(1) 概要
シエラレオネでは、1991年に反政府勢力(RUF:Revolutionary United Front)と政府軍との間で武力衝突が起こり、以後内戦状態が継続してきた。1996年3月、大統領選挙によりシエラレオネ人民党(SLPP:Sierra Leone People's Party)のカバ大統領が就任した。1997年5月に軍事クーデターが発生し、カバ大統領が一時ギニアに脱出したが、1998年には同大統領の復帰が実現した。1999年10月より国連平和維持活動(PKO:Peacekeeping Operations)(国連シエラレオネ・ミッション(UNAMSIL:United Nations Mission in Sierra Leone)として6,000名の要員派遣及び右に伴う「元兵士の武装解除、動員解除及び社会復帰計画(DDR:Disarmament, Demobilization and Reintegration計画)」が展開された。
2000年5月、反政府勢力による国連PKO要員拘束事件や英国兵拘束事件等の混乱があったが、以後反政府勢力との和平合意や武装解除の実施についての合意が実現し、国内和平が進展した。2002年1月、武装解除プロセスの完了と内戦の終結がカバ大統領により公式に宣言され、それを機に国際機関及び一部二国間ドナーのDDR支援が開始された。その後は大きな治安上の混乱もなく、カバ大統領は2004年に、DDRプロセスの終了、再建・開発モードへの進展を宣言し、平和の定着と社会復興のための国際社会の支援を訴えた。
経済面では、ダイヤモンド、金、ボーキサイト等の鉱物資源、カカオ、コーヒー等の商品作物の輸出により外貨を得ているが、これらの国際市況の低迷、密輸の横行等を背景に、依然として経済は低迷している。また、長年にわたる内戦により、ダイヤモンド、カカオ等の主要産品の生産地域は荒廃し、主要食糧生産地域から大量に流出した農民の復帰の遅れや農民への技術普及・改良サービス体制の崩壊などの影響は深刻である。
1992年に債務軽減と経済復興を目的として国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)の経済再建プログラムを受け入れ、財政・金融の引き締め等を図った結果、経済は一時安定化に向かったが、その後内戦が激化し、経済状態は極度に悪化した。2004年現在、約10年続いた内戦により主要外貨収入源である鉱物資源の輸出が滞り、社会的インフラが大きな損害を受ける等、経済は著しく停滞している。今後シエラレオネ政府自身の和平定着への努力とともに、復興に向けた経済活性化と開発への努力が期待されている。
(1) シエラレオネに対するODAの意義
シエラレオネでは、約10年にわたる内戦により主要外貨収入源であった鉱物資源の輸出が停止し、インフラが大きな損害を受けるなど経済は大きく停滞し、深刻な貧困問題に直面しており、国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)人間開発指数(2004年)でも177ヶ国中最下位に位置付けられている。
こうした状況にかんがみれば紛争終結後の平和の定着や国造りのための支援を行うことは、ODA大綱の重点課題である「平和の定着」の観点から意義が大きくこれは自国の貧困問題の解決の前提となるものである。また、内戦後の国造りが軌道に乗るまでの間は政府による十分な保護が期待できない場合があり、内戦により発生した難民等は正に人間に対する直接的な脅威に直面することから、ODAによりこうした脅威にさらされた個々人に焦点を当てた支援を行うことは、「人間の安全保障」の観点からも重要である。
(2) シエラレオネに対するODAの基本方針
シエラレオネにおいては、内戦状況が続き民主化プロセスが停滞し、治安状況も悪化したため、過去10年余り国際機関・非政府組織(NGO:Non Governmental Organization)を通じた人道援助や一部草の根無償資金協力等を除いて援助を中断していた。しかし、和平達成後、内政は正常化に向かっており、2004年に入り、治安の回復に伴い段階的に撤退を開始したUNAMSILから政府への役割の委譲が進んでいる。我が国は、2003年の第3回アフリカ開発会議(TICADIII:The Third Tokyo International Conference on African Development)でも確認されたとおり、平和構築を対アフリカ支援の柱の一つに掲げているが、シエラレオネ国民に対する平和の定着を現実のものとするための支援を行うことを考えている。
これまで我が国は、国連諸機関と旧宗主国英などとの連携、NGOを通じた人道援助・DDRを実施してきたが、治安の回復を確認の上でわが国の二国間援助を再開すべく、2003年から断続的に現地調査を実施し、2004年9月には本格的再開に向け、案件形式調査を行った。
なお、同国は拡大HIPCイニシアティブ適用図であることから、当分の間、新規の円借款の供与は困難となっている。
(3) 重点分野
1997年5月の軍事クーデター以前は食糧援助を始めとする無償資金協力と技術協力を中心に支援を実施していたほか、国際機関経由で民主化プロセス支援を実施した。同クーデター後は、原則として一部の草の根無償資金協力等と国際機関を通じた援助のみを行っている状況であるが、元兵士の社会復帰支援など平和の構築に資する分野を中心に支援を行っている。
(1) 総論
2003年度のシエラレオネに対する技術協力は0.01億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款20.00億円、無償資金協力98.11億円(以上、交換公文ベース)、技術協力9.23億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 技術協力
人的資源分野で1名の研修員の受入を行った。
2002年以降、DDRプロセスの実施過程で、情報の共有と援助協調の強化を目的として、シエラレオネ政府及びUNAMSILの主導により、現地における開発パートナー会合が定期的に開催されている。また、世界銀行主導による貧困削減戦略の策定作業も開始され、こうした開発パートナー会合の場も活用して、最終版貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)の策定が進んでいる。2004年に行われたわが方大使館・JICA合同の安全確認をへて、当初は出張ベースであるが2004年後半からこうした現地援助協調の枠組みに参加していくこととしている。