[3]ネパール

1.ネパールの概要と開発課題

(1) 概要
 ネパールは南西アジアで最も所得水準の低い後発開発途上国(LDC:Least Developed Countries)であり、(イ)開発の遅れ、(ロ)高い人口増加率、(ハ)内陸国であること等の要因が相まって多くの貧困層を抱えるに至っている。同国は、1990年代の民主化以降、民主主義の定着と経済の自由化を進めつつ、厳しい条件下で社会・経済開発に努めており、国際社会の支援を必要としている。また、マオイスト問題により疲弊したネパールにおいて、経済社会の開発のための緊急性は高まっている。
 1996年に始まったマオイストの武装闘争により、特に、2001年以降の治安情勢悪化に伴い、ネパールの主幹産業である観光産業が低迷、投資や輸出も停滞するなど、経済は依然として危機的状況が続いている。2003/04年度の成長率は3.7%と若干の回復がみられたが、治安情勢は未だ予断を許さない状況であることから、経済の先行きは不透明である。
(2)「第10次5か年計画」
 ネパールは1956年という早い時点で5か年の開発計画を策定し、同計画に沿って経済開発を推進してきた。1985年の経常収支悪化後、1987年より国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)・世界銀行との協議の下で構造調整政策が開始され、1990年の政体の民主主義体制への移行に伴い1991年より本格的自由化政策が採られた。
 ネパールでは、2003年2月に貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)として、第10次5か年計画が策定された。ネパール政府は、第10次5か年計画より、同計画の支出枠組みを規定する中期的(3年間)財政計画(MTEF:Medium Term Expenditure Framework)、及び、即時に実施するプロジェクトの優先付けを行う短期的な即時行動計画(IAP:Immediate Action Plan)を計画の一部として組み込み、同計画実施の現実化へのコミットメントを示している。
 第10次5か年計画(PRSP)の主要目標は、5年間で貧困層人口を現在の38%から30%まで削減する等の貧困削減である。これを達成するためには国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)を農業部門で4.1%、非農業部門で7.5%、全体で6.2%成長させなければならないが、そのための戦略として、(イ)地方経済を重視した高い経済成長の達成、(ロ)基本的な社会サービスの効果的な提供と経済インフラの整備、(ハ)貧困者や女性などの開発プロセスへのメインストリーム化、及び、(ニ)グッド・ガバナンスを4つの柱としている。また、この戦略を実施する上で、「地方重視」、「即効性のある開発」、「強力な戦略志向」、「弾力的な計画の見直し」を配慮すべき4点としている。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.ネパールに対するODAの考え方

