(1) 概要
1990年5月の南北イエメンの統合後、市場経済に立脚した開発と民主主義の確立を基本政策とし、複数政党制を採用している。1994年5月に内戦が発生したが、同年7月に統一維持派が勝利して内戦は終結した。同年10月には改正憲法の公布、1997年4月には総選挙が実施された。
2000年10月に発生した米駆逐艦爆破事件、2002年10月の仏船籍タンカー爆破事件により、イエメンは政治、経済の両側面から大打撃を受け、観光客の激減をはじめとする経済不振、国内におけるテロという不安定要因を抱えることになった。しかし、サーレハ大統領自らによる対テロ撲滅対策が成功裏に実施されてきたこともあり、2003年以降は大規模なテロ事件は発生しておらず、ドナー・国際機関が安定的な援助を行うことが可能となっている。
湾岸戦争での親イラク的な立場を理由に近隣諸国からの援助が途絶え、出稼ぎ労働者も帰国させられ、外貨収入が大幅に減少したことなどにより経済は低迷している。イエメンの一人当たりの国民総所得(GNI:Gross National Income)は490ドル(2002年)であり、絶対貧困人口(1日1ドル以下)は人口の15.7%、貧困ライン以下(1日2ドル以下)が45.2%を占めている。非識字率(15歳以上)は51%、初等中等教育就学率は53%、失業率は40%となっている。
(2) 貧困削減戦略文書
イエメンは中東地域において唯一、貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper 2003年~2005年)を策定している。同文書によれば、イエメンにとっての主要課題は、人口問題(人口増加率年約3.6%)、水資源問題、経済成長、人材育成及び行政改革となっている。具体的には、医療サービスの国民への提供の充実、基礎教育の普及、インフラの整備(上下水道、電気、道路)、年金等の社会保障の拡充が挙げられている。
イエメン政府は、ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)の実現に向けて、第3次5か年計画と統合した第2次PRSP(2006年~2010年)を策定する予定である。イエメン政府の開発への努力が評価され、2004年に国連からミレニアム・プロジェクト・パイロット国として指定された。また、1995年以降、世界銀行・国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)の支援の下、緊縮的な財政・金融政策を内容とする経済改革に着手してきている。
(1) イエメンに対するODAの意義
イエメンは、アジアとアフリカを結ぶシーレーン上に位置し、地政学的に重要であること、低所得国であり、経済社会開発のための援助需要が高く、PRSPを策定して貧困削減に前向きに取り組むとともに、民主化プロセスを推進していることなどから、イエメンとの良好な関係を踏まえ、ODAを実施している。イエメンに対する援助は、ODA大綱の重点課題である「貧困削減」の観点から重要であるとともに、イエメンの貧困削減と経済発展に対する支援は世界の油田地帯であるアラビア半島の安定にとって重要な要素となっている。
(2) イエメンに対するODAの基本方針
我が国は無償資金協力及び技術協力を中心に援助を実施しており、イエメンの政情、経済社会情勢等を見極めつつ基礎生活分野を中心に援助の実施を検討していくこととしている。
(3) 重点分野
1999年7月の日・イエメン政策協議により、以下の基礎生活分野を重点分野とすることを確認している。
(イ) 地方給水(過去に多数のプロジェクトを実施)
(ロ) 保健・医療(結核対策拡充計画のための協力を実施した)
(ハ) 初等教育(小中学校の建設や教科書印刷機材整備のための協力を行っている)
(1) 総論
2003年度のイエメンに対する無償資金協力は15.18億円(交換公文ベース)、技術協力は2.34億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款608.49億円、無償資金協力583.19億円(以上、交換公文ベース)、技術協力70.24億円(JICA経費実績ベース)であった。
(2) 円借款
1989年度まで通信、運輸等経済インフラ整備に対し円借款を供与してきたが、その後、債務削減措置が適用されたため、新規の円借款供与は困難な状況にある。
(3) 無償資金協力
基礎生活分野(地方給水、保健・医療、初等教育)及び食糧増産援助を中心に協力を実施している。2000年10月の米軍艦爆破事件や2001年9月の米国同時多発テロ事件の発生により、調査団派遣等を見合わせた経緯があるが、2003年度には「小中学校建設計画(2/2)」や「教科書印刷所機材整備計画」に対する一般無償資金協力を実施したほか、保健分野等において11件の草の根・人間の安全保障無償資金協力を実施した。
(4) 技術協力
基礎生活分野(地方給水、保健・医療、初等教育)を中心に実施しており、結核対策に関する技術協力プロジェクトが代表的な協力である。青年海外協力隊の派遣は、1994年の内戦時に全員引き揚げた後、その後の治安情勢を踏まえ派遣を見合わせてきたが、2005年度より派遣の予定。
イエメン政府とドナー・国際機関等(含む非政府組織(NGO:Non Governmental Organization))の間では援助協調が行われている。PRSPやMDGsの達成状況等、全体的な課題を扱うハイレベルの会合から、分野別(教育、水、保健、ジェンダー、民主化、環境等)の専門家レベルの会合まで各種のドナー会合が首都で頻繁に開催されており、現地日本大使館関係者が参加している。
(1) イエメンは後発開発途上国(LDC:Least Developed Countries)であり、行政改革や職員の人材育成が急務となっている。また、イエメン政府による案件の十分なフォローアップや義務履行が困難な場合も見られる。
(2) 2003年以降大規模なテロ事件は発生しておらず、主要都市部では比較的治安は安定しているが、一部の地方部においては2004年6月に発生したサアダ州での政府軍と武装グループとの衝突のように散発的な武力衝突が発生している。