(1) 概要
モンゴルでは、1990年以降の民主化、市場経済化の過程で、経済・社会は一時期大きく混乱したが、新たに設置された国家大会議(国会)の第1回総選挙では社会主義時代の政権党である人民革命党が引き続き政権を維持した。その後、1996年の第2回総選挙で75年間にわたってモンゴルを支配した人民革命党が初めて敗北し、民族民主党と社会民主党からなる民主連合政権が誕生した。民主連合政権は一時は国民の期待を集めたものの、政局の不安定化、貧困層の拡大、幹部の横領・汚職などが国民の批判を招き、2000年7月の第3回総選挙では人民革命党がほとんどの議席を奪還するという圧勝を見せた。人民革命党は圧倒的な議席を背景に4年間強力な施政を展開したが、あまりに強力な指導体制は国民の反発も招き、2004年6月に行われた第4回総選挙では人民革命党が議席を半減し、最終的に祖国民主連合(野党)との連立政権が発足することとなった。
モンゴルは、隣国である中国・ロシアとの関係を維持しつつ、その他のアジア諸国・先進国との関係強化を重視している。1991年に非同盟諸国会議へ、そして1998年にASEAN地域フォーラム(ARF:Asean Regional Forum)への加盟を果たしたほか、アジア太平洋経済協力(APEC:Asia Pacific Economic Cooperation)やアジア欧州会合(ASEM:Asia Europe Meeting)への加盟も目指している。また、1992年に非核地帯化を宣言し、1998年には「非核兵器国の地位」を国連総会で承認されるなど、大国に挟まれた小国として独自の外交戦略を展開している。最近では米国との関係を重視し、国連平和維持活動(PKO:Peacekeeping Operations)・国連重視という国軍改革の方向性とも相まって、米国の対イラク軍事行動を支持し、戦後の復興支援にも国軍を派遣するなどしている。一方、2003年6月、胡錦涛・中国国家主席のモンゴル訪問に際しての巨額の援助表明や、同年12月、長年の課題であった対旧ソ連債務の完済などの進展もあり、今後の二隣国の動向が注目される。
市場経済への移行により、年間インフレ率がピーク時の1992年には325%に達したほか、極度の物不足となり、深刻な経済危機に陥った。その後、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)など国際機関の指導・助言のもと、モンゴルは我が国を中心とする各国からの援助を受け、大胆な自由化・構造改革を推進し、国営企業の段階的な民営化やその総決算としての土地私有化などを順次実施している。この結果、2003年の国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)成長率は5.5%(2002年は4.0%)を達成するなど、マクロ経済指標は安定化の傾向を見せているが、巨額の財政・貿易赤字(2003年貿易赤字は1億8,510万米ドル)は依然として存在しており、これを外国からの援助で補填するという構造が続いている。今後も、気候変動・自然災害による農牧業部門の打撃や、牧畜以外の国内産業の確立、基礎的なインフラ整備、失業・貧困対策、法整備の拡充など取り組むべき課題は数多く残されている。
(2) 国家開発計画等
(イ) 政府行動計画(アクション・プラン)
2004年の総選挙の末に発足したエルベグドルジ政権は、2004年から2008年までを対象としたアクション・プランを策定し、その中で以下に示す5つの基本方針を掲げた。
(イ) 行政機関と公務員の責任及び能力の強化、行政意思決定のすべての段階における国民参加の拡大、情報公開の確立。
(ロ) 法整備の深化による人権と生活環境の確保。
(ハ) 民間主導による経済の安定成長、地域別開発構想による都市と地方格差の是正。
(ニ) 生活水準の向上のための社会政策の実施。
(ホ) 教育、伝統遺産、環境、民主主義及びグローバル化の利点などを開発のために活用できる人材の育成。
(ロ) 経済成長と貧困削減戦略(EGSPRS:Economic Growth Support and Poverty Reduction Strategy)
モンゴル政府は、世界銀行・IMFによる支援の下、1999年9月に省庁横断的な委員会を編成し、ドナー、NGOの他、貧困層や社会的弱者も含め、様々な意見を聴取するとともに、ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)やモンゴル政府が作成した政府行動計画、及び、2001年に政府行動計画のうち社会経済開発分野の優先分野をとりまとめた「人間の安全保障のためのグッド・ガバナンス」も踏まえて、「経済成長と貧困削減戦略」を策定した。この戦略は策定過程で題名が「貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)」から「経済成長と貧困削減戦略(EGSPRS)」に改められた。2003年9月に世界銀行・IMFに支持されたEGSPRSは以下の5つの柱で構成されている。今後ドナーは本戦略に整合した援助の実施が求められる。
(a) マクロ経済の安定と公的セクターの効率化
(b) 市場経済への移行と、民間セクターを中心とする成長の為の制度及び環境の構築
