(1) 概要
1991年5月の反政府軍の首都制圧によりメンギツ政権が崩壊し、同年7月に国内諸勢力から成る暫定政権が成立した。暫定政権は民族融和と民主化に尽力し、1995年に連邦共和制の下に議員内閣制を採用した新国家が成立した。2000年、国政選挙が実施され、与党であるエチオピア人民革命民主戦線(EPRDF:Ethiopian Peoples' Revolutionary Democratic Front)が勝利した。外交面では善隣友好政策をとっているが、1998年5月、国境確定問題を巡ってエリトリアと武力衝突が発生した。アフリカ統一機構の調停等により2000年6月に「休戦合意」、同年12月に「和平合意」が成立した。しかしながら、一部の地域の帰属を巡って両国の意見が対立し、国境問題は現在のところ未解決のままである。
エチオピアは、石油や稀少金属等の天然資源に恵まれていると言われながら、その殆どが未開発であり潜在的な発展の可能性は高いと言える。農業部門は労働人口の約85%、国民総所得(GNI:Gross National Income)の約45%を占めているが、周期的な干ばつによる食糧不足、多額の対外債務、主要輸出品目をコーヒーなど第一次産品に頼る脆弱性を有するなど、多くの開発課題を依然として抱えており、全人口の約44%が絶対貧困レベルにある。食糧安全保障の確立による貧困削減は政府の最大課題である。
1992年9月に世界銀行・国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)との間で合意された構造調整計画に基づき経済自由化を推進し、1995年1月には「開発、平和及び民主主義のための計画(国家開発5か年計画)」と題する経済開発政策を策定し、農業生産性の向上、教育、公衆衛生の改善等を最重点目標に据えてきた。2000年には与党による同計画の見直しの結果、平和、開発、民主化に関する「第2次国家開発5か年計画」が策定されている。
(2) 「持続可能な開発及び貧困削減計画(SDPRP:Sustainable Development and Poverty Reduction Program)」
2002年、政府は、世界銀行グループより重債務貧困国(HIPCs:Heavily Indebted Poor Countries)として認定され、新たな支援を受けるための条件としてSDPRPを作成し、世界銀行・IMFにより支持された。対象期間は2002年7月から3年間。2003年に第1回年次進捗報告が行われた。第2回進捗報告は2004年12月の予定。
同戦略の要点は、次のとおり。
・農業の最優先(農業主導による産業開発)
・民間セクター開発による雇用の創出
・輸出振興(高付加価値農産物の開発、皮革加工や衣類製造など輸出産業の育成)
・初等教育の強化および各種能力開発
・地方分権化の促進
・ガバナンスの改善(法整備、貧困層のエンパワーメント、民間セクター開発のための枠組み作り)
・水資源開発
(1) エチオピアに対するODAの意義
エチオピアは、サハラ以南アフリカ第二位の人口を擁する大国であり、潜在的な発展の可能性は高い。他方、干ばつ・飢餓、長年の内戦・紛争による難民・避難民等の問題を抱えており、1人当たりGNIは100ドル(2002年)にとどまっている。現政権は民主化と経済改革を進めつつ、貧困削減等の開発課題に取り組んできており、こうした取組をODAによって支援することは、ODA大綱の重点課題である「貧困削減」や「平和の構築」の観点からも意義が大きい。
また、同国では干ばつ等の自然災害や内戦・紛争による難民・避難民の発生といった人間に対する直接的な脅威が存在することから、かかる脅威への対策をODAにより支援することは、「人間の安全保障」の観点からも重要である。
(2) エチオピアに対するODAの基本方針
エチオピア政府が取り組む「食糧安全保障」の確立を軸とする貧困削減を支援するため、緊急的な食糧援助、中長期的な食糧増産援助、教育、保健医療・福祉、水と衛生といった社会セクターにおける支援、さらに経済・社会インフラの整備を効率的・効果的に組み合わせて支援を進める。ただし、エチオピアは、拡大HIPCイニシアティブの適用国であることから新規円借款の供与は困難である。