(1) ネパールに対するODAの意義
(イ) ネパールの開発に対する応分の支援
 我が国としては、ネパールと長く友好関係にあり、また、対ネパール二国間援助の最大ドナー国として評価されていることから、今後とも、重点分野を中心に、透明性・効率性の向上を図りつつ、各種スキームを戦略的に用いて引き続き協力を推進していく。
(ロ) 民主主義定着のための支援
 ネパールにおいては、民主化以後の歴史が浅く、民主主義定着のための基盤整備が遅れている。民主主義定着の推進は国民の政治参加や民意を反映した社会開発の推進を促すとの観点より、民主主義における社会発展の基礎となるものであり、かかる発展を望むネパールに対し、同じ民主国家である我が国として引き続き支援することは重要である。
(ハ) 平和と地域の安定のための支援
 ネパールではマオイストによる武装闘争により多数の人命が奪われ続けているだけでなく、社会開発の観点から甚大な人的・物的被害が生じている。また、ネパールは地勢的に中国とインドの緩衝地としての位置にあり、ネパールの安定的発展は地域の安定にとり重要である。ネパール政府は、鋭意治安回復に努めており、かかる政府の活動を支援すること、また、マオイスト活動の主因の一つと言われる貧困や失業を減らすべく支援を行うことは、この地域の安定の確保に資するものである。
(2) ネパールに対するODAの基本方針
 我が国の対ネパール経済協力は、「貧困削減に資する経済成長」のアプローチを基本とし、地方の貧困問題の緩和を重視する第10次5か年計画(PRSP)に対応すべく、貧困地域・郡に重点を置いた社会セクターの状況改善、農業を機軸とする所得向上等を内容とする地域開発に重点をおき、女性及び社会的弱者へのエンパワーメントを促進しつつ、取り組んでいく。
 貧困削減のためには、平和の定着を図るとともに、ネパール経済の成長が不可欠であり、経済成長の基盤となるインフラ整備を一層促進することが必要である。具体的には、無償資金協力と技術協力を中心にした協力を継続しながら、電力、道路、上水道、情報・通信等の基礎インフラの整備を行う。
(3) 重点分野
 ネパール側との政策対話、JICAの国別事業実施計画等を踏まえ、(イ)社会セクター改善、(ロ)農業開発、(ハ)経済基盤整備、(ニ)人的資源開発、及び、(ホ)環境保全を我が国の対ネパール支援の重点分野としている。なお、これらの分野を扱う際の共通の視点として、平和の定着に資する協力を行うよう留意する。
(イ) 社会セクター改善
 教育セクターでは、基礎・初等教育レベルにおいて、全ての子供達が質の高い教育にアクセスできる環境作りをハード・ソフトの両面において支援すると共に、女子児童や障害者等、教育へのアクセスが制限されている社会的弱者が学校に行くための環境整備として、コミュニティーへの働きかけを行うノン・フォーマル教育を支援する。
 また、保健セクターでは、母子保健と感染症分野を協力の2本柱として、安全な母性のための技術協力プロジェクト、予防接種拡大及びポリオ根絶計画、HIV/AIDS、性感染症対策、結核対策・肺疾患対策等のプロジェクトを実施する。
(ロ) 農業開発
 低迷する農業生産性・農業所得、食糧不足問題等様々な課題にネパール政府が適切に対処できるよう、技術協力を核としたキャパシティ・ビルディングを支援する。また、その他各種援助スキームを有機的に投入し、農業基盤整備も支援しつつ、持続的農業が展開されるようなモデル方式の協力を実施する。これにより、ネパールの食料安全保障に寄与すると共に、農業所得向上による貧困削減を目指す。
(ハ) 経済基盤整備
 貧困削減のためには、経済の成長が不可欠であり、経済成長の基盤となるインフラ整備を一層促進することが必要である。特に、電力、道路、上水道、情報・通信等の基礎インフラの整備を重点的に実施していく。
(ニ) 人的資源開発
 自立的発展、効率的な資源管理・活用のためには人材育成が必要不可欠であり、プロジェクトの実施・運営、技術の移転等を通じた協力を実施していく。
(ホ) 環境保全
 近年、ネパールの環境は、人口増加や貧困に伴う過度の耕作地拡大や飼料・燃料の採取による森林の減少・劣化、ひいては農山村の持つ土壌保全機能の崩壊による土壌浸食・斜面崩壊が問題となっている。特に状況の悪化が著しい中間山地を中心に、土壌保全および村落自然資源を対象とした住民参加型管理モデルの普及をはかっていく。また、同様のアプローチを国立公園やラムサールサイトなどのエリアへの普及を図ることにより、地域住民と環境保全の両立を推進していく。

3.ネパールに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のネパールに対する無償資金協力は47.58億円(交換公文ベース)、技術協力は15.12億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款は638.89億円、無償資金協力は1,614.71億円(以上、交換公文ベース)、技術協力497.28億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
 円借款は、1975年度から開始しており、これまで、電力分野(水力発電)を中心に協力の実績がある。2003年度は、新規供与を行っていない。
(3) 無償資金協力
 無償資金協力については、同国がLDCであることを踏まえ、保健・医療、小学校、上水道等の基礎生活分野に加え、運輸・交通、電力等の基礎インフラ整備及び防災分野に対して協力を実施している。2003年度は、交通、電力等の基礎インフラ、小学校建設等への支援を重点的に実施した。
(4) 技術協力
 技術協力については、治安状況に留意しつつ、青年招聘を含む研修員受入れ、専門家派遣、青年海外協力隊派遣、シニア海外ボランティア派遣、技術協力プロジェクト等各種形態による協力を実施している。これまでの技術協力実績累計は、南西アジア7か国中第2位。2003年度は、保健医療、農林畜産業、運輸交通、社会基盤、行政等を重点分野として協力を実施した。また、開発調査においてはカトマンズ盆地における都市廃棄物管理に対する調査を実施中である。

