[15]モロッコ

1.モロッコ政治経済事情の概要と開発課題

(1) 概要
 モロッコは、国事全般にわたり国王自らの親政により決定されるという体制を基礎としている。他方、国政改革の一環として、国王主導による民主化措置の導入も進められている。1996年9月の二院制導入等を内容とする憲法改正の国民投票を経て、翌年に両院の選挙が実施された。1999年7月、国王ハッサン二世が逝去して皇太子がモハメッド六世として即位した。新国王は、前国王の国家発展事業の継承を表明する一方、貧困対策等の社会政策を重視し、「弱者のための王」のイメージを打ち出すとともに、民主化、経済自由化等各種の改革を着実に進めている。
 外交面では非同盟及びアラブ諸国との連帯を標榜しつつ、現実的かつ穏健な外交政策を追求するとともに、西側諸国とも良好な関係を維持している。西サハラの領有権問題については、国連主催の住民投票により決定するとする1988年に国連が提案した「解決計画」をモロッコ及びポリサリオが受け入れた。国連を中心に問題解決のための努力が継続されているが、有権者認定作業における両者の意見対立から住民投票の目処が立っていない。
 モロッコ経済は、経済セクターの近代化等を進めてきた結果、安定した経済成長を維持出来る状態になってきた。しかし、農業が重要産業であるため降雨量の多寡により経済成長が大きく影響を受けること、世界の埋蔵量の約75%を占める燐鉱石、石油の国際市場価格変動が貿易収支に大きく作用することなど、外的要因による変動の影響を受けやすく、脆弱性が依然として存在している。また、都市部を中心とした高失業率問題(2002年の失業率は都市部平均では18.3%)、社会層・地域間の貧富の格差、高い非識字率(1998年では48%)等の社会問題は、モロッコ経済が直面している大きな課題と言える。こうした課題を抱えるなか、強固かつ持続的な成長の確保と社会階層間及び地域間の格差を是正し安定した社会を作り上げるべく積極的に取り組むとともに、世界銀行・国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)の支援を得て包括的な構造調整を行っている。対外経済政策では、世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)を軸とした多国間協力、環地中海及びマグレブ諸国間を対象とした地域協力、その他諸国との二国間関係強化を展開している。具体的政策としては、欧州連合(EU:European Union)との自由貿易協定(2000年3月1日発効)、モロッコ、チュニジア、エジプト及びヨルダンの4カ国間の自由貿易協定(2004年2月調印)、米国との自由貿易協定(2004年3月に交渉終了、8月に発効。)、トルコとの自由貿易協定(2004年4月調印)が挙げられる。
(2) 経済・社会開発計画
 2000年8月に国会で承認された経済・社会開発計画(2000年~2004年)は、経済成長率の増加、投資・貯蓄率の向上、失業率の低下、非識字率の低下等の政策目標を掲げている。
 これらを達成するための具体的方策としては、(イ)人的資源の活用と社会の発展(教育、職業訓練、技術研究分野、文化、保健、雇用・社会保障、社会開発)、(ロ)生産セクター開発(農業・森林開発、工業、手工業、エネルギー・鉱業、観光分野の開発)、(ハ)経済・社会インフラの開発(国土整備、都市計画、住宅整備、環境保全、運輸、通信、郵政・情報技術等の開発)が示されている。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.モロッコに対するODAの考え方

(1) モロッコに対するODAの意義
 モロッコは、ジブラルタル海峡を挟んでアフリカ大陸を欧州と結ぶ地政学的に重要な位置にあり、穏健かつ現実的な外交政策をとる北アフリカ・地中海地域の安定勢力である。また中東和平問題の解決にも尽力しており、国内的には積極的に構造調整に取り組むとともに民生化を推進している。我が国としては、モロッコと漁業協定を結んでいることを含め、良好な二国間関係を踏まえ、積極的にODAを実施している。
(2) モロッコに対するODAの基本方針
 民主化、経済改革努力及びモロッコの最重要課題の一つである社会格差是正努力を支援するため、各形態による援助を実施している。今後、現地ODAタスクフォースでは課題・分野ごとの支援方針の検討を進めていく。
(3) 重点分野
 1999年7月に実施した経済協力政策協議において以下の5分野を重点分野とすることが確認された。
(イ) 農業及び水産業の開発・振興の支援
(ロ) 限られた水資源の効率的利用のための農業用水及び飲料用水確保のための水資源開発支援
(ハ) 持続的経済成長を支える基礎インフラ整備分野への支援
(ニ) 都市・地方間の格差是正及び貧困削減のための地方開発分野への支援
(ホ) 持続的発展確保のための環境分野での支援

3.モロッコに対する2003年ODA実績

(1) 総論
 2003年度のモロッコに対する円借款は89.35億円、無償資金協力は4.61億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は15.15億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款1,598.52億円、無償資金協力284.03億円(以上、交換公文ベース)、技術協力257.40億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
 1993年の債務返済の開始を受け新規円借款の供与を再開して以降、ほぼ毎年円借款を供与している。2003年度には、「地方部中学校拡充計画」に対して89.35億円の円借款供与を行った。
(3) 無償資金協力
 1986年度に一般無償資金協力対象国に移行して以降、保健・医療、水供給分野等の基礎生活分野、農業分野を中心に援助を実施している。2003年度には、基礎生活及び水産分野において無償資金協力を行ったほか、20件の草の根・人間の安全保障無償資金協力を実施した。
(4) 技術協力
 従来から農水産、水資源、鉱工業分野を中心に、研修員受入、専門家派遣、青年海外協力隊派遣、技術協力プロジェクト等の各種形態で積極的に協力を実施している。なお、2003年度には主に仏語圏アフリカ諸国を対象としたモロッコにおける第三国研修により、約120名に対する研修が実施された。

4.モロッコにおける援助協調の現状と我が国の関与

 組織的な援助協調の動きは進展していないが、フランスが中心となり随時ドナー会合が開催されているほか、世界銀行、国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)が分野毎(教育分野等)のドナー会合を開催しており、我が国も参加している。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対モロッコ経済協力実績

表-6 諸外国の対モロッコ経済協力実績

表-7 国際機関の対モロッコ経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図


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