうしたナイジェリアの状況を踏まえ、1999~2001年度にかけて、食糧増産援助を実施した。
(ヘ) ジェンダー
 ナイジェリアでは憲法で男女同等の権利が明記されているが、女性に不利な慣習や宗教法、性別役割分業意識が根強く残っており、女性の社会的、経済的、政治的地位を低くしている。

 我が国は2003年度にジェンダーイシュー専門家を派遣し、ナイジェリアのジェンダー格差について調査を実施しており、現在女性の経済的エンパワメントを推進するための支援の可能性を検討している。

3.ナイジェリアに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のナイジェリアに対する無償資金協力は4.43億円(交換公文ベース)、技術協力は1.71億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款783.12億円、無償資金協力282.51億円(以上、交換公文ベース)、技術協力101.84億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
 ユニセフ経由でポリオワクチンや麻疹・破傷風の予防接種強化のための関連機材の供与などを行う「小児感染症予防計画」として4億円を供与したほか、7件の草の根・人間の安全保障無償資金協力を実施した。 
(3) 技術協力
 行政、保健医療、農業、教育の分野で第三国研修を含め66名の研修員を受け入れたほか、保健衛生分野での技術協力プロジェクト「ラゴスにおける環境衛生改善及びマラリアコントロール」を開始した。また、NEEDSにおいても重視されているジェンダー格差是正を目的とした専門家の派遣を行った。

4.ナイジェリアにおける援助協調の現状と我が国の関与

 ナイジェリアは政府側のオーナーシップが強く、他方ドナー側はナイジェリア政府の透明性、説明責任能力を疑問視しているため、財政支援等の新規援助モダリティの導入には至っておらず、各ドナーがプロジェクト型援助を実施しているのが現状である。
 しかしながら、英国や世界銀行等財政支援推進派と呼ばれるドナーは州の政府職員の能力、透明性向上を目的としたキャパシティビルディングを実施しており、これが順調に進めば、援助推進派は数年後には財政支援の本格導入を提案すると見られる。
 また、ナイジェリア政府のNEEDS策定、中期公共支出枠組(MTEF:Mid-Term Expenditure Framework)の策定(2004年8月)の動きは、同国政府が財政支援型援助を志向していると捉えることもできることから、我が国としては現地ODAタスクフォースを通じて積極的にドナー会合等の場で我が国の援助方針、援助協調に対する考え方を主張することが重要であると考えている。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対ナイジェリア経済協力実績

表-6 諸外国の対ナイジェリア経済協力実績

表-7 国際機関の対ナイジェリア経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図



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