4.ネパールにおける援助協調の現状と我が国の関与

(1) 2002年9月、ネパール政府により外国援助受入れ政策が承認された。同政策は外国援助がネパール政府の決定する開発優先分野に適合、集中することを確保するとともに、外国援助をより効果的、効率的に利用できるように改善を図ることを目的としている。
(2) 外国援助受入れ政策の重点事項として、(イ)ドナーは、PRSPの重点分野と密接に関連する中期財政計画(MTEF)の重点分野に沿った援助を行うよう配慮する、(ロ)セクター・プログラムに重点を置き、右プログラムの支援のために共通基金(コモン・ファンド)方式が奨励されるが、個別のプロジェクト方式による支援も、セクター別の優先度に即したものであれば採用可能である、(ハ)厳しい財政状況に鑑み、無償資金又はローンによる財政支援が緊急に必要である、(ニ)中期財政計画を通じ、開発計画に対する資金配分方法や開発計画の実施と資金支出のモニタリングを改善する、とされている。
(3) 援助モダリティでは、北欧、欧州連合(EU:European Union)、世界銀行がコモン・ファンド方式、我が国、アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)、ユニセフがコモン・ファンド以外による協力手段での支援を行っている。我が国としては、他ドナーの重点分野、予算システム等に留意しつつ、援助協調を強化し、効率的・効果的な援助の実施に努める。特に、セクター・ワイド・アプローチ(SWAps)が導入されている教育、保健分野においては、現地ODAタスクフォースにより積極的な情報交換と動向分析を行い、我が国のプレゼンスを確保する。

5.留意点

(1) ODA大綱
 ネパールは、ODA大綱の重点地域であるアジア、特に、大きな貧困人口を抱える南アジアに位置しており、貧困削減、人間の安全保障、及び平和の構築等の観点からも援助ニーズは高い。ネパールに対する援助政策の立案・実施にあたっては、ネパール政府との政策協議を重視すると共に、上記重点分野を中心に、透明性・効率性の向上を図りつつ、各種スキームを戦略的に用いて協力を推進していく。
(2) 治安対策
 当国の治安情勢は、マオイスト問題のために依然として不確定な要素をはらんでおり、我が国経協関係者の安全確保に細心の注意を払うと共に、必要に応じて、軍、警察関係当局との密接な情報交換等を図っていく。
(3) ネパール側の援助受入れ体制
 ネパールの不安定な政局、マオイスト活動の影響等により、ネパール政府による開発政策の立案、予算の確保、及びプロジェクトを実施していく上での政策的な一貫性・透明性の確保が困難となっている。また、各省庁間の開発事業実施能力にばらつきが見られるほか、開発行政担当職員の頻繁な人事異動、地方分権推進途上での中央と地方の間の予算・権限の分担及び連携にも不安が残る。我が国としては、中期的財政計画や即時行動計画に沿って、行政改革・金融改革の動向を他のドナーとともに十分確認し、関係者の人材開発、キャパシティ・ビルディングを支援し、ネパール側の実施能力の向上、オーナーシップ確立を図っていく。
(4) 国民参加及び広報強化の重要性
 我が国非政府組織(NGO:Non Governmental Organization)、地方自治体、産業界等による「国民参加型のODA」の実施を強化すべく、NGO・大使館・JICA連絡会、日本人会商工部会等を通じて、NGO、産業界等とのパートナーシップの強化を図りつつ、顔の見える援助案件の積極的な発掘・選定、メディアを通じた我が国ODAの積極的情報発信に努める。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対ネパール経済協力実績

表-6 諸外国の対ネパール経済協力実績

表-7 国際機関の対ネパール経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案


プロジェクト所在図


前ページへ  次ページへ