[12]ケニア

1.ケニアの概要と開発課題

(1) 概要
 2002年12月の大統領選挙において、野党連合(NARC:National Rainbow Coalition)のムワイ・キバキが当時のモイ大統領が後継者として推すケニア・アフリカ人国民同盟(KANU:Kenya African National Union)の候補者を破り、24年間にわたるモイ政権は幕を閉じ、キバキが第3代大統領に就任した。キバキ政権は、汚職対策や司法改革、初等教育の無料化などガバナンスの改善を軸に各種の社会・経済改革に取り組んでいる。
 外交面では、国連重視、アフリカ連合(AU:African Union)及び非同盟諸国との協調を基調とする一方、先進諸国との関係強化にも努めている。アフリカ諸国との関係では、スーダン、ソマリア内戦等の平和的解決のために当事者間の仲介努力を行う等、地域の平和と安定に貢献している。また、隣国タンザニア、ウガンダとの間で経済・社会開発等の分野で関税同盟等の相互協力を推進し、最終的には政治連合の設立を目的とする東アフリカ共同体(EAC:East African Community)の枠組みで協力関係の構築に努めている。
 比較的工業化が進んでいるものの、コーヒー、茶等の農産物生産を中心とする農業国であり、農業が労働人口の60%、国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)の25%を占める。GDP成長率は2001年には1.2%、2002年は1.1%と低迷していたが、2003年には1.8%とやや回復の兆しが見られる。なお、前政権下において経済改革の遅れや汚職への対応ぶり等を理由として再三停止されてきた国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)による融資(貧困削減・成長ファシリティ(PRGF:Poverty Reduction and Growth Facility))が2003年11月から再開され、世界銀行の財政支援融資も再開されている。
(2) 「富と雇用創出のための経済再生戦略」(Economic Recovery Strategy for Wealth and Employment Creation)
 2003年6月に策定されたERSは2003年から2007年までを対象とした政府の中期的開発計画である。
 ERSでは、12007年までの高度経済成長の実現(年間50万人の雇用創出、2007年における7%の経済成長達成など)、2良い統治実現のための統治機関・体制強化、3経済インフラの整備・拡張、4貧困削減及び生産性の向上の4つの認識に基づきマクロ経済目標や、統治体制強化、法の支配の実現への道筋、セクター別開発方針等を示している。各開発課題の記載ぶりは以下のとおり。
(イ) 人材育成:初等教育の無償化、経済的負担を軽減するためのカリキュラムの見直し、教員研修、労働市場の需要にあったカリキュラムの作成等
(ロ) 農業開発:農業開発リサーチと新技術の普及、マイクロファイナンス機関の設立、灌漑施設整備、協同組合強化、乾燥・半乾燥地域における農業、畜産の振興のための水供給施設、道路整備等の推進等
(ハ) 経済インフラ整備:民間投資、経済成長、雇用機会創出に資するインフラ整備(主要幹線道路及び地方道路、鉄道、航空交通網、通信、エネルギー分野の改修・整備)。
(ニ) 保健・医療:HIV/AIDSへの対応として感染者へのヘルスケアプログラム、学校教育におけるHIV/AIDS知識の普及のカリキュラム設定等。社会的弱者への利益を配慮した健康保険制度の改革、医療関連設備の改修、薬の調達・流通システムの改善。
(ホ) 環境保全:水分野では水供給サービス等を管轄する公社の設立、民間セクターの参加促進、地方貧困地での水供給モデル開発。植林プログラムや環境汚染管理、環境教育の実施等を通じた環境問題。
 ERSは本来ケニア版貧困削減文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)として策定されたが、2003年6月の策定後、ケニア政府は追加・修正等を行い、2004年3月に新たにIP-ERS(Investment Program for the ERS)を策定、5月に世界銀行・IMFに提出し、ケニア版PRSPとして支持された。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.ケニアに対するODAの考え方

