[27]タンザニア

1.タンザニアの概要と開発課題

(1) 概説
 タンザニアでは、1992年5月に革命党の一党支配から複数政党制へ移行し、同制度下における初めての大統領・国会議員選挙が1995年10月に実施された。2000年10月には任期満了による大統領選挙及び議会選挙が実施され、現職のムカパ大統領が再選された。ザンジバルにおいては、選挙結果をめぐり与野党間の対立が激化し、一時、暴動事件やザンジバル住民の国外(ケニア)避難事件等が発生した。ムカパ大統領の任期満了に伴い予定されている2005年の大統領選挙に向け、国内の関心が高まっている。
 外交面では、アフリカ連合(AU:African Union)、国連等の国際場裡で積極的に活動し、また、先進諸国、アジア諸国との関係強化に努めている。東アフリカ諸国との関係では、ケニア、ウガンダとの間で地域協力の強化に努め、2001年1月の三カ国首脳会議にて東アフリカ共同体(EAC:East African Community)が正式に発足、2004年3月の首脳会議でEAC関税同盟議定書の署名が行われ、2005年1月には同関税同盟が発効した。南部アフリカ開発共同体(SADC:Southern African Development Community)の中心メンバーで、2003年8月からの1年間議長国を務めた。また、タンザニアは大湖地域全体の安定化を目指し、ブルンジ、コンゴ民主共和国等における和平の実現に向けて積極的な外交努力を行っている。
 経済面では、国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)の約50%、労働人口の8割を農業部門が占めている。1986年以降世界銀行・国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)の支援を得て、投資・流通制度改革、公営企業改革、公務員の削減等の構造調整政策に取り組んでいる。タンザニア政府は国家開発戦略として、1997年には「貧困撲滅戦略(NPES:National Poverty Eradication Strategy)」を策定して貧困削減のための国家戦略フレームワークを提示し、1999年には「タンザニア開発ビジョン2025」を発表して当国の開発の方向性(生活の質の向上、グッド・ガバナンスと法の支配の確保、強く競争力のある経済)を提示し、1961年の独立以来採用してきた社会主義的国家運営からの決別を明確にした。これらの国家開発戦略を基盤とし、2000年には貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)が策定され、拡大重債務貧困国(HIPC)イニシアティブに基づく債務救済が適用されることとなった。貧困削減の実現に向けた各種改革や開発が進められている。観光、鉱物資源(ダイヤモンド、金、宝石等)産業が好調で、2000年以降の経済成長率は、2001度は5.1%、2001年度は5.7%、2002年度は5.8%と、3年連続5%台を達成した。インフレ率も2003年には5%を切る程に安定する好調な結果を示していたが、2004年6月時点では原油価格の高騰等により6.3%と若干高くなっている。現在の課題として、構造調整に伴う失業者及び貧困層への対策等が挙げられる。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.タンザニアに対するODAの考え方