(c) 均衡的で環境上持続可能な地域・地方開発の推進
(d) 持続的な人間開発と、教育・保健・社会福祉サービス供給の改善を通じた公平な分配
(e) グッド・ガバナンスとジェンダー平等の促進
(1) モンゴルに対するODAの意義
(イ) 中国とロシアに挟まれた内陸国であるモンゴルが民主主義国家として成長することは北東アジア地域における平和と安定に資する。同地域はわが国の安全保障、また経済的繁栄とも深く関連している。
(ロ) 日本とモンゴルとの関係は歴史的に緊密であり、近年では、幅広い分野で双方向的な二国間関係に発展。互恵的な関係を強化するため、総合的パートナーシップの確立に向けて努力する必要がある。
(ハ) 対モンゴル支援を通じて同国の経済・社会発展を促すことは、同様の努力を行っている他の発展途上国における民主主義の発展を促進する。
(ニ) モンゴルの自然環境及び伝統文化はその独自性から地球的、人類的価値を有しており、モンゴル政府は自らこれらの保護及び保持に務めると共に世界に向けて協力を呼びかけており、こうした努力を支援することは地球的な環境保全及び伝統文化保護の観点から意義が大きい。
(2) モンゴルに対するODAの基本方針
主要ドナー間の援助協調も念頭におきながら、モンゴルが経済活動を促進させ、マクロ経済の安定と公的部門の効率化により財政赤字の縮小、援助吸収能力の強化を図り、その結果得られた財源を貧困緩和と環境保全に充当する連関的政策の実施をサポートしていく。この連関的政策の円滑な実施を促進する観点から、我が国は2004年11月、対モンゴル国別援助計画を策定した。同計画は、持続的な経済成長を通じた貧困削減への自助努力を支援することを上位目標に置き、これを達成するため、地方経済の底上げを図るとともに、牧畜業の過剰労働力を他セクターにおける雇用創出により吸収することを中位目標としつつ、向こう5年程度を目途として以下の4つの分野を重点分野として定めている。この他、貧困層や社会的弱者を直接の対象とした支援については、例えば非政府組織(NGO:Non Governmental Organization)による活動を草の根・人間の安全保障無償資金協力、日本NGO支援無償資金協力等を通じて支援していく方針である。
(3) 重点分野
(イ) 市場経済を担う制度整備・人材育成に対する支援
(ロ) 地方開発支援
(a) 地方開発拠点を中心とした特定モデル地域を対象とする支援
(b) 牧地と農牧業再生のための支援
(ハ) 環境保全のための支援
(a) 自然環境保全と自然資源の適正利用
(b) 首都ウランバートル市の環境対策
(ニ) 経済活動促進のためのインフラ整備支援
(1) 総論
2003年度のモンゴルに対する無償資金協力は30.85億円(交換公文ベース)、技術協力は15.26億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款361.26億円、無償資金協力688.09億円(以上、交換公文ベース)、技術協力233.43億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
2000年度に「ウランバートル第4火力発電所回収計画(II)」に対する円借款の供与を行って以来、円借款は供与されていない。
(3) 無償資金協力
1990年度より、モンゴルの民主化政策等の推進のため、一般プロジェクト無償資金協力を再開したほか、食糧援助、ノン・プロジェクト無償等の支援を実施。電力、通信等の基礎インフラ分野、基礎生活支援分野、食糧供給分野等を中心に無償資金協力を実施している。
(4) 技術協力
モンゴルの民主化・市場経済化を人材育成等のソフト面で促進することを目的に、研修員受入れ、専門家派遣、機材供与の各スキームを同国独自の需要に合致させる形で実施しているほか、青年海外協力隊及びシニア海外ボランティアの派遣や、NGOと連携するスキームを併せ実施しており、協力内容の拡充を図っている。産業振興のための経済基盤及び条件整備、市場経済化のための知的支援、人材育成、農業・牧畜業振興、基礎生活支援、及び、環境保全を重点分野として支援している。
主要ドナー国及び国際機関の参加による月例ローカル・ドナー会合が国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)代表の議長により開かれており、主要ドナー間で情報及び意見の交換が行われている。また、不定期ではあるが、世界銀行やアジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)などの主催によるテーマ別グループ会合やワークショップが開催されており、セクター別の情報並びに意見の交換が行われている。さらに、2004年4月にはモンゴル政府主催による教育、保健、インフラに対する援助効率促進のための作業部会が設立され、我が国はADBとともに教育についての作業部会副議長を務めることとなったことから、今後現地ODAタスクフォースによって積極的に対応していく。
今後、国別援助計画を実施していく上で、(1)対外債務問題と援助吸収能力、(2)政策策定能力の不足、(3)環境・社会面への配慮、等を常に念頭におき、対応策を考慮する必要がある。