また、同国に存在する、人間に対する直接的な脅威に対処するため、国連機関を通じた「人間の安全保障基金」、現地非政府組織(NGO:Non Governmental Organization)を通じた「草の根・人間の安全保障無償」などを活用し、国家による保護が十分に行きわたらない人々を支援してきている
(3) 重点分野
2003年6月にエチオピア政府と現地ODAタスクフォースの間で政策協議を実施し、下記の5分野を日本の対エチオピア援助の重点分野とすることとした。なお、これらはSDPRPにおける重点分野とも合致しており、2004年7月に開催された現地政策協議でも再確認された。
(イ) 教育:住民参加による学校建設・運営のノウハウの蓄積、地元言語による遠隔地教育のための放送機材整備、教育行政キャパビル、理数教員トレーナーの派遣等。
(ロ) 保健(HIV/AIDSを含む):世界保健機構(WHO:World Health Organization)による世界的なポリオ根絶計画の推進を中心に実施。
(ハ) 水:「地下水」分野での施設整備、キャパシティビルディング等を実施。
(ニ) 経済インフラ:食糧安全保障達成のための支援として市場流通促進に寄与する道路網整備を支援(既に高い知名度と評価を得ている)。電気通信セクターでの支援。経済成長を通じた貧困削減を具現化するもの。
(ホ) 食糧・農業・農村開発:慢性的な食糧不足と干ばつに悩む農村地帯に対し、緊急的な食糧援助と中長期的な食糧増産援助を長年にわたって実施。
(1) 総論
2003年度のエチオピアに対する無償資金協力は27.85億円(交換公文ベース)、技術協力は11.51億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの我が国の援助実績は、円借款37.00億円、無償資金協力650.36億円(以上、交換公文ベース)、技術協力158.02億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
同国の穀倉地帯と首都を結ぶ幹線道路の改修、食糧援助、保健・医療及び教育等の分野で協力を実施した。また、同国の構造調整努力を支援するため5億円のノン・プロジェクト無償資金協力を供与した。
(3) 技術協力
農業、林業、水供給、インフラ等の分野で技術協力プロジェクトを実施してきている他、林業分野で技術協力プロジェクト「ベレテ・ゲラ参加型森林管理計画」、教育分野で技術協力プロジェクト「住民参加型基礎教育改善プロジェクト」を開始している。また、保健・医療、農業、教育、インフラ等の分野で専門家派遣、研修員受入れ、青年海外協力隊員派遣による協力を実施した。
国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)が中心となって先進国ドナーの集合体であるDAG(Development Assistance Group)-CG(Consultative Group又はCore Group)を形成し、ドナー及びエチオピア政府(財務・経済開発省)等の援助協調を企図して、任意参加による会合を定期的(毎週)に開催。
これまで議論された主な項目としては、エチオピア政府との新援助協調構造(エチオピア政府及びドナーによるハイレベル・フォーラム、事務局、分野別実務会合(教育、保健、食糧安全保障)の3機関を設置)、SDPRP策定、実施の支援及びモニタリング指標の検討などがある。現在は、第二次SDPRP策定への積極的な関与、2005年3月にパリで予定されている援助調和化ハイレベルフォーラムに向けたエチオピアにおける援助調和化アクションプランの策定を目指している。
また、DAG-CG内外に任意のセクター別・課題別ドナー会合が存在し、活発に活動している。
我が国は現地ODAタスクフォースとして、基礎情報の収集に努めており、今後はオールジャパンの体制を活用して可能な限りの多くの会合に参加し、我が国として整合性の取れた主張を行うことによるプレゼンスの向上を目指している。
2003年、以前から存在した「ODA勉強会」を発展させたODA協議会(エチオピア在留の援助関連邦人をメンバーとし、大使館及びJICA事務所を事務局とする)を設置し、現地ODAタスクフォースと合わせてオールジャパン体制が確立した。同タスクフォース及び協議会の活動を通じ、対エチオピア国ODAの一層の戦略的、効率的、かつ効果的なODAの実現に努めていく。