(1) ケニアに対するODAの意義
 ケニアは、東アフリカにおいて地理的な要衝を占め、かつ政治経済面で指導的役割を果たしている。最近でもソマリア・スーダン和平の仲介に対し積極的に取り組んでいるほか、国連などの国際機関を通じて平和促進に貢献するなど、東アフリカにおける政治的・外交的勢力としての役割を担っており、東アフリカに大きな影響力を有している。我が国との関係も良好に推移しており、安定的な関係を維持・発展していく意義は大きい。
 ケニアは、良好な地理的条件、比較的高い教育水準などサブ・サハラ・アフリカの中で発展への高い潜在能力を有している。また、民主化及び経済改革に向けた努力等の主体的意思(オーナーシップ)を発揮しているところ、このようなケニアの取組をODAにより支援することは、ODA大綱の重点課題である「貧困削減」や「持続的成長」の観点からも意義は大きい。
(2) ケニアに対するODAの基本方針
 ケニア側の自助努力を促す意味でも費用対効果の面で精緻な検討が不可欠であるとともに、質の向上についても重視していく必要がある。重点分野に的を絞るとともに、周辺諸国にも効果の及ぶような地域的アプローチも考慮していく。
 ケニアに対しては、無償資金協力及び技術協力が支援の中心となっている。現在実施中のソンドゥ・ミリウ水力発電計画後の円借款供与については、ケニア政府が自助努力による債務返済への意思を明確にしていることも勘案しつつ案件ごとに財政・債務状況、実施体制などを慎重に見極めた上で検討していく。
(3) 重点分野
 2000年に策定された国別援助計画では、以下の5分野を重点分野として挙げている。2004年8月にケニア政府と現地ODAタスクフォースの間で実施された政策協議では各分野の課題についても確認された。
(イ) 人材育成
(a) 基礎教育:中等理数科教育強化計画(SMASSE:Strengthening of Mathematics and Science in Secondary Education)による中等理数科教員の質及び授業方法の改善。草の根・人間の安全保障無償資金協力の活用による小学校の建設等施設の改善。
(b) 高等教育・技術教育:域内及び域外へも裨益効果が波及するよう、周辺国及び大学等の機関との連携の下、アフリカ人造り拠点(AICAD:African Institute for Capacity Development)事業を通じた東アフリカの人材育成。
(ロ) 農業開発
 小規模経営農家を対象とした小規模農業の振興を中心に、生産性向上、灌漑技術の確立、半乾燥地域における農村開発等。
(ハ) 経済インフラ整備
 交通網の充実に貢献する橋梁整備、産業活動に欠かせない電力供給に貢献するエネルギー資源の開発、国土開発の基礎的情報となる地図データ整備等。
(ニ) 保健・医療
 これまでのケニア中央医学研究所(KEMRI:Kenya Medical Research Institute)への協力の成果を踏まえつつ、輸血血液の安全性の確保を始めとする感染症対策の推進、橋本イニシアティブに基づく東・南部アフリカの拠点としての寄生虫症対策の推進、母子保健、学校保健の充実や保健センターなど医療施設の整備。
(ホ) 環境保全
 森林の保全・造成及び農地の保全、都市・産業排水や廃棄物の増加に伴う湖沼や河川の汚染に対して、都市衛生環境の整備及び水質保全に資するための上下水道整備等の支援を検討。

3.ケニアに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のケニアに対する円借款は105.54億円、無償資金協力は13.73億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は28.31億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの我が国の援助累積実績では、円借款1,833.87億円、無償資金協力833.01億円(以上、交換公文ベース)、技術協力779.95億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
 「ソンドゥ・ミリウ水力発電計画(第二期)」に対する円借款を供与した。
(3) 無償資金協力
 インフラ分野、水供給分野、保健・医療分野、食糧援助等の支援を行った。
(4) 技術協力
 域内協力の拠点ともなっている「アフリカ人造り拠点」、「中等理数科教育強化」、「国際寄生虫対策」、「感染症研究対策」等の技術協力プロジェクトを実施するとともに、研修員受入れ、青年海外協力隊員・シニア海外ボランティア派遣等による協力を実施した。また、ポリオ根絶やHIV/AIDS対策を目的とする医療機材の供与を行った。

4.ケニアにおける援助協調の現状と日本の関与

 2003年11月に7年ぶりに支援国会合(CG:Consultative Group)が開催された。それ以降、政府が主催する政府とドナー国・機関の対話の場であるケニア協調グループ(KCG:Kenya Coordination Group)の開催が定期化され、ドナー・政府間の対話は活発化している。他方、主要ドナー間ではドナー協調グループ(DCG:Donor Coordination Group)が定期的に開催されており、ケニアの政治・経済・開発課題に関して意見・情報交換が行われ、必要に応じて政府等への申し入れ等を行っている。我が国はKCG、DCGの両方に参加している。
 2003年以降、政府はセクター・ワイド・アプローチや財政支援等の援助協調関連事項に大きな関心を示すようになってはいるが、財政支援による政府にとって使い勝手のよい資金の獲得への興味が過大な一方、財政支援を受ける基盤として必要な援助管理政策の立案、財政管理の強化、セクター別開発計画の立案等への努力が必ずしも十分ではない。現在、財政支援を行っているのは世界銀行、IMF、欧州連合(EU:European Union)のみである。他に2、3のドナーがケニア政府の財政管理等ガバナンスが改善すれば財政支援を実施したいとの意向を持っている。
 ドナー側では、2004年2月から援助調和化ドナーグループ(HAC:Harmonisation, Alignment, Coordination)をテクニカル・グループとして結成し、ドナー・政府共同行動指針文書やドナー支援予測表の立案やドナー共同援助計画の立案可能性の検討等に取り組んでいる。我が国はHACのメンバーである。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対ケニア経済協力実績

表-6 諸外国の対ケニア経済協力実績

表-7 国際機関の対ケニア経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図



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