(1) タンザニアに対するODAの意義
 タンザニアでは、石油危機、国際市場における第一産品の価格低迷、近隣諸国の紛争、干ばつ等の影響により経済は低迷しており、一人当たり国民総所得(GNI:Gross National Income)が280ドル(2002年)と極めて低い水準にある。タンザニアは、複数政党制の導入など民主化努力を推進するとともに、構造調整・市場指向型経済政策を着実に推進しており、2000年に策定されたPRSPに則り主体性を持って開発に取り組んでいることから、こうした取組をODAにより支援することは、ODA大綱の重点課題である「貧困削減」の観点から意義が大きい。
 また、タンザニアは我が国との関係が極めて良好であることから、東・南部アフリカ地域において指導的な役割を担い、地域情勢の安定化にも積極的に貢献していること等に鑑み、重点的に援助を実施している。
 タンザニアでは、ドナーを含む関係者の参加を得てPRSPを実施していくための枠組や、公共財政管理能力向上、手続き調和化、財政支援などのドナー間援助協調にかかる取組が、世界で最も先駆的に進められている国の一つである。こうした新たな援助潮流に参画することにより我が国の援助のあり方につき検討する意義は高い。
(2) タンザニアに対するODAの基本方針
 我が国はタンザニアを対アフリカ援助の重点国と位置づけ、2000年6月に策定した対タンザニア国別援助計画及び当国の貧困削減戦略(PRS:Poverty Reduction Strategy)に基づき、積極的に支援を実施している。
 援助協調が進む当国では、教育や保健等の社会セクターを中心としてセクター・ワイド・アプローチ(SWAps)に基づいたいわゆるセクター・プログラムが実施され、ドナー会議も多く開催され、効率的な援助に向けてのドナー間での調整が行われている。我が国も当国を援助協調最重点国として位置づけ、現地ODAタスクフォースとして各種セクター・プログラムに参加し、農業セクターではリード・ドナーとしてセクター内の調整役を担っている。また、新たな形態の援助として、2001年よりタンザニアの一般財政支援である貧困削減財政支援(PRBS:Poverty Reduction Budget Support)に参加している他、2003年よりいくつかの共通基金(コモン・ファンド)へ参加している。
(3) 重点分野
 対タンザニア国別援助計画及びPRSに基づき、農業、基礎教育、保健、基礎インフラ、森林保全の重点分野を中心に支援を実施している。ただし、タンザニアは拡大HIPCイニシアティブの適用国であることから、当分の間、新規円借款の供与は困難となっている。
(イ) 農業・零細企業振興のための支援
 国家財政の援助依存体質(国家予算の約4割が援助)からの脱却を図り、人口の約半分が絶対的貧困状態にあるといわれるタンザニアにおいて自立的経済・社会開発を達成していくためには、農業を始めとする産業振興が不可欠である。
 GDPの約5割、総輸出額の7割強、労働人口の8割(1,280万人)を占める農業への支援はとりわけ重要であり、タンザニア政府も農業の発展を貧困削減の重要な柱と考えている。我が国は2001年以来、PRS支援等の観点から農業分野におけるセクター支援を積極的に推進している。
 また、天水依存型農業を脱却し、農業生産の安定と農家の収益向上を図るために灌漑マスタープランの策定を支援し、更に無償資金協力、技術協力を有機的に組み合わせ灌漑農業推進プログラムを実施している。
(ロ) 基礎教育支援
 1980年代の世界銀行・IMF主導の構造調整プログラムによる社会セクターへの財政支出縮小の中で大幅に低下した就学率(初等教育就学率は50%台まで低下)を改善し、人材育成の根本をなす基礎教育の充実を図ることはタンザニアの国家開発上重要である。
 当国初等教育の充実のためのセクタープログラム(PEDP:Primary Education Development Program)が2001年に開始され、授業料の無償化等により就学率は大幅に上昇した。その反面、教室、教師の不足が顕在化している。2004年7月に中等教育のレベルにおけるセクタープログラム(SEDP:Secondary Education Development Program)が開始され、今後、本格的に中等教育の充実が図られることが予想される。
 我が国は、無償資金による学校施設整備、開発調査によるスクールマッピング・マイクロプランニング等を実施してきている他、企画調査員の派遣を通じセクター・プログラムの枠組みに参画するとともに、ノン・フォーマル教育の国家戦略作成(2003年)に貢献している。
(ハ) 人口・HIV/AIDS及び子供の健康問題への対応
 これまで中核病院や難民地区への医療機材の供与や、マラリア抑制のためのプロジェクト、ポリオワクチン投与計画への支援、母子保健、HIV/AIDS感染予防対策等の分野で支援を実施してきている。
 今後は、特に地方における医療サービスの充実が課題であり、地区レベルでの基礎的な医療技術の向上、地区医療センター、地方病院、中央病院に繋がるリファーラル体制の充実、衛生知識に関する住民啓発活動等を充実させていくことが重要である。また、保健セクター改革を主軸としたセクター・プログラムが策定され、段階的に実施されている。我が国は、コモン・ファンドには参加していないが、セクター・プログラムの中で無償資金協力や技術協力を実施している。また、保健セクター改革では県レベルへの権限委譲が進められており、県の行政能力の向上が喫緊の課題となっていることから、モロゴロ州を対象に技術協力プロジェクトを実施し、そこで得られた知見をフィードバックすることが期待されている。
 また、タンザニアは「人口・HIV/AIDSに関する地球規模問題イニシアティブ」の重点国であり、米国とも協力して2002年度より感染症対策無償を実施中で、当国から高い評価を得ている
(ニ) 都市部等における基礎的インフラ整備
 都市部の人口増加により、道路、橋等の輸送網、通信、送配電網、上水道、下水道、廃棄物処理施設といった基礎インフラ整備の必要性が高まっていることから、今後とも、他の援助国・機関との連携・役割分担を行いながら協力を進めていく。特に首都ダルエスサラームについては、我が国はこれまで舗装道路総延長の20%、全送電網の40%、電話回線の30%を整備しているものの、同市が実質的な機能を果たすには未だ不十分な状況にあることから、引き続き支援を検討していく。従来実施してきた幹線道路網の改修・拡幅、給水施設整備のみならず技術的・行政的能力の向上についても協力することが重要である。

