[21]ジンバブエ

1.ジンバブエの概要と開発課題

(1) 概要
 1980年の独立以来、ムガベ大統領が政権運営に当たり、1987年に野党第一党を吸収合併した「ジンバブエ・アフリカ国民同盟・愛国戦線(ZANU-PF:Zimbabwe African National Union-Patriotic Front)」が事実上の単独政党として国政を運営してきた。一方、経済悪化が表面化した1999年に、労組を母体とする野党「民主改革運動(MDC:Movement for Democratic Change)」が結成され、2000年6月の議会選挙の結果議席は伯仲し、ジンバブエは二大政党制へと大きく移行することとなった。2002年3月に実施された大統領選挙では、ムガベ大統領が4選を果たしたものの、「自由かつ公正な選挙」が行われなかったとして国内外の批判を浴びるとともに、これを機に与野党間の対立が発生している。
 独立以来の重要な課題であった土地改革については。2000年から白人所有の大農場を強制収用し、共同農場で働く黒人に再配分する「ファスト・トラック」が開始された。2002年8月に政府は土地改革の成功を宣言したが、当初の目標を大幅に上回る1,400万ヘクタールの土地が強制収用され、現在も続いている。収用プロセスの適正さが問題となっているほか、十分なインフラ整備を行わないままに再配分されたため、農業生産が落ち込み、食料危機、外貨払底等ジンバブエ経済及び国民生活に深刻な影響をもたらしている。
 外交面では、2002年の大統領選挙の在り方を巡って国際社会の批判を招き、欧州連合(EU:European Union)、米等から制裁を課されているほか、土地改革を巡っても国際社会の批判を集めている中、2003年12月には英連邦を脱退するなど国際社会からの孤立を深めている。こうした背景から、主要ドナー国のほとんどが、人道的援助を除き政府間経済協力を停止している。国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)は、ジンバブエの債務支払いが滞り、成長へ向けた適切な経済運営も行われていないことから同国の強制脱退手続に入っている(現在は猶予されている)。
 経済面では、ジンバブエは豊富な鉱物資源に恵まれ、アフリカの中では社会インフラが比較的整備され、農業、製造業及び鉱業が比較的バランス良く発達していたが、土地改革に伴う政治的・社会的混乱や干ばつ被害等から、かつて「アフリカの穀物庫」と呼ばれたジンバブエの農業は深刻な影響を受け、2003年には国民の約半数にあたる500万人が国際社会からの食料援助に依存するに至った。
 また、外貨収入源であるタバコ等の生産が落ち込んだことから、外貨が払底し、燃料、電気、機械・部品、生産設備の輸入が困難となり、製造業、鉱工業にも大きな影響をももたらした。土地強制収用に起因する危機的状況の下、過去4年間に国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)は約30%落ち込み、失業率は70%を超える等、経済活動、国民生活に大きな困難が生じている。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.ジンバブエに対するODAの考え方

(1) ジンバブエに対するODAの意義
 ジンバブエでは農地改革等の混乱により経済は停滞し、1人当たりのGNPも480ドル(2001年)に落ち込んでいることから、同国の民主化、人権尊重、治安状況等を注視しながら、食糧援助、食糧増産援助を始めとする基礎生活分野における支援を実施することは、ODA大綱が掲げる「貧困削減」の観点からも意義が大きい。
(2) ジンバブエに対するODAの基本方針
 我が国も、2000年の議会選挙に際し派遣した選挙監視団からの報告を踏まえ、土地問題などの解決がなされ、本格的な援助を実施しうる環境が整うまでの間、新規一般無償資金協力の停止等、政府間開発援助を控えている。現在のところは、ジンバブエにおける人権の尊重、法の支配が促進されることを重視し、非政府組織(NGO:Non Governmental Organization)等を通じた草の根レベルの支援も含め、限られた援助資源を人道的課題を中心に効果的に配分するよう現地ODAタスクフォースとして慎重な案件形成・実施に留意している。
(3) 重点分野
 我が国は、ジンバブエにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び1998年に派遣した経済協力総合調査団等におけるジンバブエ側との政策対話を踏まえ、?所得の向上に結びつく産業振興のための条件整備、?保健医療、?伝統的共同体農村の農業、?水を含む環境保全を重点分野としている。

3.ジンバブエに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のジンバブエに対する無償資金協力は1.00億円(交換公文ベース)、技術協力は4.91億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款380.65億円、無償資金協力490.20億円(以上、交換公文ベース)、技術協力143.13億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
 食糧援助を実施した。

(3) 技術協力
 保健・医療分野で技術協力プロジェクト「ハラレ市マブク/タファラ地区HIV/AIDS予防総合対策」を実施しているほか、小規模金融、中小企業振興に係る専門家派遣、農業、工業、保健・医療、教育等の分野において、研修員受入れ、青年海外協力隊派遣等による協力を実施した。

4.留意点

(1) NGO法
 ジンバブエ政府は、ジンバブエ国内で活動する一部NGOが体制変更を目指す活動を行い国家の安全を脅かしているとの認識のもと、NGOを規制するための法律(いわゆるNGO法案)を議会に上程し、可決した。この法案の成立により、ジンバブエにおける安定したNGO活動が阻害される懸念もあることから、現在、「国連人間の安全保障基金」及び「草の根・人間の安全保障無償資金協力」により、NGOを通じた支援を行っている我が国としてもジンバブエ政府の動向を注視していく必要がある。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対ジンバブエ経済協力実績

表-6 諸外国の対ジンバブエ経済協力実績

表-7 国際機関の対ジンバブエ経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件


プロジェクト所在図



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