(1) 概要
モロッコは、国事全般にわたり国王自らの親政により決定されるという体制を基礎としている。他方、国政改革の一環として、国王主導による民主化措置の導入も進められている。1996年9月の二院制導入等を内容とする憲法改正の国民投票を経て、翌年に両院の選挙が実施された。1999年7月、国王ハッサン二世が逝去して皇太子がモハメッド六世として即位した。新国王は、前国王の国家発展事業の継承を表明する一方、貧困対策等の社会政策を重視し、「弱者のための王」のイメージを打ち出すとともに、民主化、経済自由化等各種の改革を着実に進めている。
外交面では非同盟及びアラブ諸国との連帯を標榜しつつ、現実的かつ穏健な外交政策を追求するとともに、西側諸国とも良好な関係を維持している。西サハラの領有権問題については、国連主催の住民投票により決定するとする1988年に国連が提案した「解決計画」をモロッコ及びポリサリオが受け入れた。国連を中心に問題解決のための努力が継続されているが、有権者認定作業における両者の意見対立から住民投票の目処が立っていない。
モロッコ経済は、経済セクターの近代化等を進めてきた結果、安定した経済成長を維持出来る状態になってきた。しかし、農業が重要産業であるため降雨量の多寡により経済成長が大きく影響を受けること、世界の埋蔵量の約75%を占める燐鉱石、石油の国際市場価格変動が貿易収支に大きく作用することなど、外的要因による変動の影響を受けやすく、脆弱性が依然として存在している。また、都市部を中心とした高失業率問題(2002年の失業率は都市部平均では18.3%)、社会層・地域間の貧富の格差、高い非識字率(1998年では48%)等の社会問題は、モロッコ経済が直面している大きな課題と言える。こうした課題を抱えるなか、強固かつ持続的な成長の確保と社会階層間及び地域間の格差を是正し安定した社会を作り上げるべく積極的に取り組むとともに、世界銀行・国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)の支援を得て包括的な構造調整を行っている。対外経済政策では、世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)を軸とした多国間協力、環地中海及びマグレブ諸国間を対象とした地域協力、その他諸国との二国間関係強化を展開している。具体的政策としては、欧州連合(EU:European Union)との自由貿易協定(2000年3月1日発効)、モロッコ、チュニジア、エジプト及びヨルダンの4カ国間の自由貿易協定(2004年2月調印)、米国との自由貿易協定(2004年3月に交渉終了、8月に発効。)、トルコとの自由貿易協定(2004年4月調印)が挙げられる。
(2) 経済・社会開発計画
2000年8月に国会で承認された経済・社会開発計画(2000年~2004年)は、経済成長率の増加、投資・貯蓄率の向上、失業率の低下、非識字率の低下等の政策目標を掲げている。
これらを達成するための具体的方策としては、(イ)人的資源の活用と社会の発展(教育、職業訓練、技術研究分野、文化、保健、雇用・社会保障、社会開発)、(ロ)生産セクター開発(農業・森林開発、工業、手工業、エネルギー・鉱業、観光分野の開発)、(ハ)経済・社会インフラの開発(国土整備、都市計画、住宅整備、環境保全、運輸、通信、郵政・情報技術等の開発)が示されている。