3.タンザニアに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のタンザニアに対する無償資金協力は42.59億円(交換公文ベース)、技術協力は22.81億円(JICA経費実績ベース)を行った。2003年度までの我が国の援助実績では、円借款206.27億円、無償資金協力1,261.94億円(以上、交換公文ベース)、技術協力539.79億円(JICA経費実績ベース)である。また、円借款の債務免除121.08億円(交換公文ベース)を実施した。
(2) 無償資金協力
 道路、水供給、食糧援助、食糧増産援助等の分野での協力を実施した。
(3) 技術協力
 農業、保健・医療等の分野における技術協力プロジェクトを実施するとともに、教育、農業、保健・医療、開発計画等の分野における専門家派遣、研修員受入れ、青年海外協力隊員派遣等による協力を実施した。また、ポリオ根絶やHIV/AIDS対策を目的とする医療機材の供与を行った。

4.タンザニアにおける援助協調の現状と我が国の関与

(1) タンザニアにおいては、1990年代半ばより援助の効率的な実施のために、タンザニア政府のオーナーシップとドナーとのパートナーシップが重要視されるようになり、PRSやタンザニア支援戦略(TAS:Tanzanian Assistance Strategy)の策定等を通じて、援助協調が進められている。2000年10月に完成したPRSでは、教育、保健、農業、水、道路、HIV/AIDS、司法制度を優先分野として政府財政を優先的に配分する分野としており、またセクター・プログラムも多く実施されている。これらの優先分野での目標達成のためにPRBSやセクター毎のコモン・ファンドも推進されている。これらPRSPの優先分野での目標達成状況を測るためにも、国家統計能力(貧困モニタリングシステム)の向上は必須であり、我が国は2000年のPRS策定時以来貧困モニタリングへの支援を継続している。
(2) 我が国は、タンザニアを援助協調最重点国と位置づけ、セクター・プログラムや財政支援等にも参加してきている。特に、農業セクターではリード・ドナーとして、他のドナーとの連携を図りつつ、農業セクター開発プログラム(ASDP)の立ち上げ及び実施に積極的な役割を果たしている。また、我が国は2001年度より債務救済無償を利用してPRBSへの拠出を開始し、そのレビューやフォローのために現地での体制を強化している。2004年3月には、ノンプロジェクト無償(5億円)をPRBSに投入し、ノンプロジェクト無償を利用した初めての財政支援となった。また、コモン・ファンドについては、2003年に貧困モニタリング及びASDP事務局経費に拠出を行った。
(3) 当国での援助協調の流れは加速化しており、援助の手続きの調和化に止まらず、共通の援助戦略(JAS:Joint Assistance Strategy)の策定も検討課題となってきている。また、当国の援助吸収能力を高めるために、当国が行っている4大改革(財政改革、公務員改革、地方自治改革、司法改革)への支援も重要な課題となっている。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対タンザニア経済協力実績

表-6 諸外国の対タンザニア経済協力実績

表-7 国際機関の対タンザニア経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図



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